魔石生物 ーMagic Stone Creature- 作:御坂まさき
レイドボスの元へと向かう最中、2人はあらゆる可能性と作戦を考えた。
相手の能力を想像し、自分達の戦力でいかに優位に立って戦闘を維持するか。
いかに勝つかを。
待たせ過ぎれば痺れを切らして襲ってくるかも知れない。
だから足取りは少し緩やかにレイドボスのいる方に向かう。
何故わかったかといえば、こちらの地図アプリにわざわざ自分の位置を示して来ていたからだ。
ネットの回線が繋がっていないのにも関わらずこんな芸当が出来るのは、まさしくレイドボスたる所以か。
一歩一歩少ない時間で陽太と淡墨は激論を交わす。
淡墨は陽太の意見を予想以上に採用してくれ、陽太は遊撃を、淡墨が防御を担当することに決まった。
そうしてレイドボスが視界に入る所まで来た時に、陽太は思う。
今日は何一つ思う通りにいかないな、と。
目線のはるか先にはレイドボスが腕を組んでこちらを見ている。
目は爛々と輝き、舌舐めずりをしている。
それはいい。
予想通りだ。
予定外なのはその隣にエリアキングがいたことだ。
「何故だ?
舌打ち混じりに淡墨が言う。
想定していた全てがご破産になった。
計画が全て台無しであった。
しかしそれでも、陽太は動じない。
想定外なことが起こる事はままある事だと今日思い知らされたからである。
だからこそ陽太は冷静に分析する。
「いえ、それよりもエリアキングの様子がおかしいです」
エリアキングは全身が痙攣しているように震えていて、そして陽太達というよりも隣のレイドボスを威嚇しているようにも見える。
敵意をレイドボスに向けているようにも見える。
「もしかして操られている?」
なんとなく思ったことをそのまま口に出す。
「可能性はある」
そしてそれを淡墨が肯定する。
しかしそれがわかったからと言ったって事態が好転する訳ではない。
淡墨を見てフォローをしようかと思うが、
「やれやれまったく。帰り道の道のりはなかなか険しいね。晩御飯に間に合うと良いんだけど」
淡墨は軽い口調でそう言った。
そしてそう言った淡墨の顔には悲壮感はなく、どころかニヤッと笑って見せる。
その目に虚勢はあれど、光る意思があった。
なればこそ、陽太も合わせよう。
「俺、焼肉食べたいです!」
「それじゃあ極上の店に招待しようか」
目の前の脅威を前に2人は軽口を叩く。
明るい話題で悲壮感を塗りつぶす訳ではなく、明るい未来を本気で信じて。
距離が少しずつ近づいていく。
レイドボスが戦闘態勢を取ったのか、少し前屈みになったのを見て2人は共に足を止めた。
ここから先に踏み出したら戦闘が始まるのを察したからだ。
「行こう!シンラ!」
「にゃ!」
カッと光り輝いてアーマー化する淡墨。
「行くぞ!シロ!クロ!」
「ホゥ!」
「ガル!」
クロに跨り、シロは陽太の腕の上で飛び立つ体制を取る。
「
淡墨はエリアキングの方を目線で見て言う。
「任せてください」
陽太は頷き言葉を返す。
「
陽太はレイドボスの方を見ながら言う。
「承った」
「それじゃあ行きますか、淡墨さん」
ややあって淡墨が言う。
「……僕の苗字は言いにくいだろう?恭介でいい」
照れ臭そうに、はにかんで。
「ははっ!それじゃあ行こう!恭介!」
陽太は拳を出しながら嬉しそうに言う。
「あぁ、絶対に帰ろう!陽太!」
2人は力強く拳をぶつける。
そして2人は走り出した。
最後の戦いが始まった。
♦︎♢♦︎♢
「“炎弾”!」
エリアキングに真っ直ぐ向かいながら陽太はクロに指示をする。
牙を剥き出しにしたクロの口から炎が溢れ、口を開けると火球が飛び出した。
クロの疾走よりも早くエリアキングに着弾した火球は、しかしたいしたダメージには至らない。
少々焦げ付いているが痛そうにすらしていない。
「シロ!」
「ホウ!」
並走して飛んでいるシロに声をかける。
シロは陽太の命令を察してすぐに行動に移る。
その場でホバリングし羽を青く輝かせる。
バレーボールサイズの氷が精々されると、それはその場で回転を始める。
キィーンと甲高い音すら聞こえる回転速度は、早すぎるせいか、氷は形を保てず自壊していく。
しかしその前に
「“
それは射出される。
音を置き去りにする速度で放たれた弾丸は、エリアキングの身体をやすやすと貫いた。
しかしそれすらも大したダメージにすらなっていないようで、エリアキングは茎を振り上げて反撃してくる。
せめて痛がるくらいの素ぶりはして欲しかったと陽太はため息混じりに思う。
陽太たちが放てる攻撃の中で一番貫通力の高い攻撃だったからだ。
そしてなるほどと、陽太は嘆息する。
流石はエリアキング、まだ陽太が相手をしていいレベルではないと改めて痛感させられる。
「ガウ!」
クロが反転して跳んで戻る。
その後をパシン、と茎が殴りつけた。
陽太は思わず振り返る。
その攻撃は、あまりに
つい先刻に放ったその茎の鞭はライフルを放ったような怖気を走らせる音をさせていたが、今の攻撃は弱く、緩い。
操られている、自分の発した言葉を思い返す。
「クロ!アイツの周りを走れ!シロは空から観察してくれ!」
「ガル!」
「ホウ!」
陽太は一旦攻撃を止め観察に入る。
その間エリアキングが攻撃をしてくるが、避けるのは容易だし脅威にも思わない。
なんなら陽太が盾術で対応出来る範囲内だ。
そう思わせる程度にはその攻撃は手緩かった。
360度エリアキングをつぶさに観察し、そこに上空からシロが戻って来る。
「どうだシロ?なんか変な所は?」
シロは首を横に振って否定する。
特に気になった点はないらしい。陽太も何か発見があった訳ではないため、この操られているという線は早くも暗礁に乗った。
例えば何かに寄生されていたり、糸で操られていたりということはない。
そう言えば恭介は
それがどういう意味なのかわからないが、恐らくかなりのダメージを与えたと恭介は判断していた。
そのダメージが残っているのか?
陽太は攻撃を避けながら、エリアキングの攻略の糸口を探る。
『ゲキョ』
エリアキングが小さく声を発した。
すわ何らかの攻撃が来るかと身構えるが、エリアキングは繰り返して言う。
『ゲキョオ』
その声は震えていた。
怒りなのか悔しさなのか、それが何なのかは陽太にはわからない。
『ゲキョ……』
しかし陽太には何故かそれが
一瞬の逡巡の後、陽太は声を張り上げた。
「ついてこいエリアキング!!クロ走れ!」
操られている、それを前提で戦うことに陽太は決めた。
ちらっと恭介の方を見る。
戦況は恭介に分があるように見える。
こちらの巻き添えを食わすわけにはいかない。
陽太は恭介から距離をとるため離れることにした。
♦︎♢♦︎♢
何度かの応酬の後、恭介はレイドボスと離れて対峙する。
動きを見せない恭介に倣ったのか、レイドボスも同じく動きを止めた。
恭介は横目で陽太達が離れていくのを見ていた。
出来れば自分の見える範囲にいて欲しかったが、陽太がそう判断したのであれば仕方がない。
『少し離れます』
とボイスチャットが恭介に届き、陽太の判断を尊重した。
それに恭介が対峙している相手は気にしながら戦える存在ではない。
レイドボスにしてはかなり小さいがそれを補って余りある俊敏さと運動量がある。
体中の覆われた毛は鋼のように固く、シンラの爪は弾かれた。
知能も高い為フェイントや小狡い手も平気で使って来る厄介な相手だ。
鋭い爪は太い木すらも容易に貫いた。
さらに、これが一番厄介なのだが、能力が不明だということ。
慎重派の恭介としては時間をかけ、情報を得てから戦いたい相手だった。
レイドボスを睨む。
これから嬲り殺すのを楽しみにしているかのように醜悪に笑っている。
その顔はいつかのガーゴイルと重なる。あの頃の無力な自分を否が応でも思い出させる。
しかし。
後悔はもう充分した。
もう自分は立ち上がった。
それに、時間をかけている場合ではない。
相手は紛れもない化け物。
体力勝負ならば人間の恭介は勝ちようがない。
短期決戦。
これが陽太と恭介が出した答えだった。
唯一の勝機と言っても良い。
何より恭介はレイドボスと戦うのは初めてだ。逆に言えばレイドボスも恭介と戦うのは初めてだ。
互いが互いのことを知らない。
メリットもデメリットもイーブンだ。
時間稼ぎのつもりはないが、恭介は興味本位で聞く。
「そんなに人をいたぶるのが楽しいか?化け物」
「キキキキ!」
その通りだと言いたげに笑う。
予想通りの回答に恭介は苛立ち気に舌打ちをする。
「ずいぶん高い所からの物言いだな」
あの
真似をするのが癖になっているのだろう。
恭介は思わず口を閉ざす。
しかし、と考えを改める。
今
彼の勇猛さを。
彼の強さを。
この逆境を跳ね除けるために。
必ず帰るために。
恭介は鎧の内側にある髑髏のネックレスの場所に手を当てて握るような動作をする。
そして口の端を歪めて言う。
「頭が高ぇなぁ、おい。仕方ない、特別だぜ?」
拳を強く握った。
「見せてやるよ、シンラの特殊能力」
握った拳をスッと胸の前に上げる。
「知ってるか?化け物」
相変わらず嫌な笑みを崩さないレイドボスに、恭介はそれ以上に不敵に笑って見せて言う。
「切り札ってのは隠しておくもんなんだぜ?」
両の拳をガツンと突きあせた。
「“
♦︎♢♦︎♢
少し開けた場所に陽太達は来ていた。
ビルは木に呑まれ、アスファルトは砕け草木がそれを覆い隠す。
陽太は一つ大きく息を吐く。
そして後ろを振り向く。
後ろには緩慢な動作でついて来るエリアキングがいた。
疑念が確信に変わる。
少し前までギリギリの綱渡を強いられていた相手とは思えない。
あまりにも違いすぎる。
ダメージでフラフラしているという感じでもない。
おそらくレイドボスに何かをされていると見て間違いがない。その手段は見当つかないが、レイドボスの何かしらの特殊能力だろうか。
レイドボスにしては小さい身体は弱いというわけではなく、何かしらの能力に特化していると考えるべきだ。
おそらく恭介も気付いているだろうが、厄介な相手だ。
火属性や雷属性など一目でわかりやすい能力ではない。未知の敵など最悪の相手だが、やるしかない。
一刻も早く恭介の援軍に駆け付けなければ行けないが
「先ずはお前をどうかしないとな?」
陽太はエリアキングに喋りかける。
「ゲキョ」
先程追われていた時とは違ってまるで覇気のない声は、陽太から戦意を削いでいく。
「抗えないのか?無理やり動かされてるのか?」
襲い来る茎の鞭を軽々避けながら陽太は問いただす。
「げきょげきょ」
陽太の質問を肯定するようにエリアキングは応える。
内心で舌打ちしながら、陽太は考える。
この状況の打開策を。
相手はエリアキング。本来ならば陽太1人では戦える相手ですらない。
しかし現状は恭介の一撃で弱っていて、さらにレイドボスに何らかの方法で操られている。
はっきり言えば状況は深刻なほどに悪い。
エリアキングを助ける余裕などはない。
自分で精一杯だ。
それでもなお助けようと思うのは、優しさではなく打算だ。
エリアキングを助けられれば恩を感じ、レイドボスと共闘してくれるかもしれない。
共闘とは言わずとも、少なくとも陽太達とは一時的に敵対しなくなるかもしれない。
さらに言えば、レイドボスは何らかの攻撃をエリアキングに仕掛けているから、レイドボスを共通の敵と認識してくれるだろう。
ならばそれを上手く利用出来れば勝利に繋がるかもしれない。
クロの背で揺られながら陽太は物思いに耽る。
そして陽太は決断する。
「クロ、距離を取れ」
「ガル」
背後に跳躍し、離れたところから陽太は言う。
「悪いな、エリアキング」
陽太は見上げて声をかける。
「俺はお前を助けられない」
「げきょ」
真っ直ぐ言った陽太に対し、エリアキングもそうか、とそれを受け入れる。
元々助けを求めこと自体おかしかったのだから。
「あぁ、だから」
陽太はあろうことかクロから飛び降りる。
「ちょっと動けなくさせるから、痛いかも知れないけど我慢しろよ」
突然飛び降りた陽太にクロ顔を上げる。
「クロ、“白炎準備”」
「ガル!?」
正気か!?とクロは低い声で唸る。
現状クロの放てる最高威力の
炎の色は青い色の炎が1番熱いとされるが、まだ能力に目覚めたばかりのクロは白い色の炎が限界だった。
そしてその白い炎に至るのにも時間がかかるし、何よりシロの助けが必要だった。
クロの身体は高熱を起こすことにまだ慣れてきっていない。
シロと同じくクロの火炎の能力も発展途上だ。
そのためシロが冷たい氷の混じった風で身体を冷やしながらようやくやっと、白い炎に辿り着ける。
現状2体揃って初めて出せる技である。
クロが正気か!?というのはここにある。
1人で戦うつもりなのかと、クロは驚きそして怒っている。
そんなクロに対し頭を撫でながら冷静に言う。
「今の俺達の実力では相手の動きを止める事すらできない。それが事実だ。だから最高火力を叩き込まなければ勝機がない、わかるな?」
「ガルル!!」
それでも!とクロは唸る。
「時間は俺が稼ぐ、だからお前達は自分に集中しろ」
「ガル!ガルルル!」
首を振り、なおもダメだとクロは続けるが、そこにシロか割って入る。
「ホホウ!!」
じゃあどうするのか言ってみろ!とクロの目の前で羽ばたき、睨んだ。
「ガル…」
耳をシュンと落とし、特に策の無いクロは項垂れるしかなかった。
「ほうほう」
俺がフォローするから安心しろと言い、シロはクロの頭に乗ってからぴょんぴょんと背中に移動していく。
「ほほう」
くるりと振り返り、陽太に言う。
好きにやれ、と自信満々に。
「まったく、頼もしい相棒だ。任せるよ、クロも頼んだよ」
悪態をつくように言うがその顔は嬉しそうだった。
「さて」
クロの頭をポンポンと叩き、陽太は目の前の5メートルを超える化け物を見据える。
距離を少しずつ詰めてきていて、もうすぐあの茎の攻撃の射程範囲に入ることは明白だ。
本音を言えば脚がすくむ。
恐ろしくないなどと言えるほど陽太の心臓は鋼ではない。
しかしそんな弱音は大きく息を吐いて吹き飛ばす。
そして落ち着いた動作で、陽太は背中に背負った盾を手に取り構える。
「行ってくる」
背中を任せた相棒たちに背を向けて、真正面の巨大な王に向かって走り出した。
兵器
ポストアポカリプスの時、世界は魔石生物と戦うために武器を取った。
多くの国の市街地で軍が動き、ミサイルや爆弾を使用せざるを得ない状況に追い込まれた。
最新鋭の兵器の投入で、これでなんとかなると思っていた人類は、その期待を裏切られる。
比較的小さく、民間人でも対処できた魔石生物には効いた。だがほとんどの魔物には人類の技術の粋を集約しても効かなかった。
銃火器の効かない生物、スピードが早すぎて人やAIでは狙いが定まらない生物、薬や生物兵器はとことん効果がなかった。ただただ、徒に死体が積み重なっていった。
その生態を研究しようにも、研究の仕方がわからなかった。
未知の生物に対して、人類は無力だった。
しかし、そこを救ってくれたのも魔石生物でもある。
銃火器を使用して戦う軍人がいる最中、パートナーと共に前線で戦う民間人。
パートナーは命がけで主人を護り、命がけで敵対魔石生物と戦ってくれた。
人類の技術の敗北であり、人類はかけがえのないパートナーを得た日でもある。
参考文献
最新兵器が使用されない三つの理由