【完結】映画 ドラえもんクロスアンジュ のび太と天使と竜の輪舞   作:牢吏川波実

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chapter13 初陣、のび太のピンチ

 シミュレーターの前に一度来た発進デッキに再び現れた五人。その前には、先ほどまでの制服ではない。ライダースーツに着替えた他の五人がすでに整列していた。やはり、そのスーツはかなり色気があり、特にエルシャのソレは彼女の胸の大きさもあって一番色っぽいと思える。

 発進デッキもかなり慌ただしいことになっている。大勢の、メイを含めた整備班と思わしきオレンジ色の作業服に身を包んだ人間たちがそれぞれに≪パラメイル≫の近くを動いたり、最終調整をしたりと、騒然という言葉がぴったりと合うような状況になっていた。

 のび太たちは、既に集まっていた中隊員五人の後ろに立ち、アンジュもまた、隊列に加わった。

 

「陣形は私が先頭でVの字陣形に、後ろにヒルダ、ヴィヴィアン。それにエルシャ、ロザリー、クリスと続いて。アンジュと新兵五人は一番後ろよ」

『イェスマム!』

「い、いぇすまむ……ってなに?」

「マム、つまり、女性の上官に対して兵隊さんがする返事の事だよ。ほら、よくテレビとかでイェッサーとか言うでしょ? あれは、男性に言う物なんだよ」

「へぇ……」

 

 と言っても、ここにいるのは当然のようにのび太たちを除くと全員が女性であるため、イェッサーなんて言葉を使う機会は天地がひっくり返っても絶対にないだろう。

 

「ふん、いい気味だ」

「あなた達。アイツに殺されないように気をつけた方がいいよ」

「ひぇぇぇ」

 

 と言ったのは、ロザリーとクリス。そして、その言葉に先ほど初陣で仲間を三人も殺したというアンジュとサリアの言葉が蘇って小さく悲鳴を上げるスネ夫。そして、ロザリーたちはこれをチャンスと考えていた。

 ロザリーやクリスにとって、アンジュという存在は目の上のたんこぶ的な存在だ。なぜなら、この≪アルゼナル≫は完全歩合制。それも、弾薬の補充や燃料の補充などもタダではなく出撃の度に給料から差っ引かれて行くというひどいものだ。

 だと言うのに、アンジュが来てからという物、ほとんど独断専行に近い形でドラゴンを狩りまくるおかげで出撃回数に似合わないお金しか受け取ることができていなかった者がいる。主にロザリーとクリスだ。

 今回初陣となるドラえもん達五人の、いわば御守役に命じられたアンジュは、独断専行が許されなくなった。だからこそ、今回ばかりは一儲けできると、そう考えていたのだ。ある意味で、現実的と言うか、お金にがめついと言うべきか。

 

「……」

 

 しかし、そんな煽りにも似た言葉を投げかけられても、アンジュは一切顔色を変えることはなかった。それは、のび太の目から見ても明らかだった。

 

「のび太、行くわよ。出撃準備。他の皆もいいわね」

「は、はい!」

 

 と言うアンジュの言葉を受けた五人はそれぞれ自分たちの≪パラメイル≫に搭乗する。そして、アンジュは―――。

 

「あれが、ヴィルキス?」

 

 白を主体として、ところどころに青色がちりばめられた機体へと乗り込むと。慣れた手つきケーブルを背部にあるコネクターに接続して、発進準備を整える。

 そして、ドラえもん達の機体に後付けされた通信機から、女性の声が響いた。後から聞くと、それはアルゼナル司令ジルやエマ監察官がいる指令室にいるオペレーターの声だったそうだ。

 

『全機発進準備完了。誘導員は発進デッキより退避。進路クリア。発進どうぞ』

「サリア隊出撃する!」

 

 こうして彼らは飛び立った。青い空に向けて。さっきまでの偽物じゃない。どこまでもどこまでも続くと錯覚するほどに、本物の大きな海の上へと。

 飛び立ったのである。

 

「ひ、ひえぇぇぇ!!」

 

 さっきまでとは違う。本物の空。ソレに怯え切っているスネ夫は、ただ出撃しただけでも悲鳴を上げてしまう。そんなスネ夫に、ドラえもんは通信を入れる。

 

「慌てる事はない! 僕たちの服は宇宙服のような物だ! だから風の抵抗はあっても殆ど身体には通ってないはずだ!」

 

 そう、彼らの服は完全防備の宇宙服と言っても過言ではない。だからこそ、他の薄着のライダーとは違って身体に受ける風の抵抗も少ないし、Gの影響もシミュレーターの時よりも少なくなっている。しかしだ。

 

「のび太さん!」

 

 例えどれだけシミュレーションを行ったとしても、例えどれだけ便利な道具があったとしても、ソレを使いこなせなければ意味はないのだ。

 

「うわぁうわぁうわぁ!」

「チッ」

 

 やはりと言うかなんというか、サリアはシミュレーションの時から感じていた危惧が現実になったことに舌打ちをする。

 シミュレーションを行った時、のび太以外の四人は確かに苦労はしていたものの十分に≪パラメイル≫を乗りこなすことに成功していた。もちろん、ドラえもんや静香のように上手に乗りこなす者から、ジャイアンスネ夫のように右往左往しながらも徐々に慣れていた者もいる。

 しかし、のび太は違った。彼は結局、シミュレーターの訓練が終わるまでの間に≪パラメイル≫を人並み以上に扱うことができずに、何度も落下していた。そういえば、昨晩も無茶苦茶な飛び方をしていたために自分達がけん引していた機体が、のび太の物だったなと考えながら、サリアは思う。

 今回の初陣で死ぬのは、のび太かもしれない、と。

 

「のび太くん! 上手くバランスを取って! そうすれば乗りこなせるはずだ!!」

「そんな事言われても! うわぁ!!」

 

 ドラえもんの言葉に対し、何とか体勢を立て直そうとするのび太。しかし、そもそもどう体勢を取ったらいいのか分からないが故に、ついには海面すれすれまで落ちて行くことになる。

 このスピードで海面にぶつかったら、機体が壊れるだけじゃすまない。そう、ドラえもんが、そしてサリアが考えた時だった。

 

「くっ!」

 

 一足先に飛び出したのは、アンジュである。アンジュは、ヴィルキスを人型の≪アサルトモード≫に変形させると、海に落ちそうになっていたのび太を下から支えるような形で救出する。そして。

 

「あ、アンジュさん!」

「しっかりしなさい! ≪エアリア≫の要領で、って言っても≪ノーマ≫には分からないか……」

 

 ≪エアリア≫とは、彼女の国。ミスルギ皇国やその他多くの国々で行われてるメジャーなスポーツだ。エアバイクというどこか≪パラメイル≫と操縦の仕方と言うか、バランスのかけ方が似ているソレは、アンジュにとっては幸か不幸か、彼女の≪パラメイル≫適正の向上に一役を担っており。彼女は、そのために最初から≪パラメイル≫を上手く操作することができていたのだ。

 しかし、その≪エアリア≫が彼女たちの国で行われているスポーツであるという事からも分かる通り、そのエアバイクの使用には≪マナ≫が必要とされている。皇女時代のアンジュは、ソレをモモカにまかせっきりだった―正確に言うとマナが使えないという事をモモカが隠すために専念していた―ため、ある意味で体重移動、そしてボールをキャッチするためのスティックを振るうことに集中していた。故に、このバランス重視の機体を乗りこなせることができたと言ってもいい。

 だからこそ、≪ノーマ≫である者に自分の経験を伝えたところで何の役にも立たない。では、どうする。どう、彼に教えるか。アンジュは、一瞬目をつむった後に言う。

 

「とりあえず、重心を真ん中に! 少しでもずれたら左右にバランスが崩れるわ!」

「くっ! こう!? ッ!!」

「左にずれてる! 真ん中って言ったでしょ! 体の真ん中が、機体の真ん中を貫くのをイメージして! ≪パラメイル≫と自分が一体化しているイメージ! 今は飛ぶことだけを考えて! それ以外の事は考えない!!」

「僕と、≪パラメイル≫が、一体化……」

 

 自分の身体が≪パラメイル≫。≪パラメイル≫の身体が自分。自分の心もまた同じく、この≪パラメイル≫と同期して、≪パラメイル≫の真ん中が自分の真ん中を通るイメージで―――。

 

「背中に、翼があるように……自分が、鳥になったように! 飛びなさい!! のび太!!」

「ッ、はぁぁぁぁぁ!!!」

 

 その瞬間であった。のび太の身体が、いやのび太の≪パラメイル≫の動きが安定し、他の仲間たちに追いついたのは。

 

「と、飛べる! 上手く飛べるようになったよ!」

「よかったね、のび太くん!」

 

 上手く、飛べるようになった。そう、確かにドラえもんの目から見ても、と言うよりも誰の目で見ても明らかだ。さっきまで全く乗りこなせずに墜落しそうになっていた状態からは考えられない程の急成長っぷりに、誰もが驚くしかない。

 いや、それもこれも全部―――。

 

「ありがとう! アンジュさんも!」

「……別に、礼を言われるほどじゃないわ」

「アンジュさん……」

 

 彼女の、おかげだ。やっぱり、とのび太と静香は思っていた。そのそっけない態度、やることを終えたらすぐに隊列に戻っていったその姿から、一体静香が、そしてのび太がなにを感じたのか。ソレを考えることは非常に難しい事であろう。

 

「全機前方注意! ドラゴンのお出ましよ!」

 

 少なくとも、これから殺し合いをすることになる彼女たちにとっては。




 のび太のピンチ回かと思いきや、アンジュによるのび太へのパラメイル操縦教育回でした。
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