【完結】映画 ドラえもんクロスアンジュ のび太と天使と竜の輪舞   作:牢吏川波実

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chapter17 サラマンディーネ

 宮殿の中、と言うよりはまだ宮殿の庭と言った方がいいだろうか。その場所は、入口と同じ石畳の道があり、とても広い緑の芝が囲んでいた。それに上空から見た時にも見た緑瓦に木でできた通路。そして、石畳の道のすぐそばにある水飲み場のようなところに柄杓が置いているところは、どこか神社で参拝する前にその口や手を清める手水舎に似ていた。

 そう、まさしく自分たちが暮らしていた二十一世紀の日本の神社。ドラえもん達にはそう思えて仕方がなかった。≪パラメイル≫各機から降ろされた後、サラマンディーネと名乗った女性を先頭にし、宮殿の入口をくぐった。それから数分してから、二人の女性が現れた。

 

「サラマンディーネ様!」

「サラマンディーネ様が自ら出向かなくても私達が」

「良いのです。一度、話をしてみたかったのですから」

 

 と言って現れたのは、サラマンディーネの側近。一人は≪ナーガ≫、もう一人は≪カナメ≫であると、サラマンディーネは説明する。

 この二人もそうだ。そう、アンジュは思っていた。少しだけ沸騰していた頭が落ち着いてきたのか、じっくりとこの場にいる女性たちの容姿を観察できる余裕が出て来た。すると、この世界に来て見た人間たちにある特徴があるのを見つけた。

 その背中に生えている小さな翼と、おしりから出ている尻尾である。誰もが、桃色から赤色の中間色のような色の翼と尻尾を持ち、誰もそれを不思議に思っていない。そして、≪あの言葉≫まさか、まさかまさか。アンジュはサラマンディーネに聞いた。

 

「ねぇ、ドラゴンの一人って、言ったわよね、どう言う事?」

「……」

「ねぇ、どう言う事なのよ!?」

 

 アンジュは、まるで叫ぶかのように、そして答えを急かすように聞いた。もう、耐えられなかったのかもしれない。この自分の脳内を闊歩する数多くの疑問に。数多くの、もしかしたら不都合な事実に。そして、自分たちが行って来た、その≪罪≫の真実に。

 

「その言葉の通りです。アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギ」

「!? なんで、私の名前を……」

 

 サラマンディーネは立ち止まると、一人の女性の名前を語った。それは、確かに自分がミスルギ皇国でまだ≪人間として暮らしていた≫時の名前だった。何故この世界の人間が、自分のフルネームを知っているのか。サラマンディーネは続けて言う。

 

「ミスルギ皇国には間者を紛れ込ませていますので」

「間者……」

 

 そうか、敵が、いや自分たちが戦っていた相手がドラゴンと簡単に接するような人間がいるのであれば、間者、つまりスパイを送り込むことも簡単か。アンジュは、そうどこか現実逃避にも似た納得をした。けど。

 

「あ、あの、言葉の通りって……どういう事?」

 

 決定的だったのは。エルシャのこの言葉だ。彼女も、薄々は気が付いてきたのだろう。自分たちがしてきた罪に、自分たちが彼女に対して行って来た、その逃れられない真実に。震えた声で聴いたエルシャに対して、キリッとした表情でサラマンディーネは語った。

 

「……あなた達がドラゴンと呼称した生物は全て、私達この世界の人間が変化した姿……なのです」

「!?」

「なんだって!?」

「そ、それじゃ……」

「≪アルゼナル≫の人間たちは、同じ人間と殺し合いをしてたってことかよ!?」

 

 そう、分かっていた。彼女たちの容姿と、その言葉を聞いたときから分かっていたことだった。彼女たちドラゴンと、人間が同じ場所で生活できる理由。同じような翼と、尻尾を持つ理由。そして、≪仲間を殺した≫、そんな言葉を使った理由。

 全部が全部、ドラゴンと人間が同一な物であるとすることならば、全てに説明がついてしまうのだ。残念なことではあるが。

 

「そんな、そんな事って……」

「アンジュ、エルシャ」

「アンジュさん……」

「エルシャさん……」

 

 勘づいていたこととは言え、真正面にそう言われてしまえばこれほどショックなことはない。エルシャは、驚愕の事実に言葉を失って、表情を硬くし、アンジュもまた、ただただその言葉を繰り返すだけ。

 ヴィヴィアンは、その事実に対してあまり表情を変えることなく、むしろショックを受けているアンジュとエルシャをのび太や静香とともにいたわっているほどだ。肝が据わっている。あるいは、やっぱり何も考えていないのだろうか。そう、思っていた時だった。

 

「時にあなた」

「? なんぞ?」

 

 と言って、サラマンディーネがヴィヴィアンに向けて声をかけた。彼女は続けて言う。

 

「あなたも、ドラゴンですね」

「えぇ!?」

「そなの?」

 

 さらりと、とても重要な発言を。驚愕する面々をよそに当の本人はいつも通り舐めている飴玉を口から取りながらまるで何ともないかのように発言をした。

 

「そんな、バカなことあるわけないでしょ!?」

「そうよ、ヴィヴィちゃんがドラゴンなんて……」

 

 というアンジュとエルシャ。それもそうだろう。だって、ほぼ毎日のように一緒にお風呂に入って、一緒にご飯を食べて、一緒に出撃して、一緒にドラゴンを殺した。そんな人間が、ドラゴンの一人なんて。信じられるわけがなかった。

 それに、そう、もしも本当にヴィヴィアンがドラゴンであると仮定するのならば、どうして彼女には翼がないのか。どうして、彼女に尻尾が生えていないのか。それは、≪このドラゴンの世界≫の人間ではないと言う証拠なのではないか。そうアンジュが言おうとした時だった。

 

「ドラえもん、ほら前に地球を作った時に使ったスコープは?」

「あ、そうだねえっと確か……」

 

 と言って“四次元ポケット”を探るドラえもん。

 前に地球を作った時。さらっととんでもない発言をしたようだったがしかし、頭の中がこんがらがっていたアンジュやエルシャは幸か不幸か、その言葉を聞き逃していた。そして、ドラえもんが取り出した“ひみつ道具”は。

 

「“正体スコープ”! これを覗けば、いろんな怪奇現象の正体を暴くことができるんだ!」

 

 “正体スコープ”。大体の説明をドラえもん自身がしてしまったためほとんど何も書くことはない。

 かつてドラえもん達はそのスコープを使用することによって、虫の集合体が擬態した幻の正体を看破したことがあった。これを使えばもしかしたら。

 

「ヴィヴィアンさん、そこをじっと動かないでね」

「どして?」

 

 と言って、ドラえもんはスコープについているレンズを覗き見る。すると、その正体は一目瞭然だった。

 

「あぁぁ、本当だ! 君は、ドラゴンが擬態した姿だったんだ!?」

「なんだって!?」

「正確に言えば逆です。人間がドラゴンの姿になっている……いえ、どちらも同じような物ですね……」

 

 ドラえもんが見た物。それは、彼女の身体に重なっているかのようにその場に鎮座していた、≪スクーナー級≫のドラゴンの姿だった。それは、まさしく彼女の本当の姿がドラゴンであるという事を指し示していた。

 しかし、そのことを言われた当の本人はやっぱりと言うかなんというか。

 

「ふーん、そなんだ?」

 

 と、まるでことの重大さを分かっていないような返事をした。ドラえもんは言う。

 

「待ってて、このレバーを引くと、それ!」

「うわっ!?」

 

 と言って、左側についているレバーを下に降ろした瞬間だった。“正体スコープ”のレンズから光が伸びて、ヴィヴィアンに当たったのだ。それに当たったヴィヴィアンは、そのまぶしさから目を閉じて、持っていた飴玉を下に落としてしまった。

 そして、光が収まった時。彼女たちの前にいたのは。

 

「キュゥゥゥゥゥ……きゅる!? きゅるるるる!?(うぅぅぅぅぅ……うわ!? なんじゃこりゃ!?)」

 

 一匹の≪スクーナー級≫のドラゴンであった。

 

「ヴィ、ヴィヴィアンさんが、ドラゴンに!?」

「あら、でも尻尾が半分くらいで途切れてるわ」

「よく見ると翼も少しない様な……」

 

 驚きで声も出せないアンジュとエルシャをよそに、のび太たちはヴィヴィアンが変化したドラゴンの姿をよく観察する。確かに彼らの言う通り、その尻尾は本物の、と言っていいのか分からないが自分たちがよく見て来た≪スクーナー級≫のドラゴンの半分くらいしかなく、よく見ると途中で切断されている様子。

 翼もまた、先っぽの方が切られているような気がする。何にしても、彼女がドラゴンであることは揺るぎない事実であった。

 

「おそらく向こうの世界のものたちに切られたのでしょう。その正体を隠すために。貴方、人間に戻れますか?」

「きゅる? きゅるるるるる……きゅるるん!(え? う~ん……分からん!)」

『ズコッ!』

 

 と、ヴィヴィアンが変化したドラゴンはそのとても鋭利な爪を持った腕を、組むようにして言ってのけた。その、ある意味でヴィヴィアンらしい言葉に、“動物語ヘッドフォン”によって言葉を翻訳してもらっていたのび太たちはずその場でずっこけてしまう。当然、アンジュとエルシャは呆然としたままだったが。

 

「わかりました。この子を研究施設に」

 

 ≪研究施設≫。この言葉にようやく我に返ったエルシャがサラマンディーネに聞いた。

 

「研究施設!? ヴィヴィちゃんに何をするつもり!」

 

 まさか、解剖にでもかけるつもりか。これまで多くの同胞を殺してきたのだ。無慈悲に彼女の身体を弄る行為も、彼女達にとっては敵討ちに近いのだろう。

 ヴィヴィアンの正体が人間であれ、ドラゴンであれ、仲間たる彼女にそんな事、させるわけにはいかない。

 そんなエルシャの心配を感じたのか、サラマンディーネは笑顔で言った。

 

「ご心配なく、簡単に言えば、ドラゴンからもう一度人間の姿に戻る薬を注射するだけです。そして……」

「……」

 

 サラマンディーネはその顔つきを再びきついものとして言う。

 

「これでお分かりになりましたか? アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギ」

 

 と。

 

「私は、まだ、信じないわよ……」

「アンジュさん……」

 

 握りこぶしを作って、振り絞ったかのような声。そこには、やっぱり悲しみと、自分の行ってきたことの愚かさに悩む声が混じっていた。そう、のび太は感じていた。




 何故サラマンディーネがヴィヴィアンの正体に気が付いたかは、原作でもあったヴィヴィアンがドラゴンの攻撃がどんなものか、その危険を察していた描写もあったことから、ドラゴン同士はなんらかの通ずるものがある、ということにしました。
 あと、ドラゴンから人間、人間からドラゴンへの変異は怪奇現象なのかと色々と思うところがあったのですが、正体を暴くという意味ではぴったりなので“正体スコープ”を使わせていただきました。“おくれカメラ”を使う、という手もありましたけれども。
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