銀髪ロシアン美少女に転生した元おっさんの話 作:カエモミ
「……さん。リーナさん、おきてください。リーナさん、リーナさん?」
「んぁ……?」
──昼休み。
有希や綾乃と昼食を取った後、教室で気持ちよく昼寝に耽っていたら、突然有希に体を揺すられて目が覚めた。
あれ、もう昼休み終わり……?
「……もう。次の授業は移動教室ですよ? 早く行かないと遅れてしまいます」
「あぁ……そうだっけ? ごめん、ありがとゆきりん……ふぁぁ」
グッと背伸びをしながら有希に礼を言うと、大きなあくびを一つこぼす。
んー、椅子で寝るとやっぱ肩凝るな……。
「……というか、以前から聞きたかったのですけれど何なんですか、その寝方? 普通こういうときって机に突っ伏して寝ません?」
「ん? ああ……」
言われて寝ている時の自分の体勢を思い返す。
たしかに俺は、いつも机で寝るときはうつ伏せではなく、椅子の背もたれに寄りかかりながら天を仰ぐようにして寝ていた。
なぜかと言うと──。
「いやほら、うつ伏せだと胸がちょっとキツいっていうか……ね?」
「…………へぇ。……なるほどぉ」
──瞬間、有希の目から光が消える。
あれ……? もしかして意外とその……気にしてた?
「……あ、あの……ゆき、さん……? なんかちょっと目がこわい……よ?」
「………………」
俺の言葉にスゥッと目を細める有希。その瞳の奥は完全に漆黒に染まっていた。
次いで有希はキョロキョロと辺りを見回し、教室に誰も人が残っていないことを確認する。
「──綾乃」
「はい。有希様」
いや、正確には一人いた。
見れば有希の従者である綾乃が教室の外で一人で待機しており、有希が声をかけた瞬間ひょこりと顔を覗かせる。
そして二人は僅かなアイコンタクトのみを交わすと、綾乃がすぐに有希の意思を察したかのように動き出し、教室の前後の扉をピシャリと閉めた。
……人払い&遮音結界、構築完了である。
そこまで確認し終えたところで──有希は満を持して口を開くのだった。
「──こんの無駄肉乳牛女がぁ〜っ!!」
……と、意味不明の罵声を浴びせかけながら、突然むぎゅうぅぅっと両手で俺の胸を乱暴に鷲掴む有希。
「痛い痛い痛い! ゆきりん痛い! そんなに引っ張ったら取れちゃう! 取れちゃうからぁ!」
「うるせぇ〜! ここかぁ? ここがええのんかぁ? んん〜!?」
「痛だだだだだッ〜!! ちょっ捻りを加えないで!? 千切れる、千切れるぅっ!!」
なぜか急におっさんみたいな口調になった有希がそんな言葉を口走りながらむにゅむにゅと俺の両胸を揉みしだいてくる。
こういう部分を見るとたまに、あれ? もしかしてこいつも俺と同じで前世の記憶持ちだったりする? 中身おっさん? とか思ったりもするのだが、それとなく探っても一向に尻尾を出さないので真実は未だ不明のままだ。
「てかほら、次移動教室なんでしょ……!? 馬鹿なことしてないで早く行こ!?」
「ああん!? 馬鹿なことだぁ!? そりゃあつまりあたしのCカップを馬鹿にしてるってことかぁ!? 見下してんのかぁ!? おおん!?」
「してないしてない、してないよ!?」
「ならテメェは何カップなんだぁ!? えぇ!? 言ってみろぃ!」
「……………ギ、ギリギリE」
ボソッ、と申し訳なさげに呟く俺。
その瞬間、有希の俺の胸を鷲掴む力が、ぎゅむぅぅぅぅぅっ!とさらに強まるのであった。痛い痛い痛い。
「うわぁぁぁん! ギリギリってなんだよギリギリってぇ! どっちなんだよぉ、DよりのEなのかFよりのEなのかいったいどっちなんだよぉ! 白状しろよぅっ!!」
「ええっと……Fより──ぃぃいいいい!?」
「うわぁぁぁぁぁんッ!!」
♢♢♢♢♢
……とまあそんな馬鹿なやり取りを繰り広げるほどに俺が彼女、“深窓のおひい様”こと周防有希と親しくなったきっかけは、言葉にしてみれば、本当に些細なものだった。
学校が休みの日にたまたま訪れたアニメショップでたまたま遭遇し、たまたま互いにオタバレして、たまたまアニメの好みも合って。
それでプライベートでも何度か会って遊んだりしているうちに、いつしか二人きりのときは互いに素に近い自分で喋れるぐらいの仲になっていた。
謂わば有希は今世における俺のオタク友達にして親友のようなもので、たぶん有希との関係みたいなことを世間一般では“馬が合う”、と表現するのだろう。
──と、そんなことを考えながら、放課後。帰りの支度を済ませ、さっさと教室を出ようとしたところで、唐突にクラスメートの一人に呼び止められた。
「リーナ〜、今日ミホたちと遊び行くんだけど来る〜?」
「ん〜?」
……ええーと、この子はたしか……ああ、アレだ。
以前女子会だと称して俺をカラオケに誘い、のこのこ付いていったところで実は合コンでした〜みたいなクソみたいなドッキリを仕掛けてきやがった去年からの知り合いの陽キャちゃんAだ。
というか中学生で合コンとかガキが何
どうせこいつと絡んでも
「あ〜、ごめ〜ん。今日は着替え持ってきてないし〜、それに他に用事もあるからパスで〜」
「え、まじ? 男?」
なんでそうなるんだよ。
どんだけ思考回路を性欲に支配されてんだ、こいつ。
「ん〜、内緒〜」
が、変に否定してあまり詰められても面倒なので、とりあえず肯定も否定もせず、曖昧な返事だけをしておく。
「そっかぁ〜」
しかし俺の返答に、陽キャちゃんAは何やら訳知り顔でうんうんと頷くと、俺の肩にポンっと手を置く。
そして。
「──頑張りなよ?」
なぜかものすっごい良い笑顔でサムズアップしながら、俺にエールを送ってきた。
いや、何をだよ。
あとなんかちょっと良いやつ風なのが絶妙に腹立つな……。
「─────」
……と。そんな感じでクラスメートからの誘いを適当に躱しつつ、教室を出てまっすぐ帰路につく。
正直、ああいった派手な人種とはあまり関わり合いになりたくないのが本音だが、あんなんでも一応はスクールカースト上位に位置する人間。
取り巻きも多く、しかも意外と実家も太いので露骨に邪険にするわけにもいかず、扱いに困っている。
時折アリサのように、常に誰も寄せ付けないオーラを発して一人で生きられたらとも思うのだが、俺はそんな生き方を選べるほど強くはないし、それにあのレベルまでいくとそれはそれで学園生活の中では色々と生きにくそうな気がする。
と。そこまで考えていたところで、ちょうど前方に見知った人物の後ろ姿を発見したので、俺は思考を一時中断すると、その背中に駆け寄って声をかけた。
「──よっ、アーリャ」
「っ!」
後ろからポンッと背中を叩いて名を呼ぶと、アリサはビクッ!と体を震わせる。
そして苛立たしげに目を細めると、俺に抗議の眼差しを向けてきた。
「……リーナ。背後からいきなり話しかけないでっていつも言っているでしょう?」
「あはは。ごめんごめん」
笑いながら謝罪しつつ、アリサの隣に並び、二人で同じ道を歩く。
こうしてアリサと二人きりで一緒に帰るのは、結構久々かもしれない。
「今日は遊びの約束はないの?」
「ん〜誘われたけど断った。今日は帰ってゲームしたい気分だったし」
「そう」
「あっ、何ならアーリャもやる? 協力プレイできるやつだけど」
「やらないわよ。どうせまたあのホラーっぽいやつでしょ? あれ、毎回リビングでやるのやめてくれない?」
「あはは。アーリャってああいうのほんと苦手だもんねー。でも、アーリャが言ってるのってホラゲーの中じゃ全然怖くない部類だよ?」
「そうなの!?」
信じられない……、といった表情で愕然とするアリサ。
アリサが言っているのはおそらく、俺がよくやっているゾンビゲーの事だと思うのだが、アレはどちらかというとホラーというよりもガンアクションやシナリオギミックの謎解き要素がメインのゲームだ。
怖さ単体で見れば本格的なガチホラゲーとは天と地ほどの差がある。ただ、大作だけあってストーリーはかなりリアル志向に作り込まれているので、自分の中で勝手に妄想を膨らませて怖がるタイプのアリサとは少しだけ相性が悪いのかもしれない。
「そういや、新しいクラスはどうだった?」
「……別に普通よ。これまでと何も変わらないわ」
「ふ〜ん」
つまり相変わらずぼっちってことですね。
まあアリサは好きでその生き方を選んだ訳だし、本人がそれでいいんなら俺から直接なにかを言うことは無いんだけどさ。
……ああでも、一人だけいたっけ。アリサが唯一仲良くしているっぽい男子。
「じゃあ
「はぁ? なんで急にその名前が出てくるのよ」
「え? だって仲良いんでしょ? 違うの?」
「仲はそりゃ……悪くはないと思うけど……」
……ん?
この反応、もしかして……?
「え、好きなん?」
「は、はあああ!? 何よいきなり!?」
「いや、だってなんかそんな顔してたし」
「ち、違うに決まっているでしょう!? 誰があんな、いつもやる気のない人……」
「でも去年の文化祭のとき後夜祭で一緒に踊ってたじゃん。それもすげー楽しそうに」
「見てたの……!? あ、あれは……その……文化祭でちょっと気持ちが昂ぶってただけっていうか……」
「じゃあ嫌いなん?」
「嫌い──というわけではないけど……」
「へぇー?」
「〜〜〜っ! なによそのニヤけ顔は! 本当に違うからね!? 私は久世君のことなんて全然好きじゃないんだから!!」
「おいおいテンプレじゃねえか」
と、耳まで顔を真っ赤に染めながら、お手本のようなツンデレ台詞を吐くアリサ。
どう見ても恋する乙女の
……そっかぁ。遂にアリサにもそんなお相手が現れたのかぁ。
家族として微笑ましく思う反面、少しだけ寂しさもある。
マリヤの方も小学生の頃に日本で出会ったという初恋の男の子のことを今でも想っているみたいだし、女の子はこうやって恋を知ってみんな大人になっていくんだなぁ……。
「っていうか、さっきから人のことばっかり言ってるけど、そう言うリーナはどうなのよ」
「ん? なにが?」
「だから、その……仲の良い男の子とかいないわけ?」
「んー? ……そうだなぁ、なんかやたらと気安く話しかけてくる男子は結構いるけど、仲良いってほどの人はいないかなー。私からは全然話しかけないし」
「じゃあ……付き合いたいとか思う人は?」
「……え、うそ。もしかしてあのアーリャが、いっちょ前に人に恋バナとか振ってきてる!? やだどうしよう、なんかちょっと感動しちゃう。逆に照れちゃう!」
「〜〜〜っ! もういいっ!」
と、俺があんまりにも茶化すものだから、アリサは怒ってプイッと顔を背け、歩調を速めて俺を抜き去ってしまう。
そんなアリサを笑いながら追いかけつつ、再び並び歩く俺。
「あはは、ごめんってアーリャ。ええっと好きな男子の話だっけ?」
「…………」
「いないよ。たぶん私は、男の子を好きになることはないんじゃないかな?」
「……っ、それって」
俺の言葉に、アリサはふと何かを察したかのように目を見開いた。
けれども次に続いた俺の一言で、一気にそれが呆れ顔へと変わる。
「なぜなら私は、二次元にしか興味がないからね!」
「………………はぁ」
「おおっとクソデカ溜め息」
まるで、コイツに聞いた自分が馬鹿だった、とでも言わんばかりに盛大に溜め息を吐くアリサ。
……実際のところ、俺は本当に男性に対する恋愛感情は持ったことがない。当然だ。体は女でも中身は男で、異性愛者としての人格がそのまま残っているのだから。
けれど、だからといって女性が好きなのかと問われると、実はそれもよくわからなかったりする。
アリサやマリヤは家族だから当然として、有希や綾乃、或いは他の女子に対しても、綺麗とか可愛いとかは思ったりはするものの、それ以上の感情を抱いたことは一度もないのだ。……いやまあこれについては相手が未成年の子供ばかりで、元々の俺のストライクゾーンから外れている、というのもあるのだろうが。
けど女が相手ならまだ可能性はあるとしても、男を好きになることは俺の性的指向的に絶対に無い。それだけは断言出来た。
だからこそ、俺はアリサに自信をもって言い切れる。
「安心しなよ、アーリャ。少なくとも私がアーリャの
「…………」
──そう言って笑いかける俺を見て、アリサはどこか、複雑そうに目を伏せるのだった。
……どうにか2話目書き終わりました。
次回から原作開始時点の話に合流します。
頑張って書きます。