【完結】映画 ドラえもんクロスアンジュ のび太と天使と竜の輪舞   作:牢吏川波実

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 今回、原作のあるイベントを消化&時系列的に言えばおかしくなるけど原作の方の人間関係へとなんとか歩み寄ろうと頑張って見た回。
 今回だけ、歴史の修復力が入った模様。今回だけですよ。


chapter40 死ぬのが怖くて恋ができるか?

 ここに、大勢の勇ましい女性。そして何人ものTシャツに軍服のズボンという格好をした男性たちがいた。軍服の男性たちは斧を持ったり布巾を持ったり色々であり、他にも、どうやらレストランのご飯を運んでいるようだ。

 女性たちは、男性諸君に対して男勝りな口調で言う。

 

「ほらそこ! ぼさっとしてないでキビキビ働きな!」

「へ、へい!」

「ほら、こっちも! 巻き割り早く!」

「はいただいま!」

「おい、料理まだかよ!」

「はい、いますぐ!!」

 

 等と、途中でご飯の催促をされながらも、男性たちはせかせか働かされていた。こんなことなら、あの≪ノーマ≫の集積場で死んでた方がましだった、そう思いながら。彼らはレストランで働かされていたのだ。

 ジャイアンは、意外と多くの人間を、それも敵味方問わずとして助けていたようだ。あの襲撃が終わった後、“四次元くずかご”から出してきた何枚もの写真。それにお湯をかけると“チッポケット二次元カメラ”によって写真にされた≪アルゼナル≫の人間たちが写真から出て来た。

 彼女たちはその状況に茫然自失となりながらも、冷静になってから自分たちが生きていたという事に驚くとともに、安堵感で涙をこぼす者もいた。確かに覚悟していたかも知れない。でも、いざそうなって、それが過ぎ去った時の安心と生きていることへの感謝は何物にも勝る物だろう。

 けど、問題が一つあった。それが、ミスルギ皇国の兵士たち。ジャイアンが助けた人間たちをどうするかで、≪アウローラ≫のジル等からはすぐに殺すべきだ、などというきつい意見を発する展開があった。しかしジョンが集めた海賊たちの中から、宝島で労働力として使いたいという意見も出て結果彼らは生かされることとなったのだ。

 と言っても、ジョンが作った海賊型のロボットによる監視、さらにもし≪マナ≫を使用する者なら屈強な男たちによって取り押さえられるという徹底的なる監視のおまけつきであるが。

 さすが荒海にもまれた海賊である。≪マナ≫という魔法の力にも一切屈することなく兵士たちを自分の手下に使うなんて。といっても、もう≪マナ≫なんて気にする必要なくなったのだが。しかし、もし元の時代に戻ることになったら彼らを一緒に連れていくなんて言う人間もいるほど、兵士たちの労働力はたいしたものであるのだと、一人の海賊、ビビが言っていた。

 そう、無事に元の時代に帰ることができれば、である。

 

「エルシャさん……」

「改めてありがとう、静香ちゃん。この子たちを守ってくれて」

「そんな、当然のことをしただけです」

 

 一方、公園の方にはエルシャとナオミ。それから≪アウローラ≫から宝島にもう一度来た静香やセーラ。第一中隊所属のヒルダ、ロザリー、クリスの三人も少しだけ離れたところにいた。

 あのジルの告白の後、指揮権を譲渡されたサリアは、少し考える時間が欲しいという事でいわゆる艦長室の方に行って、その場にいた人間たちは自然的に解散することになった。

 これからどうなるのか。サリアがどう決断するのかはまだ分からない。果たして、その決断に自分達は着いて行けるのか、それとも彼女に逆らって別々の道を歩むことになるのかは、これからの彼女の決断にかかっているのだ。

 

「当然……そうね、これが、当然の事なのよね……そして」

 

 静香の言葉に、優しい微笑みで遠くの方を見つめるエルシャ。その目線の先には先生に誘導されて遊ぶ子供たち。絵本を読む子供。転んで、泣きそうになって、でも他の子供たちに支えられて立ち上がる子供。

 多種多様の子供たちがいた。

 そして、エルシャは≪先ほど≫自分がジャスミンから買ったオルゴールの箱を持ち上げる。

 ジャスミンからはこんな時に買い物なんて、と笑われたが、でも次があると限らない。だから、彼女は子供達へのプレゼントを買った。オルゴールという、特別なプレゼントを。

 

「こうして子供たちが広い世界で楽しむ姿。それこそが、本当の姿だったのね……」

 

 エルシャは、感慨深くその言葉を呟いた。確かに、≪アルゼナル≫にも大きな遊び場として、広い広い草原はあった。でも、そこに出ることはほとんどなかった。断崖絶壁で、草原と言ってもところどころゴツゴツとした岩場もある危ない場所。

 そんな場所で子供たちが自由に遊ぶことなんてできず、彼女たちはもっぱら幼年部の教室で過ごすことが多かった。

 ソレを知っているからこそ、エルシャは嬉しかった。広い広い世界に、子供たちを連れて来れたこと。宝島と言う船の中だけれど、そうは感じさせない開放感のある場所で、安全な公園の中で遊ぶ、そんな子供たちの姿を見れるのが、嬉しくて仕方なかった。

 エルシャは、そんな子供達にオルゴールをプレゼントしようとして、止めた。理由は簡単だ。まだ、自分の目的が達成されてないから。まだ、子供達を向こうの世界に連れて行っていないから。

 もしも、無事に子供達を向こうの、ドラゴンがたくさんいる安全な世界に連れて行けたら渡そう。そう、エルシャは決意してオルゴールの箱をしまった。

 

「エルシャさん……」

「エルシャ……」

 

 セーラも、ナオミも、その姿を見て感慨深そうに彼女の名前を呼んだ。特にナオミに関しては、幼年部の時代からエルシャにお世話になっていたこともあったために、その感情がどれだけ尊いものであるのか、分かっていた。

 それと同時に、戻らない時間もまたどれだけ大切な物なのか、分かっていた。

 

「ココ、ミランダ……前まで、私たち三人はあの中に入って遊んでた。もう、二人も、ゾーラ隊長もいないんだ」

「……お願いがあるのナオミちゃん。アンジュちゃんを恨まないであげて」

 

 エルシャは、懇願するように言う。例えこの先アンジュに会うにしても会わないにしても、三人の死の原因になってしまったアンジュを、どうか恨まないでほしいと。

 ナオミは、しかし分かっていた。エルシャの気持ちも。そして、ココとミランダの気持ちも。

 

「分かってる。初陣の兵士の死亡率の高さ。私自身も、奇跡的にこの船に助けられなかったらどうなってたことか……」

「ナオミちゃん……」

 

 そう、もしかしたら自分は死んでいたかもしれない。いや、確実に死んでいた状況で助けられたのは彼女自身が言う通りに奇跡だった。

 そのおかげでここにいて、さらに言えばココとミランダが死んだ日にもまだ意識を取り戻してもなかった自分が、アンジュを恨むことなんて、できるはずなかった。特に、ココが絵本で出てくるお姫様に憧れを抱いていたことを良く知っていた、自分には。

 

「もう、いないんだ。ココも、ミランダも、ゾーラ隊長も……」

 

 それでも、ナオミは再確認する。一緒に遊んだ、ココとミランダ。そして、短いながらも隊長と慕っていたゾーラも、もういないのだと。でも。

 

「でも、アンジュはいる、か」

 

 自分の代わりに、仲間たちの事を、ココとミランダを殺した償いにと仲間たちの事を守ってくれたアンジュはいる。

 彼女も先ほど聞いた。≪アウローラ≫の館内放送がこの宝島にも流れて来て、ジル司令が何を考えて、どんな思いで闘って来たのか。そしてアンジュが命を懸けてココとミランダを殺した償いをしてきたのだと、エルシャや静香の口からであるが聞くことができた。

 でも、そのアンジュは、今目の前にはいない。だからなのだろう。彼女の中に、ポッカリと空いた心の隙間のようなものがあったのは。

 そして―――。

 

「……」

 

 クリスは、じっと子供たちを見ていた。楽しそうだ。自分たちにもあんな時があった。そう、数年前まで自分たちもまた、ココ、ミランダ、ナオミのように三人で仲良く遊んでいた時があった。今でも仲がいいけれど、でもそれとはまた違ったベクトルで、そう、仲間とかそんなんじゃなくて、友達だと本気で思っていた時があった。

 今でも、彼女たちと友達で入れてるのか、時々心配になる。そんな彼女に、ヒルダは言った。

 

「なんだか、あの姿見てると昔の事思い出すな」

「昔って?」

「クリスがその髪飾りを付けた時の事」

 

 クリスは、その言葉に片方だけ三つ編みにしているその髪と、その先端部分についている髪飾りに触れながら言った。

 

「……覚えてるの、アタシだけだと思ってた」

 

 大事な、思い出。だけど、些細な思い出。でも、自分にとっては忘れられない思い出。

 

「……知ってた? アタシ、あのおさげ髪好きだったんだよ。でも、二人に言われて髪を切って、この髪飾りを付けて……」

「大事な、思い出なのね」

 

 と、宝島の乗組員。セーラが、そして静香もまた彼女たちに近づいてくる。

 

「……うん。大切な、私の思い出……」

 

 自分を変えてくれた。でも、変わりたくなかった、変わってしまった、変えられてしまった。そんな思い出だ。些細な、思い出。それを、ヒルダが覚えていたことに意外なところを感じながらも、少し嬉しかったクリス。でも、それも一瞬の間だけだった。

 

「そんな昔の事覚えてたのか?」

「ロザリーは、忘れてたの?」

「当たり前だろ?」

 

 やっぱり、覚えていないよね。あんな小さなこと。そう思った時だった。

 

「それ以上に、クリスと楽しい事が、たくさんあったんだからさ」

「え?」

 

 ロザリーの言葉に、少し意外な物を感じた。

 

「買い物とか、≪フェスタ≫の時とか、いつもあたしたち三人……それから、ゾーラもいたけど、でもいつも楽しかった。三人で過ごした全部が大切な思い出で、全部なんて、覚えてられねぇから……」

「……」

 

 いつ、死んでもおかしくない。そんな閉鎖的な空間の中で、自分たちはいつも仲が良かった。それこそ、家族のように、友達のように仲が良かった。そう、些細な思い出だったのだ。それ以降の、彼女たちと過ごした思い出のすべてが、楽しい物だったから。

 

「クリス、あたしさ……いつしかアンタの事……」

「やめてよ、今更。アタシたちが友達なのは昔から」

 

 と、自分たちが友達だと言おうとした。その瞬間だった。

 もしかしたら、ジルの言葉を聞いて、自分もまた彼女に本音を伝えたいと思ったのかもしれない。戦うにしても、逃げるにしても、屈服するにしても、なんにしてもこれだけは彼女に伝えないと前に進めないそんな気がした。

 だから、彼女は言う。伝える。自分の気持ち。自分の中で、燻っていた思い。その全てを。ありったけ。

 

「違ぇよ! その、す、好きになったんだよ……クリスのこと」

「……え?」

「あぁもう、何度も言わせんな! あたしは、クリスの事が好きだ! 死ぬ時も生きる時も一緒にいたい! 例えなんて言われても、アタシは、クリスの事が好きで好きでたまらねぇんだ!!」

「え、あ……」

 

 もはや、告白だった。ロザリーは続ける。

 

「いいか! 言葉にするのは簡単だけどな! これ凄く恥ずかしいんだから、何度も言わせんな! あたしは! アンタが! 好き! 以上!」

「わ、分かった……うん……ありがとう」

 

 クリスは照れながらも、そんな言葉を発してくれたロザリーに言う。

 

「私も好きだよ。ロザリーの事……心から……」

 

 あまりにも突然すぎて最初はどうしようかと思ったけど、でも自分もどこかでそういう気がしたのかもしれないというように出てきた言葉。近くにいた静香とセーラはあまりの衝撃で言葉を失う。

 確かに自分たちの時代、同性の間で結婚と言うか、恋に落ちるというのは良くあるが、まさかそれがこっちの世界でもあるなんて。

 いや、考えてみれば≪アルゼナル≫は女性しかいない異様で、閉鎖的な空間。その中で女性が女性に恋をするなんてこと、普通にあり得るのかもしれない。特にそれが、命を懸けた戦いであったのならば。

 

「ぶっちゃけたわね」

 

 と、すぐそばで、でもそういう関係もいいんじゃないかみたいな風に聞いていたヒルダ。

 

「ッ! そういうヒルダだって! あの痛姫さまにご熱心だったじゃねぇか!」

「はぁ? アタシがいつ!」

 

 が、ここで流れ弾が飛んでくる。自分が、いつ、あの女を好きになったと。あの、ゾーラを殺して、事故に見せかけて殺すことを企てても帰ってきて、色々と喧嘩をしたあの女をいつ。

 

「時々アンジュの顔を見て顔赤らめてた」

「ッ!?」

 

 と、クリスの言葉に顔を赤らめるヒルダ。自分が、アンジュの事を見て顔を赤らめていた。本当にそうなのか。考えてみれば、彼女に会うたびに胸がどきどきしたり、彼女と話している時に胸が詰まっていたりしたが、もしかしてそう言う事なのか。

 と、色々考えるヒルダであるが、ぶっちゃけた話この時点でのヒルダは完全に≪吊り橋効果≫と言う物。なにせ彼女がアンジュと話そうとしていた時はいつも出撃前だったりお風呂場だったりとなんやかんやで脈拍が多くなる、つまり恋しているのと同じような状況だった。ただ、それだけ。

 だったはずなのに、ロザリーとクリスの言葉でもしかしてそうだったかもと思ってしまった彼女も事実。

 もしかして、それまで無関心でいたはずの彼女の心がアンジュに対して完全に開いてしまったのは、この三人の中での誤解が原因だったのかもしれない。

 

「フフッ、お国柄、世界柄なのね」

 

 と、静香とセーラの二人はひっそりと三人から離れて話始める。ほほえましい姿だ。ヒルダたちも、エルシャたちも、そして子供たちも皆、幸せそうだ。

 でも―――。

 

「でも、もしこのまま何もしなかったら……」

「この世界は、エンブリヲの物になったまま……」

「一体、どうなるのかしら……」

 

 この世界は、今後どうなってしまうのだろう。そんな一抹の不安が、彼女たちの中に渦巻いた。

 その、瞬間だった。

 

『こちら、アウローラの全指揮系統を任されたサリア』

「サリアさん?」

 

 その放送が、流れて来たのは。

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