魔石生物 ーMagic Stone Creature-   作:御坂まさき

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エピローグ

 季節は流れ春。

 

 桜が日本中を彩る頃、陽太は無事に2年生へ進級していた。

 

 新入生が入学し、初々しく学校を歩く姿は去年の自分を想起させる。

 

 そんなキャンパスを歩いていると、後ろから声をかけられた。

 

「おはよう!陽太くん」

「おっすー」

「よう、陽太。今日新歓コンパやるけど来る?陽太なら今から入部でも構わないぜ」

 

 なんだかんだコミュ力が高く目立っていた陽太。

 

 面倒見の良さも相まって学年で知らぬ者がいないほどの有名人となり、友人や顔見知りが増えて当初の予定通りとは行かずとも楽しい青春を過ごしていた。

 

「おはよー。悪い、今日は予定があるんだ。また今度誘ってくれ」

「だよなぁ、既に魔石狩りの資格持ちは忙しいよなぁ。陽太が来てくれれば一年生の女の子いっぱい釣れると思ったんだけどなぁ」

「俺を釣り餌にすんな。しっかり実力で釣り上げてこい」

「へーへー。今日もゼミか?忙しいなぁ霧島ゼミは」

「んー、今日はゼミって言うか、先生の課題だね」

「うはぁ。霧島ゼミ忙しそうだけど、充実してそうだよな。あの時俺もビビってさえいなければ…!」

「あんたにゃ無理よどうせ。そんなことより陽太くん、合コン来る気ない?私幹事頼まれちゃってさ、陽太くん来るなら行きたいっていう子結構いるんだよね」

「え、行きたい行きたい。いつ?どこでやるの?」

「食いつきエグ」

「アイツまた自分が釣り餌にされてるのに気付いてないぞ」

「もちろん、陽太くんに合わせるよ」

「ちょっと予定確認する!……くっ――!ダメだ今月は空いてる日がない」

「まじかー。ホント忙しいんだね、陽太くん」

「霧島ゼミ入んなくて正解か?」

「ナイスビビり!あの時の俺!」

「ごめんねー。予定空きそうなら連絡するわ」

 

 掌をひらひらさせて、陽太はトボトボと去っていく。

 

「またフラれちゃった」

「どんまいどんまい。その不屈の精神を俺は買うぜ」

「しっかし大変そうだよな、霧島ゼミ。嵐達も最近大変そうだし」

「霧島先生の課題ってなんだろう?」

「優しそうに見えて厳しそうだもんね」

「なー。そういや“らんこ”ちゃんの所いつ行くか決めた?」

「らんこ…?あぁ“龍の寝床の卵子”ちゃんね。私はまだ先になりそう。この前の課題終わってないし」

「あー、この前のアポカリプス以降の自殺率減少の推移の奴?そんなもん絶対なる味方が出来たからに決まってんじゃんな?」

「それは若い世代の話でしょ?私達より上の世代は――」

 

 

 そう言って若者達は課題や遊びの話をしながら喧騒の中に紛れていく。

 

 陽太とは逆の方に歩き出した。

 

「あーあー、また行けなかった」

 

 陽太はしょんぼりとした顔を隠さず、手にはシロを抱いて歩いていた。

 

「ほーほう」

「グルルルル」

 

 次の機会があるさ、とシロとクロがフォローする。

 

「ま、そうだな」

 

 陽太も慣れたもので仕方がないと割り切っていた。

 

 予想以上に霧島ゼミは忙しい。

 

 霧島の信念に共感し本気で協力したいと思った陽太は、本来2年生からのゼミを、霧島に拝み倒し先に受けさせてもらっている。

 

 そうして感じたことは学生のレベルが高いことだ。

 

 先輩達は学習意欲も高く、手を抜くこともしないストイックな人ばかりだった。

 

 陽太は自覚せず高くなった鼻がポッキリと折れた気がした。

 

 それに感化された陽太は、さらに訓練や勉強に励むことになり、予定がどんどん埋まっていって遊ぶ暇すらままならない状態だった。

 

 でも、陽太はそんな状態を悪く思っていなかった。

 

 日に日に能力を高めていく相棒達。

 

 まだ知らぬ新しい知識を知ることは陽太にとって楽しいことだった。

 

 休みも遊びもないわけではなく、しっかりと学生生活を謳歌していた。

 

 唯一足りていないのは彼女くらいである。

 

 それが一番心穏やかにいられない部分であるので、出会いの機会は逃したくないというのが心からの本音だ。

 

「ほほうほほーう?」

 

 それに出会いは今からあるだろ?とシロは言う。

 

「まぁ、ね」

 

 それは霧島からの課題でもあった。

 

♦︎♢♦︎♢

 

 数日前。

 

「陽太くん。ちょっといいかい?お願いがあるんだけど」

「はい、俺でよければ言ってください」

 

 霧島からのお願いを二つ返事で受けた陽太。

 

「話が早くて助かるよ。お願いというのは教育についてなんだ」

「もしかして俺に誰かを教えろってことですか?ちょっと荷が重いと思いますが」

「いや、君が適任だ。人に教えるという能力を陽太くんは持っている。卑下することはないよ」

 

 断言するように言われ、陽太は少し照れ臭くなる。

 

「そして何より、君が教育をしなければいけないと思っている」

 

 首を傾げる陽太に霧島は続ける。

 

「今年の特待生の子だ。この子の教育を君に頼みたい」

「いや、本当に荷が重いんですが」

「去年の特待生の陽太くんに、今年の特待生の子の教育をしてもらいたいんだ。意味はわかるね?」

「そりゃわかりますよ。恭介と同じ教育をしてくれってことですよね?確かに教えられた経験がありますが、反対側に立つのには俺の実力はまだ足りていないと思います」

「本当に自己評価が低いね。君が去年したことを改めて思い出して欲しいんだが…。まぁ、ならば言い方を変えよう。その子は強いがとても独りにはしておけない危さがある」

「当時の恭介と似たタイプということですか?」

「それに近いものを感じる。そして僕はこの子と陽太くんがチームを組んで欲しいと思っている」

「それはありがたい提案ですけど……先生なんか嫌な予感がしてきましたよ?」

 

 霧島ふふふと笑う。

 

「いい加減僕との付き合いも長くなって来たねぇ陽太くん。この子は強く、そして君と同じく初期ガチャ2体持ちだ」

「その話を聞く限り心強いですけど、悪い予感が強くなりました」

「とても頼もしい子だけど、少々“問題児”でね」

 

 陽太はジト目で霧島を睨む。

 

「また俺に“問題児”と組めと?…一応聞いておきますけど、恭介と比べてどちらが問題児ですか?」

「恭介くんは平時は普通だったからね。問題だったのは潜るときだけだった。この子は…えー、うーんと、言葉を選ばずに言うなら……めちゃくちゃ扱いにくい子だね。僕ならお手上げだ。というかだからこそ君に投げる」

「そんな責任の放棄がありますか!?辞退させて頂きます!」

「ふーん、良いのかい?陽太くん」

「申し訳ありませんが、俺にもチームの人間を選ぶ権利はあると思いますので」

「現状()体持ちが今の学生の子と組むのはすごく難しいよ?というか組もうと言ってくる子がいたなら楽して稼ごうとする輩だから気をつけなさい」

「うぐ」

 

 陽太は急所を刺される。

 

 未だ陽太がチームを組めていないのはそれが大きい。

 

 ()()にチームを組むと言うのが単純に難しいのだ。

 

「それに恭介くんも今月からは本格的に助教授として忙しくなるから、今までのように一緒に潜れる人は今後居なくなるよ?」

「ぐふ」

「それに――」

「そんなに人の痛いところつかないでください!人をいじめて楽しいですか!?」

「まぁまぁ落ち着きなさい陽太くん。これは君にとっても朗報なんだから」

 

 もったいつけて、ニヤッと笑って

 

「今年の特待生は女の子で、そしてとびっきりの美人だよ」

「やります」

 

 改めて陽太は二つ返事でこの話を受けたのだった。

 

♦︎♢♦︎♢

 

 というやりとりがあり、陽太は初めて今年の特待生と顔を合わすことになった。

 

 まだ見ぬ美女との出会い、そして新しいチームメイトの出会いに心浮かれつつも、霧島に恭介よりも問題児と言わしめているのが恐怖でしかない。

 

 足取りは軽いようで重く、楽しみでありながら不安というのが入り混じり、陽太は最近では慣れて来たシンボルエリアに潜るよりも緊張していた。

 

「ウォン」

 

 目的地に着くや否や、クロがいたぞと言う。

 

 緊張しつつ目線を向けると、果たしてそこには霧島の宣言通りの美少女がいた。

 

 艶やかな長い黒髪を軽くサイドテールで流し、結ってある髪の中心には(かんざし)が刺さっている。

 

 その簪には宝石のように、金色と無色の魔石が2つ揺れていた。

 

 切れ長の目に、くっきりとした目鼻はまるで絵に描いたかのように整っている。

 

 真っ白な肌は新雪のように透き通っていて、きめ細かな肌はその質感を容易に想像させた。

 

 身長はさほど大きくはないがスッとした細身で、顔も未だ幼さ残る顔つきではある。

 

 が、ワインレッドのトップスに、膝下までの黒いパンツ姿は大人の女性を演出していた。

 

 陽太は知らず知らずに見惚れていた。

 

 立ち尽くすほど見惚れたのはおそらく生まれて初めての体験だった。

 

 彼女の美しさに。

 

 そして同時に。

 

 彼女のとびっきりの危さに。

 

 多くの男性が彼女の容姿に釣られて声をかけようとして、そして逃げていく。

 

 中には猛者もいて彼女に話しかけるも、まるで岩にでも話しかけているのかというくらい反応がなく、トボトボとその場を去っていった。

 

 待ち合わせに適した場所にも関わらず、彼女の周りは自然と空間が出来ていた。

 

 その理由は“目”だ。

 

 その目はあまりにも伽藍堂(がらんどう)だった。

 

 美しい相貌の瞳は何も映しておらず、何も映す気がない。

 

 誰も彼も信用しておらず、信用する気もない。

 

 彼女の前で人間は人間で在らず、彼女の中には自分自身しかいない。

 

 そんな目をしていた。

 

 その目は光を失っているかのように真っ暗な闇しか映っていない。

 

 その目は世界に何の期待もしていなかった。

 

 陽太は強がりで笑おうとするが、頬が引き攣り上手く笑えず思わず手を額に当てた。

 

 

 なるほど、どうやら霧島は想像以上の無理難題を陽太に課したらしい。

 

 

 

 

 立志編 完

 

 

 

――次章――

 

 

 

 

 亡失の瞳編

 

 

 

 続く

 




白碧木菟


白木菟の青い魔石の食わず嫌いが進化した姿。
梟タイプの魔石生物の割にかなり小さめなのは、その進化を能力に特化させた進化であると考えられる。
水に氷、そして水蒸気も操る能力の高さは、青系の魔石生物のトップに君臨出来る能力だ。
また、それを操りきる知能の高さを有しており、命令がなくても自分で思考、判断、行動を起こすことが出来る非常に稀な魔石生物だ。
しかしその知能の高さが高じてか、たまに意味不明、もしくは悪事を働くことがあるのが玉に瑕。
いやこの子実はアホなのでは?

参考文献
淡墨恭介の手記
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