【完結】映画 ドラえもんクロスアンジュ のび太と天使と竜の輪舞   作:牢吏川波実

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chapter32 甘美なる囁きと友情を知る者

 エンブリヲ。その姿はいまだに白兵戦と言うよりも持久戦を続けているサリアたちの目にも見えていた。と言っても、ほとんど虫のような大きさであって、その姿形を正確に把握することまではできないのだが、しかしその姿を見たサリアは呟いた。

 

「あれがアレクトラの、私達の、敵」

 

 あそこにいる男。あれが、ジルが、アレクトラが殺そうとしている、≪リベルタス≫の最終目標。それを目の前にして何もできないなんて。サリアは歯がゆい思いをしていた。

 その時である。

 

「敵とは心外だな」

「ッ!?」

 

 今まで聞いたことのない男の声がそのデッキに響き渡ったのだ。サリアたちは、その声が聞こえて来た方に向けてその銃口を向けた。

 しかし、その先には男の姿なんてなかった。いたのは、アンジュの≪所有物≫である彼女の筆頭侍女。

 

「モモカ?」

 

 である。しかし、その目からはハイライトと言う物が消えており、その意識がないように思える。ソレを見たサリアは叫ぶ。

 

「違う! 今のモモカは、エンブリヲの操り人形にされてるわ!」

「え、エンブリヲって?」

 

 アレクトラから聞いたことがあった。エンブリヲには≪マナ≫を使用する人間を自由に操作することができる力があるのだと。だから、今いる目の前のモモカは、エンブリヲの操り人形とされてしまっているのだろうとサリアは判断した。

 

「な、サリア何してるの!?」

 

 でも、そう知っていてもなお、彼女はその銃口を彼女から離すことはなかった。

 エンブリヲ。彼女が、サリアが敬愛するアレクトラが殺したがっていた男が、今目の前にいるのだから。

 

「決まってる! ここでエンブリヲを殺して、リベルタスを終わらせる!」

「落ち着けって! あれはモモカなんだろ!? エンブリヲって奴じゃないって、てかリベルタスってなんだ!?」

 

 と、ロザリーに取り押さえられるサリア。ここでさらっと、この≪アルゼナル≫の上層部、と言うより≪ジル≫ほか数名しか知ることができない機密事項である≪リベルタス≫の事を話してしまったが、それもまた、彼女がパニックになっている証拠なのだろう。

 少なくとも、モモカの事をエンブリヲであると認識して、無理やりロザリーを自分から引き離した彼女には。

 

「でも! ここで殺さないと! アレクトラとの、約束が……」

「悲しき乙女たちだ」

「ッ!」

 

 その時。モモカが、いやエンブリヲがそう言いながら彼女たちに近づいてくる。

 

「人のことを復讐の道具にしか思っていないような人間に操られ、自分の事を見てくれない。そんな人間だから傷つき、嘆き、悲しむ。なのに愛する人間は振り向いてくれない」

 

 と、まるで自分の心を見通しているかのような言葉。何故、自分の愛するアレクトラは自分にヴィルキスをくれないのか。何故、自分はヴィルキスを操れないのか。ソレを使って、もうヴィルキスに乗れない彼女の分まで戦うと、誓ったのに。彼女の≪リベルタス≫を成功させると誓ったのに。

 それなのに、どうして、アンジュだったのだ。どうして、自分じゃダメだったのか。どうして。

 どうして。

 どうして!

 

「辛いだろう。苦しいだろう。私の所に来れば、その苦しみから解放してあげよう。サリア」

「黙れ、だまれ……!!」

「サリア!」

 

 サリアは、まるで憑りつかれたかのように、そしてそれを振り切るかのようにモモカに銃口を向けた。相手がエンブリヲじゃないことを知っていてもなお、その引き金を引こうとした。

 このままだと、闇に、飲み込まれそうだったから。すべてを知り尽くしている、自分の事を見通している人間。自分の事を理解してれる人間。エンブリヲに、取り入られそうだったから。嫌だ、≪まだ≫私は、裏切りたくない。アレクトラを、ヴィルキスを諦めたくない。そんな一心で、その引き金を引こうとした。

 そして―――。

 

「!?」

「え?」

 

 引き金は、引かれた。

 ≪彼≫の手によって。

 

「間一髪ってところだな」

「アンタ……!」

 

 そこに現れたのは、“ショックガン”を手に持ったジャイアンだった。ジャイアンは、サリアがその引き金を引くまさにその時に、円錐状の先をモモカに向けて撃ったのである。

 結果、モモカは気絶し、エンブリヲからの支配を脱することになった。まさに彼の言う通り間一髪。あと一秒でも遅れていたら、その場にはモモカの死体が残っていたことだろう。

 

「この瓦礫を取り除けば、≪パラメイル≫を出せるんだろ? だったら俺に任せとけ! “スーパー手袋”!!」

 

 と言ってジャイアンが“四次元くずかご”から取り出したのは、“スーパー手袋”という道具。文字通り手袋型の道具であり、両手にはめるととんでもない怪力を発することができる“ひみつ道具”なのだ。

 

「フッ! ぬぅゥゥゥゥ! おりゃ!!

「す、すげぇ……」

 

 ジャイアンは、ソレを使って≪パラメイル≫の目の前、つまりそのデッキを塞いでいた瓦礫を次から次へとまるで重さなんて感じていないかのように次々と軽く持ち上げ、簡単に投げ捨てていく。その様子を見ていたヒルダたちは、あまりの衝撃に言葉も出ない様子だった

 と、その時だ。ジャイアンが言う。

 

「なぁ、サリアさんよ?」

「え?」

「難しいことは俺にはよく分かんねぇけど。辛かったり苦しかったりしても、友達の事を裏切るのはなしだぜ」

「友……達?」

 

 それは、きっとエンブリヲの言葉を少し聞いたから出た言葉なのだろう。

 彼には、何の事なのかさっぱりと分からなかった。何故、それでサリアが怒るのかもよく分からない。でも、少なくともあのエンブリヲという男がサリアの事を連れて行こうとしている、仲間にしようとしている、つまりここにいる人たちを裏切るような真似をさせようとしているのは分かった。でもだからこそ、彼は言う。

 

「友達って奴はな、言うのは簡単だ。でもな、そこから心の友になれるのはほんの一握りだけだし、離れる時は一瞬なんだ。そして一度離れちまったらまた友達になるには難しいし、時には命を賭けないといけなくなっちまう。それを、覚えておいてくれよな!」

「……」

「……なるのは難しいけど」

「離れるのは……一瞬」

 

 この言葉に、一番反応を示したのは、ロザリーとクリス、そしてヒルダだった。

 そう、ジャイアンだからこそ、多くの冒険のゆく先々で友情を結んだ。心の友と言う物になった者たちを見て来て分かったこと。

 友達と呼ぶのは、簡単にできる。でも、その中でも真に自分の心から友達であると、心の友だと言える人間に出会うには、そしてそうなるにはいくつもの困難を乗り越えなければならない。

 そして、友達が離れるのは一瞬の出来事。そう、あの時もそうだ。

 自分の提案で、冒険に行くことになった時、自分は冒険を面白くするためにと言ってドラえもんの便利な“ひみつ道具”をいくつも置いてきてしまった。そのせいで、ドラえもん達を危険な目に合わせて、更には家に帰れなくさせてしまった。

 自分は、もう彼らの友達でいられない。そう何度も何度も心の中で思い、涙も流した。結果、自分は勇気を振り絞って、危険な冒険の一番先頭に立って、自己犠牲と言う形でドラえもん達を救うしか、その償いができなかった。

 最後の最後、自分たちはついに追い詰められてしまった。一緒に冒険をしていた犬のペコ、しかしその正体は犬から人間のように二足歩行ができるように進化した犬人間であり、とある王国の王子だったのだ。

 そして、その王国は大臣の反乱により圧政を強いられて、子供が腹をすかしたり、国民が労働力として利用されたりとひどいありさまになっていた。自分たちはそれを止めるために王国に乗り込んだが、結局はその王国で作り上げられた兵器によって逃げ道を封じられて、後がなくなった。

 その時、ペコは一人自分を犠牲に、自分が大臣の下に行くことによってジャイアンたちを守ろうとしたのだ。そんな事、させるわけにはいかない。元々、自分が言いだした冒険。元々自分が作り出してしまった窮地だったのだから。

 

『死にに行くようなもんだよ!』

 

 そう言われた。でも、ジャイアンは向かった。ペコの下に、友達を守るために、友達を、見捨てないために、ペコとは言い争いをした。一撃、ペコの顔をぶん殴った。

 そう、自分はいくら種族が違うと言っても、一国の王子の顔を殴ったのだ。そうまでしても、ジャイアンはペコについて行こうとした。

 それが、その冒険の責任だったから。

 でも、びっくりしたのはその後だ。なんと、後からのび太や静香、ドラえもん。そして少し遅れて臆病なスネ夫まで自分たちの所に来たのだ。あの時の会話は、自分と、のび太の会話は今でも覚えている。

 

『なんだよ、結局一緒じゃねぇか』

『そうだよ、みんな一緒だよ! これから何が起きるにしても、僕らはずーっと一緒だよ!』

 

 命がけの戦いに、命を落とす戦いに、友達は皆、誰一人としてかけることなくついて来てくれたのだ。それが、ジャイアンにはとても嬉しかった。涙が出るくらいに。

 そう、それぐらい命をかけなければ、友達と言う物はもう一度なることができないのだ。

 結局、その後は静香のファインプレーもあって彼らが命を落とすことはなく、大臣を倒し、ペコの王国を救うことができた。でも、あの時程命の危険を感じ、そして友情の危機を、友情の強さを感じ取ったことはなかった。

 そんな彼だからこそ、出る言葉だった。

 そう言えば、あの時も逆転の口火を切ったのは、“スーパー手袋”だった。そう思いながら、彼はついに瓦礫の最後の一個を放り投げたのだった。

 

「ふぅ、少し時間はかかったけど、なんとかッ!?」

 

 その瞬間。彼らの前を、と言うより海上を一筋の大きな光が走った。

 まるで爆弾が落ちたかのような音と衝撃と共に、吹き飛ばされそうになる彼彼女たち。しかし、しっかりと踏ん張り、瓦礫の屑とその光から目を守りながらもなんとか耐え抜いた彼女たちの前に現れた物。それは―――。

 

「な、海が……」

 

 海に大きな穴が開いている姿であった。それは、まさしく先ほどヴィルキスともう一機―焔龍號―がもたらした災厄とほぼ同じもの。違うところと言ったら、それをもたらしたのはまた別の機体であったと言うところだろうか。

 

「アレクトラ!? 今の何!?」

 

 と、司令のジルに聞いたサリア。そして、少しのノイズと共に聞こえてきた言葉は。

 

『……終わったよ、何もかも』

「え?」

 

 全てを諦めた、一人の女性の言葉だった。

 

『アンジュが、連れ去られた。ヴィルキスは、海に沈んだ』

「そんな、ヴィルキス、が……」

 

 ヴィルキスが、海に沈んだ。まさか、さっきの一撃で。

 ヴィルキスは、ジルの≪リベルタス≫には必要不可欠な存在だ。それを知っていたからこそ、彼女の絶望は、いや二人の絶望は大きかったのだろう。

 しかし、絶望はまだ続く。

 

『最悪なことはまだある』

「なんだよそれ!?」

『ドラえもんが、連れて行かれた。そして……』

 

 数秒の沈黙の後、ジルはハッキリとした口調で、残酷な事実を打ち明ける。

 

『タスクと、のび太が……死んだ』

「な、なんだってぇぇぇ!?」

 

 ジャイアンは、その言葉を通信機で拾うと、全速力でデッキの一番手前まで走る。無人機たちは全てが撤退しており、そこにはいつも通りの青空と、そして飛んでいる数機の機体と、一機の戦闘機の姿。

 そして、前述した通りに大きな穴があるだけ。ドラえもんの、のび太の、そしてアンジュの姿は、どこにもなかった。

 

「ドラえもん!!」

 

 ジャイアンは叫んだ。

 

「のび太ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 その声が、彼に届くことはなかった。




 原作見てる人なら、ここで一つ安心ポイントが出来たかと思います。
 いやんなこと言ってる場合じゃねぇ! のび太がなぜそんな事に!? 次回に続く!
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