【完結】映画 ドラえもんクロスアンジュ のび太と天使と竜の輪舞 作:牢吏川波実
「わわわわわわ、たくさん来たぁ!?」
スネ夫が狼狽する、のはいつもの事なのだが、確かに今回のドラゴンも昨晩のように大量にいるようだ。
昨日は夜であったこともあり、その体格、体色をじっくりと眺めることはできなかった。
しかし、今は真昼であるためにその姿がはっきりと見える。どうやら、ドラゴンにも種類と言う物があるそうだ。ピンク色をした小さいドラゴンと、黒色の大きなドラゴン。ドラゴンについての講義の事を考えると、前述したピンク色のドラゴンが≪スクーナー級≫と呼ばれる物。黒色の巨大な、たぶん百メートルはありそうな巨体をもっているのが≪ガレオン級≫と言う物なのだろう。
見たところ、≪ガレオン級≫という個体が二体に、それ以外の数十のドラゴンは全て≪スクーナー級≫のようだ。という事は、≪ガレオン級≫という個体だけに気を付ければいいのか。いや、昨晩の事を考えると、≪スクーナー級≫も十分に脅威になりうる存在。特に、≪パラメイル≫は、飛翔形態の≪フライトモード≫の時には、その身体が完全に露出しているので、突撃されるだけでも危険である。
どちらにしても、命がけの戦いになることは明らかだった。
「あたしとヴィヴィアン、ヒルダが仕掛ける、他の機体は援護!」
『イェスマム!』
その言葉に、この部隊の切り込み隊長であるサリア、ヴィヴィアン、そしてヒルダがそれぞれの武器である剣を振るい、恐らくブーメラン型の武器とも思われる物を投げて、≪スクーナー級≫を次々と殺していく。
そんな彼女たちに対して、これ以上仲間を殺されてはならないと思ったのか、数多くの≪スクーナー級≫が昨日のび太に群がってきていたように、そしてまるでスズメバチに対抗するミツバチのように集まっていく。
そこに、ロザリーやエルシャ、クリスの駆る≪パラメイル≫による砲撃やライフルによる援護射撃が襲い掛かる。さらに、前衛にいた三人もそもそも操縦技術に目を見張る物があったため、一切、掠ることもせずにそのドラゴンの群れの攻撃を次々と避け、攻撃する。
その時、一番の巨体を持つ≪ガレオン級≫が動いた。他の≪スクーナー級≫のドラゴンを下がらせると一体突進してきたのである。
それに対し、サリアたちはすぐにロザリーたちがいる位置まで下がると、持っていたアサルトライフルを乱射。しかし、そのどれもが≪ガレオン級≫には当たっていない様子。どうやら、魔法陣のようなものを出して、攻撃を防いでいるようだ。しかし、それも完全ではない。ところどころ、急所は外れているだろうが弾丸があたり、血が噴き出しているのが見て取れる。
そして―――。
「総員! 凍結バレット! 装填!!」
そのサリアの言葉にそれぞれの機体の左腕から緑色の光が溢れだす。≪凍結バレット≫、それは全ての≪パラメイル≫に標準装備されている対ドラゴン用の兵装であり、それを用いることによって敵ドラゴンを凍結させ、捕獲することができる武装。
「総員! 突撃!!」
その、サリアの言葉に、≪パラメイル≫各機は、≪ガレオン級≫へと突撃していく。途中、≪ガレオン級≫の身体中に光の点のようなものが現れて、それが弾幕を張るかのように彼女たちに襲い掛かるが、しかしそれらも避け、彼女たちは≪ガレオン級≫に向けて左手に宿した弾を撃ちこんだ。瞬間、凍っていくその体躯。
凍らされてなるものかともがき、飛ぶその姿は、どこか悲しい物に見えた。そう、戦闘領域よりも後方で見守っていたのび太たちは思っていた。
「す、凄いわ……」
「うん、でも……」
この戦闘、ドラえもん達五人はまだ一つの弾も放っていなかった。前述した通りに、彼らは戦闘領域からやや離れた場所に陣取っており、ほとんど観戦に近い形で、サリアたちの戦いを見ていたのだ。アンジュの、指示で。
次々とドラゴンが殺されて行く。その姿に、優しいのび太が、そして静香たちが何も思わないことはなかった。
どうして、どうして人間の身勝手な都合で、襲い掛かってくるからとはいえ、ドラゴンを、生き物を殺さなければならないのか。どうして、ドラゴンは人間を襲ってくるのか。分からない。のび太には何も分からなかった。分かろうとしても、できなかった。自分が、この世界の人間じゃないが故に。
アンジュたちも、ドラゴンが自分たちの世界とはまた別の世界の怪物、駆逐すべき相手だと、そう信じているが故に。
「うわぁ! こっちにも来た!!?」
「ッ!」
と、その時だ。さすがに遠くにいたとはいえ気が付かれてしまったのだろう。≪スクーナー級≫の内の何体かが、自分たちの方に向って来た。その中には、≪ガレオン級≫の姿が見える。サリアたちは、もう一体の≪ガレオン級≫を倒すのに手いっぱいで、こちらにまで手が回っていない様子だ。
という事は、自分たちが、やらなければならないのか。そう、自分たちが、この手で―――。のび太は人型の形態である≪アサルトモード≫に移行すると、その銃口をドラゴンに向けた。
“なんでも操縦機”には、引き金、のようなものはないがボタンがあり、それが機体の持つ銃と同期しているという事は事前に確認していた。だから、そのまま撃てば、きっとドラゴンを、≪殺す事≫ができるはず。しかし―――。
「あッ……」
のび太は、引き金を引くことができなかった。
「!」
そんなのび太の姿を見たアンジュは、すぐさまアサルトライフルを構えると、放つ。昨日のように、躊躇なくドラゴンを殺して、言ったのだ。
「何ぼさっとしてるの! 引き金を引きなさい! のび太!」
と。
でも、しかし、それでも、僕は。
「やっぱり、出来ないよ、僕には」
「!?」
ボソッと、独り言のように呟いたのび太の言葉はアンジュ、引いてはドラえもん達四人の耳にも聞こえていた。それに続くように、のび太は叫ぶ。
「僕には! ドラゴンを殺すことなんてできない!」
「のび太くん……」
「のび太さん……」
その言葉に、彼の性格。そして、彼の心情を察した四人は彼の名を呼ぶ。そして、アンジュもまた、一瞬だけその動きを止め、次の≪スクーナー級≫が到達するまで時間があることを確認すると、そのハッチを開けて言った。
「のび太。殺さなきゃ、殺されるのよ、ソレでもいいの?」
その言葉は、通信機を通って、のび太にも聞こえていた。本当なら、アンジュも、そんな危険な真似をせずに通信することだけでよかったはず。しかしそれでも、危険を承知でその身体を出したのは、確かめたかったのかもしれない。彼の、覚悟を。
「ドラゴンだって、生き物なんだ! それを殺すなんて……僕にはできないよ!」
と、何度も何度も聞いた。ドラゴンがかわいそう。ドラゴンを殺せない。ドラゴンを殺したくない。そんな彼の言葉に、一瞬だけ顔を歪めたアンジュは、しかし厳しい顔つきで言った。
「優しいのね……貴方」
「え?」
どうして、そんな言葉を言うのだろう。だって、それは―――。
「でも、その優しさは、いらない……」
と言うと、アンジュは再びコックピットの中に入ってハッチを閉じると、向かってくる≪スクーナー級≫に銃口を向けると言った。
「私は、ドラゴンを殺すだけよ!」
「アンジュさん……」
そして、アンジュもまた、ドラゴン狩りを始めるのであった。
「僕は、僕は……」
確信に変わった。のび太は、そう思った。彼女も、同じなのだ。自分と、同じなのだと。だったら、なおさら、可哀そうだ。そう、のび太は考えていた。
「のび太くん! このままじゃアンジュさんも危険だよ!」
と、ドラえもんが言う。確かに、アンジュは今、ドラえもん達の方に向かって来た全ての≪スクーナー級≫そして、大型の≪ガレオン級≫に一人で立ち向かっているのだ。サリアたちも前述したとおりに一体の≪ガレオン級≫に手いっぱいで、援軍は望めない。
このままだとアンジュが危険だ。分かっている。でも、のび太は言った。
「分かってる! でも、せめて、せめてドラゴンの言葉を分かってあげられたら……」
ドラゴンが何を思っているのか。どうしてこの世界に侵攻するのか。どうして、人間を襲うのか。それさえ分かってあげられたら。そう呟いたのび太の言葉に、ドラえもんはすぐさま反応した。
「ドラゴンの言葉……そうだ!」
と言って彼は、“四次元ポケット”の中身を探る。今更だが、彼のライダースーツだけ、他の五人とは違って腹部に大きな穴が開いているこれまた別物のスーツとなっている。これは、前述の“四次元ポケット”が腹部についているためであり、“ひみつ道具”を取り出すために必要な処置だったのだ。
そして、それから数秒後、『あった!』の声とともに、彼は一つの“ひみつ道具”を取り出す。
「“動物語ヘッドフォン”!! これを耳に当てれば動物が何を喋ってるのか分かるんだ! よしっと!」
と、彼はサイズがぴったりのヘルメットを頭が伸びる勢いで外すと、その“動物語ヘッドフォン”を頭に取り付ける。多分その姿を実際見た何人かの人間はこう思うだろう。
そこが、耳だったのかと。
そして―――。
『アウラ様は、どこ?』
『早く、アウラ様を助けないと』
『アウラ様……』
「アウラ、様?」
これが、全ての戦いの終わりへの、始まりであった。
ドラゴンは動物? えぇ、動物ですよ。広義的な意味では、ね。