魔石生物 ーMagic Stone Creature-   作:御坂まさき

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幻想種

「よぉ!黒河!昨日は大変だったみたいだな!?」

 

 大学で出会った嵐が声をかけてくる。

 

 スキンヘッドから坊主くらいになった髪はジョリジョリしており、彼女から意外と好評らしい。

 

 と、いう話を聞いて陽太は殺意が芽生えたが、そこをグッと堪えられた自分は大人だな、偉いな俺、と自分を褒める。

 

 最近感情的で子供っぽい所が多かったが、本来はこういう大人の対応ができる人間なのだと陽太は自分を褒め倒す。

 

 そうやって精神の均衡を保つのが陽太の処世術でもあった。

 

 

 そしてそんな彼は未だ童貞である。

 

「いや、ほんと大変だったよ。強がることなく言うけど、ほんっとにきつかった」

「オレらも昨日大学で会った淡墨さんにたまたま聴いただけだしな。詳しくそのハナシ聞かせてくれよ」

「あぁ、構わないよ」

「それは楽しみが出来たな?……で、その、あー黒河?」

「ん?どうした笹野?」

「……シロはどうしたんだ?」

「ほっひゅほっひゅ」

 

 陽太の肩には、その名前をその色からつけたとは思えない色の梟がいた。

 

 色はその真逆の真っ黒。

 

 まるで墨汁の中で水浴びでもしたのかのような見事な黒一色だった。

 

「ん?なんか変か?」

 

 銀河は笑顔のまま喋る陽太に、ヤベ、こいつキレてね?キレてるな?と脳内がハイスピードで答えを出した結果

 

「あぁ、なんの問題もないな?」

「だよな!」

 

 親指を立ててそれに同意した。

 

 これには陽太もニッコリである。

 

「はぁ?どこがだよ?真っ黒じぼっ!?」

「はいはい。お前は本当に空気読まないな?お口チャックな?」

 

 銀河に口を塞がれた嵐は、苦しそうにもがきながら連行されて行く。

 

 そんな後ろ姿を見ながら、鳴矢は陽太の状態がまだ緊張状態から解けていないことを悟る。

 

「んーま、今日はエンリョしとくわ。なんか気ぃ立ってるみたいだし。落ち着いたら連絡くれよ。キョーミがあんのはほんとだからさ」

 

 陽太の肩をポンっと叩いて

 

「先ずは美味いもん食って風呂入ってゆっくり休め」

 

 じゃ、と2人の後を追って去って行った。

 

 3人の後ろ姿を見ながら、陽太はしばらく呆けてからようやく気付く。

 

 気を遣われてしまったな、と肩を落とした。

 

 どうやら昨日の今日で、まだ気持ちの整理が出来ていなかったのかもしれない。

 

 知らず知らずに、気持ちがささくれ立っていたようだ。

 

 深く息を吸って、深く吐いた。

 

 気持ちを切りかえる。

 

「で、反省は済んだか?」

 

 と、ジトっと睨むように真っ黒なシロに問いかけた。

 

 昨日エリア出た後。

 

 その足で大学に戻り、淡墨からお説教を受けた。

 

 霧島にも苦言を呈され、ガチ凹みした陽太は肩を落として家に帰った。

 

 家に帰り今度は陽太がシロにお説教をしようと考えていたら、シロが狂ったように黒いインクで水浴びを始め、自分のフッカフカでフワフワの愛してやまない真っ白な毛を黒染めたことで反省を示すが

 

「風呂場真っ黒になっちゃったじゃんか!!掃除するの誰だと思ってるんだ!本当に反省してんのか!?」

「ほひょーう!?」

 

 陽太が至極真っ当にブチギレたことにより御破算になった。反省と謝意を同時に見せて、全くしかたないなシロは、という言葉を引き出すシロの算段はめでたく御破算となった。

 

 まさかの想定外の反応に、シロは思考停止した。

 

 そして爆誕したのが、声をかけると

 

「ほっひゅほっひゅ」

 

 と鳴いて羽根をばたつかせて鳴くおもちゃのような動きしかしなくなった、シロ(黒)だ。

 

 壊れたおもちゃの様に同じことを繰り返すシロ(黒)は目が死んでいる。

 

 クロはそんなシロ(黒)を見て哀れみの目を向けていた。

 

 昨日からこの調子のシロに、陽太は呆れてため息をつく。

 

 反省しているのは間違いない。

 

 シロは馬鹿ではない。むしろ賢い。

 

 そのせいか一周回って頭の悪いことをする悪癖がある。

 

 とりあえずこのように反省しております、と淡墨と霧島に見せに行くつもりだが……、いやこれ本当に反省してるのか?

 

 馬鹿にしてると思われないかな?

 

 いや、いっそのこと羽根毟るか?

 

 と危険な思考の迷宮に入っていると、バサっといきなりシロが羽ばたいて陽太の前に躍り出る。

 

 それどころか、クロも呼んでもいないのに自分の意思で現界した。

 

「頭の悪いことしてんなぁ、特待生」

 

 正面には一目でアウトローだとわかるような外見をした男がいた。

 

 隣には体長2メートルはゆうにある見たことのない生物もいる。

 

 頭から前脚にかけては鷲、胴体から尾にかけては獅子。

 

――幻想種、か。

 

 陽太は瞬時にグリフォンと呼ばれる過去に()()()()()()()()()()()()()()()だと気付く。

 

 同時に、男から粘っこい悪意と敵意を同時に感じた。

 

 クロとシロが飛び出たのはそれが理由だろう。

 

「グルルルル」

 

 威嚇し、喉を鳴らすクロと、相手の出方を陽太の前でホバリングしながら伺うシロ。

 

 陽太は逆にそれで冷静になり、クロの頭に手を置き、シロに腕を出して止まらせる。

 

 2体を落ち着かせてから、陽太も落ち着きを払ったように言う。

 

「そんな殺気立たれるとうちの子が気が立っちゃうからやめてもらっていいか」

 

 なるべく平坦な声を出したつもりだったが、見え隠れする怒気は隠しきれていなかった。

 

 一方的な悪意ほど面倒くさく、そして腹立たしいものはない。

 

「別に殺気立ってなんかないけど?そっちが勝手にイキってるだけだろ?」

 

 余裕を見せながらやれやれと言わんばかりに、男は両手を上げる。

 

 一番面倒くさい手合いだ、とその一言だけで陽太は悟る。

 

 やめてと言ってもやめない、もしくはそれを認めない手合いは、たいていネチネチとしつこく絡んでくる上に、相手のミスや過去を指摘して自分の優位を保とうとする。

 

 陽太は過去からの経験で、相手がどういう人間か看破した。

 

 相手にするだけ時間の無駄、そう躊躇なく断じる事ができるタイプの人間だ。

 

 嵐達と違って目的意識もなく、ただ目障りだと言うだけで絡んでくるようなそんな人間。

 

 実際その通り

 

「あれぇ?ブルっちゃって声も出ないの?よくそんなんで特待生やれんな?俺だったら恥ずかしくて表歩けねぇよ」

 

 ニヤニヤと、邪気たっぷりに男は笑う。

 

 それに対して陽太は、自分でも驚くほど何も感じなかった。

 

 怒りも、呆れも(いだか)かなかった。

 

――嵐達の劣化版も甚だしい。

 

 怒りを誘ってるつもりなのかもしれないが、生憎(あいにく)陽太は絡まれ慣れている。

 

 この程度で動じることはない。

 

 嵐達のように周囲を巻き込むほどの狡猾さがなければ、陽太には響かない。

 

 陽太の神経を逆撫でるには至らない。

 

 この手の相手は無視すれば冗長するし、相手をすれば時間の無駄になる。一番有効な手段は

 

「いや、さっきの3人が居なくなって1人になった所を狙って絡んでくるなんてなかなか恥ずかしくて出来ることじゃないなって思ってさ。俺だったら表を平気な顔して歩けないよ」

 

 煽り返すことだ。

 

 煽り耐性の低いやつなら――

 

「あんま舐めたこと言ってんじゃねぇぞ!テメェ!調子乗りやがって!」

 

――ほら、すぐキレた。

 

「ギュオオオ!」

 

 グリフォンが主人を馬鹿にされたことで、嘴をカチカチと鳴らしながら声を上げる。

 

「グルル」

 

 相手が敵意を見せたことでクロがより警戒を(あらわ)にするが、シロがピョンとクロの頭に乗った。

 

「ほほほ」

 

 シロは首を振りながら言う。

 

 こんなバカ相手にするな。時間の無駄だ、と。

 

 それを聞いたグリフォンは

 

「ギュオン!!!」

 

 声を上げてバッサバッサと羽ばたいて――

 

「テメェら、何回目だこの野郎!!」

 

 助けに来た淡墨に止められた。

 

 絡まれた瞬間に、陽太は『たすけて』という連絡と位置情報を淡墨に送っていた。

 

 自分に非がない場合は公的機関に頼ることがスピード解決をしてくれることを、陽太はよく知っていた。

 

 

 というか、『ら』って何ですか?もしかして俺のこと含めて言ってますか?俺何にも悪くないですよ、と絡まれてからの映像を送ってみると

 

「うるせぇ!黙ってろ口出すな!」

 

 と無事にキレられた。

 

 マジかー、理不尽再びかー。

 

 とは思いつつ、陽太は黙って頭を下げ、姿勢を正した。

 

 アーマー状態の淡墨さんは恐いのだ。

 

「テメェは何度目だ!?ああ!?何回同じこと繰り返すんだ!?テメェ学校から追放されてぇのか!?」

 

 完全にチンピラだ。

 

 淡墨は正しいこと言ってるのに、脅してるようにしか聞こえない。

 

 いやもう脅してるのこちら側では?

 

「はぁ?別に何もしてないけど?何も起こってないのにそっちが勝手に騒ぎ立ててるだけだろ?」

  

 男は肩をすくめつつ、首を振りながら言う。

 

 確かにその通りで、何も起こっておらず、グリフォンも雄叫びを上げて羽根を羽ばたかせたくらいのことしかしていない。

 

 怪我人もおらず、その言葉の正当性は確かに正しい。

 

 が

「うるせぇ、決めんのは俺だ。退学にしてやる事も出来るって言ったの忘れたか?」

 

 検察も、裁判官も淡墨である。

 

 そんな甘っちょろい反論は彼に通じない。

 

「そ、そんな権力お前にあるわけねぇだろ!?」

 

 動揺したのか、男の声は震えている。

 

「ある」

 

 その動揺に釘を刺すように、淡墨は堂々と言い放った。

 

 例えそれが嘘だとしても、それを信じさせる程の迫力があった。

 

 その迫力に気圧されて、男は萎縮する。

 

 ブツブツと小さく恨み辛みを繰り返す男に、淡墨は追い打ちをかける。

 

「文句があんなら相手してやる。前回じゃ甘かったみたいだからな。今回はその鼻っ柱しっかり折ってやるよ」

 

 淡墨は拳を構えて言う。

 

「かかって来いや」

 

 ()()のことを思い出したのか、男は苦虫を噛み潰したように顔を歪ませて

 

「このクソがクソがクソがっ!!」

 

 と言いながら陽太の隣を早歩きで去っていく。

 

「おい。逃げんなよ」

 

 そこに容赦の無い陽太からの挑発が、男の火のような怒りに油を注ぐ。

 

 ここで逃げ出させたら、火種を残す。

 

 しっかりと燃え上がらさせてから、それを鎮火した方がいいことを陽太は知っている。

 

 しっかり白黒つけなければ、こういう手合いはいつまでも粘着してくるのだ。

 

「……くっ!!!」

 

 目は血走り、歯を噛み砕かんと噛み締め怒りに振るわせながらも、男は陽太を睨みつけて

 

「今のうちに調子に乗ってろ!!ボケッ!!」

 

 怒鳴り散らした後

 

――結果で見せてやる。

 

 去り際にそう言い残し男は逃げた。

 

「いいんですか?行かせちゃって」

「後々学校側から連絡させる。流石に停学は免れねぇな」

「…剣呑なこと言ってましたけど」

「あぁ、よく覚えておくといい黒河。この世にはああいう奴らは腐るほどいる。パートナーが優秀で自分が出来るやつと勘違いする奴。幼い頃の持て囃された栄光を忘れられず、周囲を馬鹿にすることで自分の精神を安定させる奴。強い敵を目の前に心が折れちまって自暴自棄になるやつ」

 

 そんな奴らを()()()()()()()()のが俺の仕事の一つだ。

 

 淡墨は逃げた男を見送りながら言う。

 

「なるほど。淡墨さんがこんなに早く駆けつけてくれた理由がよく分かりました」

「前も言ったが新学期はこんなことはしょっちゅう起こる。実際小競り合いはもう何度か起きてるしな。ああいう奴らで生き残れんのはそうはいない。普通は心折れるか、辞めるか、もしくは本当に強い奴だ。心も肉体も。そういう人間は敵も多いが同じくらい味方も多い。一握りの選ばれた人間だけだ。基本はその内のどれかに収まる。しかしそのどれかにもおさまらない奴っていうのもいる。どれだけの言葉をかけても」

 

 

 間を置いて淡墨は言った。

 

 

「それでも、分からない人はいるんだよ」




『エリアキング』

エリア毎にキングが存在する。
このボスを倒せばそのエリアは解放されて、魔石生物が出現しなくなり、人の住める環境に変えることができる。
環境を変えられるレベルの強敵で、ビルとコンクリートの街を森に変えたり、泉を砂漠にしたり、海に新しい大陸を起こしたりと凄まじい力を持つ。
倒せば報奨金もあり、一躍時の人となり、その後の富と名声は約束されると言っても過言ではない。
それほどの偉業であり、国中どころか世界中から賞賛される。
しかし年間何万人以上もの命が挑み、そして散っている。そして解放されるのはわずか100にも満たない。
魔石狩り資格者の目的の一つであり、全人類の目標。
エリアキングを倒して行けば、世界はいずれ解放されるからだ。
また、そのエリアでキングを倒したところを起点に大樹が生まれる。


参考文献
我らの敵の正体〜入門編〜
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