魔石生物 ーMagic Stone Creature-   作:御坂まさき

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籠絡作戦、開始

「さて。各々準備は出来ているか?」

「えぇ」

「がる」

「ほう」

『ピカ』(うむ)

「こん」

 

 とある晴れた日、神奈川県厚木市にある“魚群降注”宮ヶ瀬ダムにて、陽太達は円陣を組んでいた。

 

「とは言ってもぶっちゃけ期待はしてない」

「はぁ!?」

「がる?」

「ほぁ!?」

『ピカピカ』(コロス)

「こーん」

 

 クロとたまも以外から強烈な殺意を感じ陽太は慌てて訂正する。

 

「ごめん間違えた。期待してないじゃなくて期待するなでした殺気を抑えてくださいすみません」

 

 鼻息を鳴らして陽太を見つめる(睨む)面々。

 

――コイツら怖ッ。

 

 特に雷刃。アイツマジで放電しようとしてた。殺意からアクションへの移行がシームレス過ぎる。

 

 理性(ブレーキ)とかないのか?いやほんと、千野洸(ブレーキ知らず)の相棒だっただけのことはある。

 

「たった一度や二度程度で懐いてくれるならテイムなんて難しいなんて認識にはならない。今回はダメでも地道に行こうってことが言いたかったんだ」

「随分弱気ね先輩。成功するというビジョンを持っていなければ上手くいくものもいかない。今回で決めるという気概は持ってくれないと困るわ」

「ほう!ほーう!」

『ピカ!』

 

 一条が髪をかきあげてそう宣言すると、シロと雷刃がそうだそうだと同調する。

 

「いや、自信満々なのは良いんだけどさ」

 

――だって君達失敗したら絶対怒るかめちゃくちゃ悔しがるじゃん。そんでその捌け口どうせ俺になるじゃん。

 

 という言葉をなんとか飲み込んで笑顔を作る。

 

「じゃあ興味も引けなかった奴は罰ゲームでもしようか」

 

 こうすれば全員失敗したとしても有耶無耶になるだろうと確信し、陽太は自分の思いつきに良さに満足気に言った。

 

 しかし

 

「はぁ?罰ゲームなんか考えてる時間あるなら次の作戦を考えることに頭を回しなさいよ。先輩、ちょっと本気度が足りないんじゃなくて?」

 

 スッと目を細めて睨むように言う一条。

 

「……」

 

 ぐうの音も出ない正論なだけに、陽太は愛想笑いしか出来なくなった。

 

 いや、でも本当にそうだ。

 

 ちょっと本気度というか真剣さが足りないのかもしれない。

 

 情報を集めれば集めるほど一筋縄ではいかないということばかりが集まってきたので、知らず知らずのうちに頭の中で凝り固まっていたのだろうか。

 

 楽観視はもちろん良くないけど、希望的観測を持ってことに当たらなければ得るものも得られない。

 

 悲観的になり過ぎていたかもしれない。

 

 陽太は己の頬をパチンと叩き、思考を切り替える。

 

「すまない、一条さん。気持ちを改める」

 

 ふぅとひとつ息を吐いて

 

「それじゃあ籠絡作戦開始と行こうか。誰から行く?」

 

 陽太の問いに真っ先に反応したのは

 

『ピカピカーン』(俺から行かせてもらおうか)

 

 キラキラと自分を輝かせて主張する雷刃だった。

 

『ピカピカピカッ!』(他の出番はないかもしれないがな!)

 

 大胆不敵にピカピカと光る雷刃。

 

「やっぱり不安だ…」

「先輩、ステイ」

 

♦︎♢♦︎♢

 

 

①雷刃の場合

 

 剣先を地面に刺しながら、ピョンピョンと飛び跳ねながら雷刃は狸の元へと足を進める。

 

 片足で()()()()をしているような歩みは、どこか愛らしさがある。陽太はその姿を見て傘の妖怪の『一本だたら』をふと思い出した。

 

 雷刃は真っ直ぐ狸の元へと足を進めていく。その足取りに迷いはなく、同時に遠慮もない。

 

 姿を隠す気はないし、そちらの気を使う気もないというのがわかる雷刃らしい直球なやり方だった。

 

 狸も無機物種の武器型が単独で歩み寄ってくるのを見て警戒したのか雷刃を見ている。

 

 しかしその目は変わらず伽藍堂(がらんどう)だ。

 

 距離が10m近くなると、狸は低い体勢を保ちながら四本足で立ち上がる。

 

 どうやらここがデッドラインらしい。

 

 これ以上踏み込めばなんらかのアクションをする。

 

 それが逃げるなのか攻撃をするのか定かではないが、それ以上踏み込ませることはしないと、空っぽな目にはしかし明確な意志があった。

 

『ピッカリピカピカ』(やっぱりな。逃げると思ったぜ)

 

 雷刃は明滅して語る。

 

『ピカピカピカッ』(ってことは死にたくねぇってことだ。違うとは言わせねぇ)

 

 ここ1番と言わんばかりにさらに輝いてみせる。

 

『ピカピカーン!』(生きる気があんならじっとしてないで俺についてこいや!)

 

 眩いばかりに光り輝く雷刃。

 

 

 

「……先輩、雷刃はなんて言ってるの?」

 

 

 遠くから見守る一条が、同じく見守っていた陽太に問う。

 

「いや、ほとんどわかんない」

「はぁ!?ちょっとパートナーなんだからしっかりしなさいよ」

「いやいや、そんなこと言っても雷刃との付き合いは短い。完璧に理解するのはまだ難しいんだ。光の加減で言いたいことを理解するなんて結構大変なんだよ?」

「それは確かにそうだけれど」

「だろ?でもまぁおおよそ言いたいことは理解できた」

「何て言ってるの?」

「『いいから黙って俺について来い』だってさ」

「……雷刃の思いついたやり方ってもしかして言葉での勧誘?」

「その言葉も1ミリも伝わってないよね。もう互いに何も言わずに睨み合って1分くらい経つし」

「言葉を発せない魔石生物(パトクリ)が言葉で説得する方法を選んだ、の?」

「俺の不安、わかってくれた?」

「何を見過ごしているの。止めなさいよ」

「楽しみにしておけって自信満々で内容は教えてくれなかったの。ちなみにシロも何するか教えてくれてない」

「たまもとクロは一緒になにか考えていたようだけど、私も聞いてないわね」

「……」

「……」

 

 

「不安ね」

「不安だろ?」

「あ、でもまた光り始めたわよ?」

「あ!あのバカ逆ギレして放電する気か!?クロ!連れ戻して来てくれ!」

「ガル!」

 

 俊足のクロが駆け出し、柄を口でガシッと掴んで駆け戻って来た。

 

 陽太は離せと言わんばかりに暴れる雷刃をクロから受け取り

 

「雷刃お前放電する気だったろ?」

『ぴか!ぴかぴぴかぴか』(俺は悪くない!アイツが素直にならないのが悪い!)

「反省の色はなし、と。はーいお仕置きね。シロよろしく」

「ほーほう」

 やれやれ、とシロは首をふって

 

『ぴかぴ』(ちょ!ま)

 

 雷刃の抗議も虚しく、氷漬けにされた雷刃がそこにはいた。最近よくある雷刃へのお仕置き方法だった。遠慮のない関係が出来始めた証拠でもあるが、固まった雷刃を見て一条は少し哀れに思った。

 

「んじゃ次行こうか。成果は問わないけど、失敗して逆ギレはあぁなるからな」

 

 陽太は親指で氷漬けにされた雷刃を指差す。

 

「ほ!ほほほう!」

 じゃあ俺の出番だな!

 

 シロが羽を大きく広げてポーズを決める。

 

「ほーうほほほ!」

 格の違いを見せてやろう!

 

 ほっほっほと高笑いするシロ。

 

 陽太はそれを見て苦い顔をする。

 

「……不安だ」

「雲行きがあやしくなってきたわね」

「このエリアで雲行きあやしいとか本来は即退散なんだけど」

 

♦︎♢♦︎♢

 

②シロの場合

 

 シロは低空飛行で狸の元まで向かう。

 

 雷刃のせいで警戒が強くなったのか、さっきよりもずっと早くシロを視認して体勢を整えている。

 

 まったくあのバカのせいで、とシロはほふぅとため息を漏らす。

 

 しかし距離感を詰めなければ対話もできない。

 

 シロはゆっくりと慎重に進み、さっきの雷刃と同じ位置まで辿り着くことに成功する。

 

 狸はすぐに逃げられる状態でこちらを見ている。

 

「ほーほうほう」

 まったく、とって食いはしないぞ、とシロは呆れるように言った後、シロは足で掴み持ってきた風呂敷のようなものを嘴で器用に広げていく。

 

 翼や足、嘴を駆使して完成したのは将棋盤だった。

 

「ほーほ?ほほほうほう」

 将棋は知ってるだろ?先手は譲ってやろう。

 

 羽で器用に腕を組んでいるようにして、シロは大きく膨らんで宣言する。

 

「ほほほーうほう!」

 ただし負けたら大人しくついて来い!

 

 胸を張って堂々とシロは言い切った。

 

「ねぇ、先輩」

「何も言うな、後輩」

「シロは将棋の勝負を挑んでいるのよね?」

「…あぁ、挑んじゃってるな」

魔石生物(パトクリ)の趣味で将棋って一般的かしら?(あの子)何も反応しないけれど」

「俺とシロとクロの中では結構普通だけど」

「……」

「そんな目で見るな!アイツはアレで本気なんだ!バカで可愛いだろ!?」

「あ、飛車角落ちにした」

「そう言う問題じゃないんだシロ!その方法は根本的に間違っていることに気づけ!」

「とうとう王将のみになったわね」

「勝てるか!ていうか勝負にならない、そして勝負出来ない!」

「先輩、シロの周りにうっすら氷の粒が」

「あーもう!クロ!頼んだ!!」

「ガル」

 

 ため息を吐きながら、クロは先程よりも早い速度で駆け出し大きな口でシロを咥えて帰ってきた。

 

「逆ギレすんなって俺言ったよな?」

「ほうほうほほほ!!ほ、ほほほ!」

 アイツが勝負に乗ってこないのが悪い!!俺悪くない!

 

 と怒り心頭で嘴をカチカチと鳴らして怒りをあらわにするシロに、陽太はシロのバカさに嘆きながら首を振る。

 

「一条さん、たまも、良いかい?」

「えぇ、これは庇えないわよシロ。“その身に降りかかるのは重き呪い(ラルゴ)”」

「こん!」

 

 たまもがシロに“付与(デバフ)”をかける。

 

「ほぁ!?ほっほほほ!」

 ちょっ!やめてくれ!

 

 シロの悲鳴のような願いは叶うことなく、シロが闇に包まれる。

 

「ほべぇ」

 

 情けない声と共に、シロはその場に押し潰される。

 

「ぼぇぼぉ」

 

 自分の何倍もの体重をかけられ、シロは自慢の羽毛が泥まみれになり苦しみと悲しみを込めた泣き声を出すが、あまりのダミ声で陽太ですら何を言っているのかわからなかった。

 

 なので無視することにした。

 

「んじゃ次行こうか」

「ぼべぇ!?」

「もう逆ギレする人はいない…しないわよね?先輩」

「するかぁ!どっちかっていうとしそうなのは一条さんだろ」

「はぁ?私がそんなすぐキレるみたいに言わないでくれるかしら。心外だわ」

「どの口が言ってるんだ。まぁ良いや、次は俺が行くよ。いやほんと、実はちゃんと考えて準備してきたのって俺だけなんじゃないの」

 

 陽太はため息を吐きながら言う。

 

 そんな陽太を見て、一条は呟くように言う。

 

「その妙な自信、不安を加速させるわね」

「おい後輩、本気度が足りないんじゃないか?自分がついさっき言ってたことを忘れたのか」

「いつまで過去を振り返っているの。もう今はさっきと状況が違うの。臨機応変に対応しなさい」

「都合の良い言葉だな!」

「でも、私は信じているの」

「え?」

「失敗しても逆ギレなんてしないわ。そうでしょう?」

「あったま来た!見とけよ!俺が決めてやらぁ!!」

 

 どしどしと足音をたてて歩いていく陽太の背中を見て、

 

「不安ね」

「がる」

「こん」

 

 一条達3人は見合って頷き合った。

 

♦︎♢♦︎♢

 

 ③陽太の場合

 

 陽太は狸に近づくにつれて慎重に足を運んで行く。

 

 無駄な足音はたてない。代わりに陽太は両手を上に挙げて足を進める。

 

 武器は持っていないというアピールである。

 

 しかしその手には小さな袋が握られている。

 

 警戒と同時に困惑をし始めたのか、狸は少しだけ首を傾けているように見える。

 

 それもそうだろうと陽太は思う。

 

 懐柔しに来たのか、馬鹿やっているのかわからない連中は初めてだったのだろう。目的が見えないから困惑するのはわかる話だ。

 

 しかし、さっきまでの奴らとは違う。

 

 最初に期待するなと言った陽太ではあるが、実は結構自信ありだ。興味くらいは惹けると思っている。

 

 最初から高い成果は期待していない。

 

 とりあえずこちらを認識してもらって、少しずつ距離を縮めていく。

 

 これが理想的な手段であり、順当なテイムだ。

 

 さっきのシロの辺りまで近づくと、陽太は腰を下ろした。

 

「こんにちは。俺は黒河陽太って言うんだ」

 

 穏やかに陽太は声をかける。

 

 狸は聞いているのかいないのか、顔はこちらを見ているけれど目線はどこを向けているのかわからない。

 

 その目は真っ黒で真っ暗だ。

 

「このエリアは割と安全だよね。居心地良いのわかるよ」

 

 陽太は自分が眼中にないことを察するが、無駄話をやめない。

 

 声をかけ続けることに意味を見出しているからだ。

 

「でも食料が基本的に黄色と青色の系統しかないだろう?飽きはこないか?」

 

 魔石生物にも好みはある。

 

 自分の魔石の色が好物であることが多い。

 

 陽太の相棒であるクロ、シロ、雷刃は“食わず嫌い”と呼ばれるタイプで、基本的に一色の魔石しか食べない。そして単一色で魔石を買うのは非常に値が張る。

 

「好物の色はあるだろう?何色が好きだったんだ?」

 

 それが少し前まで陽太達の生活が困難だった理由なのだが、魔石狩りとして活動を始めた陽太は大分懐が温かくなった。

 

「色は土系に見えるから茶色かな?でも元の狸と同じ色だから固有の能力持ち?」

 

 収入はとんでもない額に跳ね上がってウハウハな陽太だが、同時に出費もえげつなく、月末にはヒイヒイ言っている陽太である。

 

 特に装備の部類は高価すぎてほとんどローンを組んで購入している。

 

「そうなるとどの魔石が好きか予測はつかないなぁ」

 

 魔石狩りの収入と出費を肌で感じて戦々恐々する毎日だ。

 

 それでも経済的な余裕を手にしたことに変わりはなく、陽太はお金を使う事への抵抗感は若干和らいでいた。

 

「だから今日色々持ってきたんだ」

 

 まったく反応しない狸に陽太は心折れることもなく、笑顔のまま話を続ける。

 

 陽太は手にした袋の中から魔石を取り出した。

 

「じゃーん!茶色の魔石。どう?純度高めで綺麗だろ?逆にこっちは濃いめの茶色。これはこれで良いよね。しかもなかなか大きいだろ?」

 

 陽太は見せびらかすように言う。

 

「なんとコレ、この2つだけで二万円もするんだぜ!凄いだろ!」

 

 屈託のない笑顔で金の話を始めた。

 

「もちろんそれだけじゃないぞ」

 

 陽太はニコニコとしながら続ける。

 

 赤、青、黄色、緑、紫などなどいろんな色をした魔石をいくつも取り出していく。

 

「総じてなんと20万円なり!どう!?好みの魔石はあるか?」

 

 それを見て

 

 

「がるーん」

 あぁ、始まっちゃったと、クロは困ったように言う。

 

「どうしたのクロ?」

 

 困り顔のクロに一条は問う。

 

 するとクロの代わりにバサバサと羽音をたてて一条の肩に乗ったシロが答える。

 

「ほーほほほーう」

 アイツは基本高いものが正義だからな、とシロが言う。

 

 さっきまで濁声を出していたのが嘘のようである。

 

『ピカピッカリ』(アイツ高ければ高いほど良いと思ってるよな)

 

 解凍された雷刃もやれやれと言わんばかりに光り語る。

 

「シロ、雷刃も」

「ほう」

 つまりだ、とシロは羽を広げて結論づける。

 

『アイツ金の力で解決する気だ』

 

 とシロはやれやれと羽の手入れを始めた。

 

♦︎♢♦︎♢

 

 自慢げに広げた魔石達はどれも逸品である。

 

 魔石生物(パトクリ)達の誕生日やお祝い事の日に食べらるような特別な一品だ。

 

 一昔前の陽太であれば手も足も出ない豪勢な品揃えだ。

 

「気にせず食べていいぞ。君のためだけに買ったんだ」

 

 快活に笑って言う陽太は心の中で『決まった!』と思っていた。

 

 贈り物は一級品で口説き文句も悪くない。

 

――さぁ、その暗い瞳に光を宿せ!

 

 陽太はニヤリとほくそ笑んだ。

 

 

 5分後。

 

 トボトボと踵を返して帰ってくる陽太の姿がそこにはあった。

 

 何にも反応せず、気にもしないし気にも留めない。

 

 会心の一撃はどうやら勘違いのようで空振りに終わった。

 

 一条達の元に影を背負いながら帰ってくると、珍しくしおらしくどうやって励まそうか、と悩んでいるような(ふし)のある一条と目があった。

 

「先輩」

 

 その声はいつになく張り詰めていて、ギュッと結んだ拳を握りながら言う。

 

「お金で心は買えないわよ?」

「死体蹴りするつもりならそんな顔すんな!」

 




何らかのストレスがかかり、進化した結果を現在の進化の分類として『感情進化』または『意志進化』と総称している。
ストレスだからといってマイナスなことだけではない。
例えば主人に褒められた角をベースとして進化したり、誰かを助けた、賞賛して貰った出来事を切っ掛けにその要素を軸に進化することも大いにある。
主人の一声で進化したケースなんてすらある。
だからこそ日々のコミュニケーションは自分の、ひいてはパートナーの生き方を大いに変えてしまうということは理解していなければならない。

参考文献
意志進化を考察
霧島著
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