魔石生物 ーMagic Stone Creature- 作:御坂まさき
「そもそもの話、なぜアーマー種持ちだけが日本では唯一ソロで潜ることを認められているかという話だけど、単純に攻防一体でバランスの取れた種族だからだ」
「あらゆる自然現象、そして環境に対応出来るから、ですよね」
「その通り。纏っているのは生物だ。パートナーの能力にもよるけれど、勝手に環境に応じて自分で変化させる。例えば熱い場所では空気穴をたくさん作ったり、攻撃力の高い敵と戦っている場合は装甲を部分的に厚くしたりね。生体アーマーと呼ばれるだけのことはある」
「適応能力が高いというのは生存能力が高いと同義ですからね」
それを経験として実感している陽太の言葉は重みがある。霧島も深く同意するように首を縦に振る。
「シンボルエリアは実際に行くと全然違うからね。動画はもちろん、感覚共有で見る映像でも全てを伝えられていない」
「初めてシンボルエリア行ったことは今でも鮮明に思い出せますよ。足が震えました。知識として知っていたはずなのに。動画でも見ていたはずだったのに」
陽太はあの日を思い出すだけで足の震えを感じる。
未だにシンボルエリアに入る時の緊張感は、他で経験することの出来ない恐怖と高揚感を陽太にもたらす。
「シンボルエリアという所はそんな場所だ。そしてそんな場所で、彼女はソロでやることに
霧島はお茶を啜り、ふうっと息を吐いた。
少し物悲しげな霧島を見て、陽太は言葉を付け足す。
「一条さんは人間を信用していないから、ですか」
「ははは。さすが陽太くん。もうそこまで彼女を見抜いたか」
「おだてないで下さい。あんなの誰が見ても一目瞭然ですよ。あそこまでわかりやすく他人を排除するのはそういうことでしょう」
陽太も熱いお茶を啜る。
喉を通り身体を温めてくれるお茶は、どこかいつもより渋く感じた。
「どうしてそうなったのか、聞かないのかい?」
「はい。聞きません」
霧島はわかっていることをあえて聞いた。そして自分が知っていることをアピールした。
陽太ならきっと聞かないだろうなと思いつつも。
「本当に、陽太くんは貧乏くじを引きたがるよねぇ」
可笑しそうに笑う霧島だが、その瞳は優しい。
「そんなつもりはないんですけどね。どうにも自分と似たタイプを見ると放って置けなくなるんです」
内心自分でも呆れているのか、乾いた笑いをしながら陽太は言う。
「2体持ちの苦労は本当に良くわかります。俺は嫌と言うほどそれを味わってきました」
陽太は昔を振り返るように遠くを見る。
「一方的な嫉妬、無自覚な排斥、何もせずとも勝手に目立った結果、調子に乗んなと罵られる。ほんと、嫌な奴は腐るほど見てきました」
当時の怒りや悔しさを思い出し、陽太は拳を握り締める。
「俺はなんとか味方を作ってきました。友人や先生、周りに救われていたのは間違いありません」
それこそ陽太が特待生の試験に合格出来たのは、担任の教師による熱くて篤い推薦をしてもらったからだ。
それが霧島のお眼鏡に叶い、特待生の枠を勝ち取った。
色んな人のおかげで魔石狩りとして資格を得ることが出来た。陽太は自分や相棒達の能力だけでこれたなんて微塵も思っていない。
多くの人間が支援してくれたからこそ、今の自分がある。感謝しかない。
しかし。
「一条さんは、きっと違ったんでしょう」
陽太は一条沙雪という少女は、周りに恵まれなかったのだろうと推察している。断言できるとすら考えている。
何故なら、それは自分があり得た未来の1つだからだ。
一歩踏み外せば、自分はこうなっていたというのが容易に予測が出来た。
幼い頃、陽太は二体持ちということだけでいじめられた。
その時の足が震えるほどの恐怖を陽太は忘れられない。
だからこそコミュニケーションを
和の外に居るという疎外感は、計り知れない恐怖だと陽太は知っているから。
それが陽太の根源だ。
恐怖が陽太を駆り立てた。
そしてたまたま運良く周りの人間に恵まれた。
それに対して、一条は周囲に失望したのだろう。
陽太と同じ様にいじめられたか、それに似た様な経験をした一条は、人間に、世界に失望したのだ。
陽太よりも辛い経験をしてきたかも知れない。
きっと、希望を見出せなくなったのだろう。
陽太は恐怖で、彼女は失望。
きっとそれが彼女の根源。
陽太との差であり、一条との違いだ。
――問題児、か。
陽太は改めて問題児と呼ばれたことについて
同じく昨年、問題児扱いされていた陽太の師匠である薄墨恭介は、自分の命を軽々しく扱うことを問題視されていた。
亡き英雄に成り代わろうと必死になるあまりに、恭介は己の命を紙切れのように扱っていた。
素行が悪いのではなく、命を賭ける職業なのに、命を大事にしないという矛盾が恭介を問題児たらしめていた。
一条は、シンプルに人間性が悪い。
というよりは協調性がないと言った方が正しい。
魔石狩りにおいて、協調性とは必須スキルだ。
背中を預ける仲間と仲良くする。それには常日頃の話し合いが必要だし、互いに尊重し合うことも大事だ。
仲の悪い人間に、もしくは嫌いな人間に自分の命を預けようなんて馬鹿はいない。
知っているから一条はソロで魔石狩りになることを目指している。
それはつまり協調性がないのではなく、する気がない。
他人を信用するつもりがないということの反証である。
自分の命を他人に預けたくないからこそ、ソロで潜るという無謀な蛮行をしようとしていたに違いないと陽太は睨んでいる。
救って欲しい。
その霧島の言葉は叶えたいし、何よりも昔の自分を見ているようで放っておけない。
ただ――。
陽太は頭を抱えてため息を吐いた。
「おや、意外な反応だね。陽太くんならすぐに乗ってくると思っていたのだけど」
「やりたい気持ちはあります。でも」
陽太はがくりと首を落として
「俺の話、聞いてくれますかね…」
霧島は不思議そうに首を傾け、閃いたようにポンと手を打った。
「もしかして……やり過ぎた?」
「……はい」
「彼女の鼻を折るのではなく、傷だらけにした上で引っこ抜いた、と?」
「そ、そこまでのことはしてないですよ!…でも」
へたり込み、茫然自失で膝を折った一条を思い出す。
微かに浮かんだ涙は、陽太の心に痛いくらい刺さった。
「シロくん……」
「ホァ!?ほ!ほうほほう!!」
ため息混じりに顰めっ面をした霧島は、シロを蔑んだ目で見る。
その目に対してシロは、は!?勝負なんだから仕方がないだろ!と嘴をカチカチと鳴らして抗議する。
「シロを責めないであげてください。そんな加減して勝てる相手ではなかったからこうなっちゃったんですよ」
陽太は悲痛な声を上げてソファにもたれかかる。
「うーん、映像でも後で見させてもらうけど、陽太くんの感想から聞かせてもらおうかな」
「感想って言ってもですね…。さっきは勝ちましたなんて言いましたけど、実は勝ったとも言えないというか、反則負けしたっていうか…」
陽太はゴニョゴニョと言いにくそうにする。
しかし話を聞く体勢になった霧島は優しげに微笑むだけで、先を促すこともせずに陽太が話し始めるのを待っていた。
そしてついに観念した陽太は、さっきまでの戦いを顛末を語り始めた。
NW追体験機能
例えば貴方が空を飛んでいるとして、空気の匂いや音、景色。急降下する時の内臓の不思議な浮遊感、肌を切る冷たい風。
それはあなただけの体感だ。
やった当人しかわからない経験だ。
しかしNWはその追体験を可能にする。
情景はもちろん、匂いや音を通してその経験をもう一度味わうことが出来る。
そしてその経験を、他人と共有する事も可能だ。
現代ではお金をかけた遊園地のアトラクションや映像作品だけでなく、授業やスポーツに取り入れられている。
習得速度は過去のデータと比べても軒並み上がっていて、四半世紀前の人類が見たら魔法と勘違いしてしまうかもしれない。
が、触覚は伝わらないので物足りない感があるのが否めないというのは正直な感想だ。
もっと技術が進めば憧れた選手や、学者の動きや思考をトレースして一人一人が超一流の選手になれる日が来るのかもしれない。
参考文献
NW革命とは