【完結】映画 ドラえもんクロスアンジュ のび太と天使と竜の輪舞   作:牢吏川波実

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chapter11 昔々あるところに

「うわうわうわぁ!」

「なんだこりゃぁ!?」

「これが、≪パラメイル≫ってやつの本当の使い方なのか! うわッ!! こんのぉぉぉ!!!」

 

 ≪パラメイル≫のシミュレーター。これは、上から、スネ夫、ジャイアンそしてドラえもんの反応である。スネ夫とジャイアンは、その圧倒的な速さに身体が付いて行かずに今にも振り落とされそうになっている。一方で、ドラえもんはこれまで数多くの“ひみつ道具”を扱って来たという経験が生かされているのか、最初は戸惑っていた物の、しかし途中からは根性のようなものを見せて何とかその体勢を維持させることに成功した。

 本来、彼らの使う≪パラメイル≫は、その操縦席に取り付けた“なんでも操縦機”を使用するいわば特注の≪パラメイル≫だ。しかし、当然ながらこのシミュレーターにはそんなもののデータが入っているわけもなく、結果的に本当に≪パラメイル≫に乗った時の訓練をやらされることとなってしまっていた。

 そのスピード、その身体にかかるGは、昨夜遊びで乗っていたそれとは全く違う物。以前似たような機械に乗って飛び回って遊んでいたことがあったが、それとも全然違う扱いづらさに、三人が戸惑うのも無理はない。

 

「……」

 

 一方、その様子をシミュレーター室の壁際から見ている少年がいた。のび太である。

 本来シミュレーターは部屋に八機存在しているので、ドラえもん達五人、そしてアンジュも含めて六人でシミュレーションを行う事が可能だ。しかし、今回はライダーとして不慣れな人間がシミュレーション初体験という事もあって、まずは、三人と二人に分けてシミュレーションを行った方がより確実に、そしてより精度が高いシミュレーションができるとサリアは考えたのである。

 特に、アンジュは隊列を乱すなどの問題行動の常連でもあるし、もしもシミュレーターでも同じようなことをすれば他の五人の士気にも関わると彼女は考えていた。

 結果、残ったのはのび太と静香、そしてアンジュ。なお、アンジュの隣にはいつも通りモモカもいる。アンジュは先ほどメイから新しいケーブルをスーツに付けてもらって―きっちりケーブル代とスーツの改造代は請求されるらしい―、来たばかりである。

 のび太は、そんな彼女の方をチラチラ見て、気にしている様子だった。ソレに気が付いた静香が聞く。

 

「のび太さん。さっきから変よ」

「いや、ただ……」

「ん?」

 

 その言葉が、アンジュにも聞こえていたのか、アンジュがのび太の方を向いた。今が、チャンスだ。ずっと聞きたかったことを聞こう。のび太は、勇気を出して言った。

 

「ねぇ、アンジュさん。昨日、ドラゴンを……殺してたでしょ?」

「えぇ、それがあたし達の仕事だから」

 

 そっけなく、いつものように答えたアンジュ。まるで、冷徹感が服を着ているような反応。いや、逆か。冷徹な心を服として着させられているかのような女性に対して、のび太はずばりと聞いた。

 

「その、辛くないの?」

「……」

 

 と。アンジュは、何も反応しなかった。

 

「のび太さん……」

 

 静香はそんな、彼の言葉の意図をすぐに理解した。分かっていたからだ。彼が、きっと、そんな言葉を発するのだと、知っていたから。

 

「だって、ドラゴンだって生きてるんだよ。ソレを殺すなんて……」

「だから何? あたし達を軽蔑するならすれば? ≪ノーマ≫になってからそう言うのは慣れてるし」

「≪ノーマ≫に、なってからって?」

 

 静香は、その言葉に違和感を覚えた。そう言えばさっき、エルシャが言っていた。『アンジュやヒルダと言う人のように、大きくなってから≪アルゼナル≫に来るのは珍しい事なのだ』と。つまり、彼女は大人になってから、この≪アルゼナル≫にきたのだろうか。

 そう静香が考えていた時だった。

 

「アンジュリーゼ様は、もともとミスルギ皇国の皇女なんです」

 

 と、モモカがアンジュの代わりに答えたのである。

 

「え?」

「つまり、お姫様?」

「モモカ! 勝手なこと言わないで!」

「申し訳ありません! アンジュリーゼ様!」

 

 とモモカの事を叱責するアンジュ。その声の中には、のび太が彼女から感じていた≪ソレ≫の感情は全くなく、本当に触れられたくない過去、という事なのだろう。しかし、一度聞いてしまった以上引くことができない。

 開けてはいけないパンドラの箱を開けてしまった。そんなときのように。のび太は、恐る恐る聞く。

 

「どう言う事なの? お姫様が、こんな場所にいるなんて……」

 

 その言葉に、アンジュは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべて言う。

 

「……昔々、あるところに何も知らない化け物がいました」

「え?」

 

 おとぎ話風に、自分の過去の事を。

 

「その化け物は、自分がそうとは知らないで周りの人間達に騙されて、普通の人間だと、思い込まされてきました」

 

 化け物、とはジル司令の言葉も踏まえると、≪ノーマ≫という人種の事を言っているのだろう。そう、≪マナ≫と言う便利な道具を使用できない人間たちの事を。

 

「ある日、化け物は人々の前でその本性を暴かれ、母親も……目の前で殺され、全てを奪い去られました」

「えっ……」

 

 静香が、悲鳴のような小さい声を上げた。母親を殺された。彼女は淡々と言ってのけたが、しかしその言葉を発した瞬間に一瞬だけ、アンジュが悲し気な表情をしたのを、二人は見逃さなかった。

 

「そして化け物はしかるべき場所に落とされて、ただただドラゴンを殺すための道具になりましたとさ。はい、おしまい。これで、満足かしら?」

「そんな……」

 

 と、微笑んだアンジュに対してのび太は唖然としている。元々ある国のお姫様が、悠々自適な暮らしをしていたはずの人間が、こんな場所に、ただただドラゴンを殺すための道具に落とされた。そんな悲しい記憶を、目の前の女性が持っているなんてと、只々悲しみの表情を抱いていた。

 ふと、その時静香はのび太がどうしてアンジュの事をこんなにも気にかけているのか、ソレに少しだけ見当がついていた。そう、悲しいからだ。

 彼女から、絶望の中に落とされてもそれでも必死であがく。そんな、悲しみを感じるからだ。自分も、実際に彼女の言葉を聞いてから分かった。アンジュが、自分の人生に悲観していると。アンジュは達観しているのではない。達観させられているのだと。

 そして今の生活に満足していない。本当にこのままドラゴンを殺し続ける生活をしていていいのかと、心の底では思っているのだと、二人は感じ取っていた。きっとそれは、二人ともいや、アンジュを含めて三人ともが同じ―――。

 

「次! のび太! 静香! アンジュ! シミュレーターに入って!」

 

 と、その時だ。サリアから声がかかった。それと同時に、シミュレーターの中からへとへとになって現れる二人と一人。

 

「はぁ、疲れたぁ」

「う、吐き気がしそう……」

「二人とも、しっかりして」

 

 ドラえもんは、やっぱりロボットだからか、それとも空を飛ぶ“ひみつ道具”を幾度となく使っているからなのか割と平気そうに見える。やはりこの辺り、彼の頑丈さの一片が見えるところであろう。

 

「みんな、大丈夫!?」

「ほら、行くわよ」

「あ、待ってください!」

 

 と、シミュレーターから出て来た三人を気遣う二人をよそに、さっさとシミュレーターの中に入っていったアンジュ。ソレを追いかけて、二人もまたシミュレーターの中に入っていった。

 本当の、≪パラメイル≫という≪兵器≫を、知るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、≪アルゼナル≫に来た新しい≪ノーマ≫。ソレも三人が男で、一匹が青狸と来たか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「面白い。迎え撃とうじゃないか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドラえもん」

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