【完結】映画 ドラえもんクロスアンジュ のび太と天使と竜の輪舞   作:牢吏川波実

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chapter18 おもてなしと衝撃と

 ヴィヴィアン(ドラゴン)がサラマンディーネと他数名によって連れていかれ、その後ドラえもん達はサラマンディーネの側近たるナーガ、カナメの案内を受けて宮殿の中に入った。

 その中は、日本、と言うよりどこか中国風の内装であり、どこからか中国の弦楽器やらなんやらの音楽が聞こえてきそうな雰囲気を醸し出していた。火で作られた松明による薄暗い灯の中、赤いカーペットの上を通って彼らが通されたのは、少々不気味と言ってもいい場所だった。

 階段状になっているそこには、数名の人物がいる。しかし、その姿ははっきりとは見えない。幕に遮られてしまっていて、その姿が後方からの光源を元にして透かしとなって表れているだけなのだ。

 恐らく、左右には四人ずつ人間がいる。シンメトリーのように、階段状に並んだ八人。その中心部、特に光源の強いところに一人の、まだ座っている人間がいることが分かる。あの人物だけが特別なのだろうか。

 

「「連れてまいりました。大巫女様」」

「あの人が、大巫女様……」

 

 つまり、ドラゴンたちのトップ。のび太たちがいた世界における、俗にいう≪やんごとなきお方≫と言ったところだろうか。

 その人物は、徐に言った。

 

「異界の女たち、そして男たち、名は何ともうす」

「人の名前を……」

 

 と、アンジュが言おうとした時だ。

 

「こんにちは! 僕ドラえもんです!」

 

 ドラえもんがその言葉を遮るようにして言った。確かにアンジュの考えている通り人の名前を聞く時はまず自分からというのは鉄則中の鉄則。であるが、この完全なアウェーの空間の中でソレをするのは、少しリスクが高すぎる。

 特に相手は≪やんごとなきお方≫。そんな人間に対して暴言を吐くなんて、命知らずにもほどがある。そう考えた彼によるファインプレーだ。そして、それに続くように。

 

「野比のび太です!」

「源静香よ」

「剛田武! ジャイアンと呼んでくれ」

「ほ、骨川スネ夫……です」 

「エルシャよ……アンジュちゃん」

「……アンジュ」

 

 と、言葉を遮られたからかそれともまた別の理由なのか、少々不満気なアンジュもまた、エルシャによる促しによって自己紹介を行った。

 

「ここまで来たということは、ようやく我々の話を聞く気になったということで良いな」

 

 ようやく。そう、ようやくだ。数多の同胞を殺しておいて、よくここまで来たものだな。アンジュは、彼女の言葉の裏にそんな意図があるような気がしてならなかった。結果。

 

「上から目線でモノを言って!」

「アンジュちゃん落ち着いて!」

 

 と、ついに爆発したアンジュは、エルシャの静止を振り切って叫ぶかのように言う。

 

「もうわけわかんないのよ! ドラゴンは人間だった!? 一緒にドラゴンを殺してきた仲間がドラゴンだった!? 私は今まで人殺しをしてきた!? こんなの、落ち着けるわけないじゃない!!」

 

 とにかく、今の自分の中に渦巻いている感情。感覚、そしてこの世界に来た時から感じていた、感じた、知った事のその正体。それらすべてを矢継ぎ早に飛ばしていく。

 

「大巫女様になんたる無礼!」

「なによ! 斬りたければ斬ればいいじゃない!!」

 

 と言って、背後にいたナーガ、カナメが自身の得物をアンジュに向けて構えようとしていた。アンジュはそれにものおじすることもなく、言い放つ。まさしく一触即発。このままだと本当にアンジュが殺されてしまう。そんな時だった。

 

「アンジュちゃん……落ち着いて」

「エル、シャ!?」

「≪エルシャ・地獄ヘッドロック≫!!」

「いぃ!?」

 

 と言って、エルシャは突然アンジュの背後から笑顔で彼女の首を絞めて来たのだ。それはまさしくヘッドロック。それも一つ間違えれば本当にアンジュの事を絞め殺せそうな強さだ。

 のび太たちは、その姿に恐怖を覚えた。エルシャは、ヴィヴィアンとはまた違った優しい笑顔をずっと絶やさない女性だった。けどその女性が突然そのようなプロレス技を使ってくるのだから。それに冷静になってみろと言う方が無理になってくる。

 エルシャも、アンジュがあまりにも頭に血が上っていることに気付いているためにそのような処置をとっているのだと思うのだが、しかしそれにしたってあまりにも乱暴と言うか、容赦がないと言うか。どちらにしろ、この人を怒らせてはならない。ドラえもん達の中で共通認識が生まれた瞬間であった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「どう? 少しは落ち着いた?」

「地獄の底に落とされると思ったわよ……」

 

 それから数分後、エルシャのヘッドロックから解放されたアンジュ。手加減されていたとはいえ、エルシャのソレに数分も耐えることができ、さらには冗談も言える余裕があることからアンジュも相当鍛え上げられているのだろうなと思わせるところがあった。

 

「大巫女様。彼らの事……私に一任ください」

 

 と言って、影の向こうの一つから現れたのは、先ほども出会ったサラマンディーネその人であった。大巫女、と呼ばれる人間が≪やんごとなきお方≫であるという事は、その近くにいることを許可されている彼女もまた、位の高い人間であるという事なのだろうか。

 そう言えば、さっき自己紹介をしてくれた時に近衛中将なんて言葉を使っていた。近衛、と言うのは恐らく一番位の高い人間を守るあの近衛隊の事を意味することとなる。のならば、彼女は大将の次にえらい人間、という事になるのだろうか。

 

「サラマンディーネか」

「はい。もともと彼らをここに連れてくることを指示したのは私ですので」

「わかった。以降のことはサラマンディーネに一任することとする」

「ありがとうございます。大巫女様」

 

 という事で、少々締まらないものの異界の人間同士の邂逅は終わり、以降はサラマンディーネがドラえもん達の事を任されることが勝手に決定されたのであった。

 それから十数分後のこと。

 

「……」

 

 アンジュたちがいたのは、とある部屋の中であった。そこは、部屋の一部分に四畳分の畳が置かれていて、サラマンディーネはそこで緑のお茶の中に、茶筅を入れて、かき混ぜている最中であった。

 因みにこの部屋に入る時に、アンジュが『随分としゃれた監獄ね』等と皮肉を込めて言ったが、彼女は自分たちの事を捕虜扱いするつもりはないとの事。恐らく、それは事実なのだろう。そうドラえもん達は思っていた。何故なら、捕虜である人間に対して、お茶をたてるなんてことしないはずだから。

 まぁ、彼女が捕虜にもわざわざお茶をたてるような変わり者である場合は、話が別であるが。

 

「なによ、これ……」

「今僕たちはお茶を立ててもらっているんだよ」

「お茶を、立てる?」

「お茶? あんなま緑のが?」

「抹茶よ、知りませんか?」

「知らないわ」

 

 どうやら、向こうの世界にはそう言った文化は根付いていないらしい。それは仕方がないだろう。なぜなら、彼女たちの世界は自分たちの世界からしたら異世界なのだから。しかしだ、逆に言えばどうして彼女、サラマンディーネは自分たちの世界の文化の一つ、茶道と言う物を知っているのか。新たな疑問が生じる。

 

「それに、なんなの貴方たちのその座り方」

 

 といって、アンジュがのび太たち五人の座り方について疑問符を浮かべる。因みにアンジュもエルシャも俗に言われる女の子座りで座っており、どうにもこの場面においてそういう座り方をした方がいいと刷り込まれているのび太たちにとっては、彼女たちの方が異様と言ってもおかしくはなかった。

 

「い、いやぁこういう畳の上じゃ正座かなって」

「正座、こうかしら?」

 

 と言って、エルシャはのび太たちの真似をして足を揃えてその巨大な尻の下に入れ、座る。アンジュもまた、しぶしぶと言った様子で正座をする。

  

「どうぞ」

 

 と言って、サラマンディーネはお茶の入った器を二回ほど半回転させてから彼、彼女たちの前に置いた。

 警戒してるアンジュ、それにエルシャはそのお茶に手を出すことはない。そしてある一人を除いたドラえもん達もまた、ソレを前にして固まるしかなかった。

 こんなちゃんとした茶道の下でお茶を淹れてもらったこと、初めてだったからだ。そう、唯一人作法と言う物を心得ている人間がいた。

 

「お点前頂戴いたします」

 

 スネ夫である。以前にも言ったが、彼は会社の社長を父に持つお坊ちゃま。こういった茶道の心得を持った人間の所へと赴くことはよくあることだったのだ。故に、彼はちゃんとした作法を知っていた。

 一度お辞儀をしたスネ夫は、右手で茶碗を取り、左手に乗せる。そして、九十度回転させる。

 

「茶碗もいいモノを使ってる。これはきっと名のある職人が作ったに違いない」

 

 と、いつも通りの社交辞令と言うかおべっかと言うか、そういう物を使うのも忘れない。そして、そのまま音を立てずに、抹茶を飲み干すとお辞儀をして言う。

 

「うぅん、いいお手前で」

「ありがとうございます」

 

 と、礼には礼を返したサラマンディーネ。ソレに倣って、他の面々もまた、スネ夫がやったような作法を真似しながら飲んでいく。アンジュ一人、ぶっきらぼうな飲み方をしているのは、ある意味では予想通り―一応元お姫様なのだから礼儀正しい方が正解なのかもしれないが―。

 

「それで、この世界はいったいなんなの? ドラゴンの巣?」

 

 と、茶を飲み干し、畳の上に置いたアンジュは聞いた。この世界の事を。この世界が何であるのか。普通じゃないのは、さっきまでの話を聞いて分かった。でも問題は、この世界が一体何で構成されているのか。

 ドラゴンの巣。そう形容したのは、まだ完全に信じたくなかったからなのだろう。彼女たちが、ドラゴン。つまり、自分たちが殺してきた者たちと同一の存在であるなどと。

 そして、帰ってきた答えは。

 

「ここは、もう一つの地球、ですわ」

「え?」

「もう一つの、地球……」

 

 あまりにも予想外すぎる答えだった。

 地球が、もう一つあった。そんなことがあり得るのだろうか。というか、彼女の話が本当なら、ドラゴンたちはもう一つの地球からこちらの世界に攻め込んできていることになるのだがその辺りを詳しく聞きたいところ。が、サラマンディーネは言葉を遮るように言った。

 

「その通りです。そして……」

 

 彼女は、ドラえもん達の方を向き、やはりキリッとした表情を出す。この辺りどこかアンジュと似ているところがあるなとのび太が何気ない風に思っていた時だった。

 その後、飛んできたのは彼らと、彼女にとっては、思いもよらない物だった。

 

「ドラえもん殿。あなた方から見た、未来の地球です」

「な……」

「僕たちの地球の!?」

「未来だって!?」




 本小説の話を進める上で役立ってるもの
・第一位
 ドラえもんの“ひみつ道具”
・第二位
 アンジュの本質
・第三位
 エルシャの保護者的立ち位置
・殿堂入り
 のび太の優しさ
・番外
 エルシャのプロレス技
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