特別海洋安全部 三日月   作:綿飴月

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知識の整理も兼ねてます


弐 三日月、出港

しばらく経ち

 

 私たちは色々な思いを持ち三日月に乗艦する。

覚悟が決まった者、逆に迷いが残っている者、何も考えずにただ自分の役割をこなす者…

 

久しぶりに乗る三日月は手続き等により人数が少なく、掃除が行き届いて無いのか所々埃が溜まっている。後で大掃除しないと…

 

上甲板から階段を登り羅針艦橋にたどり着く。計器類は殆んど電源が落ちているが中央のジャイロコンパスだけは電源が繋がっており今なお真方位を示し続ける。

 

「よし、それじゃあ三日月ちゃんを目覚めさせますか!」

 

艦橋の前方から振り返る。

半分冗談で言ったつもりが合図だと勘違いされ何人かが機器の立ち上げをしようとする。オイマテ

 

「ストップストップ!!まだ陸電状態だよ!!」

 

慌てて作業に掛かっていた3/Oを静止。

この艦は今、艦内電源では無く陸からの電源で電気を養っている。変に機器を立ち上げると思わぬエラーが起きてしまうのだ。

 

と言っても私を含め皆、この三日月自体を長時間放置することが無かったのだからむりもないだろう。

 

「あ、そうだった〜」

 

立ち上げを行なってた機器をもう一度落としながら彼女は手慣れたように機関制御室へ繋がる電話を取る。久しぶりの乗艦に胸が高鳴っているのか私が命令する前にしてほしい行動をする。

いや、ありがたいんだけどね?

 

「あ、聞こえる〜うん、こっち(艦橋)は全員揃ったからそろそろ発電機回して〜お願い〜」

 

彼女はそのまま電話をしまった後にグッドサインをしてくる

 

「ありがと、でも次はちゃんと指示待ってね」

 

感謝はする。でも少し…いやだいぶ怖いから出来ればあんまりやらないでほしいかな?

 

私は彼女に釘を指しながら手に持っているインターホンのサイドボタンを押し艦全体に合図を送る

 

「出航よーい!部署につけ!!」

 

掛け声が掛かると同時に艦から雑談の声が無くなる。ここから先は”部活動”の始まりだ

 

「各配置、こちら艦橋。インターホン感度如何?」

 

私が手に持っている機器の調子を確認する。直ぐにおもて、中央、ともから「良好」という返事がやってくる。以上はないようで私は続けて指令を出す

 

「電気を使わない作業は全て取り掛かって、準備でき次第報告。」

 

各配置から「了解」と返事が来る。頑張り屋さんな機関部の方々は昨日からボイラーの暖気を行っているため主機の準備は万端、後は発電機…

 

海図を海図台に敷き、準備をすると艦中央付近から重く連続的な周波を持つ音が聞こえ、更にもう一度同じ音が聞こえる。

No1、No2の発電機が起動した音だ。後付けで搭載されたディーゼル原動機が心地よい音を奏でる。

 

艦橋コンソール下部にある機関制御室の電話が鳴り受話器を取る

 

「発電機1号2号起動!艦内電源に切り替えるよー!!」

 

「はい、艦内電源に切り替える了解。早かったね?」

 

「あったりめーだ!早く動かさないと!」

 

機関部の元気な声が電話越しに耳に入ってくる、どうやら彼女達は発電機すら止まっていた艦が復旧していく様子に興奮しているようだ。もっとも、それは私も同じで顔には出さないが内心ウキウキである

 

一瞬、艦内の陸電のブレーカーが落ちてブラックアウトになるが今度は艦内電源に切り替わることで電気が復旧する。

電源が落ちた影響で艦橋各部にある計器がアラートが鳴る

 

「ありゃりゃ〜こんなにけーほー鳴らしちゃって〜」

 

彼女がアラームを消すと直ぐにさっきは出来なかった各種機器を立ち上げてゆく。

AIS…電子海図…音響測深機にVHFと一通り立ち上げた後に艦橋後部に行き彼女はマスト付近に「れーだー回すよ〜」と声を掛ける。返事が無いということは今は誰も居ないようだ。彼女はその事を確認してSバンドレーダー、Xバンドレーダーを起動していく

 

「艦長、艦橋は準備出来たよ〜」

 

 

その言葉に頷き、ちょうど鳴り出した機関制御室の電話を取る。

 

「発電機並列運転干渉!甲板機器使用可能だ!」

 

「甲板機器使用可能了解、ありがとね」

 

電話を切ると今度はインターホンを握り直し艦首艦尾に電動機使用可能と伝える。

 

さて、まだまだやる事はいっぱいある。私はインターホンから機関制御室への電話に切り替えサブテレグラフのテストを行い、エンジンテレグラフのテストも行う。

艦橋内部でテレグラフが動くたびにアラートが鳴り機関部が押すことで消える。これを全てのボタン行うのだ。

 

「テレグラフテスト終了、結果良好。」

 

私が電話で結果を言うと相手も復唱しテストが終わる。その間忙しい私に変わって3/Oは全体の指示やってくれる。立場が高い人に命令出来る数少ない機会のせいか若干調子に乗っているように見える

 

それでも彼女のおかげで三日月はシングルアップ…直ぐに出航出来る状態になっていた。

 

私はともの部署に舵試運転を行う事を言いインターホンを握りながらもう片方の手で舵を握りしめテストを行う。その間機関制御室からの電話に出た3/Oは艦橋上部の計器類を確認しながら同時に私に内容を伝える。

 

「主機試運転も同時に行うって〜」

 

その言葉に頷きインターホンでともの人達にその事を伝える。数人が準備に着くのを確認して2つの試運転を終わらせる事で出航前の準備が終了する

 

長かった…

 

発電機が回って居ない状況からの起動はしばらくお腹いっぱい。

 

でも、これで出港出来る!

気分の高鳴が抑えきれずインターホンを握る手が少し汗ばむ。SRT学園としては最後の出港、この港がSRTの港として機能する岸壁に着岸することはもう殆んど無いだろう、少し悲しさはあるが切り替える。まだ三日月は私たちの艦だ。

 

「ただいまより出港する!スタンライン、フォアードスプリングレッコ!」

 

続いてインターホンのボタンを離し3/Oにに顔を向ける

 

「デッドスローアヘッドエンジン。バウスラスター方位120度、ポート30度」

 

私の指示を聞き舵や機器を動かす彼女を横目に岸壁との状況を見る。

もう、十分に離れたよね、

そう確信出来るタイミングでインターホンのボタンを押す

「オールラインレッコ!」

 

おもてとともの残ってたラインが外されることで三日月は完全にフリーになる。

そのまましばらく三日月と岸壁を離して私は3/Oに汽笛を鳴らすよう言う。

 

「汽笛、吹鳴します!」

 

私が付近にいる人に聞こえるように大声で言った後彼女に頷く。

 

ブォォォォォォォォ

 

逞しく、耳に残る三日月の汽笛はいつもと違いまるで岸壁に別れを言っているように少し悲しい音色に聞こえた。

 

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