銀髪ロシアン美少女に転生した元おっさんの話 作:カエモミ
──高等部に上がり、早数ヶ月の時が経った七月頭。
ある日の昼休み。
「おい見ろよ、生徒会メンバーだ!」
「会長と副会長はいないけど、三人揃うだけでもやっぱすげぇ存在感あるな」
「しかもよく見ろ! 今日は生徒会メンバーの三人と一緒にリーナさんまでいるぞ! 九条三姉妹勢揃いとかレア中のレアだろこれ!」
──姉のマリヤとアリサ、そして友人の有希と共に学食まで足を運んだら、早速そんな会話が周囲の生徒からちらほらと聞こえてきた。
おーおー、色めき立っとる色めき立っとる。
まるで突然目の前に人気アイドルでも現れたかのような反応だ。
やっぱり有希や姉二人といると目立つなぁ……。
「……ちょっとリーナ。シャツのボタン、きちんと上まで留めなさいよ」
「へ? あ〜、ごめん。なんかいつの間にか外れてたわ」
「また無意識? いい加減直しなさいよね、その癖」
「は〜い」
アリサに注意を受け、谷間までくっきりと露出するほど開け放たれていた胸元のボタンを一つずつ留めていく。
やはり胸のあたりが少しキツい。もしかしてまた成長したか……?
「それからブレザーとジャンパースカートも、ちゃんと肩まで袖を通して」
「え〜? この半脱ぎ感がいいんじゃん。可愛くない?」
「だーめ! 生徒会役員として、たとえ身内であっても服装の乱れは見過せないわ!」
「でも登下校時と授業中はちゃんと着てるし、別に校則違反じゃないよね? ね、マーシャ?」
「そうね〜、わたしも少しぐらいなら良いと思うわよ〜。リーナちゃんだってオシャレしたいものね〜?」
「ね〜!」
「もう! マーシャはリーナを甘やかしすぎ!」
食堂内で繰り広げられる美人ハーフ姉妹三人による仲睦まじい会話。
そんな俺たち三人の様子を傍らで眺めながら、お嬢様モードの有希が「うふふ」と口元に手を添えつつ上品に笑う。
「三人とも、本当に仲がよろしいのですね」
「……別に、これくらい普通だと思うわ」
「まあうちは一番上の姉がこんな感じだから、いやでも仲良い風に見えちゃうんだよね〜」
「え〜? いやなの〜?」
「ううん〜、ぜんぜんいやじゃな〜い。お姉ちゃん大好き〜!」
「や〜ん、わたしもリーナちゃん大好き〜!」
言うや否や、マリヤが感極まった様子でむぎゅ〜っと俺に抱きついてくる。あ、すごい柔らかいです……。
そのまま何の抵抗も見せずに姉にされるがままになる俺と、その隣でまるで頭でも痛めたかのように眉間を押さえるアリサ。
「……こんな頭悪そうな会話を毎日聞かされる方の身にもなってほしいわ」
……うん。それはほんとにごめん。
「────」
──と。
そんなやり取りがありつつ、マリヤの拘束からも無事に抜け出した俺は、カウンターで料理の乗ったトレイを受け取ると、食堂全体を見渡す。
「……いやぁ、にしても今日はまたすっごい混んでるね〜? これどっか座れそうなとこある?」
「……どこもほとんど埋まっているわね。この様子だと四人一緒、というのは厳しいんじゃないかしら?」
「そうねぇ……。ならわたしは、あっちでクラスの子たちと食べて来ようかしら?」
「いいの、マーシャ?」
「うん。良いの良いの〜。わたしのことは気にせず、今日は三人で食べて? アーリャちゃんと有希ちゃんには同じ生徒会メンバーとして仲良くなってもらいたいもの」
「お気遣い頂いてすみません、マーシャ先輩……」
こうして、少し寂しげなマリヤの背中を見送りつつ、四人から三人パーティとなった俺たち。
しかしたとえ三人になったところで、そう都合よく空いてる席など見つかるはずもなく──。
「三人でしたら、ちょうど良い席があちらにありますよ」
──と思ったらどうやらあっさり見つかったようだった。
見ると全く感情の読めない薄い微笑みを浮かべた有希が、とある一点を目で指し示しながら悠然と歩き始めていた。
俺とアリサはそんな有希の行動に一瞬顔を見合わせるも、黙ってその後に続く。
すると。
「──
「ん? ああ、まあいいけど」
有希がそうやって声をかけたのは、とても見覚えのある一人の男子生徒だった。
たしか、彼は──。
「
ぽつりと、アリサの口からそんな呟きが漏れる。
そう、久世。フルネームで久世政近。
アリサとはクラスメートであり、そして有希とは小さい頃からの幼馴染という関係にある男子生徒──って……。
え……? もしかしてこれ、修羅場……?
♢♢♢♢♢
──数分後……。
「──じゃあ改めて自己紹介ね〜。私は九条アリナ。そこのアリサの双子の妹で、クラスはゆきりんと同じA組ね。よろしく、“まさちー”」
「“まさちー”?」
「そ。政近くんだからまさちー。私のことは気軽にリーナって呼んでくれていいよ〜」
──と。
有希に連れられるまま、政近たちと相席することになった俺は、有希とはちょうど真向かいの席に座りながらそんな風に自己紹介をしていた。
「“まるやん”と“きよみー”も、よろしくね〜」
そして俺から見て左隣の席に座る政近の友人の二人の男子、坊主頭が特徴的な
「“まるやん”……」
と。俺が付けたあだ名を反芻しながら、感激したような表情ではにかむ坊主くん。
うんうん、わかるぞ。女子に初めて気安くあだ名で呼ばれた時って嬉しいよな。
……けれども。
「──言っておくけど、リーナは男女関係なく知り合った人のことは誰でも基本的にニックネームで呼ぶの。そこに特別な意味は一切ないから、くれぐれも妙な勘違いはしないように」
ギロン、とアリサが坊主くんのほうを睨みながらそんな注釈を述べると、坊主くんは一瞬で「ひっ!」と竦み上がる。
いや事実だけど、なにもそんな睨まなくても……。ほら坊主くんめっちゃ怯えてるから、もう少し優しくしてあげて。ね……?
……というか、アリサもこういうところは意外とシスコン気味なんだよなぁ……。
「んで〜? まさちー。まさに両手に花って状況だけど、感想はどうかな〜?」
左隣に有希、右隣にアリサを侍らせている状態の政近に対し、からかうように声をかける俺。
内心、どこのハーレム主人公だよと思いながら密かに爆発しろとも思っているのは内緒である。
「……いやそんなこと言われても、たかが相席だろ?」
「でもほら、ちょうど男女比3:3だし
「やったことないからわかんねー」
「あらら。意外だね〜、結構モテそうな顔してるしコミュ力も高そうだから、てっきりそういうのには引っ張りだこかと思ったんだけど」
「いやモテねぇし。それわかって言ってんだろ絶対」
「え? マジで言ってる?」
「……え?」
……まあさすがにそこの爽やかイケメンくんほどではないにしろ、政近も別に普通に顔は整っているほうだと思うのだが。
それに清潔感もあるし、モテようと思えばいくらでもモテそうなポテンシャルは感じる。
割と自己評価が低いタイプなのか……? 無自覚系イケメンとか一昔前のラノベ主人公みたいだな。
「ね、アーリャもそう思うよね?」
「……っ。な、なにが……?」
「いや、だからまさちーの顔。かっこいいよねって」
「……さあ。普通じゃないかしら」
「ふ〜ん……?」
──だったらどうしてほんのり頬を染めてるんですかねぇ〜?
政近の顔を一瞬眺めた後すぐに目を逸らしてそんな反応をするというのは、もうほぼほぼ肯定しているも同義である。やはりうちの姉は乙女可愛い。
「ご、ごちそーさまー!」
「じゃあ僕らは先にお
と、アリサとそんなやり取りをしていたら、坊主くんと爽やかイケメンくんがまるで逃げるようにこの場から去って行った。
……まあ無理もないな。一般人が相手にするにはこのテーブルの女子たちの顔面偏差値はあまりにも高すぎる。
坊主くんのほうは緊張からと見たが、爽やかイケメンくんのほうはたぶん、女に苦手意識もってるタイプだな。チラッと目が合った時もなんか怯えや警戒心を感じる視線だったし。……ま、あれだけ顔が良ければ過去に女絡みのトラウマの一つや二つ抱えていても不思議ではない。イケメンすぎるのも大変だな。
「おっ、今度は完全なハーレムだね〜? どう、嬉しい? 嬉しかろ? ん〜?」
「……嬉しいというか周りの男子たちの視線が突き刺さり過ぎて今にも胃が弾け飛びそうなんだが」
「あははっ。一躍有名人じゃん、よかったね〜!」
「うっせ! こんなことで有名になりたくなんかねぇんだよ!」
「……なんだか二人とも、随分と距離が近いのね」
「「え?」」
政近と俺、二人同時に声がしたほうへと顔を向ける。
見るとアリサが、複雑そうな表情で俺と政近の顔を交互に見比べていた。
【……息までピッタリ】
……え、なんでそこで急にロシア語?
それだとたぶん、この場だと俺にしか通じないんだけど……。
【どうしたん? もしかして、焼き餅?】
ニヤニヤとした笑みを浮かべながらロシア語で返す俺。
対してアリサは、おそらく聞こえているとは思わなかったのだろう、一瞬で顔を真っ赤に染めながら反論した。
【そ、そんなわけないでしょう……!? 私はただ、リーナがそんな風に誰にでも気安く接するから、変な男が寄ってこないか心配なだけで……!】
【いやいやそんなん自分で対処できるし、アーリャが心配することじゃなくない? っていうか絶対方便だよね、それ?】
【なっ、違うわよっ! 本当、違うんだからねっ!?】
「……あの、お二人とも? 先程からロシア語で話されてもわたくしたちには何一つわからないのですけれど……」
「あー、ごめんごめん。ちょっと姉妹の内緒話をね〜」
……気のせいだろうか。なんか視界の片隅で政近が一瞬身悶えていたような気もするが、まさかロシア語がわかってる……なんてことはないよな? ……まあ、無いか。英語ならまだしもロシア語とか日本人にはほとんど馴染みもないしな。
「そうですか」
俺が言うと、有希はあっさりと引き下がる。これは言葉通りに受け取ったわけではなく、アリサの様子を見て色々と察したという感じだろう。
「──そういえば政近君。先日お話した件については検討してくださいましたか?」
そしてまるで何事も無かったかのように政近に対し全く別の話題を振る有希。実に強かである。
「ん? 先日って、いったいどれのことだ?」
「政近君が生徒会に入る、という件です」
「……ああ、その話か」
「? どういうこと?」
二人の会話に聞き耳を立てていたアリサが、訝しげに眉根を寄せた。
そんなアリサに有希は、お馴染みのアルカイックスマイルを浮かべながら答える。
「実は前々から、政近君には声をかけていたんです。何しろ政近君には中等部の頃に生徒会副会長を務めていたという実績がありますから」
「そうなの……!?」
「ああ、まあ一応な……。けど昔の話だよ。もう二度とやりたくねぇ」
……そういえば、有希が以前話していた気がする。
中等部の頃の生徒会では有希が会長を務め、政近が副会長であったと。
謂わばこの二人は幼馴染にしてかつての相棒同士とも呼べる関係なのだ。
……というか、有希は政近のことをいったいどう思っているのだろう。
今の所は有希や政近の表情を見ても特に恋愛感情を抱いているような雰囲気は感じない。
だが、もしも有希が政近のことを異性として好きなのだとしたら、アリサにとっては最大の
ラブコメ的に見れば幼馴染ヒロインVS転校生ハーフ美少女って感じの構図か。
……うん、王道パターンだな。いいぞ、もっとやれ。
「アリサさんは意外に思われるかもしれませんが、政近君はこれでもやるときはやる人なんですよ? 普段はこんな感じですけれど」
「こんな感じは余計だっつの」
「ふふっ」
おっと〜……? 有希さんったら、結構露骨に煽ってきますねぇ……。
まあこれは単にアリサの反応を見て楽しんでいるだけっぽいけども。
……けれどもアリサはそのことについては一切気付いた様子もなく、ただ不貞腐れるように、ボソッとなにかを呟くのだった。
【……知ってるわよ、そのくらい】
……というわけで3話でした。
無事に書き上げられて良かったです。
次回もエタらないようになるべく頑張ります。
それから何気に今話で初めてリーナの服装について触れました。制服着崩し系女子、好きです。