魔石生物 ーMagic Stone Creature-   作:御坂まさき

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帰還

――何故だ?

 

 身体は凍りついていて、さらに崩れていく。

 

 死を目の前にしてレイドボスは唖然としていた。

 

 死ぬはずだった命が再生し、それどころか微笑みを溢している。

 

 今日の日為にどれだけ準備を重ねてきたと思っているのか。

 

 完全に途中まで自分の筋書き通りだったはずなのに、何故、何故だ?

 

 消えていく命の代わりに、疑問は尽きぬどころか湧き水のようにこんこんと噴き出す。

 

 せめて道連れにして、最後の収集にしようと決めたのにそれすらもう奪われた。

 

 自分のコレクションが奪われた。

 

 この期に及んで、レイドボスは癇癪を起こす。

 

 予定通り進まないと駄々を捏ねる子供のように。

 

――こんなのは認めない認めない!!

 

 そこに。

 

 突然身体中が貫かれた。

 

 もう痛みすら感じぬ身体に、穴がいくつも空いていた。

 

 その下手人は目の前に飛んでいる。

 

「ほう、ほほうほう」

 

 冷たく、凍えるようにその梟は言う。

 

『この()()にお前は邪魔だ。疾く消えろ』と。

 

 シロは珍しく苛ついていた。

 

 レイドボスの存在にではなく、己自身に。

 

 陽太が必死で考えを巡らせている中、シロも隣で思考を巡らせていた。

 

 答えに辿り着いたのは陽太とほぼ同時。

 

 それならば先んじて自分が淡墨の元に飛んでいれば済んだ話だった。

 

 無駄な時間を貴重な時間の中で消費したことを、シロは悔やんでいた。

 

 もう二度と同じ過ちはしないと心に定め、シロは八つ当たりのように更にもう一発眉間に氷弾を叩き込んだ。

 

 レイドボスはもう何も考えることが出来ずに身体は瞬く間に塵となった。

 

 己の心にもケリをつけたシロは、()()前に要らぬ存在が片付いたことにホッと一息つき、青空からの来訪者を見やる。

 

「恭ちゃーーん!!」

 

 華が切迫詰まった声で叫んでいる。

 

 華と霧島がドラゴンのレグの背中に乗ってやって来た。

 

 華は腕にパートナーのウサギのアリスを抱いている。

 

「ほふう」

 シロは笑う。

 

――さぁ。ハッピーエンドの閉幕…いや幕開けだ。

 

 彼らの止まった物語は今からまた、始まるのだから。

 

 そして、未だ本当に終わったよな?終わったよね?と不安で辺りを見回しビクビクとしている陽太(相棒)の元に飛び立つ。

 

 今日はしっかりと長い時間をかけて羽の手入れをさせてやろうと企み、シロは羽を広げて飛び立った。

 

 シロから抜けた白い羽が空を舞い地面に落ちる。

 

 もうそこに、悪意の残滓は残っていなかった。

 

♦︎♢♦︎♢

 

「恭ちゃん!!」

 

 空を飛んで真っ直ぐ自分の元へと向かって来る4人の姿を見て、恭介は立ち上がる。

 

 足は震えている。

 

 身体は疲労で限界だ。

 

 酸欠の影響で頭痛が酷く、顔が歪む。

 

 正直立ち上がるのすら辛い。

 

 出来れば寝ていたい。

 

――それでも、今は立ち上がる時だ。

 

 洸のように格好を付けるのが下手で苦手だった恭介だが、それでもわかる。

 

 人生に於いて、今が一番格好つけなきゃいけないタイミングだと。

 

 辛さを微塵も見せないように立ち上がり、柔らかく微笑みを作り到着の時を待つ。

 

「恭ちゃん!」

「恭介くん!」

「グルル!」

「――!」

 

 泣き腫らした華の顔。

 

 先生は顔色青く、具合が悪そうだ。

 

 そんな中駆けつけてくれたんだろう。

 

 レグから飛び降りて駆け寄ってこようとする4人に

 

「華!先生!レグ!アリス!」

 

 大きい声を出してそれを制する。

 

 困惑する4人に、恭介は笑顔を見せる。

 

 気負いなく。

 

 晴々とした笑顔で。

 

「ただいま!!」

 

 それを聞いた霧島は全てを察したのか、顔をくしゃっとしわくちゃにする。

 なんとか絞り出した嗄れた声で

 

「あぁ、おかえり」

 

 と言った。

 

 そして華を見る。

 

 一瞬両手で顔を覆い、しかし顔を上げてくれた。

 

 その顔は、目の淵から涙がつたいとめどなく溢れている。

 

 それでも、華は心底嬉しそうに

 

「バカッ!!おかえり!!」

 

 笑って恭介の胸の元に飛び込んだ。

 

 

 

 約2年越しに、淡墨恭介は帰還を果たした。

 

 

 

 長い遠征はようやく終わりを迎えた。

 

♦︎♢♦︎♢

 

 その光景を見て、陽太は微笑む。

 

 夫婦の隣でアリスはシンラの身体中を弄り怪我がないかと探している。

 

 やれやれと首を振りながらされるがままにしているシンラはなかなかに珍しい。

 

 周りを見ても特に何か起きる様子もなく、クロも子供姿となり陽太の膝の上で『褒めて撫でて!!』とわんわん鳴いている。

 

 シロも後始末を終え、こちらに真っ直ぐ飛んで来ている。

 

 ようやく肩から力が抜ける。

 

「あー、終わった」

 

 闇の晴れた青い空から熱い日差しが降り注ぎ、夫婦は愛情を確かめ合うかのように抱き合っている。

 

 陽太は綻び、

 

「これこそハッピーエンドやつか、な゛!?」

 

 シロが鳩尾に突撃して来てもんどりを打つ。

 

「〜〜!?!?」

 

 完全に油断していた所への奇襲は、今日一の痛みを陽太に味合わせる。

 

「ほ?」

「お、おまえ……」

 

 そんな痛かった?みたいな顔で首を傾げるので陽太は怒りに打ち震える。

 

 本当にコイツは頭良いのか、馬鹿なのかはっきりして欲しい。

 

 そしてそこに

 

「陽太くん!!」

 

 レグに乗った霧島が陽太の隣に降り立つ。

 

「大丈夫かい!?怪我はないかい!?あぁ、血が出てるじゃないか!アリスくん!」

 

 霧島が珍しく取り乱していた。

 

 呼ばれたアリスは霧島の腕からピョンと陽太の胸の中に収まり、癒やしの力を発動させる。

 

 全身が暖かい湯に包まれているような感覚。

 

 切り傷は瞬く間に瘡蓋(かさぶた)となり、疲労が洗い流されていく。

 

 微睡のような、暖かい春風に抱かれているようなひと時の間に陽太の傷は殆ど塞がっていた。

 

「いつもありがとう、アリス」

 

 撫でると耳をぴっぴっと動かし、ウィンクして『良いってことよ』と言っている。

 

 可愛らしい見た目に反して硬派なアリスである。

 

 あぁ、良かった。

 

 と本当に安心したように脱力した霧島に、心配かけてしまったなという申し訳なさが陽太の心を重くする。

 

 しかし、すぐに切り替える。

 

 落ち込むのも、反省も少し先送りだ。

 

 今はこの勝利を味わおう。

 

「先生!」

 

 陽太は努めて明るく言う。

 

 両手を広げ、笑って目の前の光景を霧島に見せつける。

 

()()は合格ですか?」

 

 霧島は改めて見やる。

 

 久しぶりに見た心から笑った華の笑顔に、そして肩の荷が降りたかのように優しく笑っている恭介を。

 

 霧島は思わず唇を噛み締める。

 

 嬉しくて、嬉しくて、涙が溢れそうで。

 

 しかし、生徒の前だと自分に言い聞かせるが、我慢できずに霧島は一筋だけ涙を流す。

 

「長い教師人生だけど、100点以上をつけるのは初めてだよ」

 

 眼鏡を上に上げて涙を拭う。

 泣き顔は似合わない。

 

 この場に相応しいのは笑顔だと思うから。

 

「120点だ。陽太くん。改めて言わせて欲しい」

 

 霧島も心から笑って

 

「君がいてくれて本当に良かった」

「ありがとうございます」

 

 流石に照れた陽太は、誤魔化すようにシロを無茶苦茶に撫でた。

 

 抗議の声が聞こえたが、無視して撫でる。

 

 2体のモフモフを堪能していると、恭介達から離れてこちらに向かってくる姿があった。

 

 テクテクといつも通りの足取りでシンラは陽太の前にきて

 

「にゃお」

「シンラ、お疲れ様――っと!」

 

 ぴょんと跳んで陽太の腕の中にすっぽり入る。

 

 シロが慌てて飛び陽太の頭に止まる。

 

 突然のことに目をぱちくりさせている陽太に

 

「にゃおう」

 と『何してる、撫でろ』と言う。

 

 右手のクロは不服そうにシンラを睨んで、軽く威嚇している。

 

 そんなこと知らぬとばかりに再度催促されて、急かされるように陽太は左手で撫でる。

 

 アーマー種だからもっと硬い毛並みを想像していたが、絹に触れたかのような触り心地だった。

 

 柔らかく、そしてスベスベだ。

 

「ゴロゴロ」

 

 機嫌良さげに喉を鳴らしたシンラに、陽太は調子に乗って耳や顎を撫で回す。

 

 目をうっとりと細めてにゃんにゃんとシンラは鳴く。

 

『なかなか良いぞ』と言っているかのようだ。

 

 約3分程その幸せの時間を堪能すると、シンラはペロリと陽太の手を舐めて腕から飛び出る。

 

「にゃおん、にゃにゃ」

『俺からの褒美だ。堪能したか?』

 

 そしてまたテクテクと陽太の元を去って行った。

 

 呆気に取られポカンと見た後、

 

「くっそ、アーマー種尊すぎんだろ…!!」

 

 陽太はあまりの可愛さに悶絶した。

 

「ぐるるるる!ぐるるるるる!!」

 

 そんな陽太に浮気するなと言わんばかりにクロが身体中を押し付けて来る。

 

 シンラの匂いを自分で塗り替えるかのように。

 

「あばばばば」

 

 小さい身体では我慢できなかったのか、身体を大きくしてクロは陽太にのしかかり

 

「いや、殺す気か!いい加減にしろお前ら!!」

「ほほ!?」

「グルる!!」

 

 陽太は怒る。

 

 いつもの日常がそこにはあった。

 

♦︎♢♦︎♢

 

「ははは」

「すごいね、陽太くんたち」

 

 その光景を見ながら、恭介達は笑みをこぼす。

 

 あんな死闘の後に、彼らはもう日常を取り戻している。

 

――自分とは大違いだ。

 

 恭介は心の中で独りごちる。

 

 シンラにも気に入られたようだし、そして何より

 

「あぁ。もう、()()()だよ。陽太は」

 

 師匠などと呼んではくれるが、彼は勝手に成長しただけで自分は大したことはしていない。

 

 まさかこんな早く()()()()()()()なんて思いもしなかった。

 

 恭介は嬉しそうに笑う。

 

「あら、陽太なんて随分馴れ馴れしくなったのね」

 

 華が茶化すように言う。

 

「うん。まぁね」

「何があったのか話してよ、恭ちゃん。…今までずっと聞けなかったから」

「華…。うん、僕も聞いて欲しい。今まで言えなかったことも含め、色んなこと」

 

 ぎゅっと華を抱きしめて言う。

 

「今まで本当にごめん。そしてありがとう」

 

 恭介は華の頬に手で触れて柔らかく笑う。

 

「僕はもう大丈夫だよ」

 

『かー本当、手の掛かる弟だぜ』

 

 雷刃がバチっと弾けると共にそんな声が聞こえた気がした。

 

 恭介は少し寂しそうに笑い、上を向いた。

 

 華はそれを見て優しくぽんぽんと背中を叩く。

 

 泣いている子供をあやすように。

 

♦︎♢♦︎♢

 

 陽太達は騒がしく日常を取り戻し、そして夫婦は愛を確かめ合う。

 

 霧島はそれを見て安堵していた。

 

 この日を待ち望んでいた。

 

 恭介くんならきっと立ち直れる。

 そう信じてきた。

 

 陽太くんなら立ち上がらせてくれる。

 そう信じていた。

 

 その信頼に2人は答えてくれた。

 

 なんと嬉しいことか。

 

 喜悦の情が湧き上がり、笑顔が溢れる。

 

 ()()()()()

 

 額に青筋が走る。

 

 こんな状況、喜べるわけがない。

 

 2人が生き残ったのは、彼らの能力の高さもあるが、運の要素も強い。

 

 どちらか死んでいてもおかしくなかった。

 

 2人とも死んでいても不思議じゃない状況だった。

 

 今、彼らが笑い合えているのは奇跡だ。

 

 そう確信出来るほどに、綱渡りの戦いを強いられていた。

 

 人の悪意によって。

 

 闇の牢獄が彼らを包んだ時点で霧島は精力的に動き、そして警察関係の黒い話を耳にしていた。

 

 人為的な悪意によって彼らが危機に瀕していることを。

 

 空から自分が呼んだ救助隊が着いたのを目視で確認すると、霧島はその美しい光景から背を向けて、歩き出す。

 

 子供達は頑張った。

 

 文字通り命懸けで。

 

 多大なる成果を上げてハッピーエンドを迎えた。

 

 ならば。

 

 後は大人の仕事だ。

 後始末は自分がつける。

 

 表情がスッと消えて、目が鋭利に細まる。

 

――僕の生徒達を陥れようとした者たちに、報復を。

 

 “ナナシ”の英雄が重い腰を上げた。

 

 触れてはいけない、逆鱗に触れた時どうなってしまうのか。

 

 

 悪人達はそれをもうすぐ知ることになる。

 

 

 

 

 そんな三者三様を見せる中、陽太達が戯れ合っている近くで、()()はパッと()()()




装飾品

魔石は、美しい。
その輝きはダイヤモンドに引けを取りません。
だから魔石は、装飾品としての価値も非常に高い。
色付ならばまるで、エメラルドやルビーの様に鮮やかな色彩を映す。
食糧としての魔石も、食べさせるのは勿体無い!などと考える人もいるくらいだ。
しかし何より、自分のパートナーの魔石の美しさは格別でしょう。
思い入れもあれば、愛着もある。
その格別をより輝かせるには?
ペンダント?
ピアス?
指輪?
それは貴方の選択次第。
無限の選択肢から、貴方に合う最高の装飾品を。

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