魔石生物 ーMagic Stone Creature- 作:御坂まさき
「おい!やめろ!!」
そこにたどり着いた瞬間、その光景に陽太は怒声をあげる。
そこには3人の人間と、3体の魔石生物がいた。
それぞれ協力して実を採取しており、実がそこかしこに落ちていた。
「お前ら何してんのかわかってるのか!?」
時既に遅く、実は採取されてしまっていた。
それがどんなに最悪で、どんな災厄を招くのか知っている陽太は思わず叫んだ。
「それを奪ったらどうなるのかわかってるのか!?」
あまりに身勝手な行為に、陽太は心底頭に来ていた。
「あ?知らねぇよ五月蝿えなテメェ」
「今忙しいんだ!引っ込んでろボケ!」
陽太と同い年ぐらいの若い男2人が心底うんざりするように、苛立つように言う。
「絡むな、お前らは作業を続けてろ」
「「ウッス」」
その男を制止して、30代くらいの男が前に出てきて言う。この男がここを仕切っているリーダーなのだろう。若い男達は素直に従った。
「お前魔石狩りか?」
「あぁそうだ!通報を受けてここに来た!もうすぐここにも警察が来る!今すぐ作業を中断しろ!」
「おいおい、おっかねぇなぁ」
切迫している状況なのにも関わらず、苦笑しながら言う男の態度に陽太はますますヒートアップする。
そんな陽太に男は悪びれず、どころか図々しく声をかけてくる。
「なぁ、少年。金が欲しくねぇか?」
「は?」
「その態度じゃ知ってるんだろうけど、
男は手にした若返りの実を見せつけながら言う。
「少年、その年で魔石狩りやってるってことは優秀なんだろうなぁ。でも同時に、欲しいんだろ?
いやらしく、男は笑う。
「若い美空で命を無駄にすんなよ少年。これ一つで億だぜ?億!信じられるか?協力すれば山分けにしてやるよ。なんせ今回の狩りで100億は軽く稼げる!ボロい商売だろ、なぁお前ら」
仲間に声をかけて、笑う。クックック、と心底嬉しそうに。
「魔石狩りが人気No. 1の職業なんて、あんなの国のプロパガンダだ。命を賭ける職業が人気であってたまるか!目を覚ませ少年、金が欲しいなら俺が分けてやるぜ?お前もその口だろ?見りゃわかるさ、
にんまりと、男は笑って言う。
怒りで顔が火照る。
頭に血が昇っているのを感じる。
歯を食いしばり堪えようとしても、怒りは収まりそうになかった。
――一緒にするな。
――お前のように他所から奪い、自分の欲望のために悪事に手を染めるお前らと一緒にするな!
そう激昂しかけた瞬間に、陽太の頭の上から水がバシャリとかかる。
予想外の事に、陽太は目をパチクリさせて、それをしたであろう腕の中の下手人を見る。
シロは射るように真っ直ぐ陽太を見つめていた。
「……フーッ」
息を大きく吐く。
陽太なりの意識の切り替えだ。
「サンキュー、シロ。頭冷えた」
「ほう」
こくりと、首を下げて頷いたシロに陽太は言葉を続ける。
「標的足元、“
パッと腕から飛び出したシロは青白く輝く羽を羽ばたかせる。
それだけで、目の前足元が凍っていき、
「ちっ!避けろ!!」
3人の男は飛び上がるようにその場から去る。
「テメェ…!」
若い男が陽太を睨む。
それをせせら笑うように陽太は言う。
「もう
男達の足元にあった実は全て凍っていた。
とても採取出来る状態ではない。
「いやぁ恥ずかしい。あんなに分かり易い挑発に引っかかるなんて、本当に恥ずかしいよ」
芝居がかった声で陽太は続ける。
「安直な時間稼ぎに乗るなんて、顔から火が出そうだ」
身振り手振りで自分の行いを恥て
「こんな金の稼ぎ方しか知らない馬鹿に、いいようにされるなんて末代までの恥だよ」
相手を煽る。
「なんだテメェ!?」
「調子乗んなよボケ!!」
陽太の予想通り、若い男2人は容易に釣れた。
「ほら、さっきと同じようなこと言ってる。語彙力が貧弱な奴を馬鹿と言って何が悪いの?」
口角を上げてにへらと、今度は陽太が笑ってやる。
クックックと、いやらしく。
「「あ゛あ゛!?」」
簡単に火のついた2人に
「黙れ」
ピシャリと、リーダー格の男が一言で鎮めた。
「おぉ、すごいですね。一言で言うこと聞くなんて。駄犬を2頭も飼っているのは大変ですね。あ、でも主人に似たんですかね?」
「黙れや小僧」
先程とは打って変わって、男は陽太を睨みつけながら言う。しかし陽太は笑みを崩さない。
むしろさらに笑って、嘲笑って、煽る。
「
明確に目の前の男の雰囲気が変わった。
「クソガキ、今度はそっちが時間稼ぎしてんのはわかってんだよ」
どうやら経験はあちらの方が上のようだ。
陽太の目論見はあっさりと看破された。
ぎくりと内心では思うが、その表情は崩さない。
余裕の笑みで対応する。
「さっきの俺は、この実を狩るための時間稼ぎ。で、今のお前は警察が来るまでの時間稼ぎ。たった一手で形勢逆転させるとは、感心するぜ」
「さすがおじさん。経験豊富、歳食ってるだけありますね」
「……おいクソガキ。こちとら気の長い性分じゃねぇんだ、質問に答えろ。この氷を溶かせ、出来るんだろ?」
「えぇ。出来ますよ」
「ならやれ。クソガキに払う金なんてねぇ、と言いたいところだが、報酬は分けてやる。こっちに寝返ろ。コレが最後のチャンスだぜ?」
「そんなにこの実が食べたいんですか?あぁ、そうですよね、気づきませんでした。おじさん皺が多いですもんね、そりゃあ若返りたいでしょう」
「そうかそうか。そんなに死にたいなら遠慮すんなクソガキ。しっかり殺してやる、お前らヤルぞ」
「「…う、ウス!!」」
「それが本性でしょ?例え俺がさっきの話に乗ってもどうせ殺してなかった事にしたんじゃないですか?」
「はっ!当たり前だろ?クソガキに1円たりともわけてたまるか」
「救えないクズだな、あんた」
心底軽蔑した陽太は笑みを消して吐き捨てるように言う。
「6対3で勝てるつもりか?さっさと負けを認めれば苦しまずに殺してやるよ」
男のパートナーの大きい牛と、若い男達のパートナーのワラビーと、そして狼が陽太の前に立つ。
「イキっているところ悪いけど、勝つつもりはないよ」
陽太は宣言する。
「もちろん、負けるつもりはもっとない。お前らの足元を凍らせるだけでも、時間稼ぎは容易に出来るし、逃げるだけでも良い。スピードある奴はいなそうだしね。分はこちらにある。それにうちの子は強いですよ?負けを認めるのなら今のうちなのはそちらでは?」
「良い加減にしろよクソガキィ!!行け!ホーン!」
「モー!!!」
主人の怒りに反応したか、牛が猛然と陽太に襲いかかってくる。
「“炎弾”!」
「ウォン!」
目の前に炎の塊を出し、牽制する。
「走りまわれ、クロ!シロ、飛び上がって隙を見て援護!」
それぞれに指示を出し、陽太は戦う覚悟を決めた。
元より、命を奪うつもりはなければ、傷をつける気もない。
それにこの戦い、陽太はあまりにも有利だ。
時間を稼げば勝ちなのだから。
もちろん油断をなどするつもりもない。
2体に指示を出し、応戦を開始する。
油断も慢心もなく、己の勝利の道筋をしっかりと立てた。
頭の中の理想的な勝利を形にする自信があった。
その能力があると、今までの経験で予測が出来た。
――しかし。
それは突如空からやって飛来物により、全てがひっくり返ることになった。
浅く呼吸を繰り返す。
あまりに無残な光景に、怒りよりも先に絶望が襲いかかってくる。
全力で駆け抜けた先に出会ったのがこの惨状だというのだから救いがない。
淡墨が向かった拠点は、エリアボスが最も気に入っている場所で、分かりやすく実の量が他の拠点よりも多い。
100近くもある果実は、その8割が刈り取られた後だった。
この迅速で大胆な計画的な犯行、恐らく警察内部にも協力者がいたに違いない。
眼前には10人近い盗掘者達が我先にと果実を集めている。爆弾の設置に、他の場所の回収を考えると20人以上の人間が関わっている可能性がある。
警察はそんな無能ではない。
千年樹海横浜に配置された人間は、ここが日本人にとっていかに大事で、いかに危険なエリアなのか知らされているはずだ。
それなのにも関わらず、己の欲望を優先した阿呆がいる。
その事実に、怒りよりも、悲しみよりも、失望が勝る。
もう、足掻いても無駄だ。実は刈り取られ、このエリアは範囲を広げる。これはもはや確定事項だ。
ここに仮にエリアキングがいたら、怒り狂っていただろう。
そうしてその怒りのまま、エリアを拡大し、日本は恐怖に飲み込まれることになるだろう。
その事を知っていながら隠していたことも知られ、国民は国を信じれずパニックになる事はあまりにも簡単に想像がつく。
国の威信は崩壊し、下手をすればデモどころかテロすら起きるかもしれない。
そんな暗鬱たる未来を脳裏に見た淡墨は、それでも行動を止めなかった。
歩みを進めて叫ぶ。
「死にたくねぇなら今すぐ動きを止めろ!パートナーを魔石に戻して床に這いつくばれ!!カウント5!」
唐突の声に、しかし盗掘者達のその動きは俊敏だった。
訓練された動きだった。
「迎撃態勢を取れ!!」
「4!」
「A班は俺の元に、B班はそのまま回収続けろ!急げ急げ!!」
「3!」
慌しく、しかし統率の取れたチームで盗掘者達は淡墨に相対する。
「情報通りの“灰色のアーマー種”!モノクロ系だ、恐らく特殊能力持ちだろう!油断するな!」
「2!」
自分の情報が漏れていることになんの反応もせず、淡墨はカウントを続ける。
「B班は準備出来た奴から出発しろ!落とすんじゃねぇぞ!その実は自分の命よりものも重いと思え!A班構えろ!来るぞ!」
「1!」
盗掘者達はそのカウントが、自分達の命のカウントダウンだとも知らずに、愚かにも逃げ出す準備を整えている。
「0!…残念だ」
冷たく、淡墨は言い放つ。
と同時に、しかし襲いかかることもなく、戦闘態勢を取ることもなかった。
手に持った黒いガジェットのボタンを力強く押した。
間違っても押さないように、それは力強く押さないと起動出来ない仕様になっていた。
――キュィーーーン
辺りに、モスキートーンの様な、耳鳴りの様な音が鳴り響き、盗掘者達は淡墨の動きに注意深く見守る。
何事も起きていない事を見て不発か!と喜び勇むが、すぐにそれがぬか喜びだと思い知らされる。
「「「うわあぁぁぁああ!!!」」」
悲鳴が上がり、それは1人、また1人と伝染して行く。
1人1人と、その事実に気付く。
「やりやがった!やりやがった!!」
「くそ!計算外だ!なんでたかが魔石狩り如きが
「ふざけんな!なんてことしやがる!!」
「助けてくれ!!やめてくれ!!」
「悪かった!頼むから戻してくれ!!」
怒りに震える者と、恐れ慄いて震える人間がいた。
「頭を上に手を置いて這いつくばれ」
淡墨はパニックに陥った集団に凄んだ。
ほとんどの人間がすぐに従い、少数派だった怒声をあげていた人間は仲間に急かされて仕方なさそうに跪いた。
それを不思議に思うのはパートナーの魔石生物である。自分を探しているのか首を左右に上下に振っている。
目の前にいるのに。
ここに居ると、声をかけても驚くような反応をすることに、首を傾げる。
「さて、それじゃあパートナーの魔石生物諸君。今君達のパートナーは
パートナーの周りにいる魔石生物がハッとなって淡墨を睨む。
「今襲われたら君達のパートナーは何も指示してくれないし、襲われていることにすら気づかない。いや、声や足音を聞いてより恐怖にかられるだけだ」
淡々と、淡墨言う。
そこに感情はない。
中には淡墨の言った事を理解出来ない子もいたが、理解した子はより一層、声を荒げて淡墨を殺気を込めて睨む。
「もうすぐ警察が来る。素直に投降しろ。さもなければ、俺は助けない」
その言葉に悲鳴と怒号が上がるが、淡墨が腕をスッとあげるだけで黙った。
淡墨の声は大きくない。
しっかり聞こうとしなければ、届かない声だ。
その声の断片も聞き漏らすまいと、盗掘者達は黙る。
「俺はここに来るまで戦闘を行わずに来た。寄ってくる魔物を無視して。いや、挑発するだけして、な」
腕を上げて背後を親指で指す。
刺すように言う。
「来るぞ、もうすぐ」
悲鳴が上がる、今度は怒号は響かなかった。
強制ダウン
それは、ボタン一つでNWの機能を一部停止させ、魔石生物を見えなくさせます。
これをエリア内で押された日には、四方八方が脅威になることは理解出来るでしょう。
盗人達に告ぐ、このガジェットは実在し、そして無断にシンボルエリアに侵入したものにはこれを行使する。
地獄のような恐怖を味わいたくないのであれば、その領域に侵入するな。
どうか諸君らにこの言葉が響くと願う。
このガジェットは誰でも持てるものではなく、人間性、能力、実績を多角的に判断して授与するもの。
使用時も必ず注意勧告してからなので、善良なる方々は安心してください。
当然のように相棒すら見えなくなるので、私たちの声があなたに届くことを祈る。
警察からの注意喚起動画
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