【完結】映画 ドラえもんクロスアンジュ のび太と天使と竜の輪舞   作:牢吏川波実

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chapter3 楽しいけど危険なモノ

「あれ? のび太くんは?」

 

 おかしい。“きせかえカメラ”を使った時にはちゃんと四人いたはずなのに、いつのまにか一人、のび太だけがその場からいなくなっている。一体どこにいったのだろうとドラえもんが考えていると、後ろから何かに空気を必死で入れている音を耳にした。

 

「フー、はッフー、僕は、フーこれを膨らませてからにするよフー」

 

 と、ドラえもんが振り返ると、そこには浮き輪に一生懸命に空気を入れているのび太がいた。ソレを見て呆れたような顔をしたドラえもんは言う。

 

「あぁそうだったぁ、君は泳げないんだったね」

「むぅ……」

 

 というドラえもんの言葉に、のび太は不機嫌な反応を取る。泳げないことを知っている癖にと言わんばかりの顔だ。

 だが、確かにのび太の考えている通り、ドラえもんは知っていた。のび太が泳ぐことも、そして何なら自転車に乗ることも苦手であることを。それなのにこの反応をしてしまえば、誰だって嫌な顔をするのは当たり前だろう。

 彼はよく、毒舌というものを吐く癖がある。それに気がついてるかどうかは定かではないが。まぁ、空気を入れるポンプを持ってこなかったのび太にも問題はある。故に原始も原始と言わざるを得ないような方法で浮き輪に空気を入れているのだ。その姿がちょっと哀れに思えたドラえもんは、助け船を出すことにする。

 

「それなら」

 

 といって、またもや“四次元ポケット”の中を探ったドラえもんは、ある二つの物を取り出した。一方は、二つでセットの物であるらしく、筒状の物で、中にはまるで船の背部にあるプロペラのようなものが付いている手のひらサイズのもの。

 そして、もう一方もこれまた二つセットのよう。我々の時代にもよく見るソレを持っていた。

 

「はい“エラ・チューブ”とただの足ヒレ!」

 

 取り出したのは、一方は彼の言う通り“エラ・チューブ”という未来の“ひみつ道具”。そしてもう一方は、やっぱり、のび太たちの時代にもあるような普通の足ひれであった。

 彼のポケットの中は、なにも“ひみつ道具”ばかりが収められてるわけじゃない。うちわ、やかん、その他もろもろいらないガラクタがその中には入っているのだ。その中でもガラクタではない物を取り出すのは、ある意味で珍しいこと。ちゃんと整理整頓できていればそんなことはないのだが、しかし彼の性格上そんなことを望むのは無理と言うしかないだろう。

 

「これをつければ、水の中でも鼻呼吸ができる」

「ありがとう! 本当、ドラえもんはなんでも持ってるね」

 

 と、簡単に説明を受けたのび太はその二つを装着しながらさっきまでの不満顔が嘘であるかのような笑顔で言った。

 

「いやぁソレほどでもぉ……」

 

 と、まんざらでもないような顔を浮かべたドラえもん。しかし、だ。それもほんの数瞬ですぐに悩むような顔をした。のび太が『どうしたの』と聞くと、ドラえもんは言いづらそうに言葉を発する。

 

「実は、最近未来世界から“ひみつ道具”を持ってくるのも辛くて」

「え? なんで?」

 

 あんなにたくさん、便利な道具があるのに。そんな不思議そうな顔をしたのび太に対してドラえもんは、彼が分かりやすいよう―というより分かるよう―に言葉を組み替える形で言う。

 

「最近ひみつ道具の著作権を持っている人との交渉がうまくいかなくなってきているんだよ」

 

 どうやら、未来の世界にもちゃんと著作権法と言う物が存在しているようだ。著作権法とは、日本で言うところの知的財産権の一つである著作権の範囲と、その内容について定めている法律である。

 これは、例えばある発明をした発明者が、発明品が勝手に使われたりしてちゃんとその発明品を作った利益と言う物が得られなくなる事を防ぐため、そしてその発明家の子供たちにもその利益がちゃんといきわたるようにと作られた、そう言ってもいい法律のこと。

 

「どうしてさ? こんなに便利な道具なのにもったいないよ」

 

 と言ってまたもや不満そうな顔を浮かべたのび太に対して、ドラえもんは今度は真剣な顔をして言う。

 

「便利すぎるからだよ」

「え?」

「便利すぎるからこそ、未来じゃ道具に頼りっきりになったらいけないと発明家自身が言い出し始めたんだ。ほら、僕たちも知ってるだろ? 便利な道具に頼り切った結果どうなったのか?」

 

 便利な道具に頼り切った結果、どうなったのか。その言葉を聞いたのび太は、少し考えた後に言う。

 

「あ、チャモチャ星の……」

「そうさ」

 

 チャモチャ星。それは、かつてのび太たちが文字通り救った星の名前である。チャモチャ星の技術力は、現代の地球を凌駕しており、数々の便利な発明品が作り出されていた。

 中でも、便利だと言われたのが、“イメージコントローラー”通称“イメコン”と呼ばれる手のひらに収まるくらいに小さな機械で、それを手に持ったまま心に念じただけで、ロボットに自分の考えを伝えて色々な作業をしてくれる。結果、人間は指一本も動かさずに生活ができるようになって≪しまった≫。

 もう一つ、“カプセル”と呼ばれるチャモチャ星の人々が使っている移動用の乗り物がある。これは、先に説明した“イメコン”によって筋力が衰えて歩くことすら困難になってしまった人々の移動手段となり、階段も、自分の足を使うことなく昇り降りすることができると言う一見すればどちらも便利な道具に見える。

 しかし、それは“イメコン”を発明したチャモチャ星のロボット『ナポギストラー』の姑息な罠だった。

 結果、弱体化したチャモチャ星の人々は簡単に反乱を起こしたロボットたちに征服された。そして、ある一人の少年が、見ず知らずの星を救ってくれる、そんな奇特な人間を探すために星から逃げ出すほどに最悪な状況になってしまったのだ。

 結果的に、その少年が降り立ち、そしてその少年が出会ったのは、二十二世紀の猫型ロボットを連れたのび太一行だったというのは、本当に奇跡以外の何物でもないだろう。

 この事件は確かに、地球とはまた別の星の話だったのかもしれない。そして、チャモチャ星の事を知っている人間なんて誰もいやしない。それでも、未来の発明家たちは皆総じて同じ言葉を言ったのだ。

 このまま“ひみつ道具”を使用し続けると、人間はダメになってしまうと。

 

「だから発明家は皆同じ事になるのを危惧して“ひみつ道具”の著作権を渡さなくなってきてるんだ。それに、道具を作っている途中に行方不明になる発明家も多くなってきて、“ひみつ道具”の存続自体危ぶまれてきているんだよ」

「えぇ、そんなぁ……」

 

 と残念がるのび太だが、確かに、“ひみつ道具”には危険な物が山ほどあることをのび太は認知していた。

 たとえば、自分たちが良く移動するために使っている“タケコプター”なんかは、空を自由に飛ぶことができる道具なのだが、一番最初に使った時にはドラえもんのどこに付けても飛べるという言葉を過信してズボンに取り付けてしまった。

 結果どうなった事か、ズボンはのび太から離れて、ソレを履いていた本人は地面に叩きつけられてしまった。あの時は、地面のすぐ近くを飛んでいたために問題にはならなかったが、もしももっと高いところから落ちてしまっていたらどうなっていたことか。

 それだけじゃない。例えば“人間製造機”なんていう、小学生の自分でも買えるくらいの物品を集めるだけで人間を作り出す。いや、超能力者といったミュータントを作り出すこともできる“ひみつ道具”。

 そもそも道具自体に危険を誘発する“百苦タイマー”と言う物だってある。スイッチを押すとその人間に対して百分間に百の苦しみを―それも徐々にひどくなる物を―与えるという文字通りの時計。一度押したら解除も破壊もできず、弱い人間なら十回くらいで死に至るというとんでもない道具。

 そんな危険な“ひみつ道具”を作っている人間がいると言う事実もまた、“ひみつ道具”はない方がいいと考えている人間が増えている原因の一つなのだとか。

 

「まぁ、しばらくは大丈夫だろうし、クルトのような若い発明家は、そんな危険な道具を作ったりしないから大丈夫さ」

「クルトか……今も頑張ってるのかな……」

 

 クルト、と言うのはかつてドラえもんの思い出の鈴の盗難事件があった際に出会った、≪ひみつ道具博物館(ミュージアム)≫のアルバイトとしてガイドをしている子供。“ひみつ道具”の発展に協力した博士を祖父に持ち、その祖父の相棒とも言える人物を師に仰いだ、“ひみつ道具”職人の卵である。

 色々なことがあったが、今でも“ひみつ道具”を作る免許を取得できるようにと頑張っていると、ドラえもんから時々話には聞いていたが、久しぶりに会いたいなと、のび太が考えている時に、ぼそっとドラえもんは言う。

 

「それ以上に問題なのは……」

「問題なのは?」

 

 と、その時だった。

 

「おいのび太どうしたんだよ!?」

「一緒に泳ぎましょう!」

「無茶言っちゃダメだよ、だってのびちゃんは泳げないんだから」

「むぅぅ、ドラえもん! ぼく、行ってくる!」

 

 そんなスネ夫の言葉にむかついたのび太は、一直線に砂浜を横断して海に向かって行った。当然、“エラ・チューブ”と足ひれを装着して。

 

「楽しんでおいで! ……さてと」

 

 そんな後姿を見て、ドラえもんはこの後のキャンプの準備を、始めるのであった。




 次回、OP。
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