【完結】映画 ドラえもんクロスアンジュ のび太と天使と竜の輪舞   作:牢吏川波実

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chapter24 同胞殺しとコムローイそしてエルシャの決意へ

「おっす! アンジュ! エルシャ! 静香にのび太も! みんな。元気してた?」

 

 とてつもなく重い空気の中、そんな空気を読まず、いや読むこともできずにある一人の女の子が、のび太のようにノックすることなく入口のふすまの方から現れた。

 

「ヴィヴィちゃん!」

 

 そう、この世界にやってきたときにドラえもんによって―と言うのは少し語弊があるかも知れないが―ドラゴンになったヴィヴィアンである。彼女は、この世界の女性たちが着ているようなちょっときわどい民族衣装のような恰好で彼女たち、アンジュたちの前に現れたのである。

 

「ヴィヴィアン、貴方。人間に戻れたの?」

「ここでクイズです! どうして私が人間に戻れたのでしょうか? 答えは……えっと、なんだっけ?」

「「ズコッ!」」

 

 と、のび太と静香は綺麗にずっこけた。アンジュは思っていた。この二人、とあとドラえもん達も含めてどうしてみんなして擬音を出してずっこけているのだろうかと。いや、それは先ほどエルシャの峰打ちを受けた時のアンジュ自身にも言えることなのでそこをツッコむのはおかしいのだが、今はそんな事考えている場合じゃない。

 どうして、先ほどまでドラゴンだったヴィヴィアンが、人間の姿に戻ることができたのか、それが問題だ。その時、一人の女性が朗らかな笑顔を込めて現れ言った。

 

「D型遺伝子の制御因子を調整したのよ。そのおかげで、人間の状態を維持できるようになったの」

「あの、貴方は?」

「初めまして。私は、ラミア。ミィの……母親です」

「ミィ?」

「私の本当の名前だって」

「え?」

「それじゃ、ヴィヴィアンの、お母さん……」

 

 そう言えば、髪の色が同じだし、頭の上からアホ毛まで出ているところもソックリ。まさしく、ヴィヴィアンが大人になったらこんな風になるだろうなと言うのが、その見た目からもしっかりと感じ取ることができた。

 

「うん、私小さい頃お母さんさんを追って私達の地球、じゃなくて、向こうの地球? とにかく、≪アルゼナル≫のある方に行ったんだって、それで、行方不明になったんだろうって、サラ……サラ……えっと」

「サラマンディーネ様よ」

「そう! サラサラさんが言ってた!!」

 

 どうやら、子供のドラゴンが向こうの世界、アンジュたちの世界に来ることなんてごくまれな事らしい。それを聞いた時、エルシャは少しだけ心が救われていた。

 ヴィヴィアン、いやミィは母親が≪シンギュラー≫の向こう側に行こうとした時無邪気にもソレを追ってしまった。

 恐らく、まだ飛ぶことも未熟だった幼いころの事であるが故に、どこかの陸に漂着し、それを≪アルゼナル≫の人間に拾われたのだろう。そんな仮説が立てられたと、ラミアは言った後に、アンジュたちに頭を下げて言う。

 

「ミィを助けて、そしてここまで育ててくれて、ありがとうございます」

 

 と。そんな言葉、自分たちにはふさわしくないと言うのに。アンジュが、唇を噛みしめてから言う。

 

「ッ! ……そんな、礼なんて必要ないわ。ヴィヴィアンを保護したのはアルゼナルの連中だろうし、それに聞いているでしょ!? 私達は!」

「ミィから聞きました。大勢の仲間を、殺して来たのだと……」

「ッ!」

「あっ……」

 

 その言葉と、いつも通り笑顔ながらも、少しだけ影をのぞかせたミィの顔を見て、アンジュとエルシャははたと気が付き、エルシャは口を手で塞いでしまった。

 そうだ、自分達なんてまだマシの方だったじゃないか。同じ人間と言っても、異世界の人間。異世界からの侵略。ソレによって確実に降りかかる火の粉を払っていた。ただ、それだけだったから。

 でも、彼女は、ミィは、ずっとずっと、同胞殺しをさせられていた。自分もまたドラゴンであるのだと知らずに、長い間、エルシャより短い、でもアンジュよりも長く、自分と同じ世界の人間を殺して、お金を稼いで、無邪気に笑って、でも今回この世界に来たことによって彼女はそれを知ることになったのだ。

 それがどれだけ辛いことなのか、自分たちにはもう、想像することすらも恐ろしく、そして悲しいことだった。

 

「あの、ヴィヴィちゃん……いえ、ミィ、ちゃん……」

 

 エルシャは、彼女に何か声をかけようとした。でも、どんな言葉も無意味だろう。だって、彼女は自分達じゃ計り知れない様な痛みを、味わっているのだから。

 胸が詰まる思いで、エルシャはこれまでのミィの行ってきた同胞殺しを、思い出してしまう。そして、その度に目に涙を浮かべるエルシャに、ミィは気丈に振る舞って、いつものような笑顔で言った。

 

「ヴィヴィアンでいいよ。エルシャ。お母さんさん。この人がエルシャ! お母さんさんと同じ匂いで、わたしの侍女!」

「違い……ます」

 

 と突っ込んだエルシャ。けど、そこにはいつもの朗らかな声はなかった。

 匂い、か。そう言えばいつもミィ、いや―――彼女からは慣れ親しんでいるヴィヴィアンで良いと言われているのでこれからもヴィヴィアンと呼ぼう。彼女はよくエルシャに言っていた。とても落ち着く匂いがするのだと。それは、きっとエルシャから母性と言う物を感じていたからなのだろう。

 はるか過去に置いてきてしまった、懐かしい母親の匂いを。

 

「フフッ……これから、祭りをするんです。貴方達も、来てください」

「祭り?」

「はい、ミィが帰ってきた。10年ぶりに帰って来た祝いの祭りを」

 

 その後、ドラえもん達とも合流したアンジュらは、夜になるのを待ってから外に出た。すると、そこには灯篭らしきものを持ったこの世界の人間たちの姿があった。自分たちの後ろには、当然ドラゴンの姿が見える。いや、ドラゴンの姿になった人間、か。もうどう呼んでいいのかアンジュには分からなかった。

 とにかく、灯篭を持った人間たちは、皆≪暁ノ御柱≫の前に集まっていた。そして、その前の少し高台になっているところにサラマンディーネ。その後ろにラミア、ヴィヴィアンがいる。

 その三人と、恐らくサラマンディーネの侍女であろう女性たちもまた灯篭を持つが、一体何が起ころうとしているのだろうか。

 

「何をすればいいのこれから?」

「サラマンディーネ様の真似をすればいいのよ」

 

 と会話をするヴィヴィアンとラミア。二人のそのやり取りは、まさしく親子その物で、エルシャも久しく和やかな表情を浮かべた。と、その時である。サラマンディーネが、灯篭を差し出しながら言う。

 

「殺戮と試練の中、この娘を、彼岸より連れ戻してくれたことに、感謝します」

 

 この言葉の相手は、恐らく彼女たちにとっての神であるアウラであろうか。そして、サラマンディーネは、一瞬だけ目を閉じると、しっかりと目を開けて空高くに灯篭を明け渡すように飛ばした。

 その瞬間、空に飛びあがる灯篭の光。ソレに倣って、周りの人間たち、ヴィヴィアンとラミアもまた、空中にその灯篭を差し出すように飛ばした。

 

「アウラよ……」

『アウラよ!』

 

 サラマンディーネがアウラの名前を呼ぶと、それに呼応したかのように周りの女性たちもまたアウラの名前を呼んだ。これが、これが祭り。灯篭を空の星に縫い込むようなことをするのが、祭り。アンジュはどこかそこに滑稽なものを感じた。

 でも、ドラえもん達は違った。なぜなら、彼らは知っていたから。自分たちの世界、いやこの世界の過去に似たような祭りがあったことを。

 

「うわぁ……」

「凄い光景ね」

「灯籠が一つ一つ星みたいになってくぜ!」

「灯籠流しみたいだ!」

「どちらかというと、コムローイかな?」

「こむろぉい?」

「タイとか台湾で行われている、神様に収穫に感謝をする儀式に使う道具。まぁ要するに、日本の灯籠流しの空バージョンってところかな」

 

 原理としては、熱気球と同じらしい。紙の中の空気を熱して周囲の空よりも比重を軽くすることによって飛ばす。

 そして、その意味は、仏教とその創始者への感謝と、厄払いの意味が込められているのだとか。つまり、アウラへの感謝の気持ちを込めた灯篭。それがこの祭りの意味。

 

「どういうつもりかしら」

「え?」

 

 と、アンジュはサラマンディーネの姿を見ながら言う。

 

「こんなもの私達に見せて、一体どうするつもりなのかしら……」

「知って欲しかったそうです。私達のことを」

 

 と言いながら現れたのは、サラマンディーネの側近であるカナメ、そしてナーガである。カナメは続ける。

 

「そして貴方達のことを知りたいと、それがサラマンディーネ様の願い」

「知ってどうするの? 私達は、貴方の仲間達を殺した。貴方達も、私達の仲間を殺した、それが全てでしょ?」

 

 アンジュは、周囲にその仲間がいることもお構いなしに言った。そう、それが全て。自分たちが殺した命は帰って来ないのだ。失われた命は、帰って来ないのだ。

 けど―――。

 

「怒り、悲しみ、報復。その先にあるのは、滅びだけです。ですが人間は、ソレを受け入れ、赦すことができるのです。その先に進むことも……姫様の受け売りですが」

 

 そう、人間は前に進むことができる。その悲しみを受け入れて、上を向いて、前を向いて、歩くことができる。それが人間。それが、今を生きる者たちの運命なのだから。

 失われた命は帰って来ない。ならば、過ちを受領し、どうするべきなのか。ソレを、サラマンディーネは伝えたかったのかもしれない。

 

「そうだよ。アンジュさん。今までがどうかじゃない。これからどうするのかが、大事なんだよ!」

「……」

 

 のび太もまた、カナメの言葉からさらに自分の言葉につなげる。大切なのは、これからどうするかだと。これからの行動なのだと。そう、自分たちの行動一つで、失われた命の意味が変わってくる。自分たちは、その岐路に立たされているのだ。自分たちの未来は、これからの頑張りしだいで変わるのだと。

 

「受け入れ、赦し、その先に進むこと……」

 

 エルシャは、まるで星の一つになったかのようなコムローイを見つめながら呟く。もしも、自分が幼年部の子供たちを喪ったら。自分はソレを受け入れて前に進むことができるだろうかと。

 

「私には、きっとできないわ……」

「エルシャさん……」

 

 決まっている。答えは、NOだ。決まってしまっているのだ。今までずっとそうしてきたから。それが、普通だったから。だから。

 

「もしあの子達を失ったら、私にはもう、何も……」

 

 何とも、自分と言う人間は薄い人間なのだと実感する。あの子供たちがいるから自分がいる。なら、あの子たちが死んでしまったら自分はいなくなる。自分の存在意義がなくなる。そうとすら考えてしまう。

 彼女に、道なんてない。あるのは、ただただドラゴンを殺して、あの子たちを守るだけ。ただ、それしかない。そう、思っていた。だが―――。

 

「……だったら、その子たちもこの世界に呼びましょう」

「え?」

 

 静香は言う。星空になった灯篭を見上げながら、ずっとずっと考えていたこと。エルシャに提案してみたかったけれど、この世界の人間たちの事を完全に彼女が受け入れるまでは言えなかった言葉を。

 彼女は手を大きく広げて、エルシャにとってはまるで女神の様に言った。

 

「だって、こんなに自然がいっぱいの世界で、大勢の優しい大人に見守られて成長することができるんですよ。幼年部の子ども達と一緒に、この世界に移り住んだらいいじゃないですか!」

「この、世界に……」

 

 そんな事、考えもしなかった。静香の言葉に補足するように、ナーガが言う。

 

「ソレはいい。最近は昔のようにドラゴンにならなければいけない程に大気が汚染されているわけじゃない。だから、この世界に連れて来たとしても、遺伝子の組み替えをすることなく、人間のまま成長することができる」

「……それに、将来敵になりそうな人間を減らすことができる、かしら?」

「……その思惑もある。だが、人口が増える事、仲間が増えることは良い事だ。そうは、思わないか?」

 

 確かに、ナーガたちにとっては子供たちが成長して、自分たちのようにメイルライダーになって、ドラゴンを殺すようなことになるのが一番最悪な事態であろう。でももし、この世界に連れてきてしまえば、子供たちがメイルライダーになることもなく、人間として成長することができる。ナーガとしては、自分たちの敵が減ることじゃない。この世界で生きる仲間が増える事、そっちの方に重きを置いたような答えだ。

 思いもよらなかった答え。でも簡単な事だったじゃないか。自分にとっても、子供たちにとっても一番いい結果が何であるのか。

 それは、子供たちが戦わなくてもいい世界。ココやミランダやナオミのように、幼年部でスクスクと元気に育った子供たちが、初陣であっけなく死ぬ。そんな世界にならない未来。

 

「そう、ね。ソレもまた、いいかもしれないわね……」

 

 そんな世界を思い浮かべたら、なんだかエルシャは微笑みを止めることができなかった。

 

「エルシャ、貴方……」

「もう戦わない。もう、あの子達を戦わせなくっていいのなら……あの子達を連れて、そのまま……」

 

 永住しようかしら。なんなら私だけドラゴンになって、殺してきたこっちの人間の代わりに贖罪をする。そう続けたエルシャの言葉に、アンジュは言葉を失った。

 でも、彼女にとって、いや子供たちにとってそれがいいのであれば、きっとそっちの方がいいのだろう。

 いや、≪いいに決まって≫いる。アンジュは心の中で断言した。

 命がけの戦いで馬鹿げた争いをするのは、今の世代で止めなければならない。でもーーー。

 

「ドラゴンと戦わなくていい世界……命をかけなくてもいい世界……か」

 

 その言葉を聞いたとき、ふとアンジュはある男性の事を思い出していた。そう、俗世間を離れて無人島で暮らしていた一人の青年。自分の事を、光だと言ってくれた青年の事。

 

「タスク……」

「え?」

「いえ、昔ある島に漂流した時に、≪マナ≫を使わないで生活している男がいたって、思い出しただけよ……」

 

 それは、以前にも記述したことがあるだろう。アンジュが無人島に漂着したことの事。そこに、ある青年。タスクがいた。青年は、まぁ色々としてくれたものだった。まったくもってここには書くことができないようないろいろな事を、本当によくもまぁしてくれたものだと、アンジュ自身呆れるほどだ。

 かつて、彼に言われたことがある。一緒に来ないかと、一緒に、戦いの日々から逃げるようにと、促されたことがある。でも、それでも自分は戦いの中に、戦乱の中に、殺し合いの中に身を置くことにした。

 チャンスがあったのに、それでも戻ったのは、そこしか自分の居場所がないから。なかったから。でも、そんな自分にも新しい居場所のような物が、いても大丈夫なところができてしまった。

 殺されたから殺し返す。だから、あの場所に戻ると決断したのだ。だから、タスクからの誘いを断ったのだ。だから彼は、自分の事を光だと言ってくれた。それなのに、今自分がその居場所から逃げ出すなんてこと、許されるのだろうか。

 分からない。全然、分からなかった。

 

「その人、アンジュさんの恋人さん?」

「ば、バカ言わないで! あんな年中発情期男!?」

「発情期って?」

「子供は知らなくていいの!」

「ウフフ……」

 

 エルシャは、そんなアンジュの姿をみてただ微笑むだけだった。それは、どこか憑き物が落ちたかのような、尊い微笑み。

 彼女はもう、未来を見据えていた。子供たちと一緒に歩む、遠い遠い、未来を。




 これが、私が考えたエルシャへの救済の始まり……。
 てか、やっぱりこれ原作未見勢がこの話見た後の原作でのエルシャを見て卒倒するのでは? エルシャありとなしでどのように話が違ってるのか、ソレを確認するのもいいかもしれません(なお、精神的なダメージについては責任取れません)。
 コムローイと灯籠流し。中身とか色々と似て非なるものなのは重々承知なのですが、それでもやっぱり見た目そっくりなので灯籠流しと同一視させていただきました。
 そしてある意味わさび版になってからのお約束、擬音を口走る登場人物達。
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