魔石生物 ーMagic Stone Creature-   作:御坂まさき

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テイムって楽じゃない

 クロにとって、陽太と過ごす時間は日常であり、当たり前のことであり、同時にかけがえのない大切な時間だ。

 

 朝起きて訓練をして、ご飯を一緒に食べて、陽太が勉強に励んでいる間は膝の上でうたた寝をして、お風呂に一緒に入って、グルーミングをしてもらって、自分を抱き枕にして眠りにつく。

 

 それがクロにとっての1日であり、日常だ。シロがわがままを言ってシロを優先することもあるけれど、そこは()として広い心で受け入れていた。

 

「悪いクロ、ちょっと今は雷刃の番な」

 

 ある日いつもの時間にお気に入りのブラシを咥えて陽太の元に行くと、陽太は雷刃と対話中だった。声のない雷刃との対話は陽太にとっては難しいようで、苦戦していた。

 

 新しい家族に大歓迎だったクロだったが、自分と陽太の時間が明らかに目減りしたことに動揺は隠せなかった。

 

 クロも一緒に付き合い、雷刃の言っていることを理解しようと努力していた。

 

 雷刃はクロからしたらわかりやすく、かなり早い段階で言っていることがわかるようになった。しかしなにぶん感覚的なので言語化が難しく、陽太には上手く伝えられない。

 

 その辺りはシロが上手くやってくれたのでよかったと思っている。

 

 雷刃は言ってることがわかるとお喋りでヤンチャないい(やつ)だし、好きになった。

 

 雷刃は剣なのに一緒に風呂に入ろうとするし、その癖錆びるのが嫌だと陽太に丁寧な手入れを要求する末っ子気質だ。

 

 風呂上がりは自分とシロだけの時間だったのが少し寂しく感じなくもないクロだった。

 

 しかし雷刃ならば仕方がない。長男(おにいちゃん)として海よりも空よりも広い心で寛大に受け入れようとクロは心に整理をつけた。

 

 しかし。

 

「陽太履修登録決まった?」

 

 霧島の部屋で陽太にお腹を撫でられながらクロが寛いでいると嵐と鳴矢、銀河と何やら会話が始まった。

 

「もう大体ね。あとはテイムの授業取ろうか迷ってるんだよね」

「ん?取らない理由はないよな?」

「いや陽太はもう3体持ちだ。受けるメリットはナイってことだろ?」

「そうなんだよね。ただ後学のために取っておいてもいいとも思ってる」

「後学って何に使うんだよ。1人で4体持ちでも目指すか?そしたら日本どころか世界的にも中々いないんじゃねぇの?」

 

 4体目?

 その言葉にクロはカッと目を見開いた。

 

「それは目指してるのはブリーダーだろ」

「まぁ、魔石生物(パトクリ)同士の相性もあるしな?増やしすぎてもな?」

「増やしてもお互いが不仲じゃ意味ないからね。世界には10体以上を相棒にする人もいるから驚きだよ」

「たしかセカイ一位はあの人だろ?ゲテモノ好きの」

「Gや蝿とかが大量のパートナーのアイツ?あれは論外ってか、別枠だろ。そもそも魔石狩りじゃねぇしな」

「でもあの人の相棒はほとんどがテイムだろ?海外ではテイム出来る人は讃えられる風潮があるから結構人気だよ?でもまぁ俺はクロとシロ、雷刃でいっぱいいっぱいだよ」

 

 クロの上でそんな会話が繰り広げられているが、そんなことが聞こえないくらいクロは考え事に集中していた。

 

 クロの頭の中では連想ゲームのように考えが浮かんでいく。

 

 テイムの授業受ける→4体目を仲間にする(新しい家族が増える!)→自分との時間が減る(やだ!)→5体目を仲間にする(多すぎない?)→自分との時間がどんどんなくなっていく(やだやだやだ!!)

 

 連想ゲームは悪い方に作用していき、テイムの授業を取らないしこれ以上増やすつもりもないという陽太の言葉はクロの耳には届かない。

 

 その結果

 

「ガルルルル!!!」

「うお!どうしたクロ!?」

 

 クロは赤子形態から通常形態に戻り、威嚇するように喉を鳴らす。驚いている陽太を他所に、クロは陽太に飛びかかった。

 

「ガル!ガル!ガルルルル!!!」

 

 首をブンブン振り回して陽太に縋り付くクロは、己が巨体であることも忘れ陽太にのしかかる。

 

「なになになになに!?苦しいぐるしい!クロやめてぐれ!!」

 

 クロの急な奇行を前に陽太は混乱する。体重を遠慮なく自分にかけてくるのだから洒落にならない。

 

 目を白黒とさせて混乱と苦しみの中にいる陽太に、シロが陽太の横に降り立つ。

 

 救世主が来たかと陽太は目を輝かせるが

 

「ほ?ほーほうほーう?」

 で?これ以上増やすつもりはあるのか?

 

 と今そんなことを問うている場合でないことをシロは聞いてきた。

 

♦︎♢♦︎♢

 

 シロにとって、陽太と過ごす時間は日常であり、当たり前のことであり、同時にまぁそこそこ大事な時間であることを認めるのはやぶさかではない。

 

 朝起きて訓練をし、ご飯を一緒に食べ、陽太が勉強に励んでいる間は肩の上で羽繕いをしたり昼寝をしたり、お風呂に一緒に入って、羽の手入れをさせてあげて、陽太の腕の中で眠りにつく。

 

 それがシロにとっての1日であり、日常だ。クロがわがままを言ってクロを優先することもあるけれど、そこは()として大きな器で受け止めてあげている。

 

「ごめんシロ、ちょっと今は雷刃の時間な」

 

 ある日いつもの時間にお気に入りのブラシを咥えて陽太の元に行くと、陽太は雷刃と対話を試みていた。

 

 声のない雷刃との対話は陽太には難しいようで、光の加減での気持ちの汲み取り方、身振り手振りでなんとか伝えようとする雷刃の言葉をなんとか自分なりに捉えようとしていた。

 

 新しい家族に反対だったわけではないが、予測通り自分と陽太の時間が明らかに減っていた。まぁそれでも予測の範囲内だとシロは受け入れた。

 

 シロも一緒に付き合い、雷刃の言っていることを理解しようと努力していた。シロは陽太よりも早く雷刃の言いたいことを理解することが出来るようになり、陽太に翻訳して伝え雷刃とのコミュニケーションの向上に一役買っていた。

 

 雷刃は言ってることがわかるとなかなかお喋りな(やつ)で、頭も悪くない。シロは雷刃に将棋を教えて、たまに日向ぼっこをしながら対戦する仲になった。

 

 雷刃は自分の能力の制御能力に欠けていて、制御にミスをしてシロやクロ、陽太含めて感電させるようなこともしていた。しかもそれが一度だけではない。

 

 その度に悪びれもなく謝るのだが、呆れもするが微笑ましくもある。

 

 ならば仕方がない。長兄《ちょうけい》として海よりも空よりも碧く澄んだ大きな器で受け止めてやろうとシロは静かに頷いた。

 

 しかし。

 

 4体目。

 と言う言葉を聞いてシロはカッと目を開いた。

 

 家族が増えることは戦力が増えることと同義だ。

 

――増やす必要があるならいいんじゃない?

 

 と言うのがシロの考えだ。

 

――無理に増やす必要もないとも思うけど。別に増やしたとて陽太との時間がちょっと減るくらいだし、大した問題ではないんだけど。でもまぁ積極的に増やす必要性はないだろう。

 

 というのがシロの中の結論だ。

 

 積極的反対のクロと違って、消極的反対なのがシロだ。

 

 ぶっちゃけ今大暴れして反対しているクロをチャンスだと言わんばかりに応援し、そして頃合いを見て陽太の元に舞い降りた。

 

 欲しい言葉を引き摺り出すために。

 

♦︎♢♦︎♢

 

「今そんなこと言ってる場合じゃないだろ!?クロを止めて!だのむがら!!」

 

 肺を押し潰されたのか声に苦しさが混じっている。

 

 シロはしかしそれでも微動だににせず、陽太を見つめる。

 

「だから!増やす気はないって!!俺はもう3体で充分!!」

「ほう」

 

 その言葉が聞きたかった、とシロは満足気に頷きクロに凍える風を放ち正気へと返らせる。

 

「ほう!ほほほ」

 ほら!増やす気ないってよ。

 

 とシロが言うと?

 

「がる?」

 ほんと?

 とクロが返すと

 

「ほうほーほ」

 言質はとった。

 とシロが頷く。

 

 その後ほうほう、がるがるとやり取りをしているのを見て陽太は疲れ果てたように言う。

 

「だから、増やさないって言ってるじゃん。話聞けよお前ら…」

 

♦︎♢♦︎♢

 

「そういや取らないって言ってたな。結構前のことだったから忘れてたわ」

 

 当時のことを思い出しケラケラと悪びれもなく笑う嵐に、陽太は頬をピクピクとさせながらも平静を装っていた。

 

 胸には赤子形態になったクロが自分の匂いをつけようとしているのか、駄々を捏ねているのかわからないがヤダヤダヤダと言わんばかりに首を振って陽太腕の中で暴れている。

 

 その癖絶対腕から離れようとしないのだから困った甘えん坊である。

 

 しっかりもう増やさないとは伝えたはずなのだが、クロは未だにこの話に過敏だ。

 

 シロなんかはもう気にしていないようで、呑気に陽太の頭の上でお休み中だ。

 

「でもよぉ、頭の良いシロとクロでも家族が増えるのを嫌がるんだ。一条の相棒達は大丈夫なのかよ?」

 

 嵐は真っ当な質問を陽太にする。

 

 家族が増えるのを喜ばしく思える子もいれば、シロやクロ、レグやシンラと同じように嫌がる相棒だって少なくない。

 

 誰だって大事な人との時間は特別な時間だ。

 

 それが少なくなることを嫌だと感じるのは至極当然の感情であり、むしろそれが愛情の表れでもある。

 

「それに関しては確信を持って大丈夫って言ってたよ」

「ふーん。でもお前ですらまだもう1体の相棒と会ってねぇんだろ?本当に大丈夫なのかよ」

「多分ね。他人(人間)への愛は全く感じないけど、相棒への信頼と愛情は本物だよ。軽はずみの言葉じゃない。コレは信頼して良いと思う」

「ま、そんなら俺から言えることはなんもねぇや。しっかり作戦考えて挑むんだな」

「わかってるよ。道のりは遠そうだ。何ヶ月かかることやら」

「何年の間違いだろ」

 

 ケラケラと楽しそうに指摘する嵐に、陽太は額に手を当てて空を仰いだ。

 

♦︎♢♦︎♢

 

「先輩、そちらはどうだった?」

「正直に言うよ?人に捨てられて野良になった魔石生物(パトクリ)をテイムするならまだ宝くじを買った方がまだ有意義、だってさ」

 

 明くる日、陽太は霧島に紹介してもらった教授を訪ねて話を聞いて回った。

 

 答えはもれなく全員「難しい」だった。

 

 眉間に皺を寄せて口を一文字に結んだ顔は、捨てられた魔石生物を思ってか、それとも陽太の挑む難題の壁の高さを儚んでか。

 

 陽太はどちらでもないと思っている。

 

 霧島はしっかり人選も素晴らしかったのだろう。

 

「無理」

 

 この2文字をきっと飲み込んで、あえてぼかした表現をしてくれたのだ。

 

「挑戦は応援するけど、執拗に執着するのはお互いの為にはならないと思うよ」

 

 去り際に1人の教授がそんなことを言った。

 

 要約すれば諦めも肝心、そういうことだろう。

 

「でしょうね。私も色々調べたけど保護の前例は少しあったけど、その後誰かの相棒になったという話は見当たらなかった」

 

 一条は落胆せずに言う。

 

 一条もわかっているのだ。

 

 これから自分達が挑む課題は、無理難題だということを。

 

 そんなことは承知で一条は挑むと言った。

 

 陽太も安易に頷いたわけではない。本気で手伝うつもりだ。

 

 彼女が成功する、もしくは諦めるまで。

 

「予測通りの難易度だね」

「諦める?」

「君が諦めるまでは付き合うと決めた」

 

 少し目を丸くして陽太を見て、すぐに不敵に笑ってみせた。

 

「その言葉、飲み込ませないわよ」

「二言はないよ。俺も軽々受けたわけじゃない。でも」

 

 と陽太が言う。

 

「ちょっとついてきて欲しい場所があるんだ」

「さっそく宮ヶ瀬ダムに行くの?」

「一条さんの、いや俺達のすることは正しいのかどうかっていう再確認をしに」

「…どういう意味?」

 

 眉を顰めた一条に陽太は告げる。

 

「行き先は“荒廃都市”新宿。そこに俺の知ってる野良の魔石生物がいる」




ショートストーリー
どっちが兄?

陽太は齢11歳にして6人兄弟の長男だ。
中には双子もいて、その事件は双子の弟の発言から始まった。

「クロとシロってどっちがおにいちゃんなの?」

「がる!」
僕!
「ほほ!」
俺!

同時に自分だと主張した両者は睨み合い、威嚇し合い、そして喧嘩が始まった。
がるがるほうほうと言い争いは止むことはなく、矛先は陽太に向いた。

どっちでもいいじゃん、と言うのが正直な陽太の本音なのだが、当人達からしたら大問題なのだろう。その喧嘩は一週間経っても終わることはなく、陽太は必死に頭を絞り妙案を思いついた。

話があると2体をそれぞれ別で呼び出し

「シロがお兄ちゃんだってことにしてあげようか。優しくて心の広いクロならわかってくれるよな?もちろん、俺はクロがお兄ちゃんだってわかってるけどね!ここは長男としてシロのわがままを許してあげようか?」
「がる!がるるる!がーう!」
うん!僕がお兄ちゃんだもんね!任せて!

「クロがお兄ちゃんだってことにしてあげないか?賢くて器の大きいシロならわかってくれるよな?もちろん、俺はシロがお兄ちゃんだって知ってるけど!ここは長兄としてクロのわがままを受け止めてあげようか?」
「ほーほ。ほうほーう!ほほほーう!」
そうだな。仕方ないな!兄として譲ってやろう!

そして極め付けに
「あ!そうそう。こらから先クロ(シロ)が自分がお兄ちゃんって俺に言われたって言うかもしれない。でもそれはあくまで方便だからな。本当はクロ(シロ)がお兄ちゃんだって俺は本当に思ってるから。その時は優しい顔で流してやってくれよな?」

と言ってそれ以来、どっちが兄か論争はピタリと止み、仮に感情的になってどちらかが兄だぞ!と言い出してもハイハイ、と受け入れてくれるようになった。

陽太はそれを見て『計画通り』と黒い笑みをにっこりと溢し、後にそれ見ていた母親に

「陽くん、話術が上手過ぎるわ。優しさからくるものだから今回は良いけど、詐欺師なんかになったらお母さん絶対許しませんからね」

と本気で将来を心配されることになり、必死に弁明するハメになった。

すればするほど溝が深まるのだから、当時の陽太はさらに頭を抱えることになった。
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