銀髪ロシアン美少女に転生した元おっさんの話 作:カエモミ
「ん〜! アイス
──激辛ラーメン店にて政近が食い過ぎでダウンした後。
まともに動けなくなった政近を店のすぐ傍にあった公園のベンチへと寝かせた俺たちは、そこで
園内に停まっていたキッチンカーで購入したアイスを頬張りながら至福の声を漏らす俺に、隣でコーンに乗ったチョコチップアイスを舐めていた有希から若干引き気味の視線が刺さる。
……うん。言いたいことはわかるんだ。
明らかに頼み過ぎだと。
何しろ俺が手にしているカップの中にはバニラ、チョコ、チーズケーキ、クッキーアンドクリームの計四種セットが盛られており、常人からすれば『どんだけ食うんだよこいつ』と思われても仕方ない量だと思う。
だけどこれについては本当にどうしようもないのだ。
今の姿に転生してからというもの、体質的な影響か、なぜか体が事あるごとに無性に甘いものを欲して止めれないのだから。
ちなみにアリサのほうも俺と全く同じラインナップで幸せそうにアイスを頬張っていた。
こういうところはやはり双子である。
「ほ〜らまさちー、アイス食べる〜? 今ならまたあ〜んしてあげるよ〜?」
「うぷっ……、無理、もう食えない……吐く……」
「う〜ん、これは重症」
さすがに現役男子高校生の胃袋をもってしても、ラーメンほぼ四杯分はキツかったかぁ……。
とりあえず胃薬は飲ませておいたが、この様子だと復活するまで結構時間が掛かりそうだな。
「困りましたねぇ……。実はわたくし、まだ行きたいお店があったのですけれど、政近君がこの様子だと移動も大変でしょうし」
「行きたい店って?」
俺が何気なく訊ねると、有希は僅かに含みのある笑みを浮かべながら。
「ええちょっと、“青い袋のお店”に」
「…………あー」
……“青い袋の店”。有希のそんな発言を聞いて瞬時にあそこか、と察する俺。
十中八九、あの某有名アニメショップのことで間違いないだろう。
しかもこちらに向けてくるこのあからさまに意味ありげな視線からして、たぶん俺のことも誘ってきている。
……ま、そういうことなら。
「ねえアーリャ」
「? なに?」
先程からアイスに夢中でこちらの会話など一切聞いていなかった様子のアリサに声をかける。
糖分を補給したことで一時的に脳の幸福指数が上昇したのか、表情からして物凄くご機嫌な様子だった。朝のあの仏頂面が嘘のようである。
「これから私とゆきりんで行きたい店があるんだけどさ、私たちが買い物してる間、まさちーのこと任せても平気?」
「ええ。別に構わないけど」
「そっか、ありがと。じゃあちょっと行ってくるよ。買い物が終わったらまた連絡するから」
──と、すんなりアリサからのお許しも出たので、俺はカップに残ったアイスを急いで平らげると、カップとスプーンを近くのゴミ箱に捨てつつ、有希に目配せをして一緒に公園を出た。
……そういえば、こうやって有希と二人きりで外を歩くのもかなり久々な気がする。
元々、有希は名家のお嬢様として常に綿密なスケジュールのもと行動しているので、プライベートで遊べる時間はかなり少なかった。
それが高等部に上がり生徒会に入ってからはさらに忙しくしているようなので、学校以外でこうして遊ぶのは実に数ヵ月ぶりのことだった。
と、そんなことを考えながら歩いていると、不意に俺の右腕に柔らかくも少し骨ばった感触が伝わってきて、反射的にそちらに視線を向ける。
「へへっ、久しぶりのデートだな〜、親友♪」
「………………」
……うん。
どうやらこの有希さん、めちゃくちゃ浮かれているらしい。
こんな街中でいきなり腕を組んでくるとか、付き合いたてのバカップルかよ、と内心でツッコむ。
……が。正直なところ、全く悪い気がしないというのもまた事実ではあった。
なんというか、ただ並んで街を歩くだけでこんなに喜んでもらえるなら男冥利──いや、女冥利? に尽きるというか、やっぱり大なり小なり、人から好意的な感情を向けられるというのは嬉しいもので、俺の中の自己肯定感的なものが爆上がりしていくのを感じる。
いくつになっても、やっぱ友達って良いね……。
「だねー。ゆきりん最近忙しそうだったし」
「そーそー。生徒会の人手不足にも困ったもんだよなー。おに──政近君も全然入ってくれそうな気配ないし」
「そういえばずっと勧誘してるとか言ってたっけ。健気だねぇ」
「おいおい、なーに
「いや、私はそういうの柄じゃないし……」
「姉は二人とも入ってるのに?」
「あの二人は向いてるからいいの。でも私は特に入る理由も無いし」
「理由ならある! あたしが凄く助かる!」
「う〜ん、それだとちょっと理由が弱いかな〜」
「なんでだよぅ! 一緒に生徒会やろうよぅ! そしてゆくゆくはあたしの左腕として働いてよぅ!」
ぐわんぐわんと俺の腕を揺すりつつ、「あ、ちなみに右腕は政近君ね? で、綾乃は影」と付け加える有希。
……絶対にこき使われる未来しか見えない。
俺はなるべく人生楽をして生きたいというのに。
「……ってかさ。アーリャさんの生徒会長選のパートナーって、やっぱりリーナなん?」
「ん? なんの話?」
「あれ、知らない? うちの学校の生徒会長選挙って会長候補と副会長候補の二人一組で立候補するってのが決まりなんだけど、アーリャさんそういう相手あんまりいなさそうじゃん? だから無難にリーナかな〜って」
「あー……」
なんとなく記憶を呼び起こせば、たしかにそんな話もどこかでうっすらと聞いたことがあるような気もする。
正直、自分には全く関係ない話だと思っていたのですっかり忘れていた。
そういや、アリサも生徒会長候補として立候補するとか前に言ってたっけ。
まあ、そういうシステムならたしかに、アリサが声をかけられそうな人間は限られてくる。
具体的には俺か、もしくは──。
「……久世政近」
「ん?」
「アーリャがパートナーとして選ぶかもしれない相手。私だけじゃなくて、たぶんまさちーもかなって」
「…………。……やっぱ、そう思う?」
「うん。思う」
アリサはその性格上、俺に助けを求めてくるのはきっと、本当に最後の最後だと思う。
他ならぬ彼女のプライドが、俺に頼ることを最後まで許さないだろうから。
アリサにとっては俺も、そしてマーシャも決して弱みを見せていい対象ではなく、実の家族だからこそ、強い自分しか見せたくない。きっとそんな思いがあるのだろう。
けれど、家族以外であのアリサが初めてあれだけ心を開いている様子の政近であれば、もしかしたら、と思う。
もしかしたら政近ならば、あのアリサの隣に立てるのかもしれない、と。
「……はぁー、だよなー。しかも政近君、アーリャさんみたいなタイプ絶対好きだし、ワンチャンまじで口説き落とされる未来も充分あり得るんよ」
「え、なにそれ、銀髪巨乳フェチってこと?」
「いやそういう意味じゃな──ってまあ、それもあるか」
「あるのかよ」
「ある。大いにある。だってあいつ根っからのおっぱい星人だし、しかも最近脚フェチにも目覚めたらしいし」
「まじかよ。性欲の権化じゃねぇか」
「ただまあそれだけじゃなくて、アーリャさんみたいな、ああいうなんていうの? どこまでも真っ直ぐでキラキラしてるというか、ありきたりな言い方をすれば、自分に無いと思ってるものを持っている相手にとことん弱いんだよね」
「……なるほど」
つまり政近にとってアリサは見た目も中身もどちゃくそ好みの相手、と。
そりゃ、たしかに色々揺らぐだろうなぁ……。
「でもそれ、ゆきりん的にはどうなん? もしアーリャが本当にまさちーと組んだら、やっぱり複雑?」
「……んー、どうだろうねぇ。まあ、政近君が最終的にそう決めたんなら、あたしはその決断を応援するだけ、かな」
「へぇ」
「ただ──」
有希はそこで一つ言葉を区切ると、いつになく真剣な眼差しで遥か前方を睨む。
……その瞳にはなんだか強い信念のようなものが込められている気がして、俺は思わずごくりと息を呑んだ。
「──負けるつもりは一切無い。もしその時になったら、あたしは全力で二人のことを叩き潰すよ」
「……うわー、強キャラ感すげぇ……」
「でしょ?」
うっかり気圧される寸前になりながらも何とか絞り出した俺の一言に、ニヤッと得意気な笑みを浮かべて返す有希。
……この子、こうやって時折放ってくるプレッシャーがもはや女子高生のソレではないんだよなぁ。
「──ま、この話はこれで終わり! それより、今は」
言って、有希は弾むような足取りでタタッと急に駆け出すと、目的地でもある青い看板の店の前でピタリと足を止めた。
そうして、まるでその一つの芸術のように整った顔に満面の笑みを咲かせながら。
「──二人の時間を思いっきり楽しもうぜ、親友っ♪」
♢♢♢♢♢
「──っしゃあ、やってきたぜぇ“アニメイド”! 今日はとことんまで散財じゃーい!」
「じゃ〜い」
入店して早々テンションMAXな有希に苦笑しつつ、彼女を真似て、おー、と片手を掲げる。
……といっても、俺は普通にちょくちょく一人でも来ているので、今のところそこまで欲しいものは無いのだけれども。
「んで? まずはどこから攻めるよ?」
「あー、じゃあラノベの新刊コーナー見ていい? まだ今月分のチェックしてなかったんだよね」
「ん。オーケー。そういやあたしもまだ見てなかったわ」
俺の提案に有希が頷き、二人で店内の入り口付近にある新刊の書籍コーナーへと移動する。
「おっ、これアニメ化のPV見て気になってたやつ。原作ラノベだったんだ」
「あー、それね。あたし原作もコミカライズも両方読んでるけど、結構オススメ。主人公の妹がとにかく可愛くて推せる」
「へぇー、私は見た感じこのメインヒロインっぽい
「バッカヤロウ! 中身もキャラデザも妹が一番可愛いに決まってるだろ! いいから何も考えずに妹をすこれ!!」
「過激派が過ぎる……」
アニメの推しキャラぐらい自分で選ばせてくれ……。
──と。
そんな感じで話題になってるアニメなどについて二人であーだこーだと喋りながら、店内を見て回ることしばらく。
「……ふぃー、これだけあれば当分供給には困らないな」
大量のラノベや漫画、CD、アニメグッズなどがパンパンに詰まった自身の買い物カゴを眺めながら、有希は満足げな表情でうんうんと頷く。
対して俺も追っているラノベの最新刊を一冊だけ手にし、二人で一緒にレジのほうへと向かっていた。
その途中で──。
「なっ……! おい見ろよ親友! このポスターに載ってるくじ、既にS賞もA賞も全部出ててB賞も残り一つだ! もしかしたら出るかもしれんぞ、ラストワン賞……!」
「……ん〜、でもこれ、残り何回とか書いてないし、まだ下の賞は全然余ってる可能性もありそうじゃない?」
「たしかにそうかもしれない──だが、そうじゃないかもしれない ……! 一万あれば……出るか?」
「おい待て早まるな。それで出なかった時の喪失感を考えろ」
「ぐぬぬ……、だが……だが!!」
唸りながら、まるで自らの内に秘める何かと強く葛藤するように、プルプルとその場で小刻みに震え出す有希。
けれどもそんなとき──。
「──え、なにそれすぐ行くわ」
不意に有希が自身の右耳に挿していたワイヤレスイヤホンを押さえながらそんなことを呟いたかと思うと、それっきり、くじのことなんか綺麗さっぱり頭から抜け落ちてしまったかのように、やや興奮気味な顔で俺に向き直る。
「今、こっそり政近君とアーリャさんの後を
「いやしれっと何やらせてんだ」
「ふっ。聞いて驚け、なんとあの二人、今一緒に婦人服売り場にいるらしい」
「……ほう?」
その言葉を聞き、そういえば今日は元々アリサと一緒に服を買いに来ていたのだということを思い出す。
そんなアリサと政近が一緒に服屋にいるということは、即ち──。
「「──こんな面白そうなこと絶対見逃せない!」」
……今このとき、俺と有希の心は完全に一つになった。
そして──。
「──これは、どう……」
「──うわぉ、アーリャさんだいったぁん」
「あっははははっ! いいじゃんその服、エッロ! ね、まさちー! ほら遠慮しないでもっと近くでちゃんと見てあげてよっ! ね、めっちゃエロいよね、ねぇ!?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
──と。
それから急いで二人の元へと向かった俺たちは、ちょうどアリサがやたら露出度の高い服を着て試着室から出てきたタイミングで合流することに成功し、無事にアリサが特大の羞恥心を抱えながら悶死するところを見届けたのだった。
……
……というわけで、すみません、大変ご無沙汰しております……。
気づけばもう最後の投稿から一年も経ってるんですね……。
一応、かねてより投稿するか迷っていた有希とのデート回なのですが、このまま死蔵しておくのも少し勿体無く感じましたので、こうして思い切って投稿させて頂きました。
本編の続き(原作四巻部分以降のエピソード)についてはアニメの二期が放送される頃にはまた書き始めるかも、といった具合です。
それとは別で何か書けそうなエピソードを思いついたら今回のように番外編としてひっそり投稿していければと思います。
それでは次回も気長に……何卒気長にお待ち頂ければ幸いです。
今後ともよろしくお願い致します。