魔石生物 ーMagic Stone Creature-   作:御坂まさき

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かつて奇跡が起きた島

 例え誰かが死んだとしても世界は回っていく。

 

 何事もなかったかのように、世界は回っていく。

 

 例え有名人でも、一時は悲しさに包まれるが、いずれは忘れ去られ世界は平穏を取り戻す。

 

 そんな当たり前のことを、陽太は改めて実感した。

 

「聞いてんのかよ?黒河!」

 

 大きい声に驚き目を向けると、嵐達がなんとも言えない顔でこちらを見ていた。

 

「あ、あぁ。ごめん。何の話だっけ?」

 

 陽太は我に帰り、昼ご飯を食べ始める。

 

 学食で一番安いコロッケ蕎麦。

 

 ボリュームはそこそこあるが、コロッケが崩れて食べにくくて陽太は実はそんなに好きでは無かった。

 

 が、財布の味方であるため忙しくて昼ご飯が作れない時は度々お世話になっている。

 

「お前、まだ引きずってるな?」

 

 ずるずると蕎麦を啜る途中、銀太の声で陽太は止まってしまった。

 

「まあ、ね」

 

 偽らざる本音を陽太は言う。

 

 この学校の人間が死んだ。

 

 無断でシンボルエリアに侵入し、返り討ちにあった。

 

 それはもはや自殺に近いことではある。

 

 実際、年に何度もこういう事件は起こる。ニュースで取り上げられて必ず報道されるが、必ずしも一定数自分だけは大丈夫と言って死んでいく人間はいる。

 

 自分達は強いとたかを括って、命を落とす。

 

 しかも、遺体は大抵見つからない。

 

 シンボルエリア内は衛生カメラでも追いかけられない場所の方が多いし、遺体が残る方が()()で、骨すら残らないことは珍しくない。

 

 

 陽太も落ち込んでいるわけではない。

 

 相手はなんなら敵対してきた人間だ。いなくなってせいせいしたとは決して思わないが、陽太は彼と最後に会った1人だ。

 

 去り際に、予感がした。

 

 彼が何か良からぬことをするのではないか、と。

 

 漠然としたそんな気持ちを抱いた。そんな思いが陽太の中を駆け巡り、その予感は的中し、彼は死んだ。

 

 彼の死に、自分が関わっていたわけでは無い。

 

 しかし彼のことを煽った。

 

 それが理由の一つだとしても、彼が勝手に思い、感じ、行動しての結果だ。

 

 そこに陽太の落ち度はない。

 

 しかし。

 

――止められたのではないか?

 

 その考えが脳裏から離れない。

 

 陽太が煽らず、違った対応をしていれば結果が変わっていたのではないか。

 

 そんな考えが、陽太を苦しめ苛んでいた。

 

 

 俯く陽太に嵐はため息をついて言う。

 

「あのなぁ陽太。そんなメンタルならもう魔石狩り目指すのは止めろ」

「おい。アラシ、言葉を選べよ」

 

 鳴矢は普段のチャラついた雰囲気からは想像出来ないほど冷たく、嵐に言い放った。

 

「いや鳴矢、言わせろよ。これから魔石狩りになるって言うなら分かってんだろ?命の奪い合いなんだ。日本だって例えプロでも年間100人以上が死んでるし、その3倍近くが怪我で動けなくなったりしてんだぜ?それに折り合いがつけられねぇならやめとけよ。特に魔石狩りに成り立ての奴は1番死亡率が高けぇのはこの前の授業でやったばっかだろ」

 

 鳴矢の剣幕をものともせず、嵐は真剣に熱く語る。

 

「俺らはいつ死ぬかわかんねぇ世界にこれから足突っ込むんだぜ?仲間が死ぬかもしれない、相棒(パトクリ)が死ぬかもしれない、知り合いが死ぬかもしれない、そんな恐怖と戦う道だぜここは。例えば俺ら同学年の奴らが全員魔石狩りに成れたとしても、3割は3ヶ月以内に重症、死亡、もしくは精神的に病んで居なくなる。そいつら全員に心を割いていたら死ぬのはお前だぞ陽太」

 

 嵐は真っ直ぐ陽太を見つめる。

 

 彼らしい真っ直ぐな言葉に、陽太は唇をかんだ。

 

「実際大学入って辞める奴も結構いるしな?命の危険を改めて学んで、それ知ってやめるってことは悪いことじゃないしな?」

 

 嵐の言葉を引き継ぐように銀太が続ける。そーいうことが言いたかったのね、と一つため息をつき鳴矢が続く。

 

「……ま、カンタンに務まるショクギョーじゃないからな。魔石狩りは」

「命がかかっている、ね」

 

 3人の言ってることは、陽太は痛いほどわかっている。

 

 陽太はすでに命のやりとりをしたばかりだ。

 

「それはよくわかっているつもりだよ。俺もね」

「だろうな。お前はもう既に魔石狩りとして働いたんだからな」

「そんならさ、何がクロカワを悩ませるんだよ?」

「……止められたんじゃないかな、ってさ」

「おいおい、それは違うよな?」

「あぁ、わかってる。わかってるさ。この思考に何の意味もないことくらい。嵐の言っていることもよくわかる。隣人の死に動揺していたらこの先やっていけないってことも」

 

 陽太は深くため息を吐く。

 

「――強くならなくちゃいけないんだな。技術や能力だけでなく、精神的にも」

「俺らもいずれお前に追いつく。魔石狩りになるって気持ちは俺は揺らいでねぇ。そんで魔石狩りになってこの中の4人誰かがいずれ死ぬかもしれねぇ。その時は泣き喚いて落ち込んで愚痴溢して酒に溺れるかもしれねぇ。でもこの学校はそういう仲間(ツレ)を探す場でもあるだろ?傷の舐め合いは悪いことじゃねぇ、悪いのは立ち上がらねぇことだ」

 

 嵐は陽太に問う。

 

「黒河、お前はどうなんだ?」

 

 その真っ直ぐな目を陽太はしっかり見つめ返す。

 

「いや、ほんと、恥ずかしいことを恥ずかしげもなく言うから嵐は凄いよな」

「はぁ!?」

 

 しかし口から出てきたのは照れ隠しの台詞。

 

「今更気付いたのかヨウタ?こいつはこういうこと平気で言う恥ずかしくてアツい漢だぜ?」

「それが良いところでもあり悪いところでもあるな?」

「おいおい!俺ァ真面目に言ってんだぜ!?間違ったこと言ってねぇだろ!?」

「それを素面で言う根性は日本人にはないんだよな?」

「はっ!普段紳士ぶってオブラートに包むとか訳のわかんないことばっか言ってるから――わかった!わかった!言い過ぎたから首絞めよう指をワキワキすんな!」

「まったく、あんまり賢くないのに賢いことを言おうとするなよな?」

「あぁ!?」

「そうだぞアラシ!バカなんだからあんまり頭使うなよ?壊れるぞ?」

「OK。てめぇらぶち殺す」

「「ヤベェ!キレた!」」

 

 騒ぎ出す3人を見て陽太は声をあげて笑う。

 

 そして思う。

 

 

 自分は、いい仲間を見持った、と。

 

 

 

 そんなことを思いながら罵詈雑言を言い合いながら取っ組み合う姿を見ていると、回りからヒソヒソと声が聞こえ始めた。

 

 確かに大学生になり周りの意見に振り回されなくなった陽太だが、()()と一緒にされるのは癪だなぁと思い思い、その場をコソコソと離れる。

 

 

「「「てめぇ1人で逃げんな陽太ぁ!!」」」

 

 そして陽太が3人の標的となり、クロに乗って逃げようとした所を淡墨に見られて4人同時に説教を受けることになった。

 

 周りの人間は、またあの4()()()怒られてる、と思っているのだが、知らぬは本人ばかりである。

 

♦︎♢♦︎♢

 

 訓練に今まで以上に力が入る。

 

 陽太は言わずもがなだが、嵐、鳴矢、銀太の気合の入り方は以前よりも前のめりだ。

 

 陽太に遅れまいとする気持ちと、そして身近な人間の死が彼らに拍車をかけた。

 

 3人が互いの魔石生物と訓練するのを尻目に、陽太は鎧化した淡墨と立ち合いをしていた。

 

「余所見を――すんなッ!!」

 

 淡墨の容赦の無い回し蹴りを、陽太は華麗に盾で受け流す。

 

「ハッ。ただ余所見してたってわけじゃなさそうだな」

「人間に出来ることなんてたかが知れてます。必要なのは状況判断能力、そして思考能力。そのためには動きだけでなく音だけでなく全身の感覚を磨かなきゃいけません。余所見を平気でしながらも、目の前のことに対処する。それを戦闘中に出来ることが今の自分に身につけるべき技術だと思っています」

「へぇ。良い心がけだ黒河。是非やってみろ。俺相手になぁ!!」

 

 そう言って容赦なく殴りかかって来る淡墨に、いやその威力は打ち所悪けりゃ死ぬんだけど!?と、思いつつ陽太は訓練を続ける。

 

 

 そんな陽太達を華が近くでハラハラしながら見守っていた。

 

 

 思っていた学園生活ではなかった。

 

 陽太は素直にそう思っていた。

 

 同級生達は学びながらもサークル活動や飲み会などを楽しんでいる。

 

 陽太もそれをしたいと思っていたが、実際にシンボルエリアに足を踏み入れ、そんな余裕はないと悟った。

 

 知ってしまった。

 

 自分以上に努力する友人を見て、負けていられないとも思った。

 

 もちろん同時に、華やかな大学生活を楽しんでいる同級生を見て羨ましくも思った。

 

 しかし、今の生活も充実しているなとも陽太は心から感じていた。

 

 朝早くから体力作りに励み、大学では勉強、淡墨や友人と共に訓練をし、家ではクロとシロと連携について話し合い泥のように眠る。

 

 目まぐるしい生活だが、陽太にとって大学生活は楽しいものだった。

 

 敵らしい敵もいないため、精神的にも気楽だった。

 

 尊敬すべき先生がいて、優しくも厳しい先輩がいて、気の置けない友人がいる。

 

 毎日が慌ただしく、目が回りそうになる日常。

 

 陽太はいつかこの日々を振り返り思うだろう。

 

 

 自分は確かに“青春”をしていたと。

 

 

♦︎♢♦︎♢

 

 梅雨も明け、季節が夏に変わり始める頃、訓練を終えた淡墨が唐突に言う。

 

「黒河、次の休みシンボルエリアに行くぞ。チームとして初出動だ」

「――はい!」

 

 淡墨からの提案に、陽太は二つ返事で答えた。

 

 今は恐れよりも自分の訓練の成果を確かめたいそういう気持ちの方が強かった。

 

 喜ぶ華が、淡墨と入れ違いでパチパチと手を鳴らしながら寄ってくる。

 

 その表情は笑顔そのものだ。

 

「おめでとう!陽太くん!」

「ありがとうございます。華さんも何度もお付き合い頂きありがとうございました!アリスもありがとな」

 

 華の足元に寄り添う白い兎に陽太は礼を言う。

 

 加減のない訓練をする時、淡墨は華さんを連れてくる。実際何度もお世話になり、華とアリスには頭の上がらない陽太だった。

 

 両手を握られブンブンと振られながら

 

「大変だと思うけど、恭ちゃんのことよろしくね!」

「いえいえ!こちらがお世話になる方なので……」

 

 陽太が謙遜していると、華の握る手に少し力が入った。

 

「お願い。よろしくね」

 

 華らしくない、張り付いたような笑顔が印象的だった。

 

 

♦︎♢♦︎♢

 

 

 そこはかつて、小さな島だった。

 

 その島は陸地から近く、橋が架けられ観光地としても有名な場所だった。

 

 狭い島には3つの社があり、階段の勾配(こうばい)がきつく、若者も息を切らして参拝する神社があった。

 

 その近くには二両編成の短く古めかしい電車が走り、愛らしい姿は人気があった。

 

 しかしそこはもうそこは島では無くなった。

 

 島と島周辺は隆起し、陸地と繋がった。

 

 その島は高さと大きさを増し、その大きさはもはや島とは呼べない堂々とした姿となった。

 

 かつて『江ノ島』と愛された場所は名を変え、その名は『江ノ山』。

 

 島から山へ姿を変えたシンボルエリアだ。

 

 ランクはD。

 

 エリアに大仰な変化はなく、例えば毒に侵されていなければ、島中に火が蔓延していることもない。

 

 高尾山と違って肌身のまま入れるエリアである。

 

 しかしランクは1つ高い。

 

 つまりそれは強い魔物が多数存在するエリアだという証だ。

 

 陽太は初めて入ったEランクのエリアよりも、拍子抜けする程なんとも思わなかった。

 

 緑が生い茂り、しかし所々から滝のようにその山から海へと水が流れ落ちている。水源地が何処かにありそこから流れ落ちているのだろう。

 

 元の江ノ島にはそんな所は無かったはずだが。というか、あんな小さな山であの規模の水の循環が起きるはずもない。

 

 陽太はNWでその島の昔の姿を見る。そして今目の前の島と比べてうーんと陽太は唸りながら言う。

 

「島ではあると思いますけど、これ山ですかね?」

「わかる。独立した島ではなくなったから島とは言わなくなったんだろうけど、海に囲まれてるしパッと見は島に見えるよね」

 

 その山?を見据えながら、陽太と淡墨は疑問を抱く。

 

 最近見たのが高尾山なだけに、これをちょっと山とは言い過ぎなのでは?と陽太は思った。

 

 あれだって相当低い山であったはずだ。

 

「実際、標高は確か200m位だったかな?」

「山の定義は知らないですけど、山じゃないですよね。丘ですよ、丘」

「あ、そっちの方がしっくりくる。ちょっと小高い丘って感じ。……でも、それをいうと地元民が烈火の如く怒るから絶対に言わないようにね」

「ハハハ、え?嘘、本当に?」

 

 周りをキョロキョロと人がいないか確認する陽太。

 

 その姿には気負いがなく、シンボルエリアを前に軽口を叩けるくらい陽太は精神的に成長していた。

 

「それを地元民の前でおちょくるように話した同業者が……いや、シンボルエリア前に集中力を削ぐような話はよそう」

「いや、めっちゃ気になるんですけど。話して欲しいんですけど。むしろ気になって集中出来ないんですが」

「甘ったれたこと言ってんじゃねぇ!もう目の前は敵の巣窟だぞ!」

 

 集中力しろ馬鹿野郎!

 

 いつの間にか鎧化した淡墨が怒鳴る。

 

 ――出た、二重人格!

 

 頬をピクピクと引き攣らせて、陽太は苦笑する。

 

 鎧化した淡墨はとにかく短気で短慮な所がある。

 

 すわ本当に二重人格なのではと疑うほどだ。鎧化すると性格が変わるなんて話は聞いたことがない。

 

 おそらく、鎧化という仮面(ペルソナ)をつけることで、普段と違う自分になりきっているのではないかというのは、陽太なりの予想だ。

 

 霧島も華も何も言わないし、彼なりの自己防衛であり、心の折り合いの付け方なのだろうという予測を嵐達に話すと、なるほどと膝を打って賞賛された。

 

 なのでここで陽太がすることは大人しく従うの一択だ。逆らっても得することはないと経験で学んでいる。

 

「はい!すみません!……クロ、シロ」

 

 光とともに姿を現す。

 

 前回のような震えるような緊張感はない。

 

 しかし心臓は確実に、力強く鼓動を早め始める。

 

 恐れはない。

 

 だって陽太には頼もしいパートナーがいる。

 

 クロが戯れるように、陽太の腕に頭を擦り付ける。撫でて欲しい時のいつものクロの仕草だ。

 

 その耳を軽く撫でて、肩に止まったシロの羽を優しくぽんぽんと叩く。

 

「行こう」

「ほほう」

「がう」

 

 その足取りに、迷いは無い。




そこはかつて、女神が造った島とされている。
悪き龍を改心させ、その地に平和をもたらした。
そう言う伝承がある島だ。
しかし、それは伝承だ。ただの伝説だ。
この世に神は居らず、その祈りは届くことはない。
しかし、その日、ポストアポカリプスが起きた日。
死の10日間の初めの日。
その時に、海から唐突な高波が押し寄せてきた。
ただでさえ絶望な状況で、さらなる絶望がその地の民に襲いかかる。
呆然と、その光景を見て死を悟る者。
子を抱きながら、どうか子供だけはと祈る者。
必死で逃げ出す者。
多くの人間の前に、その祈りは誰かに届く。
江ノ島が唐突に隆起した。その影響で荒波を起こし、高波の威力を弱まらせた。
そして高波を、島はその身に受けた。人々を護るように。
それは奇跡だったのか。
ただの偶然だったのか。
その理由は依然として知られていない。
しかし、祈りが届いた場所として、その島は名声を馳せる。
シンボルエリアになってしまったため、普通の人間は近づくことができないが、その島は信仰の対象になった。
その理由の一つにこの狭いシンボルエリアで未だエリアキングが発見されたことがないことが挙げられる。
誰が呼んだか通称“祈りの島”。
その地でシンボルエリアだからと蔑むのはお勧めしない。


参考パンフレット
新観光名所、江ノ山
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