【完結】映画 ドラえもんクロスアンジュ のび太と天使と竜の輪舞 作:牢吏川波実
それまで、アンジュとエルシャが感じていた衝撃。ドラえもん達にとっては、共感することができないものだった。なぜなら、彼らはドラゴンを一匹たりとも殺していないから、殺すこともなく、この世界に来てしまったから。
人と人との戦争と言う物に参加していなかった。いや、参加する前にこっちの世界。彼女の言うところのもう一つの地球と言うところに来てしまったから。
だから、彼らは他人でいられたのだ。でも、ことここにきてまさかこの世界が自分たちに関りがあるなんて、思いもよらなかった。まさか、ここが、本当に、自分たちのいた地球の未来、なのか。
「貴方たちの地球の未来?」
「あ、そっか。アンジュさんたちは、僕たちが異世界から来たことを知らなかったんだっけ」
「い、異世界……から来たの? 本当に?」
「は、はいそうです……」
エルシャはおっかなびっくりと言った感じでのび太の言葉に念を入れ込むように聞いた。
そう言えば、あの≪アルゼナル≫の人間の中で自分たちが異世界から来たという事を知っているのは司令のジルと、第一中隊隊長のサリアくらいだったなと今更ながらに思い出す。
「でも信じられないわ……だって空から見たとき、どこもかしこも岩ばかりで……」
と、静香が唖然とした表情で言った。自分たちは、この世界に来てかなりの時間、空から地面の様子を見る機会があった。でも、その時確かに見る限りでは岩と森、それから滝やそこから流れ落ちてできた川。そして、少しばかりの民家。おそらく彼女たちの居住区と思わしき場所しかなかった。
自分たちの未来であるのならば、もう少し大きな建物があってしかるべきものじゃないか。そう思ってしまったのである。
「それは、ここがいわゆる都会と呼ばれた場所から離れているからです。もう少しいけば、廃墟となった街が、広がっています」
というサラマンディーネ。つまり、自分たちが見ていた世界はほんのごく一部分にすぎなかったと、そう言う事なのか。
「そ、そんな!? 僕たちの地球がこんな姿になるなんて!?」
と、のび太は大声でその衝撃を表していた。それは、まるでそれまでに彼らに与えられた衝撃を総代するかのようであり、そしてドラえもんにある考えを植え付けるのに十分すぎるほどだった。
「……いや、可能性がある!」
「え、どう言う事ドラちゃん?」
「のび太君。無人島で僕が、ひみつ道具には問題があるって言ったの覚えてる?」
「え、そう言えば……」
言っていた。確かに、“ひみつ道具”には何か問題があるのだと。でも、その前にスネ夫たちに煽られて海に向かってしまったために、最後まで聞けなかった話題。まさか、それがこんな形で現実として目に映るなんて、ドラえもんも思ってもみなかった。
「アレは、未来で発明されてる“ひみつ道具”があまりにも危険過ぎるって意味だったんだ」
「危険すぎるって、そんなの使う人次第でしょ?」
と純粋な発言をしたのび太に、ドラえもんは頷きながら言う。
「そうさ。使う人次第で良いものにも悪いものにもなってしまう。それが道具なんだ。そして……僕たちの未来で実際にソレを悪用した人間が出てしまった」
「結果、世界中で戦争が起こり、汚染物質によって汚れた地球は人の住めない星となった……さすがは、二十二世紀の猫型ロボット、ドラえもん殿」
「えッ!?」
ドラえもんは、サラマンディーネの言葉に一瞬仰天した。自分は、確かに一度彼女の前で自己紹介をした。でも、その時自分が二十二世紀から来たという事は、話していただろうかと。そんな疑問の前に、彼女は笑顔で言う。
「私は、旧世界の遺物を研究、探求する者として、過去の資料を集めているのです。その時にあなた方の名前を見つけました」
サラマンディーネは、のび太たちの顔を見ながら言う。
「ドラえもん。源静香。骨川スネ夫。剛田武ことジャイアン。そして、野比のび太殿。この五人がいたからこそ、二十一世紀までの地球は守られていた。あなた方こそ、この地球にとって英雄なのです」
「そ、そんな英雄だなんて……」
恐れ多いと言うか、なんというか。自分たちはたまたま自分勝手な冒険に出て、行く先々で起こった事件を解決していただけなのに。
「貴方たち、一体何をしてたら英雄なんて言葉使われるのよ?」
「え? そうね……」
というアンジュの言葉に考え込む静香。そして、その後の言葉が凄かった。
「バギーちゃん……のおかげでもあるけど世界を滅ぼすほどの爆弾の発射を止めたり」
「アフリカ大陸で犬の姿だけど人間みたいに生活している王子を助けるために反乱を起こして人間世界を征服しようとしていた大臣を倒したり」
「歴史破壊を企んでいたギガゾンビって未来人を石器時代で倒したり」
「それから……鉄人兵団っていう遠い星から人間を奴隷にするためにやってきた兵と戦ったり……」
「リルル……」
「それから世界中に大雨を降らせて大洪水を起こして、人間社会を壊そうとした天上人と交渉したり」
「それと―――」
「も、もういいわ。頭が痛くなってきた……」
と、そのほか色々な武勇伝を語り始めようとしていたのび太たちを止めたアンジュ。なんだか色々とパニックになってしまいそうになる。
世界を滅ぼすほどの爆弾を止めた?
反乱を起こした大臣を倒した?
歴史破壊を企んでいた敵を倒した?
地球人を奴隷にするためにやってきた兵団と戦った?
世界中で大洪水を起こそうとした天上人と言うのと交渉した?
どれもこれも胡散臭い様な話。しかし、全部事実だ。因みに、鉄人兵団の話をしたときにのび太と静香の顔が少しだけ悲しげなものになったのは、やはりあの時の戦いで大事な友、ピッポとリルルという友達を失ってしまったからなのだろう。
いや、失ったのではない。二人は、生まれ変わったのだ。のび太たちはそう信じていた。生まれ変わって。あの星を、静香も行ったことのあるあのメカトピアを、天国のような星にして、そして≪天使≫のような姿になって、無事に暮らしているはずだ。そう、彼らは信じていた。
話を戻そう。
「私達の始祖たるアウラは、汚染された地球の中でも唯一と言っていいほどに生息するのに適した環境たるこの場所を発掘し、この汚染された世界に適応できるように人間をドラゴンに変化させる技術を開発したのです。そして、その周囲を中心として私たちは生活を始めた……」
「生息するのに適した環境?」
「……空から見て、気が付きませんでしたか?」
「え?」
と、サラマンディーネに聞かれたのび太。確かに、この場所に、あの宮殿の周囲に来たときにどこか既視感のようなものを覚えたのは確かだ。でも、何の話なのかさっぱり分からなかった。
「……さすがに長い年月が経っているので、経年劣化でいくつか象徴のようなものが崩れてたり塞がれたりしてるので仕方ありませんね。ここの地面は、主にジュラ紀の地層から発掘された場所なのです」
「ジュラ紀……ッ!」
その言葉に、のび太ははっとした表情を浮かべた。そうか。ほぼ円形の地形。そして見たことがある山の数々とその配置。それにあの、大きな滝のすぐそばにあったそれに比べたら小さな、でも確かにある大きな滝。
そして、ソレを見つけた時の、あの、懐かしい感情。
『キュー!』
『ミュー!』
その瞬間。≪あの二匹≫の声が、聞こえてきた気がした。
「ノビザウルスランド!!」
「えぇ!?」
「ノビザウルスランドって確か!?」
「キューちゃんとミューちゃんや、他の恐竜たちを逃がした、あの場所の事!?」
「その通り、ここは、ノビザウルスランドと呼称された島。始祖アウラは戦争が起こった直後、幾人かの仲間とともに地球がドラグニウムにより汚染される可能性を考え、発掘を開始したのです。過去の記録から、その場所を見つけ、そして、恐竜が鳥へと進化した。その偉大なる大地を中心として今の発展があったのです」
ノビザウルスランド。それは、かつてのび太が発見した恐竜の卵の化石。ソレに“タイムふろしき”と言われる、包んだらなんでも過去の状態に戻す“ひみつ道具”を使用して元の卵に戻したときに孵化した二匹の新種の恐竜。『キュー』と『ミュー』の遊び場を作るためにドラえもんが出した“飼育用ジオラマセット”をのび太風にアレンジした結果生まれた場所の事。
“飼育用ジオラマセット”とはその名前の通り生き物を飼う事ができるジオラマセットで、サイズ調整機能と天候調節機能が付いている。
かつてのび太たちは、その『キュー』と『ミュー』を同種の恐竜たちがいるであろう白亜紀に戻すために過去にタイムスリップした。しかし、その時にのび太のドジによってそれよりも一億年も前のジュラ紀と呼ばれる時代に行ってしまった。
その時に肉食恐竜に襲われ、ノビザウルスランドを落としてしまったのだ。
それが、一億年経って、サイズ調整機能が壊れて巨大な島となり、いつしか『キュー』と『ミュー』の仲間たちの住処となっていた。
そこで、ドラえもん達は恐竜が絶滅した原因とされる巨大隕石が地球に落下する現場に直面。できる限りの恐竜たちをその島に移住させ、天候調節機能によって本来であれば舞い上がった塵によって遮られるはずだった日の光を浴びさせ、恐竜の絶滅を阻止した。
そして、当時滑空しかできなかった『ミュー』とその仲間たちとは違い、滑空する事すらできなかった『キュー』は、滑空のみならずのび太の熱のこもった指導によって羽ばたきを覚え、それが恐竜が鳥へと進化したいわゆるターニングポイントとなった。サラマンディーネの言う偉大なる大地とはそういう意味合いがあったのである。
因みに同じころアメリカ大陸の方でもまた別の時間軸から来たドラえもん達によって難を逃れた恐竜の救出作戦を行っており、地下に逃がした恐竜たちがまた別の進化を遂げ、人間のように暮らし始めていたというのはまた別の話。
「以来、男達はドラゴンの姿のまま汚染物質、通称ドラグニウムを取り込み浄化させる役割を、私達女は通常時は人間の姿で、子を宿すときはドラゴンの姿となって、延々とそれを続けて来たのです」
「それじゃ、私たちが殺して来た、あのドラゴン達は……本当に」
と、口を覆って愕然とするエルシャ。彼女にとって、自分たちが殺してきた存在が別の世界の人間であったなんて、あまりにも衝撃的すぎる物なのだろう。しかし、アンジュは言う。
「拐かされたらダメよエルシャ! こんな話、作り話に決まってるわ!」
と、まるで、現実逃避のように叫んだアンジュ。しかし、エルシャは恐る恐る言った。
「アンジュちゃん! でも、だったらヴィヴィちゃんのことはどう説明するの?」
「!? それは……」
確かに、自分たちは見たじゃないか。仲間が、ずっと一緒に戦って来たヴィヴィアンが、ドラゴンの姿になるその瞬間を。そして聞いたじゃないか。ドラゴンたちが人間の言葉を理解し、ドラゴンの状態のままであるが話をしている、その様子を。
人間と同じ知性を持ったドラゴン。ドラゴンの姿になってしまった人間。認めたくない。でも、認めなければならなかった事実。ソレを前に、アンジュは狼狽していた。
「アンジュリーゼ、貴方が認めたくないことも分かります。そして私達の話を信じてもらえないことも」
「私は信じるわ。サラマンディーネさん」
「静香殿……」
そう言うと、静香は飲み干した茶碗を持って言った。
「サラマンディーネさんの淹れてくれたお茶、とても美味しかったわ。心が、温まるほど。そんなお茶を淹れてくれる人が嘘を言うなんて、思えないわ」
「静香……くっ!」
「アンジュさん……」
この子といいのび太といい、なんて甘い人間たちなのだろう。その程度の事で、この胡散臭い話を信じてしまうなんて。でも、それがある意味でうらやましかった。そう思いながら、アンジュは悔し気に顔を背ける。
ソレを見たドラえもんは、アンジュを気遣う様に声をかけるが、しかし、彼女はそんな事にも、気が付かなかった。
「さらに詳しく話をしましょう。こちらへ」
と言って、サラマンディーネはスクッと立ち上がる。
「ちょっと、どこ、にッ!」
と言って、アンジュも立ち上がろうとした時だった。自分たちの異変に気が付いたのは。
「あ、足が……」
足が、動かない。痛いとか、感覚がないとか、そういう次元ではない。まるで、電気をその足だけに浴びたかのようにアンジュも、エルシャもその場から動くことができなかった。
「あ、貴方、お茶に毒を……」
あのお茶に、毒を入れていたのか。自分たちは彼女たちから見れば同胞の仇。ここで毒を飲ませることによって一掃する。それが、彼女の狙いだったのか。
諮られた。そう、アンジュが考えた時だった。
「いやそうじゃなくてぇぇぇ」
「え?」
といって、のび太もまた、と言うよりドラえもんとスネ夫以外もまた足を伸ばしてだらしのない格好をしている。静香だけは何とか顔を少しだけ歪ませるだけであり、アンジュに笑顔を見せて言った。
「正座すると、足が痺れるのよ」
膝を揃えて畳んで座る正座。それは、主に畳に座る日本人の伝統的な生活文化の一つとして知られている。しかし、慣れていない人間、と言うよりもほとんどの人間が正座をすることにより自重によって一時的に血流が低下し、その血流が戻る際にこの痺れが発生する。
ましてや、アンジュやエルシャのように今回初めて正座を経験する人間にとってのそれは、もはや拷問の一つといって差し違えはないのだろう。
「全くぅ、まぁ僕ちゃんはよくお茶を立ててもらってるから正座なんて朝飯前さ」
「スネ夫! こんな時まで自慢しやがって!」
「はぁ、やれやれ」
と、かなりシリアスな話をしていたはずなのに最終的にはなんやかんやギャグ風に落ちが入ってしまったことに、ドラえもんはあきれ果てる。
それにしても、だ。ドラえもん。貴方はあの足でどうやって正座していたの。そんな疑問がエルシャの中に沸いてしまった。
彼の足の長さから言って、正座なんてできないのは一目瞭然のはず。それなのに、確かに彼は正座をしていた。そして、そのことに自分達は一切の疑問を持たなかった。こんなことならもう少しだけ注意して彼の様子を見ておくべきだったかもしれない。なんて、エルシャはあまりにも場違いなことを考えていた。
いや、もしかしたらそんなことを考えなければ心が持たなかったのかもしれない。
ドラえもん七不思議、正座ができるドラえもんの謎。
そして特別ゲスト(声の出演)キューとミュー。まさか、当時のピー助の役所を彼らが与えられるなんてな。
まさかのノビザウルスランドが中心になって発展した真の地球。ノビザウルスランドを掘り起こすアウラの根性も半端ない気が……。
あと、やっぱり本人達は無自覚で、現代ではそうで無くても、未来では英雄扱いはされてるのは確実でしょうと考えました。
そらと、のび太達に例として出してもらったのは、後の時代になって研究などによって把握することが出来るであろう映画の内容を選択しました。鉄人兵団は、研究でわかる代物ではないかもしれませんが、でも彼らの冒険の中でも一番の激戦だったので選ばせてもらいました。