【完結】映画 ドラえもんクロスアンジュ のび太と天使と竜の輪舞 作:牢吏川波実
聞いた。聞こえたぞ。ドラゴンの声が。
鳴き声に重なって、言葉を発している。
一体それが何を意味するものなのか、この時のドラえもんには、そしてこの時のアンジュたちはまだ知らなかった。けど、少なくともそれが彼らドラゴンの目的なのは確か。
いや、この声色は女性。しかもほぼ全部のドラゴンの声がそう変換されている。と言う事はもしかしてこのドラゴンは全部―――。
「ドラえもん!」
「うわぁ!?」
とその時だ。ドラゴンの一体がドラえもんの方に向かっていた。のび太の声で我に返ったドラえもんは、間一髪で避けると、のび太たちに向って叫んだ。
「ッ! 皆! どうやら、このドラゴン達にはなにかやるべき事があるみたいだ!」
「何かって何!?」
「アウラ様って言うのに関係があるみたいだ!」
と、叫んだドラえもん。そして―――。
「アウラ!?」
『アウラ!?』
『アウラ!?』
その言葉を反復したのび太の言葉に、ドラゴンたちは急にその動きを止めた。いや、正確に言うとそれまで自分たちに向って突撃していたのが、その場を滑空し始めた、つまり襲わなくなったのだ。襲われなくなったのだ。
『あなた方、今アウラと……』
「え……」
ドラゴンたちが、困惑した様子で、のび太の事を見つめる。いや、正確に言うとのび太が乗っている≪パラメイル≫の顔と言った方がいいのかもしれない。
ソレを見たのび太は、その場に浮くように操作すると、ハッチを開けて、その姿をドラゴンたちの前に出した。
「のび太! 危ない!」
ドラゴンの群れの中でそんな危険な行為、やっていいはずがない。アンジュはすぐにのび太を助けようとアサルトライフルをのび太の周りで滑空しているドラゴンへと向けた。
しかし。
「待って! 皆! 話を聞いて!! ドラゴンさん達も、アウラってモノのこと教えて!!」
というドラえもんのスピーカーを通したような大声に、アンジュはその引き金から指を離した。離してしまった。本来だったらそんなことしない。目の前にドラゴンがいると言うのに、ソレを殺さないなんて行為は普通しない。
そう、いつもの彼女だったらしなかった事。でも、どうしてだろう。その引き金を引く気には、ならなかった。その理由を、彼女はまだ知らない。
『!?』
「え……」
「ドラゴンの動きが、止まった?」
そして、遠くの方で、≪ガレオン級≫を仕留め終え、救援に向かっていたサリアやヒルダたちもみた。数多くのドラゴンが、のび太たちの周囲を周るだけで、襲ってこない姿を。こんなもの、前代未聞だ。
彼女たちにとって、ドラゴンとは自分たちの敵。自分たちが狩るべき生き物。そうでなければ殺されてしまう。そう、昔から教えられてきた。でも、それが一切襲い掛かって来ず、ドラえもんやのび太、更にはアンジュの周りを自由に滑空しているのだ。それは、もはや異様な光景であると言わざるを得なかった。
「のび太君! それに≪アルゼナル≫のみんなもこれを頭に!」
と言って、ドラえもんは人数分の“動物語ヘッドフォン”を取り出すと、各々に投げ渡した。
簡単に≪投げ渡した≫と書いたが、しかし動き続けているサリアたちの≪パラメイル≫に向けて正確にヘッドフォンを投げるあたり、彼のコントロールの良さと言う物が分かる。
『あなた達、アウラ様のことを知ってるの?』
「ど、ドラゴンが口聞いた!?」
「嘘……」
ロザリーたちは衝撃を受けた。ドラゴンが、人の言葉をしゃべっているという事に。すでにドラえもんが説明したが、この“ひみつ道具”は“動物語ヘッドフォン”。その名前の通りにどんな動物の言葉でも人間が理解できる言葉に変換することができる、いわば“翻訳こんにゃく”の動物語バージョンのようなものだ。
「君達は、誰? どうして、人を襲うの……」
『それは……アウラ様を助け出すため……』
「助け出す……」
のび太は聞く。一体のドラゴンに、どうして人を襲うのかと。しかし、帰ってきた言葉は、ある意味では答えであり、ある意味では答えになっていない物。しかし、一つだけ確かなことは、ドラゴンたちにも、なにか理由があると言う事だ。
『何をしている! 早くドラゴンを殲滅しろ!』
「い、イェスマム!」
と、その様子を指令室から観察していた司令官のジルが叱責する。考えてみたら、ドラゴンたちはその動きをほとんど止めて、今攻撃すれば簡単に仕留められる。彼女の言う通り、ドラゴンたちを殲滅するチャンスなのだ。
サリアは、その銃口をドラゴンに向けようとした。
しかし。
「ッ!?」
「……」
逆に、アンジュが、ヴィルキスが、サリアに銃口を向ける。本来そんなことすれば懲罰物の行為であるのだが、しかし彼女はそんなこと、構いはしなかった。
もしかしたら、彼女は知りたかったのかもしれない。信じたかったのかもしれない。のび太の、優しさを。その結果、どんな言葉が出てくるのかを。そして、この戦いの意味と、自分たちが戦ってきた理由を。
「アウラ? ソレって何?」
『アウラ様は、我らの偉大なる始祖』
『私達が、人間から奪い返すべき存在』
「奪い返す?」
奪い返す。と言う言葉に静香は引っかかった。奪い、返す。という事は、人間が、ドラゴンたちから何かを奪ってしまったという事を意味するからだ。でも、一体何を。
「どう言う事? 人間が、あなた達ドラゴンから何かを奪ったの?」
『始祖アウラ、そして我々の同胞の命……』
「ッ……」
同胞。その言葉を発した時、ドラゴンたちは、サリアたち≪パラメイル第一中隊≫の方を向いた。つまるところ、ドラゴンたちが奪われた物は、そのアウラと言うドラゴンの何か。
そして、自分たちの仲間であるドラゴンの命。それを奪った人間たちに対して、敵意を向けているのだ。そう、アンジュは理解した。
『こうして、我々の話を聞いてくれる者に出会えたのも何かの運命』
「え?」
『着いてきてください。我々と一緒に』
と言うと、ドラゴンたちは空に空いた穴。≪シンギュラー≫の向こう側へと帰っていく。
「着いてこいって……」
サリアたちは困惑するしかなかった。それもそうだろう。≪シンギュラー≫の向こう側、ドラゴンたちが来る世界なんて、彼女たちにとって、いや誰にとっても未知の領域。そんな世界に、誰が好き好んでいく物だろうか。もしかしたら、行ってすぐに殺されてしまうかもしれない。そんな世界に行くお人よしがどこに―――。
「うん、分かった!」
ここにいた。
「お前、本気か!?」
「だって、話がしたいって言ってるんだ! だったら行ってあげなきゃ!」
ヒルダの言葉に、≪シンギュラー≫へと向かいながら笑顔で言ったのび太。それは、その裏に何があるのか全然考えていない。まさにお人よしそのものの顔つきだった。そして、その言葉に反応したのは当然―――。
「よし、俺ものび太についていくぜ!」
「私も!」
「僕だって!」
「ま、待ってよ皆! 僕も行く!」
のび太の友達四人衆だった。
彼らは、なんの疑いもなくドラゴンと、のび太の後を追った。彼らだからこそ、できた行動。のび太の事を信じているから大丈夫。そう思ったからこその行動だった。
「待ちなさい!」
サリアは、勝手に行動し、穴の向こう側へと消えていくドラえもん達に向ってそう叫んだ。しかし、その時にはもう手遅れで、彼らはもう、自分たちの通信が届かないところまで行ってしまった。
そして、≪シンギュラー≫はゆっくりと閉じられていく。ゆっくりと、しかしいつも通りに収縮し始めるソレ。
果たしてこのままでいいのか。このまま、彼らだけを向こう側の世界にやって、本当にいいのか。そう思考した≪彼女≫の行動は、誰にも想像できない物であった。
「……ッ!」
「アンジュ!?」
アンジュは、ヴィルキスを≪フライトモード≫にすると、閉じようとしている≪シンギュラー≫へと飛び込んでいった。あまりにもお人好しすぎるのび太たちを守るために。そして、自分たちが戦っている。その≪本当の理由≫である≪アウラ≫と言う物の正体を知るために。
彼女は、決断したのだ。
「面白そう! 私も行く!」
「あ、ダメよ! ヴィヴィちゃん!」
「ヴィヴィアン! エルシャ!!」
と言って、何も考えてなさそうなヴィヴィアンがアンジュの後を追い、さらに、この部隊の保護者的存在であるエルシャもまた、勝手な行動をする七人を追って≪シンギュラー≫の向こう側へと消えていった。
「≪シンギュラー≫が、閉じる……」
そして、まるで示し合わせたかのように≪シンギュラー≫は閉じ、その場には飛行するサリアたちの≪パラメイル≫と、無数のドラゴンの死体。そして、氷漬けになった≪ガレオン級≫のドラゴンの死体しか、残っていなかった。
サリアは、指令室に通信を開くと報告する。
「……こちらサリア隊。ドラゴンをロスト、並びに新兵五人とヴィヴィアン、エルシャ、そしてヴィルキスも、≪シンギュラー≫の向こうに……」
『……そうか』
果たして、その時のジル司令は何を考えていたのだろうか。重たい沈黙の末発せられたその言葉を最後に、今回の討伐任務は終了し、サリアたちは、氷漬けにした≪ガレオン級≫の回収を開始する。
その心の中に、何かもやもやとした感情をもって。
こうして、極普通のいつもの任務のはずだったソレは、≪ドラえもん、のび太、静香、スネ夫、ジャイアンの新兵五人とヴィヴィアン、エルシャ、アンジュ。そして何よりヴィルキスの行方不明≫という、とても重い代償をもって、終了した。そう、サリアは後の隊長日誌に書き記している。
問答無用で襲いかかるドラゴン。でも、それをアンジュが相手をしてくれたおかげで、彼女が一人で頑張っていたおかげで、彼らは話し合う余裕を作ることができた。あと、相手が話のわかるドラゴンでよかった。
なお向こうの世界に行く面子、ドラえもん達の他アンジュ、ヴィヴィアンはなんとなく原作の流れも含めて予想できてたと思いますが、まさかエルシャまで行くとは、読めなかったこの作者の目を持ってしても(いや、これマジです。当初前者七名だけだったのに、エルシャの性格なら追いかけるかもなってなりまして、その結果後々とんでもねぇ事になっちまった)。