魔石生物 ーMagic Stone Creature- 作:御坂まさき
私事で申し訳ありませんが、ちょっと体調不良でお休みしておりました。
少しづつ再開していきますので、よろしければ引き続きよろしくお願いします。
「人を散々煽っておいて自分はこの体たらくですか?」
「……」
「服とか手袋とか靴下とか贈ってたみたいだけど見向きもされませんでしたねぇ?っていうかそんなんで成功するなんて本気で思ってたの?」
「……!」
「あっれぇ?逆ギレする?失敗したからって他人に当たる?ついさっきまであんなに俺のこと責めてたのに?」
いつもは真っ白な肌を赤くして恥辱と怒りでぶち切れかけている一条に向かって、陽太はニヤニヤしながらしかし止めることなく煽りまくっていた。
「別に良いけどね?堪え性がない後輩を慰めるのも先輩の務めだしぃ?」
さっき散々弄られまくったのでその仕返しとばかりにテイムに失敗した後輩を
怒りに震え、しかしここは耐えろと揺れながらも我慢し葛藤している一条は人間味があって微笑ましいし、そしてそれが何よりも面白い。
普段生意気な後輩が凹んでいるのは微笑ましくも心配の気持ちもないわけではないが、そんなことよりも弄りがいがあった。
さっきの意趣返しもあり陽太の口はペラペラと言葉を重ねていく。
「言葉には責任が伴うよねーだって自分「ハッ!!」ガッフ!」
得意気に嬉しそうに論破を続ける陽太はしかし、不意打ちの鳩尾へのパンチに膝を折った。
プルプルと震えながら乱れる呼吸を何とか保って
「逆ギレ、ってレベル、じゃないぞ、コレは」
「失礼ね。怒ってないじゃない」
艶やかな髪をファサッと靡かせて一条は言う。
「殴っただけよ」
「最も原初の怒りの発露じゃん……!」
ふんと鼻を鳴らしてすまし顔をしているが、顔の赤さは未だ取れていない。
『こ、この帽子とかあなたにとても似合うと思うの!あとこれも!』
陽太から見て、色んな服を代わる代わるみせて興奮気味に捲し立てる一条は非常に愛らしく、可憐だった。
結果なんの成果も出せなかったこともあり尋常じゃないほど落ち込んでいたのだが、憎まれ役を買った甲斐もあってかその表情は先ほどよりも幾分かマシだ。
いじりすぎたきらいはあるし、これで
「さて、まぁ予想通り一筋縄では行かなそうだね」
陽太は遠くにいる狸を
もうコチラには一切の興味がないのか、狸はどこを見るではなく座り込んでいる。
「今回はこれで撤収しよう。次はもっとよく作戦を練らないと」
話している陽太を遮るように、クロが陽太の裾を噛んでクイクイと引っ張る。
「あぁ、そうか。クロとたまもがまだだったな。やるのは良いけど、何するの?」
クロはたまもと目線を合わせて
「がる!」
「こん!」
秘密!と楽しそうに言った。
♦︎♢♦︎♢
「一条さん本当に何も聞いてないの?」
「たまもとクロが何をするかっていう話なら聞いてないわね」
ゆっくり慎重に近いて行く2体を見送りながら陽太達はそんな会話をする。
「特に道具も持ってないよね?」
「そうね」
「素直な2人だからなー。何するか想像もつかない」
陽太はのんびりとそんなことを言う。
期待していないわけじゃないけれど、あの狸の興味を惹かせるというのは並大抵のことではない。
――なんせあんな高級な魔石に目の色を変えないのだから!
陽太は未だ自分の策に自信を持っていた。
クロは基本的に甘えん坊で純朴だ。たまもも主人に
しょっちゅうクロのお腹で丸まって寝ているたまもを目にするのは、彼らの仲の良さの現れだろう。
そんなのんびり屋の2体が何をするのか、陽太は全く予想できなかった。
「まぁ、シロや雷刃のように逆ギレはしないから安心かな」
「そうね。でもトボトボと帰ってくるのは今から考えると心が痛いわ」
まぁそこは上手く慰めてあげよう、そう言おうとしてしかし陽太は止まった。
狸の近くまで振り向くことなく進んだクロとたまもは、狸に警戒される範囲に入るとくるっと振り向いて陽太と一条を見た。
ますます分からず首を傾げる2人は、彼らの行動に目を見開いて驚愕する。
「!?あのバカ!!」
「たまも!?何をやっているの!?」
しかし驚きを隠せなかったは2人だけではない。
今まで何の反応も見せていなかった狸が、陽太達と同じように驚き固まっていた。
真っ黒で真っ暗な瞳にクロとたまもが映り込んだ。
目をまんまるにして毛を逆立て、尻尾までピンと立っているのは先ほどまでの姿を知っているだけに可愛らしい。
本来ならば微笑んでしまうような光景だっただろう。
だが、実際の陽太の表情は焦りと緊張感で満ちていた。
「シロ!クロ達の上空で待機!哨戒にあたれ!」
「ほうほほう!!」
やれやれまったく!と悪態をつきながらもシロは大きな羽を羽ばたかせてトップスピードで向かっていく。
「雷刃!伝導状態をしばらく維持してくれ!出来るな!?」
『ピカ!』
ったりまえだ!!
雷刃は自身を光らせる。
これで少なくとも50メートル圏内で発生する電撃は、雷刃に吸い寄せられる。
シロが上空で目を凝らし、耳を澄まして警戒にあたるのを見て、陽太はようやくそこでふぅと一息をつく。
そして自分と同じように固まっている一条に声をかける。
なるべく落ち着いた声色を心がけながら。
「一条さん」
「わかってる」
強張った声で、陽太を制すように続ける。
「シロが見てるし、仮に急に魔物が
捲し立てるように言う一条だが、しかし理性と理解があった。
「だからあの子達の邪魔はしない。わかってるわ」
手を祈るように握り締め、唇を噛み締める一条の隣で陽太も佇む。
「あぁ。大丈夫だ。だから見守ろう」
陽太の視界の端で、一条の
♦︎♢♦︎♢
狸は心の底から驚いていた。
今まで自分を捕まえようとした人間や魔石生物は幾人もいたが、こんな手法を使ってきたのは初めてだった。
目の前にはそんなに大きくもない自分よりも圧倒的に
黒い狼と、黄金色の狐だ。
赤子の姿で2体はそこにいた。
それは通称、省エネモード。
身内や、心の許せる存在の前以外では決して見せない姿。
もちろん能力は使えないし、体力や筋肉は弱々しく、歩くのすら辿々しい。
魔石生物にとって非常に無防備な姿で、そんな姿を見せるのは親愛の証でしかない。
愛らしい姿は、同時に無力の象徴でもある。
いつ魔物が発生するかもわからない死と隣り合わせのシンボルエリア内において、そんな姿を晒して良いわけがない。する理由が何一つない。
だからこそ、狸は心の底から驚き、戸惑っている。
とんでもないバカなのか、何らかの策略なのか、いやそれとも――と狸は思考に没頭する。
そしてふと答えに辿り着いた。
その答えに瞬間沸騰するように怒りが込み上げて
『人間に強制されているのか!』
怒りを抑えられず狸は吠えるように言う。
少し先で佇んでこちらを見つめている人間を睨む。
棒立ちで佇んでいるのが何よりもその証拠だ。
相棒がこんな状態でいるのを何故見過ごしている。
殺されても良いのか。
自分が害する可能性があることを考えなかったのか。
――これだから人間は……!!
狸の怒りがさらに膨らむところで
『なんで?陽太はそんなことしないよ?』
あまりにも無垢な瞳と声で黒い狼は言う。
『沙雪も言わないよ?そんなこと強制するわけないよ?』
こてんと首を傾けながら、心底不思議そうに狐も言う。
『『ねー!』』
と顔を見合わせてニコニコと笑い合う。
沸いた怒りに冷や水をかけられたような気分の狸は、呆けるが、思わず沸いた疑問が口からこぼれ落ちる。
『では…何故そんな姿を?』
狼が『んー』と考えると、狐が代弁する。
『この姿なら話聞いてくれるかなって』
『そうそう!だってこの姿だと何も出来ないって
絶句する狸を
『でもやっぱり勝手にこんなことやって怒ってないかな?』
『どうかな?怒られるかも』
『えー、今日罰としてブラッシング抜きにされる?』
『それか一緒に寝るの禁止かな?』
『『やだねー』』
ここは確かに比較的に安全なエリアだが、常に危険と隣り合わせなのは自分がよく知っている。
慢心して死にかけたのは一度や二度ではない。
『こんな危険な場所で何を考えているんだ!死ぬかもしれないんだぞ!!』
あまりに平和ボケした風体に、狸は吠える。
声を荒げた狸に狼達はポカンとしたあと楽しそうに笑って笑顔で言う。
『大丈夫だよ。だって陽太がいるもん。あ、シロと雷刃もね』
『沙雪もいるよ!』
あまりにも真っ直ぐな純粋な瞳は疑いを知らなかった。
あんな風に純粋に何の疑問もなく、人間を信用していた頃が自分にもあったと昔の記憶が頭を
いつの間にか近づいてきた狼達は、自分にもたれかかるように体重を預けてくる。
『ひとりだと寂しいよ』
『寄り添うとあったかいよ』
久しぶりに触れた温かい体温に、狸は人の温もりを思い出した。
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