【完結】映画 ドラえもんクロスアンジュ のび太と天使と竜の輪舞 作:牢吏川波実
♪始まりの光……Kirali…kirali 終わりの光 Lulala lila♪
歌が、聞こえてくる。
♪返さんel ragna 砂時計を 時は溢れん Lulala lila♪
ドラえもんは、闇の世界のなかで耳に聞こえてくるその音を捕らえていた。
♪幾億数多の 命の炎♪
なんだか、懐かしい様な、でも嫌な感じの歌だ。
♪するり堕ちては星に♪
当然だろう。彼の中でその歌は、かの破壊兵器を撃つためのトリガーであり、そして彼の大事な友達を海の中に沈めた葬送曲のようなものだったから。
♪流れ流れては美しく また生と死の揺りかごで♪
しかし、とても優しい声だ。まるで、子守歌の様に、そして、その悲しみを表しているような歌は、彼の心を揺らして、やがて彼の目はやんわりと開いていく。
♪柔く泡立つ♪
「はっ、ここは!?」
彼が目覚めた場所。そこは、どこか研究室のような場所だった。あらゆる機械に囲まれている、四角く、機械的な箱庭。一切の感情も持たない、コンピュータの巣。その天井はまるで手術室のライトのように光り輝いて、自分のことを照らす。一体、ここは。
「ドラえもん! 目が覚めたのね!」
と、その時彼の目の前に現れた女性がいた。アンジュだ。
彼女は、純白を基調としたドレスに身を包み、泣き腫らしたかのような赤い目で、彼のことを見下ろしていたのである。
ドラえもんは起き上がると聞いた。
「アンジュさん……その服は?」
「……アイツが持ってきたのよ。裸で歩き回るか、コレを着るか……苦渋の二択だったわ」
アイツ、恐らくエンブリヲの事であろう。その表情からして、本当に苦々しい気持ちでエンブリヲから服を受け取ったのが分かる。
恐らく、あの戦闘で、自分が高圧電流によって気絶させられた後、アンジュともどもどこかの、恐らくエンブリヲの研究施設か何かに送られたのだろう。
戦闘―――。
「そうだ! のび太君たちは!?」
「それは……」
そう、のび太たちはどうなった。それに、途中でのび太を助けに行ったタスクという人物は。ジャイアン、スネ夫、静香。それに≪アルゼナル≫の皆やサラマンディーネたち向こうの世界の人間たちはどうなったのか。
アンジュは、その質問に言葉を無くした。言えるはずがない。のび太も、タスクも、あの破壊兵器によって、あの忌々しい歌のせいで死んだ、なんて。
「全く、かつての仲間にも困ったものだ……」
「!?」
と言って、エンブリヲがモニターの一つをつけたのである。その先には、自分が知っている島が見えた。あれは確か、以前のび太たちと一緒に探しに行った宝島。いや、正確に言えばあれは船だったので宝船と言った方がいいのかもしれない。とにかく、自分が知っている島なのは確か。
でも、どういうことだ。かつての仲間、とは。
エンブリヲは、“四次元ポケット”の中身をあさっていた。腹部を見ると、自分の“四次元ポケット”が無くなっているから、たぶん自分から引き剥がして中身を調べている途中、なのだろう。大丈夫なのだろうか。ドラえもんは、ドキドキしながらもしかし、思考を止めなかった。
向こうの世界で聞いた。エンブリヲには共同研究者として科学者のフィオナとその助手であるジョンという人がいたのだと。ジョン、フィオナ、宝船。この三つのキーワードが合わさった時、ドラえもんはついに閃いた。
「ジョンとフィオナ……ハッ、そうか……!」
どうして自分はこんな大事なことを今の今まで忘れていたのだろう。なんでもっと早く気がつかなかったのだ。その名前の組み合わせは、自分にとってとても大事な、ある冒険の中で聞いたことがある名前であったと言うのに、どうして。
「どこかで聞いた名前の組み合わせだと思ったら……フロックのお父さんとお母さんの名前だ!!」
「フロック?」
「かつて僕たちと一緒に地球のエネルギーを守るためにお父さんを説得した友達の一人さ……確か、フィオナさんたちはあるエネルギーを発見して、研究していたという……」
そう、フロックや彼の父親でありフィオナの助手を務めていたジョンは話していた。
「でも、そのエネルギーは不完全で、むやみに使えば地球に悪影響を及ぼすって……」
そして、フィオナはその不完全なエネルギーを安定化させるための研究に力を入れて、それがたたり病弱だったその女性は、研究途中に病没してしまったのだと。
「悪影響? まさか!」
アンジュは、その言葉を聞いてある言葉が思い浮かんだ。まさか、そのエネルギーの正体は。
「その通り、ドラグニウムの事……彼らは結局、最後の最後までソレを使う事はしなかった」
と、エンブリヲが補足するように言う。その後ろでは、宝島と船のような何か、≪アウローラ≫が浮上し、間に橋がかけられているのが見える。
「ッ! あれって」
「しっ!」
アンジュは、その橋を見た時にあることに気が付いた。それは、ドラえもんもそうだった。しかし、エンブリヲは自分たちの方を向いているためにそのことに全く気が付いていないようだった。
だから、ドラえもんはアンジュが声を出そうとした時に一瞬でソレを止めた。おまけにエンブリヲは格好つけるために目をつぶっていたので、幸か不幸か、彼らの顔の変化にも気が付かずに余裕綽々の笑みで語り始める。
「そしてフィオナは病死し、ジョンと私は引き続きドラグニウムの研究をしている中、私たちは量子物理学の研究の際の事故で時空間の中のゆがみの中に飛ばされた」
「なんだって!?」
そして、エンブリヲは語り始める。自分たちの始まり。自分がどうしてこの力を得たのか、その理由を。
そしてそれは、偶然にも≪アウローラ≫の方に渡りジルたちも交えてジョンが話をするのとほとんど同じタイミングだった。
「幸いにも当時の私はタイムマシンを使い、ドラグニウムの研究に着手しようとしていたため難を逃れた。だが、目を開けた時見たのは……荒廃した未来の地球だった……」
「それって!?」
「その通り、未来で起こった戦争だ。エンブリヲが世界中にドラグニウムのデータを送り、そのエネルギープラントを不完全であると知ってもなお世界中で作り上げた頃合いを見て、けしかけたことによって発生した戦争によって荒廃した地球の姿だったのだ!」
「なんだって!?」
これは、あの事件の、のび太たちの時代に行き、彼らの時代の地球から溶岩のような液体として地中深くに眠っていたドラグニウムを回収しようとしたあの事件の後、調査した結果判明した事実。
危険も承知で、もう一度あの忌まわしき未来に行き、一体何があったのか、何故地球が荒廃したのかのデータを残っていた軍事施設のデータから割り出した想像上の答え。
その結果導き出されたのは、エンブリヲが世界各国にドラグニウムの存在を露見し、その結果国家間の争いを仕向け、時にはドラグニウム自体を渡して戦争の被害を大きくし、そして自身の制作した兵器によって世界を破滅させ、さらには世界中でエネルギー源として活用していたドラグニウムのエネルギープラントを破壊した事によって世界を滅亡させた。そんな事実だったのだ。
「それじゃ、フロックのお父さんが、フロックやセーラの事も顧みずに研究を続けてたのは……」
「全部、そのエンブリヲのせい……エンブリヲが、ママの研究を悪用したから、そんな酷い世界になって、パパも……」
「そんな……」
「遠因としてはそうかもしれない。だが、ドラグニウムの研究をし続け、不安定だと分かっていながらもそれを利用しかけた私にも責任がある」
「父さん……」
誰かの責任にするつもりはない。そうジョンは語る。もし自分が、自分たちがドラグニウムを発見、研究を続けなければ起こらなかった事。そして、それによって死別した奥さんへの愛情と、子供への愛情、そして未来への悲観が混同してしまった結果起こってしまった。それが事実だ。
しかし、だからと言って彼の謀略を許しておくジョンではなかった。
「私はその事実を知り、エンブリヲがその謀略を尽くす前に止めようと、あの瞬間。エンブリヲが量子物理学の実験を行った瞬間、またはその直前に行こうとした……だが……」
「できなかったんだ」
「できなかったってどうして!?」
何故、できなかったのか。その事について、ジョンはこう語る。
「恐らく、エンブリヲがなにか策を講じたのだろう。そうとしか考えられない。時空間にゆがみをつくり、狂わせ、タイムマシンがその目的の時間、場所につかないようにしたのだ」
あくまで、推測でしかないが、そうジョンは補足する。
実際時空間にゆがみを、というか時空間自体を破壊しようとした科学者をのび太たちは知っていた。その男は≪ギガゾンビ≫という名前を名乗り、石器時代に逃げてそこで研究をし、時空間を破壊する装置を作り上げた。
幸いその時はドラえもん達や、その時代にいて、最初の日本に移り住み≪日本誕生≫の礎の一つとなった少年ククル、そしてドラえもんの妹のドラミが呼んだタイムパトロールによって時空破壊は阻止されて、無事に歴史が―――。
「ちょっと待って!?」
と、その時静香は気が付いた。そうだ。ギガゾンビ。この人物の正体は、確か。
「前に私たちが戦った≪ギガゾンビ≫って悪者は、確か二十三世紀の人。地球が荒廃した戦争、少なくとも、ドラグニウムが発見された≪後≫から来たはずじゃ?」
そう、確か向こうの世界でドラグニウムが発見されたのは二十三世紀。そして戦争が起こったのは二十三世紀頃の事だとするのならば、ギガゾンビは、その戦争のさなかに来たことになるのではないか。
戦争の中で、わざわざ旧石器時代に飛ぶなんてありえるのか。そう静香は疑問を呈した。
「ギガゾンビって人が戦争前に来たんじゃないの?」
「それか、戦争状態の中で研究を続けられる余裕がなかった……だから戦争とは無縁の石器時代に行ったんじゃ……」
「あるいは……まだ確定していなかったか……」
「え?」
スネ夫たちが、ある意味では正解の可能性が一番高いと思われる仮説を立てた。一方で、ジョンはまた別の可能性を考えていた。あくまでまだ推論であるし、証拠もないために彼らには伝えられないが。
「私は曲がりなりにもエンブリヲの共同研究者だった。だから、あの男の性格は知っている。そして、アイツが、世界を破壊しただけでは満足しないようなマッドサイエンティストであるという事もな……」
「なんですって……」
「世界を破壊しても、まだ足りないって言うの!?」
「……」
おそらく。ジョンはそう考えていた。あの男の中に眠っていた狂気。ソレと、彼がおかれた状況、そしてその動きを未来世界で知ったことによって、エンブリヲが何をしようとしていたのかが、なんとなく分かってしまったのだ。
「父さんは、未来世界に行くためには膨大な出力が必要だと思って、宝島を動かしたんだ。勿論ドラグニウムを使わない、安全なクリーンエネルギーだ」
「本当なら、私一人で向かう予定だった。だが、フロックやセーラに気付かれてしまってな……」
「パパを一人で危険な未来に送れない。そう思って、私とお兄ちゃんはもう一度あの海賊団を……各時代に戻った海賊たちを集めて、パパと一緒にその未来に向かうって決めたの……」
宝島に乗っている海賊たち。ソレは、かつてジョンが集めた各時代における海賊の残党、あるいはその家族だった。やはり共同研究者だったからだろう。ジョンは、宝島の中で一つの町を、ここから見た向こうの世界でアウラが行ったように一つの町を形成し、あらゆる人種、特性を持った人々と一緒に暮らしていた。
全ては、未来に一つでも多くのDNAを残すために。しかし、のび太によってその願望が自分勝手だと知ったジョンは、その各時代の人間たちを自分たちの時代に送り届けて未来に帰ったのだ。
しかし、フロックとセーラは、父が再び、そしてただ一人危険な冒険へと出ようとしていることを知り、宝島を動かすのに必要な人員として一切の支障がないようにと再びその時の人間たちを集めて共に、未来世界に向かったのだ。
「すべては、エンブリヲを止めるために……だが、宝島のエネルギーを使ってもその未来に到達することは不可能だった……」
「そんな時、僕は、“虫の知らせアラーム”が鳴って、何か悪い予感がしたんだ」
と、ジョンが苦々しく言葉を発した直後、クルトがその言葉に続けて言った。虫の知らせ、という言葉があるそれは、良くないことが起こりであると感じる事、という一種の第六感に近いものなのであるが、“虫の知らせアラーム”はそれを視覚化し、自分の仲間に身の危険が迫っていると鳴り響いて知らせてくれる“ひみつ道具”であるのだ。
それが鳴ったのを聞いたクルトは、すぐに自分の知り合い全員に連絡を取った。しかし、ひみつ道具
もしかして、過去の世界の彼らに何か起こったのではないか、と。
「それですぐに、のび太たちを助けるためにって“タイムマシン”を使ったんだ……」
本当なら、最初に“時空振カウンター”という時空間の乱れのような物を計測するマシンを使ったり“タイムテレビ”という過去未来の様子を見れる“ひみつ道具”を使ってのび太たちのどの時代で何が起こったのかを調べればよかったのだが、ソレを怠り、只々タイムマシンに乗り込んでしまったクルト。
結果、一体どの時代に行けばいいのか分からず時空間の中で立ち止まっていた。そんな時だった。
「未来にいくために四苦八苦していた俺たちの船とぶつかって、でその時にエンジンが故障。一緒に流れ流れて……この世界に着いたというわけさ」
「クルトは相変わらず……」
「ドジだなぁ……」
フロックが後付けで説明した言葉に、ジャイアンとスネ夫がそうクルトを茶化すと、彼は頬を膨らませて無言で怒る。ドジ、と言う言葉で思い出したがそう言えば彼には“ポポン”という別の“ひみつ道具”を生み出す過程で生まれたペット型の“ひみつ道具”がいたはずだが、彼は来ていないのだろうか。
「ねぇ、ポポンは?」
「あぁ、ポポンなら危ないから念のために未来に残して、来たのは僕だけなんだ。でも、僕お手製の“ひみつ道具”はたくさん持ってきたから!」
「クルトが作った……」
「“ひみつ道具”ねぇ……」
「な、なんだよ!?」
と言う言葉に苦い顔を浮かべたジャイアンとスネ夫。しかしこれは仕方がない。彼が作った“ひみつ道具”と言うのはかなり欠点が多くて、ジャイアン、スネ夫、それから静香はその被害者と言っても過言ではないからだ。例えばものを大きくする“ビッグライト”を改造して一部分だけを大きくする“ビックリライト”とか、鳩型の模様と音、そして飛べと言うと“タケコプター”のように空を飛べる―けど危険度は多分タケコプターよりも高い―道具を作るとか色々と。
つまり、宝島はクルトのせいで故障して本来来るべきではなかった世界に来てしまったと、そう言う事か。しかし、それが何の因果か、このエンブリヲが支配していると言ってもいい世界だったのは、奇跡、あるいは偶然時空間の乱れに引っかかったおかげによる奇遇であると言える。
「それで、宝島は私が撃墜されたポイントのすぐそばに沈んでた。私は重症だったけど、のび太やタスクを助けた時と同じ方法でこの宝島に助けてもらって、今日まで治療を受けてたの」
「そう、だったの……」
どうやら宝島はその後メインエンジンを治すまでの間海中に沈んだままでいたそうだ。そこは、偶然ナオミがKIA、つまり戦死したとされているエリアであったため、海中に沈んできたナオミを奇跡的に回収し、今日の今日まで治療を受けていたらしい。
そして、ナオミの身体が完全に回復したのも、宝島のエンジンが直ったのも、ちょうどエンブリヲの≪アルゼナル≫襲撃に重なったのは偶然。
その偶然が数多も重なった結果、ここにフロックやクルトがいて、そしてナオミという本来の歴史だったら死んでいたはずの人間を生きながらえさせ、のび太とタスクが助かるという結果につながったのだ。
因みに、アンジュが着ていたスーツはナオミ曰く、予備で使っていたスーツであり、自分がテスト中に来ていたスーツとは違うそうだ。では、スーツに付着していた血は何だったのかと聞くと、何故かサリアの方を見て苦笑いするだけだった。
それはともかくとしてだ。
「そして、エンブリヲ、その名前は、“ひみつ道具”の歴史の中で大きな意味があるんだ」
「え? どういう事?」
と、クルトは言う。エンブリヲがドラグニウムの発見研究者の一人であることは既に知っているしかし、“ひみつ道具”の歴史で意味があるとはどういうことなのか。
「実は、エンブリヲって言うのは……」
そして語り出す。エンブリヲのもう一つの顔。クルトだからこそ、“ひみつ道具”の開発を行って、その歴史を知っていた人間だからこそ知っている驚愕の事実を。
因みにクルトの参戦理由もクルト並みのドジを作者がしたから(元々フロックの名前をクルトと勘違いして初稿書き始めて、途中で気がついたけど、まぁいいかと思って参戦が決定した)です。突発的な参戦のため、ポポンや他の秘密道具