【完結】映画 ドラえもんクロスアンジュ のび太と天使と竜の輪舞   作:牢吏川波実

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chapter29 子供達を守れ! エルシャ命懸けの特攻!

 エルシャは、いつもの発着デッキに≪パラメイル≫を下ろそうとした。しかし、それが不可能な事であるとすぐに悟る。

 見ると、デッキの上には瓦礫が降り注いでいて、発進するための経路を塞いでいるように見える。それで分かった。サリアやヒルダたちが出てきていない理由が。

 ≪アルゼナル≫が急襲され、きっと彼女たちもまた総力戦で闘おうとしていたに違いない。でも、第三中隊の面々が発進した直後に、通路が塞がって、彼女たち以外の仲間、サリアたちは出撃できなかったのだ。

 

「着陸する場所は、なさそうね……」

 

 ならば、外からあの子たちのところに行こう。確か、幼年部の部屋は窓際にあったはずだから、そこからならいけるはず。エルシャは、急いで方向転換し、幼年部の部屋のある場所まで行った。

 その瞬間だった。

 

「ッ!」

 

 上からロープを使って、あの子たちがいる部屋の窓にマシンガンを乱射している兵士の姿が見えた。

 幸か不幸か、≪アルゼナル≫の窓は防弾ガラスであり、ちょっとやそっとじゃ壊れない代物だ。しかし逆を言えばそのちょっとやそっとを超えると、窓ガラスが破壊されてしまう。

 結果、そのちょっとやそっとから大きく外れた乱射により、幼年部の教室の窓は破壊された。そして、その手には―――。

 

「手榴弾! ッ!!」

 

 恐らく、中にいる子供たちを一網打尽にするつもりなのだろう。エルシャは、すぐ近くまで行くと、その兵士が人間を殺す武器を持っていた手を、これまた人殺しのための道具で撃ち抜いた。

 

「ッ!!」

 

 手榴弾は、子供たちの部屋に入ることなく、下に落下して、海の中で爆発した。エルシャは、ソレに一切動じることせずにその場にいた三人の兵士を次々と撃っていく。途中、自分に向けてマシンガンを放たれたが、そんなことに一切動じずに一人、また一人と撃ち殺していく。

 慣れたものだ。こうして、≪人殺し≫をすることにも。全く動じず、冷酷に、冷淡に、一人一人と殺すことができる。これが昔の、ドラゴンに対して殺意しか抱いていなかった自分だとするのなら恐ろしいものがある。そう考えながら、彼女はついに最後の一人を撃ち殺した。

 三人の遺体は、そのままロープを伝って下に落ちて行き、海の藻屑に消えていった。

 そして、エルシャの方は、彼らが使っていたそのロープに飛び移る。グローブをはめていたため摩擦熱の方はソレに吸い込まれ、手の方は痛くなかった。しかし、心の方が少し痛かった。

 

「ごめんなさい……ッ!」

 

 自分の操縦していた≪パラメイル≫の≪ハウザー≫は、搭乗者を失ったことによりそのまま落下。兵士たちと同じく海の中に消えていった。

 長年の乗機だったのだ。愛着がわかなかったわけない。自分が一生懸命に、幼子たちの次に大切にカスタマイズして、今の機体に作り上げた、大事な大事な機体。

 でも、大丈夫。もう貴方が誰かを殺すことはないから、海の中でゆっくりと眠って。覚悟を決めたエルシャは、残った窓ガラスを割ると、幼年部の部屋に入っていった。

 

「あ、エルシャお姉様だ!」

「エルシャお姉様、何があったの!?」

「大丈夫。大丈夫よ、もう安心して」

 

 部屋の中に入ると、子供たちが一斉に窓際にいる自分の方へと駆け寄ってくる。部屋の中は、兵士による攻撃で少し荒らされてはいたし、ケガらしきものをしている子供もいた。しかしそこに死体は一つもなかった。

 エルシャは安堵の息を吐いた。ギリギリ間に合った。そう安心したのもつかの間。

 

「いたぞ! ≪ノーマ≫だ!」

「ッ!」

 

 ≪アルゼナル≫内部にすでに潜入していた兵士が数人、幼年部の部屋に入ってきた。そして、その銃口を子供たちに向けると言う。

 

「撃て!」

 

 と。

 

「!? くっ!!!」

 

 この時の兵士たちの本来の任務は≪メイルライダー≫の確保。つまり、エルシャは確保対象者として名前が挙がっていたはずだった。しかし、混乱状態の最中、その手に銃を持った者を相手にして、確認なんてしている悠長な時間なんてなかった。

 エルシャは、一人でも多くの子供を守るためにその背中を兵士たちに向け、子供たちを抱きかかえた。

 自分は死んでも構わない。でも、せめて、子供たちだけは。

 そう、彼女が思った瞬間だった。

 

「ハァァァァ!!!」

 

 外から、プロペラ音とともに、一人の女の子が、静香が現れたのである。彼女は、エルシャが割った窓ガラスとはまた別の方の窓ガラスに≪突撃≫すると、その全てを割った。

 

「エイッ!!!」

「なに!?」

 

 そして、銃口を向ける兵士に一切怯えることなく、エルシャと兵士の間に降り立った。兵士の持つ銃から、何発もの弾が乱射される。

 しかし―――。

 

「馬鹿な、銃弾がはじかれるだと!?」

「マナか!?」

「静香ちゃん!」

「ッ!!」

 

 弾は、静香にもエルシャ達にも当たることなく、まるで何かに遮られているかのようにその場に落ちて行き、床には何かに当たって先がへこんだ銃弾が、まるで飴玉をぶちまけたかのように転がっている。

 ソレを見て、自分達と≪同じ人間≫なのかと、兵士が狼狽した時だった。

 

「静香ちゃん目を閉じて!」

「ッ!」

 

 と言う言葉に、静香は目を閉じた。そして、聞こえるたのは、その場にいた兵士の人数分の銃声。

 それが終わるころには、子供たちを、引いては静香を殺そうとしていたその凶器からあふれ出る銃声は止み、一瞬の静寂と、荒い呼吸をするエルシャの声だけが、教室の中にこだまする。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……み、見ない方がいいわ。静香、ちゃん……」

「……はい」

 

 その言葉が察するところ、きっと兵士を殺したのだろう。

 エルシャは、兵士たちが静香の視界に入らないようにとすぐそばにあった黒板の下に座り込む。恐らく、弾が掠めたのだろう。左腕には銃弾の痕跡があって、そこから少量の出血が流れ始めていた。

 

「エルシャさん!」

「エルシャお姉様!」

「お姉様、大丈夫!?」

 

 そんなエルシャに向って、≪あるひみつ道具≫のスイッチを切った静香と、そして幼年部の子供たちが駆け寄った。その姿を見た時、エルシャは涙をこぼした。

 

「エルシャお姉さま。痛いの?」

「ううん、違う。嬉しいの。良かった、守れて……よかったって……」

 

 自分の命に代えてもこの子たちを守りたかった。その言葉に嘘偽りなんてない。だからこそ、嬉しかったのだ。子供たちを守れて、誰一人その命を失うことなく、守ることができたことが。

 

「ありがとう、静香ちゃん。でも、一体どうやったの?」

 

 というエルシャの言葉に対して、静香はスカートについているポケットの中身、手のひらサイズの球体を見せて言った。

 

「“バリヤーポイント”攻撃を防いでくれるドラちゃんの“ひみつ道具”よ」

 

 そう、ある意味ドラえもんの秘密兵器と言っても過言ではない“ひみつ道具”の一つだ。ソレをポケットの中に入れるだけで自分の周り半径二メートルを見えないバリヤーで守ることができ、例えどんな物体であったとしてもその中に入ることがない。外敵から身を守るのにうってつけの道具。

 今回銃弾の雨の中に入ることとなる静香に、ドラえもんが貸した“ひみつ道具”の一つであり、そして子供たちを守った道具。

 静香は、ソレに感謝をしながら立ち上がるとその手に持ったポスターを壁に貼り付ける。

 

「“壁紙格納庫”! みんな! この中に入って!」

「え?」

 

 子供たちは唖然としていた。当然だろう。いつも自分たちが遊んでいる教室に一つのポスターが張られたと思ったら、そのシャッターを開けてそんなことを言うのだから。

 それは、≪マナ≫をほとんど見たことがない幼年部の子供たちにとっても、そして≪マナ≫を使える人間たちにとっても、不思議な光景であると言えるだろう。

 

「ほら、静香お姉さんのいうとおりにして」

「は、はい! エルシャお姉様!」

 

 と言う言葉とともに、エルシャは兵士の一人が持っていたマシンガンを手にしてその弾数を確認して廊下に出る。

 それと同時に、信頼しているエルシャの言葉に従って、シャッターの中に、一人、また一人と入っていく子供たち。おっかなびっくりといった様子だ。

 この“壁紙格納庫”の中はとても広い空間が広がっており、さらに中に物を入れて持ち運びができると言う優れもの。さらには防火、防水、その他もろもろどんな攻撃にも耐えうるため、こういう人命救助にはうってつけの道具なのだ。

 そして、最後の一人が入ったのを見届けた後、静香はそのポスターをはがしてクルクルと巻き、持つとエルシャに言う。

 

「みんな入りました! これで安全に避難ができます!」

「ありがとう静香ちゃん。私はここで、白兵戦を続けるわ」

「え、でも!」

 

 まだ、戦いを続けると言うエルシャ。しかし、先ほどの戦闘で、傷を負っているエルシャを放っておいていいわけがない。静香は、しかしその言葉を言う物の鬼気迫る表情のエルシャに言い返される。

 

「いいから! 大丈夫。私は絶対に死なないわ! 子供達を残して、死ねない!」

「エルシャさん……」

「早く!」

「はい……イェスマム! 気を付けて……」

 

 静香は、徐に、そして初めてとなるその言葉を使った。どうしてなのかは彼女にも分からなかった。でも、エルシャがその言葉に勇気づけられたのは確かだ。

 

「イェスマム……か、保護者として、あの子に私の死体なんて、見せるわけにはいかないわよね……!」

 

 エルシャは行く。アンジュやサラマンディーネを≪従える≫女性として、そしてドラえもん達を守る保護者としての使命を果たすために。

 実はこの時点で幼年部の子供が全員助かったわけじゃないと言うのをエルシャは知っていた。まだ、何人か子供があの教室の中にいなかったのである。それに、先生も。きっとどこかで助けを待っているはず。そして、まだ動くこともままならない赤ん坊の子供たちも保護室にはいるはずだ。

 その子供と先生を助けない限り、自分が逃げ出すわけにはいかなかったのだ。

 そう、一人でも多く、あの世界に。あの自然豊かな世界に送り届けるために。

 皆んなが笑って暮らせる。安心できる未来のために。

 エルシャは、≪最後の人殺し≫をしに駆け抜けてゆくのであった。

 こうして、本来の歴史ならその幼い命を散らせてしまい、あの男に取り入られていたであろう人間の人生が大きく変わった。

 いや、変わり始めたのは、ドラえもんに、のび太に、静香に出会えたおかげなのは、確かであった。




 今回の話、クロスアンジュ未見の方はわからないかもしれませんが、見ている人にとってはとても分かりやすい救済ポイント。
 もしかしたら、このシーンを書きたいがために、私はこの小説を書き始めたのかもしれない。
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