銀髪ロシアン美少女に転生した元おっさんの話   作:カエモミ

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04.休日。激辛ラーメン店にて

 

 

「──あー、マーシャ。今のバリア最高。めっちゃ良いタイミング。そんな感じでゲージ溜まったらどんどん使ってっていいから。ボムももっとバンバン投げてく感じで」

 

「え〜? こう〜?」

 

「──うおっ、同時2キル!? 何今の、狙ったの!? それともミラクル!?」

 

「ふふ〜ん」

 

「……どっち!?」

 

 

 ──とある休日。

 

 朝食を済ませた後、長女のマリヤと一緒にリビングでゲームに興じていた時のことだった。

 

 不意に、ガチャリと廊下からリビングに通じるドアが開く音がして、反射的に目を向ける。

 

 するとそこには、外出用の私服姿に身を包んだ次女アリサの姿があり、何やら俺のことをじっと咎めるような視線で見つめていた。

 

「──リーナ。そろそろ時間なんだけど」

 

「……え? ……あー、そっか」

 

 ……言われて思い出す。

 

 そういえば今日は、アリサと一緒に出かける約束をしていたのだった。

 

 ……いかんいかん。マリヤとのスプラが楽しすぎてすっかり忘れていた。

 

 そりゃアリサも不機嫌になって当然だ。

 

「別に、行きたくないんなら私一人で行ってもいいんだけど?」

 

「いやいや、ごめんってば。私もすぐ準備するから、もうちょっとだけ待っててよ」

 

「ん。早くしてよね」

 

 尚もご機嫌斜めな様子のアリサに苦笑しつつ、ちょうどキリよくマッチングも途切れたところで、俺はすぐに回線を切断するとゲーム機の電源もオフにする。

 

 そしておもむろに立ち上がりながら、ソファーを背に隣でくつろいでいたマリヤにも一声かけた。

 

「じゃあそういう訳だから、私は行くけどマーシャはどうする?」

 

「う〜ん、わたしも行きたいんだけど、ごめんね〜……。今日はお昼から茅咲(ちさき)ちゃんと約束があって〜……」

 

「茅咲ちゃん、って……ああ、副会長の」

 

 ……更科(さらしな)茅咲(ちさき)。現高等部生徒会副会長にして、“学園の聖母(マドンナ)”と呼ばれるマリヤと並び、二年生の二大美女として知られる通称、“学園の征母(ドンナ)”。

 

 そういえば、マリヤとは友達なんだっけか。

 

 噂では学園中の不良を片っ端から締め上げては更生させた超武闘派女子だという話だが、実際のところはどんな人なんだろう。

 

 生徒集会などで何度か壇上に上がっている姿を遠目から見たことはあるが、直接の面識はまだ無いんだよなぁ……。

 

「──リーナ。時間」

 

「ああ、はいはい。さっさと着替えますよ〜」

 

 アリサに()かされ、俺は足早にリビングを出ると、即座に自室のベッドの上に着ていた衣服を脱ぎ捨てる。

 

 そうしてクローゼットの中から適当に着替えを取り出すと、そそくさと身支度を始めた。

 

 メイクは普段からしていないので必要ない。日焼け止めを塗ったら後は服を着るだけ。

 

 今日の気分だと──まあ、こんな感じか。

 

 柄物のノースリーブのインナーの上にオーバーサイズの黒のアウター。それから下にはオタク大好き極ショート丈のデニムパンツを合わせる。

 

 そこそこ露出度の高いファッションではあるが、常日頃からアーリャ式ブートキャンプのおかげでカラダは万全に仕上がっているので、特に見苦しさなどは無い。

 

 むしろ今世の長身と抜群のスタイルがあれば何を着ても(さま)になってしまう。

 

 うん、今日の俺も最高に可愛い。

 

 胸中でそんな風に自画自賛しつつ、他にも細々(こまごま)とした支度を済ませた俺は、自室を出て、玄関前で靴を履きながら待っていたアリサに合流した。

 

「お待たせアーリャ。じゃ、行こうか」

 

 今日の目的地は電車で数駅ほど先に行ったところにある、若者やファミリー層向けの大型商業施設。

 

 服を見に行きたいというアリサに、俺もついでに付いて行くことになったのだ。

 

 俺一人だとついつい前世のセンスが邪魔してオタク受けファッションに走りがちなので、非オタ代表のアリサによる客観的な評価はかなり貴重だ。

 

 クラスメートとの付き合いなどで私服を見せる機会は多々あるので、そういう場で周りから浮かないためにも非オタの率直な意見にはしっかりと耳を傾けておきたい。

 

 ちなみにマリヤの場合はシスコンなので基本俺やアリサが何を着ても「可愛い〜!」というだけの全肯定botと化すためあまり参考にならなかったりする。

 

「─────」

 

 ……と。

 

 そんなことを考えながら歩いているうちに、やがて俺達は駅へと到着し、二人一緒に電車に乗り込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

 

 ──で……。

 

 

【うぅ……からいぃ……いたいよぉ……おかあさぁん……】

 

 

 ──どうしてこうなった……。

 

「ア、アーリャ? マジで無理しなくていいんだぞ……? 食べきれないんなら別に残したって──」

 

「何よ、“おいしい”って言ってるじゃない」

 

「いや……まあ、うん。そうか」

 

 ……現在、俺達は激辛ラーメン専門店“地獄の釜”へとやってきていた。

 

 あり得ないほどに赤一色の激辛ラーメンを啜りながらロシア語で泣き言を吐くアリサと、その隣で心配そうに声をかける政近。

 

 さらにそんなアリサの正面の席では、有希がまるで新しい玩具を見つけたと言わんばかりの恍惚の笑みを浮かべており、もはや店内においてこのテーブルだけが完全なるカオスと化していた。

 

 ……いや、マジで何なんだこの状況。

 

 たしか、目的の大型商業施設に入ってアリサと一緒に服を見ていたら、たまたま二人で買い物に来ていたらしい政近と有希に遭遇して……。

 

 それで俺がなんの気無しに二人に声をかけたらそこからなぜか有希の誘い(挑発)によってアリサが焚き付けられ、一緒に激辛ラーメンを食いに行くことになって……で、今に至ると。

 

 ……うん、つまりこれも全部ドS小悪魔有希と煽り耐性ゼロのアリサのせいだな。

 

 政近のほうは最後までアリサを止めようとしていたのだが、「私だって辛いものぐらい食べられるわ!」とムキになってしまったアリサのことを説得することは叶わず、結局俺まで巻き込まれるハメになった。

 

 一応、今回頼んだメニューは四人とも一番辛さが控えめらしい“血の池地獄”という名のラーメンなのだが、コレでも充分すぎるほどに辛い。さっき俺も一口食べたのだが率直に言って舌と喉が焼き切れるかと思った。

 

 激辛好きらしい有希と政近は汗一つかかずに涼しい顔をして食べているが、耐性の無い俺やアリサでは一口食べるごとに今も地獄の苦しみに悶え喘いでいた。

 

「うっへぇ……(かっら)ぁぁぁ〜……」

 

「ふ、ふふ……リーナったらこれぐらいで()を上げるだなんてまだまだ子供ね……」

 

 ……おいおい、さっきからロシア語で弱音吐きまくってる人がなんか言ってるわ。

 

 どういうつもりでそんなこと言ってきてるのかは知らんが、俺にはちゃんと通じてるんだからな?

 

 ……辛さにやられて冷静な判断力すら無くなってしまったのだろうか。

 

 というかロシア語がわからなくても君が辛いもの苦手なのはもう既に全員にバレてるからね?

 

「……ってか(あっつ)ぅ。……さすがにちょっと脱ぐわ」

 

 そう言って俺は羽織っていた上着を脱いで椅子の背もたれに掛ける。

 

 それによって上半身はノースリーブのインナーのみの姿となってしまった訳だが、背に腹は替えられない。

 

 別に下着姿という訳ではないし公然わいせつ罪とかにはならないだろ……たぶん。

 

 ……あ、でもなんか正面からチラチラ視線感じるな。

 

 まあ……うん、そうだよね。

 

 健全な思春期男子なら気になっちゃうよね。インナーの上にじんわりと汗なんかも滲んでるし、これで意識するなというほうが無理な話だ。

 

「……久世君? わかっているとは思うけど、人の妹をあまり変な目で見ないでね?」

 

「み、見てないヨ……?」

 

 アリサにジロリとした鋭い眼光を向けられた途端、政近がギュインっ!と物凄い勢いで首を真横に捻り、正面の俺から顔を逸らす。

 

 大丈夫、今の……? 首逝ったりしなかった?

 

「いやいやアーリャ。これは目の前で脱いだ私が悪いから。健全な男子ならこれが普通の反応だから」

 

「……リーナはもう少し人の目を気にしなさいよ」

 

「……あー、まあ、そりゃ露骨にエロい目で見られたりしたらさすがの私も引くけど、ちょっと意識するぐらいなら可愛いもんじゃない? ──というわけで全然見ていいよ、まさちー。その代わり一秒五十円ね?」

 

「絶妙な価格設定やめろ」

 

「とりあえず千円分買います」

 

 俺の発言に首を真横に向けたまま器用にツッコむ政近と、即座に財布から千円札を取り出す有希。

 

 やっぱノリいいなこの二人。

 

「……で、ちなみにオプションとかはいくらぐらいから……」

 

「……やめろ、冗談だ。小声で耳打ちするなガチっぽくなるから」

 

 左隣の有希から割とマジなトーンでそんなことを言われ軽く戦慄する俺。

 

 え……まさか本気じゃない、よね……? 一瞬百合というよりガチ〇ズの波動を感じたんだけど……気のせい、だよね?

 

「……あれ、もしかしてまさちー、もう食べ終わったん?」

 

 ふと有希の視線から逃れるように政近のほうに目線を向けると、既にそのどんぶりがスープのみを残して空になっていたことに気付き、声をかける。

 

「ん? ああ。麺はたぶん全部食い終わったと思うけど」

 

「そっかー。……………」

 

「おい待て、無言で俺のどんぶりと交換しようとすんな。何のつもりだ」

 

「え〜、だって私ぃ〜、もうお腹いっぱいでぇ〜」

 

「嘘つけ、お前まだ二、三口しか食べてないだろ。……まあどうしても食えないっていうなら別にいいけど。たぶんあと一杯ぐらいなら普通に食えるし」

 

「わ〜い、まさちー優しい〜。──あ、何ならあ〜んとかしてあげようか? 初回だから無料でいいよ〜」

 

「二回目以降は金取んのかよ……」

 

 などと、ぶつくさ言いながらもなんだかんだで俺のどんぶりを自身の手元に引き寄せる政近。

 

 うんうん。こういうとき頼もしい男はモテるぞ。……いやそういえばこいつ既にめちゃくちゃモテてたわ。このハーレム主人公め。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい! リーナ? 自分で注文したんだからちゃんと自分で食べ切りなさいよ」

 

「……ごめん、それは本当に無理。ってか、アーリャもまさちーに食べてもらったら?」

 

「なっ!? わ、私は自分で食べ切れるし……」

 

「いや、そもそも俺もさすがに三杯食うのはキツ──(いって)ぇっ!?」

 

 何やら日和(ひよ)ったことを抜かしそうだった政近の脛を、ブーツを履いた俺のつま先がテーブルの下でゴンッと急襲する。

 

 政近君よ、ここは漢を見せる場面だぞ?

 

「……ぐっ、アーリャ? よかったら貰うぞ、それ」

 

「だ、だから大丈夫だって言って──」

 

「いいじゃん、まさちーもお腹空いてるみたいだしさ〜。それにほら、ラーメンって脂と糖質の塊だから太るって言うし?」

 

「………………まあ、そこまで言うなら」

 

 渋々といった様子でそう頷き、アリサは何を思ったのか、自分のどんぶりを手に持つと箸で麺をすくい上げながら、政近の口元に向けて差し出す。

 

 ……おっと、これは?

 

「……はい。してほしかったんでしょ、“あ〜ん”……」

 

「──え゛っ゛!?」

 

「あ、そういうことなら私も〜」

 

「……ちょっ!?」

 

 と、どうやらアリサはさっきの俺の冗談を素で真に受けてしまっていたらしく、微かに頬を染めながらじっと政近の反応を窺っていた。かわいい。

 

 なんとなく面白そうだったので俺もそれに乗っかってみる。

 

「では、ここはわたくしも空気を読んで」

 

「有希まで!?」

 

 さらにはそこへ有希まで便乗し、政近は三方向から“はいあ〜ん”を受けることとなり、結果……。

 

 

 全て食べ終える頃には政近の胃袋は限界を迎え、静かにその場に倒れ伏したのだった──。

 

 

 

 

 

 

 

 






……というわけで4話でした。
一旦ここで区切りまして、次回はおそらく有希とのデート回になると思います。なんとか書き上げますので次回も何卒よろしくお願いします。
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