【完結】映画 ドラえもんクロスアンジュ のび太と天使と竜の輪舞 作:牢吏川波実
ずっと引っかかっていたことがあった。ドラえもんは考える。最初に≪エンブリヲ≫の名前を見た瞬間に、どこかで見た名前だなと、そう思っていた。でもその時には全く思い至らなかった。だが、ことここに至ってエンブリヲがマッドサイエンティストであることが分かり、ついにその引っ掛かりが解け、彼の頭の中にある記憶が、蘇ったのである。
「エンブリヲ、この名前を聞いたときからずっと頭に引っかかってたんだ。どこかで聞いたことがあるんだって」
「え? そんなの、未来の科学者の一人なんだから当たり前なんじゃ……」
というアンジュ。そう、エンブリヲはドラえもんの未来にいた科学者である。という事は、その名前をどこかで聞いていたとしてもおかしくはないのでは。
そうだ。聞いていたのだ。知っていたのだ。でも、その答えに辿り着くことができなかった。恐らくそれは、あまりにも悪い方で有名だったからなのだろう。
「そう、その科学者の一人、発明家の一人というのが問題なんだ……」
「え?」
というと、ドラえもんはエンブリヲを指さして叫ぶ。
「エンブリヲ! お前は、“人間製造機”の生みの親だな!」
「え?」
「ご明察」
エンブリヲは、ようやくそれに気が付いたか、そんな風な含み笑いをして、ドラえもんの事を賞賛する。
当然、ドラえもんにとってはそんな言葉賞賛にはならない。むしろ、最悪と言っても過言ではない物だった。
「ドラえもん、なによその、“人間製造機”って」
「その名前の通り、人間を生み出すことができる道具さ。材料は、小学生ののび太君ですらも集められるほど簡単な素材で作り出されることができる」
主に、脂肪分となる石鹸一つ。鉄分になる釘一本、リンとなるマッチ百本。炭素になる鉛筆四百五十本。カルシウムになる石灰コップ一杯分。硫黄一つまみ。マグネシウム一つまみ。水一.八リットル。これらを入れることによって、簡単に人間一人を作れてしまうという、錬金術師もビックリな“ひみつ道具”。
しかし、そんな、人間の神秘を真っ向から否定するような“ひみつ道具”がまともなはずなかった。
「でも、その道具で作り出された人間は、念能力や超能力を使用したミュータントとなって、未来世界ではそのミュータントが勝手に仲間を増やして人類を支配しようとして、その鎮圧のために国連軍が出動するほどの事態になったんだ!」
「はぁ!?」
「すぐに販売中止になって回収された。でも……その“人間製造機”の生みの親がエンブリヲなら」
いくら“人間製造機”が全て回収されたとしても、その開発者の人間の脳内には必ずその設計図が入っているはず。であるのならば、ソレをもう一度作り直すなんてこと簡単なことだ。そして、自分自身が望んだ、“人間”を作ることすらも。
「おかしいと思った。どうして、この世界の人たちには≪マナ≫という魔法みたいなモノを使える人と、≪マナ≫が使えない普通の人間が出てくるのか……」
≪マナ≫を使える人間。≪マナ≫の使えない人間。この二つの違いはなんだ。どこかに根本的な違いがあるのか。いや、なら何故根本的な違いが産まれたのか。
何故、始祖アウラから流れているドラグニウムの力の恩恵を受けられる人間と、受けられなかった人間がいるのか。
答えは一つしかない。遺伝子上のどこかで、そのドラグニウムの恩恵を受けられるようにプログラミングされたからしかなかった。
ならば、一体どこでそのプログラミングを受けたのか。決まっている。≪産まれた時からだ≫。
「それは、遺伝子上に致命的な欠陥があったから。もしくは世代を重ねる中で人間の中に、先祖返りして、普通の人間のような遺伝子を持つ人間が出てきてしまったから。だから、アウラによる恩恵を受けれなかったんだ。そう、エンブリヲ! お前が生み出した人間たちの中に!!」
「え!?」
「フハハハハ! 鋭いね、タヌキ型ロボット君」
「僕は猫型ロボット! やっぱ
「ちょ、ドラえもん。どういう事!?」
「いいかい、アンジュさん。よく聞いてほしい。この世界の人たちは、元々は全部“人間製造機”によってつくられた人間だったんだ」
「え……」
自分たちが、作られた存在だった。でも、そんな事本当にあるのか。それじゃ、自分の父や、母は、兄や、妹、それに、ミスルギ皇国でできた友達や≪アルゼナル≫の仲間たちも、全部―――。
「偽物……」
「いや、そうじゃない。その命は本物だ……エンブリヲが作ったのは、僕たちの世界で言うところのアダムとイヴ。最初の人間たち……それ以降は脈々と、≪マナ≫を使える人間の系譜が続いて行った。アンジュさんたちは、その子孫という事になる」
「え……」
「フフ、いい線を言っている。流石だ。誉めてやろう」
「お前に褒めてもらっても嬉しくない!」
「なんか頭が痛くなって来たんだけど、つまりどういう事かしら?」
あまりにもとんでも発言すぎて頭がこんがらがってきたアンジュ。それも当然だろう。自分たちが作られた人間であり、でもそれは自分の先祖であり、本当は自分たちは父と母の間に生まれた子供。
訳が分からない。
「フッ……アンジュ、君にこんなことをしたことを覚えているかい?」
「え? ッあ!!」
「アンジュさん!」
と、エンブリヲが彼女の頭に触れるとアンジュの身体に突然痛みが走った。これは、確か≪アルゼナル≫でエンブリヲに捕らえられた時のもの。でも、その時よりもまだ我慢できるくらいの痛み。
「触覚を痛覚に変えただけだ。すぐに戻る」
「人間の感覚を自由に操作する……! まさか、それも……!」
「その通り、私が遺伝子上にプログラミングしたことだ! この世界を、創ったその時に、ばらまいた人間たちの遺伝子に!」
「創った……はっ! そうか、この地球ってぇぇぇ!?」
「ちょ、ちょっと! 勝手に話を進めないで! 私にも分かるように説明しなさい!!」
と、痛覚から解放されたアンジュはドラえもんの首にかけてある首輪を引っ張りながら叫んだ。ドラえもんに直接聞いたのは、これ以上あのエンブリヲに説明されると何をされるか分かった物ではないからだ。
首輪から手を離したアンジュ。そして、ドラえもんが苦しそうな表情からいつも通りの表情に戻ると言った。
「はぁ、びっくりした……以前、僕とのび太君たちは夏休みの自由研究で、“創世セット”という“ひみつ道具”を使ったんだ」
「“創世セット”? それって、どんな“ひみつ道具”なのよ?」
「名前の通り……世界を一つまるごと作れてしまう“ひみつ道具”さ……本物の星、本物の宇宙。そして本物の人間。それが簡単に作り出せる」
「は? なによそれ、そんなバカみたいな“ひみつ道具”が、それも、夏休みの自由研究でできるって言うの!?」
嘘みたいだが本当の話である。“神様シート”や“宇宙の素”、“ふわふわリング”に“神さまの雲”。そして“コントロールステッキ”が箱の中に収められていて、ソレを使って丁寧に作り上げることで本当の地球どころか宇宙一つつくりだしてしまう代物。
ドラえもん達も以前、夏休みの自由研究で何をするのか悩んでいるのび太のためにソレを使って宇宙を一つ作り、観察し、時にはその世界の生物たちに干渉し、神様のようなことを、いや神様をしていた。
結果、思いがけず昆虫人間という人種を作り出してしまい、その昆虫人間がのび太たちの世界にまでやってきて未来世界の警察である≪タイムパトロール≫も警戒に当たるなどの事態になった。
幸いにも昆虫人間は、論文制作のためと言う目的でのび太たちの世界にやってきただけで好戦的ではなかったために不測の事態に陥らずに済んだ。
しかし、もしも好戦的な人種が産まれ、それがドラえもん達の世界を脅かすことになっていたらどうなっていたかは分からない。
というか―――。
「なんだか、アンタたちの世界の“ひみつ道具”がどれだけ危険なのか分かった気がするわ……」
とアンジュが呆れるように言った。あまりにも危険だと分かったから回収された“人間製造機”はともかくだ。夏休みの自由研究で世界一つ作れてしまう“創世セット”なる存在が回収されていない時点で分かるが、ドラえもんのいる未来での倫理観が一体どうなっているのか。
いや、そんな事そもそも≪マナ≫を使えない人間たちに嫌悪感を抱いていた自分が言う事じゃないのかもしれないが。
「エンブリヲ、お前はソレを使ってこの地球。この宇宙を生み出して、向こうの世界が壊れる瞬間にこっちの世界に移動した。そうだな!!」
「その通り、私こそこの世界の創造主にしてこの世界の神、いや、調律者と呼ぶべきか」
「調律者!?」
「その通り。神様なんて、チープすぎると思わないか? 私はこの世界を裏から操ってきた。そう、全ての世界を……私の思うままに」
だから調律者であると。馬鹿げている。アンジュはそう思った。
「ドラグニウムを発見し、時空間のゆがみに降り立った私は、どの世界の人間よりも特別な存在となった。そして、向こうの世界で戦争を起こして破滅させた」
「なぜ、そんなことを?」
「不必要な存在を淘汰した、ただそれだけの話さ」
「ッ!?」
「そして“創世セット”によってつくった私の地球に来る同志を事前に募り、こちらに来た。……すぐ邪魔になってしまったがね」
「どうして!?」
「私を理解しなかったからだ!」
「ッ!」
と、恐らく初めて見るであろうエンブリヲの怒りに狂った顔。エンブリヲは続けて言う。
「調律者たる私のなすことに反対し、愚弄した。だからこそ私は、私の意見に反論しない。私の意のままに操れる人間たちを作り上げた」
「それが、こっちの世界の人間たち……」
「その通り、平和、友愛、平等。そして、≪マナ≫という力。最初は、こちらの世界に持ってきたドラグニウムで事足りていたが、何世代かしたらあまりにも多くなってね……」
「だから、アウラを強奪して、エネルギーを作り出そうとしたのか!」
「運命だった。ドラグウニウムが足りなくなり、向こうの世界に戻った私の前に、ドラゴンとなり、ドラグニウムの汚染を浄化する方法を生みだしたアウラが現れた。彼女は私の事を説得しようとしたが、私はそんな彼女をこの世界に招き入れた。すべては……≪マナ≫という特別な力を扱える夢のような世界を続けるために」
「ッ!」
「私が作り出そうとした最高の世界。しかし、それも全て儚く散ってしまった。戦争、憎悪、そして……差別によって……」
「!?」
その瞬間、アンジュの顔が引きつった物になる。
『≪ノーマ≫は人間ではありません』
『これが全部≪ノーマ≫』
そう自分が彼女たちの事を罵った数々の言葉が思い出してくる。そう、差別を行ってきたのは自分。差別の対象は≪マナ≫を使えない、そんな向こうの世界から見れば普通の人間のはずの、存在。
「それは違う! お前の話を聞いて分かった! 最初からプログラミングしていたんだな! ≪マナ≫を使えない人間……つまり、お前が向こうから連れて来たという人たちを憎むように!!」
「え……」
「勘が鋭いな君は」
「それじゃ、私が≪ノーマ≫の事を憎んでいたのは……」
「遺伝子の中に組み込まれていたからだ。先天的に≪ノーマ≫を、≪マナ≫を使えないと言う普通を異常と認識して、その存在……つまり、向こうの世界からこっちの世界にきた人間を抹消するために!」
「≪ノーマ≫という物は本来産まれる存在じゃなかった。遺伝子の突然変異によって生まれた存在……だが、幸か不幸か、私はいい考えを思い付いた。もしかしたら君たちは、向こうの世界に行った時にソレを聞いたんではないか?」
「……偽の戦争……ドラゴンと≪ノーマ≫の戦い……そして、アウラへのエネルギーの供給!」
そう、無限のエネルギーなんてものはない。だからこその人間とドラゴンによる戦いだった。でも、それはもともと意図されて起こった物じゃなかったのだ。
エンブリヲが、これ幸いにと≪マナ≫を使えない人間たちを利用するために作られたシステム。これによって、≪ノーマ≫という自分の理想に反する存在を排除し、ドラゴンを殺すことでその体内のドラグニウムを取り出す。エンブリヲにとっては一石二鳥と言っても良い、しかし他の人間たちにとってこれほど屈辱的なことはないであろうと思われる真実。
「だが、良かったことはもう一つある……それは」
「ッ!?」
「君という私の妻となるにふさわしい人間に出会えたこと。君さえいれば、もう他に何もいらない」
と、言いながらエンブリヲはアンジュに近づくとその顎を持ち上げた。
つまり何だ。今まで多くの人間を生み出し、多くの人間を裏から操り、殺し、その人生を捻じ曲げた男が惚れた人間が自分だったと。
「この、馬鹿にして!」
アンジュは、エンブリヲの顔を殴ろうとした。しかし、瞬時に後方に瞬間移動して逃げる。これもまた何かの“ひみつ道具”の力なのだろうか。いいや、そんなこともう関係なかった。
とにかくアンジュにとっては、エンブリヲのその行動、その選択の何もかもが気に入らなかった。全部が全部自分の思い通りにできる。そう思い込んでいるその男の事が、気に入らなかった。
「要は、自分の都合の悪い世界になったからまた別の世界に行ってアダムとイヴにでもなろうって言う事でしょ!?」
「正確に言うと違う。君には、私と一緒に時空の狭間の中……そう、時が止まり、誰も老いることのない世界で一緒に暮らしてもらうのさ」
「そんな屈辱的な事、まっぴらごめんよ!」
こんな自分勝手な男と一緒に暮らす。それも、不老不死となって、生涯を一緒に暮らす。そんな、地獄ごめんだ。アンジュは言った。しかし、エンブリヲは余裕の笑みを浮かべて言った。
「もはや私の邪魔をするものは誰もいない。ただ一人、君を除けばね、ドラえもん」
「な、何をするつもりだ!?」
「ふふ……」
「!? ≪パラメイル≫!?」
「あんな模造品と一緒にしないでもらいたい。これは≪ラグナメイル≫。神の機体さ」
と言いながら、エンブリヲは≪二機≫の≪パラメイル≫、いや彼の言うところの≪ラグナメイル≫を≪アルゼナル≫に現れた時のように出現させると、ドラえもんの両手両足を持った。
「うわぁ! 何をするんだ! 離せ!!」
「さすがに129馬力という力があっても、これでは抜け出せまい……そして……」
と言ってエンブリヲが取り出したのは真っ黒いチップのようなものだった。
「あぁ、そ、それは未来世界で販売中止になった!?」
「その通り。これを埋め込まれたらどうなるかな?」
「や、やめろぉ!!」
という言葉を発するドラえもんに構わず、エンブリヲは彼の腹部を開ける。すると、その先にあったのは無数の電子機器。あれが、ドラえもんの体内。疑っていたわけではなかったが本当にロボットだったのか。
いや、そんなどうでもいいことはいい。アンジュは叫ぶ。
「ドラえもんに何をするつもりなの! エンブリヲ!! ッ、く、あ……!」
「少しそこでおとなしくしていてくれたまえ、わが妻よ……」
脚に、力が入らない。エンブリヲにまた触覚を操作されてしまったようだ。立ち上がろうとしても足の感覚がないために上手く力を込められずに倒れてしまう。
その間にも、エンブリヲはドラえもんに近づいていく。
そして―――。
「うわぁぁぁぁぁ!!!!」
「ドラえもん!!」
アンジュにはどうすることもできなかった。
エンブリヲのマッド性が増し増しになりました。
“創世セット”あるなら“人間製造機”で人間作り出す必要なくない? って思うかもしれませんが、自分の思い通りにできる人間を細胞レベルから作り出せるのなら、そっちの方が創世世界の人間の成長を待つよりも簡単、そして自分の思い通りの人間を作り出すのではないかと奴の性格から考えました。