【完結】映画 ドラえもんクロスアンジュ のび太と天使と竜の輪舞   作:牢吏川波実

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chapter12 殺された、だから私が殺し返す

「うへぇ、疲れたぁ……」

「のび太君大丈夫!?」

「はぁ、はぁ、はぁ、た、“タケコプター”で飛ぶのよりも難しいわ」

 

 シミュレーションが終わった直後、のび太はまるでアイスが溶けた時のように床に寝ころび、静香もまたそこまではいかないまでも立ち上がれなくなり座ってしまった。

 なお、彼女の言う“タケコプター”とは、ドラえもんのもつ“ひみつ道具”の中でも頻繁に使用されるもので、それを頭、あるいは身体のどこかに付けるだけで空を飛ぶことができる便利な道具。そう、以前に説明したうっかりズボンに付けたおかげでのび太が地面に落下した事件で使用された“ひみつ道具”なのだ。

 確かにあの道具じゃ、常にフルパワーで運転しない限り≪パラメイル≫に乗った時のようなGも風も受けないので、静香の言い分ももっともだろう。

 そんな二人の下に、タオルを落としたアンジュが、顔の汗を拭きながら言う。

 

「この程度で音を上げるなんて、あなた達、次の出撃で死ぬわよ」

「死!?」

 

 スネ夫は、アンジュの発した≪死≫という言葉にいたく反応した。当然だろう。彼らにとっては死と言う物はとても遠い存在。これまで数多く経験してきた冒険の中でもほとんど経験した事がないと言ってもいい物だったから。

 例外があるとするのならば、以前のび太とドラえもんが“ひみつ道具”を使って魔法世界を作った時に経験した、ある女性の母親のソレを、目の前で見た時。そして、夢の中で冒険をしていた時にのび太と静香自身が塵となってゲーム内で一度死んだ時。

 それに、風の子であるフー子が世界を守るためにその身を犠牲にしてくれた時。あの時も、凄く悲しんだ、のび太はその悲しみを心の中に刻み込んでいた。

 

「えぇ、因みに私の初出撃の時、私以外の新兵は二人とも死んだわ……そして」

 

 アンジュは、一度モモカが持ってきてくれた水を飲み干して、目を食いしばるような細い目をして言う。

 

「その時の隊長は、私が殺した」

「!?」

「こ、殺した……?」

 

 殺した。本当に、アンジュが、その時の隊長。今でいうところのサリアのポジションの人間を殺したと。本当に言うのだろうか。のび太には信じられなかった。

 

「事実よ」

「サリアさん……」

 

 そして、それを補完するかのようにサリアが言う。

 

「アンジュが敵前逃亡をしたために、ソレについて行ったココは死んで、ミランダはソレでパニックになってドラゴンに食い殺された。そして、ゾーラは、こいつに組み掴まれて、ドラゴンの餌食になった」

「昔の話よ……」

「ひでぇ……」

「さっきものび太に言ったけど、軽蔑するならすればいいわ……」

 

 といって、アンジュはジャイアンの言葉を一蹴すると、モモカと共に自室へと向かって行った。恐らく、今着ている普段とは違うライダースーツを脱ごうと考えているのだろう。

 

「待ってよ! アンジュさん!」

「あっ! のび太くん!」

 

 つい先ほどまではもう立てないと言うくらいにぐったりとしていたのび太は、そんなアンジュたちを追うために、立ち上がると、ゆっくりとではあるが走り始めた。そして、その姿はすぐに消えてなくなったのである。

 残された五人。静香は、サリアに確認するかのように聞く。

 

「サリアさん、今の話、本当なんですか?」

「えぇ、あいつのせいで三人も死んだ。なのにアレクトラは、あいつに、ヴィルキスを……」

「ゔぃるきす?」

「あれくとら?」

「……」

 

 その言葉を最後に、サリアは黙り込んでしまった。そう。三人も仲間を殺しておいて、どうして≪アレクトラ≫は、彼女に≪ヴィルキス≫を渡したのか。どうして、自分じゃなかったのか。そんな募りが、彼女の中で渦巻いていた。そんな彼女にそれ以上何かを聞くことなんて、不可能に近かった。

 

「ねぇ、待ってったら、アンジュさん!」

 

 一方で、のび太は何とか、すぐ近くの廊下にいたアンジュとモモカに追いつく。元から体力のないのび太は、そのとたんに安心したのか、ぜぇぜぇと肩から息をするように、そして膝に手をついて呼吸をする。

 

「なによ、話すことはもう何もないわよ」

 

 というアンジュに対して、呼吸を整えたのび太は、再び聞いた。

 

「その……ドラゴンを殺すの、本当にそれでいいんですか!」

「さっきも言ったでしょ。それが、あたしの仕事。それしか、あたしにはできないから」

 

 その答えは、さっきと変わらない。自分にはそれしかないから。自分に今できる事。自分が生き残るためにできる事はそれしかない。ただ、それだけだった。

 

「でも……そんなのかわいそうだよ」

「同情してくれるの? でも結構よ、アタシは……」

「違うよ、僕はただ!」

「ただ、何?」

「……」

 

 のび太は、そこで黙り込んでしまった。もしこの言葉を出してしまったら、取り返しがつかなくなる。そう思っていたから。きっと、弱虫だと思われる。軟弱者とののしられるかもしれない。でも、それでも彼には、アンジュに、ひいては≪アルゼナル≫のライダーたちに言いたいことがあった。

 

「人の身勝手でドラゴンを殺すのが嫌なだけだよ」

「ッ!」

「のび太さん……」

 

 瞬間、アンジュの顔色が一瞬変わった。ソレに気が付けたのは、こちらも、アンジュとずっと一緒に、そう、生まれた時からずっとその傍にいてくれていたモモカだけだった。

 そして、アンジュはのび太から顔を背けて言う。

 

「なら、教えてちょうだい。その人間の身勝手で、ここに送られた私たちは、どうしてドラゴンと戦っているの?」

「それは……」

 

 確かに、≪マナ≫なんて物が使えないだけで他の人間たちと区別されて、勝手にこんな僻地に飛ばされて、そこでドラゴンとの殺し合いをさせられている。すべては、人間の身勝手のおかげで。そんな自分たちに、身勝手でドラゴンを殺すが嫌だと。

 馬鹿にしている。それに、あまりにも―――。そう考えたアンジュはやはり背を向けたままで言った。

 

「答えられないなら、私たちのやることに口を出さないで、それじゃ」

 

 そして彼女はモモカと共にその場から去ろうとした。

 

「待って!」

 

 と言って、のび太はアンジュに食い下がろうとするが、そんな彼に背後から声をかけられる。

 

「のび太くん!」

「ドラえもん……皆……」

 

 そこにいたのは、サリアの話を聞いてからのび太の事を追いかけて来た仲間たち四人であった。

 

「この世界にはこの世界の常識があるんだ。僕たちが口を出しすぎるのはよくないよ」

「それに、アンジュさん達はドラゴンに仲間をたくさん殺されてきたの。今更わたしたちが何か言ってももう……」

「そうだけど、でも……」

 

 分かっているのだ。自分の言葉もまた、身勝手な言葉だという事くらい。ドラゴンに対する憎しみの感情が、この≪アルゼナル≫の中で渦巻いているという事は、分かっているのだ。でも、心で分かっていても、どうしても抑えきれない感情が彼の中にはあった。

 確かに、彼のいう事は正論の一つなのかもしれない。しかし、アンジュの言った言葉。そして、静香の言った悲しみの連鎖の言葉は、どちらも事実。

 そして、それがこの世界の常識であるのもまた事実。自分たちの勝手な言い分で、それを捻じ曲げるなんてこと、できはしないのだ。してはならないのだ。異世界から来た自分たちが、勝手にその世界の常識を捻じ曲げるなんて身勝手な行動するなんて、本来はあり得ない話なのだ。

 

「せめてそのドラゴンって奴らと話ができればいいんだけどな」

「そんな無茶言わないでよジャイアン! 相手は凶暴なドラゴンなんだよ! 襲ってくる相手に何を言っても意味ないでしょ!?」

「襲ってくる……か」

 

 そう、襲ってくるのだ。ドラゴンは、彼らに、否応がなしに襲い掛かってくる。昨晩のように、殺しにかかってくる。それなのに、まだ綺麗事を言うのか。もしかしたら、アンジュの言葉にはそんな意味も込められているような気がした。

 もしも、そうなった時、自分はどうするのだろう。自分は、ドラゴンを殺すことができるのだろうか。

 自分は、果たして。

 

「!」

 

 その時だった。廊下中の赤ランプが点灯し、警報音が鳴り響いたのは。

 

「な、なんだなんだ!?」

「あなた達! すぐに発進デッキに集合して!」

 

 と、背後から現れたサリアに言われたのび太たち。

 

「え、ソレって……」

 

 同時に自室に帰ろうとしていたアンジュもまた前から現れて言った。

 

「えぇ、ドラゴンが、現れるわ」

「ど、ドラゴンが……」

 

 五人の顔に、緊張の色が走った。ついに、実戦の時が来たのである。




 夢幻三剣士でもありましたよね、のび太の、人間の身勝手でドラゴンを殺したくないという言葉。でも、あの時はわざわざ人間の方からドラゴンの方に出向いて戦った人間の身勝手さに怒った言葉。
 果たして、相手の方から襲ってくる。そんなドラゴンを相手に彼の意志はどこまで通用するのか。
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