【完結】映画 ドラえもんクロスアンジュ のび太と天使と竜の輪舞   作:牢吏川波実

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chapter33 のび太、死す!?

 時は、エンブリヲとその乗騎がアンジュの目の前に現れた時まで遡る。

 

「全く、アンジュ。君もひどい女の子だ」

 

 と言ったのは、黒い機体の上に乗っている男、エンブリヲである。この黒い機体。よく見るとヴィルキスに似ているような気もしないでもないが、しかし今はそんな事どうでもいい。

 

「アンタが、サラ子が言っていた、アウラを攫った全ての元凶ね!」

 

 と、アンジュは≪アサルトモード≫のヴィルキスの中から叫ぶ。しかし、エンブリヲはそんな事、いにも返さずに言った。

 

「必要だからそうしたまでだ。けど、残念だよ」

「何が!?」

「君の、≪兄殺し≫を止められなかったことが」

「え!?」

「アンジュさんの、お兄さん……?」

 

 兄、そう、確かにアンジュには兄がいたと聞いた。でも、まさか、あの艦隊の中にいたなんて。

 驚いているのはアンジュも同じこと。兄が、お兄様が、ジュリオがいた。いや、そもそも生きていたなんて。

 

「嘘よ、だってミスルギ皇国は滅んだって……」

 

 そうだ。自分はジルから聞いた。ミスルギ皇国は自分が≪ノーマ≫だと分かったことによって国民から反乱を起こされ、滅び去ったのだと。だから、ジュリオも妹のシルヴィアも、そして父もまた、死んだのだと、そう思っていた。でも、違っていたのだ。

 

「……君もまた、アレクトラの嘘に騙されたのだね、可哀そうに。ミスルギ皇国はその名前を神聖ミスルギ皇国と名前を変えて新たな歩みを経ていたのだよ。そしてその皇帝は、さっき君が破壊した船に乗っていた……皇帝ジュリオ一世」

「お兄様が……ジュリオ……が、あの中に……本当に……」

 

 その言葉を聞いた瞬間、アンジュは手が震えた。今まで行く何百もの人間の命を奪って来た。母の死だって、目の前で、本当に目の前で見てしまった。でも、まさか自分の手で、兄の、ジュリオの命を奪ってしまったなんて、と。

 あんな凶悪な兵器を撃ってしまったがために、自分は、兄殺し、家族殺しの汚名を着てしまったのだ。その事実に、アンジュは一瞬恐怖を覚えてしまった。

 

「アンジュさん……」

 

 のび太は、そんなアンジュの事を気遣って声をかけようとした。でも言葉なんて当然出てこなかった。親兄弟を殺してしまうなんて事、自分は経験した事なかったから。だから、どんな言葉をかけていいのか分からなかった。

 

「悲しいだろう。辛いだろう? 実の兄をその手で下してしまったその責任に押しつぶされそうだろう? だが、私なら……」

 

 そういって、サリアの時と同じように懐柔しようと近づくエンブリヲ。

 しかし。

 

「関係……ないわ」

「?」

 

 アンジュは、そう言うとヴィルキスのハッチを開けてエンブリヲに銃を向けて叫んだ。

 

「たとえ相手が実の兄だったとしても、私はもう……何人も殺してきた! ドラゴンも含めて大勢の人間を殺めてきた! 今更、実の兄を……ましてや、私の事を≪ノーマ≫だと告発し、お母さまの死に加担したジュリオが死んだとしても、私には関係ない!!」

 

 それは、半ばやけくそと言っても過言ではなかった。自分の事を≪ノーマ≫であると告発した事実。確かにこれはある。でも、それは結果的にそうなっただけ。結果的に本当に自分が≪ノーマ≫であったからこそ起こった悲劇。

 母が死んだのもそう。と言うよりも、母が死んだのも自分のせいだ。まだ自分が≪ノーマ≫であることを受け入れられないで、自分に銃を向けてきた警備の人間に剣を向け、突っ込んでいったときに母は自分の事を守ろうとして≪マナ≫を発動した。

 でも、その≪マナ≫を破壊してしまった。≪ノーマ≫は≪マナ≫を使用することができないだけじゃない。≪マナ≫そのものを消してしまう力があるのだ。それで身を守ろうとしていた母が自分の代わりに撃たれて、致命傷を負って、そして―――。

 

『守りたかった。貴方を……真実から。生きるのです。アンジュリーゼ……何があっても……』

 

 自分の手の中で絶命した母。

 そうだ、人間は真実から目を逸らして生きていくことはできない。真実から目を背けた瞬間に、人間は罪を背負い、その罪に堪え切れられなくなって、自滅する。

 自分は目をそらさない。真実から。そのつもりで、でも自分でも知らぬ間に目をそらしていた。自分が母親を殺したという事実から、兄を殺したと言う事実から。

 しかし、目の前の全ての元凶、エンブリヲから。目を逸らすことなく放った。

 

「アンジュさん!!」

「三人とも! 見ちゃダメよ!!」

「!?」

 

 アンジュのその言葉に、彼女に近づこうとしていたドラえもん、のび太、スネ夫が目を逸らした。その瞬間。

 鳴り響いた数発の銃声。それが、エンブリヲに向けられていた物であると言うのを想像するのは容易かった。

 

「殺った!?」

 

 サラマンディーネはその姿を見ていた、確実に弾が三発、エンブリヲを貫いた。それも一発はその頭を撃ち抜いている。エンブリヲを殺した、そう思っても仕方がない状況だ。

 しかし、その瞬間だった。

 

「いや、まだだ!」

 

 下の方から、一人の男性が≪パラメイル≫に似た小型のバイクに跨り現れたのだ。

 アンジュは、その機体の持ち主。そしてその声の正体を知っていた。

 

「え? タスク?」

 

 そう、その人物こそ彼女が無人島に遭難した時に出会った青年であり、並びにドラえもん達がコピーしたあの≪パラメイル≫に深く関係する男、タスクであったのだ。

 彼は、アンジュに近づきながら通信機の周波数を合わせて言う。

 

「エンブリヲは、その程度じゃ死なない! 奴は、不死身だ!」

「え?」

 

 不死身、本当にそんな人間がいるのか。そうアンジュが疑問を呈そうとしたその時だった。

 

「その通り」

 

 と言って、ヴィルキスに突如として乗り込んできたエンブリヲの姿を見たのは。

 

「え? 嘘……きゃぁ!」

 

 アンジュは、それに驚くこともできず、咄嗟にハッチを閉めようとした。しかし間に合わなかった。エンブリヲにその身体を触れられた瞬間、ドラえもん特性のライダースーツと指輪がヴィルキスのコックピットの中に落ち、自分自身はエンブリヲが乗っていた機体の上に彼の腕にお姫様抱っこのような形で抱かれていたのだ。

 

「アンジュさん!」

「ちょ、見ちゃだめよ! 見ないでよ!」

 

 と、先ほどの見るなと言うのは自分がエンブリヲを殺すと言う子供には刺激的な光景を見せないための優しさだった。が、今度のは羞恥による見るな、である。もっともだ。

 今、自分は布一枚も身に付けないで男の腕の中にいるのだから。また別の意味で刺激的な姿である。なんて、どこか自画自賛にも似た感情を持った見るな、である。

 

「どういう事!? ヴィルキスに乗っていたはずのアンジュさんがどうして!?」

「それがあの男の力だ! アンジュ! 今助ける!!」

「タスク!」

 

 と言ってタスクがエンブリヲに近づこうとした瞬間だった。

 

「うわぁぁぁぁ!!!」

「え?」

 

 そんな悲鳴にも似た声が聞こえて来たのは。その、悲鳴が聞こえて来た方向を見るとそこには。

 

「な、なんで僕のところばっかり!?」

 

 数十もの≪ピレスロイド≫がドラえもんが乗る戦闘機を追いかけて集団を作っていたのである。その様子は、あたかも冬に大陸間を移動する鳥の群れのように整然と、そして獲物を見つけた猛獣の様な勢いだ。

 

「ドラえもん。君は厄介なんだよ……」

「なんだって!!?? うわッ、うわっ、うわぁぁ!!」

 

 と言う言葉と同時にドラえもんに次々と襲い掛かる≪ピレスロイド≫。そうだ、アンジュは思い出した。この男は元々向こうの世界で、アウラとともにドラグニウムの研究をしていた人間。そして、のび太たちの時代から見れば未来の世界の人間なのだ。故に、知っている。

 ドラえもんが持つ数多くの“ひみつ道具”の存在を。そして、それがいかに有用であり、自分にとっては厄介な存在であるのかを知っているのだ。

 

「ドラえもん! この、うわぁ!」

 

 のび太は、そのドラえもんの姿を見て戦闘機の先端を彼の方へと向けてレーザーを撃つ。その度に一機一機と≪ピレスロイド≫を落としていくが正直言ってキリがない。その内に≪ピレスロイド≫からも機銃掃射されて、今度はのび太が危うくなってくる。

 

「のび太君逃げて!」

「ダメだよ! だって、ドラえもんやアンジュさんを助けないと!」

 

 と言ったのび太。何が何でもドラえもんとアンジュを助け出そうとする、その勇気は買おう。だが―――。

 

「うっとおしいんだよ、君は……野比のび太君」

「え……」

「止めて!」

 

 勇気と無謀は違うのだよ。

 そう心の中で呟きながら、そしてアンジュの悲鳴にも似た懇願を聞きながら、エンブリヲは自身が操る機体の剣を、のび太目掛けて振り下ろしたのだ。

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