【完結】映画 ドラえもんクロスアンジュ のび太と天使と竜の輪舞 作:牢吏川波実
その、艦内放送が流れる十数分前の事。
艦長室の中にいたサリアは、彼女から手渡された物を指にはめるとソレを眺めながら考えていた。
≪ヴィルキスの指輪≫。元々はアンジュが付けていて、ヴィルキスの中にスーツと一緒に浮かんでいた指輪だ。もしもアンジュが咄嗟にハッチを閉めていたなかったら、そのまま海に落ちて回収不可能だったであろう。
ソレを受け取って、自分が一体何をするのか。何がしたいのか。何をした方がいいのか。彼女には点で見当もつかなかった。だから、≪アウローラ≫も、そしてソレについて来てくれる宝島の方もまた当てもなく近海を潜り続けて、時折落ちて来た輸送機の中にいた人員の救助をしたりして、ぐるぐると回ってるだけ。
そう、まるで彼女の気持ちを、表してるかのように。
「アレクトラ、私は……」
彼女は、一人で悩んでいた。大きすぎる責任、重圧、数多くの仲間の命を預かる責任。中隊長時代には考えられないくらいのソレをその身に浴びながら、サリアはずっとずっと考えていた。自分に一体何ができるのかと。
ジルは、アレクトラはずっとこの責任を持って戦っていたのだ。ずっと、その心に復讐心を持つことによって、精神を守り続けていた。
自分は、そんな彼女の役に立ててたのだろうか。彼女の心を、守れていたのだろうか。堂々巡りの思案が彼女の中で渦巻く時だった。
「ねぇ、サリアさん」
彼女の部屋に三人の男女が入って来た。古の民の末裔であるタスク。向こうの世界、ドラゴンたちの中でも上層部の人間であると自称するサラマンディーネ。そして、のび太。
「なによアンタたち、勝手に入ってきて」
というサリアに対して、のび太たちは互いに顔を見合わせると代表するかのように彼が言う。
「お願いします。ドラえもんを、助けに行きたいんだ。そのために、ミスルギ皇国っていうところに行きたいんです。だからその近くまで≪アウローラ≫を動かしてもらえませんか?」
「……」
「ドラえもんだけじゃない。アンジュも、エンブリヲから取り返さなくちゃならないんだ」
「そして、アウラも……今はミスルギ皇国にいると我々の間者から……連絡が届きました」
「ミスルギ皇国に……」
うっすらとのび太は予感していたのだ。あの、≪アルゼナル≫に来た艦隊がミスルギ皇国の物だったことから、エンブリヲの本拠地がミスルギ皇国にあるのではないか、そしてドラえもんとアンジュもまた、ミスルギ皇国にいるのではないか、そんな考えが確かにあった。
それは、サリアもまた同じこと。でも、不確かな情報で動いても痛い目を見るだけ。それをサリアは重々承知であったために、大々的に動くことができなかったのだ。しかし、ことここにきてサラマンディーネにより情報がもたらされ、疑念が確信に変わり、そして、一つの目標ができた。
「アウラ、ドラえもん、そしてアンジュ。私たちが取り戻さなければならない物は全て、ミスルギ皇国にあるのです」
「アンジュ……」
アンジュ。いつも部隊をひっかきまわして。自分とは違ってヴィルキスを上手に使いこなすことができた、ジルから必要とされた人間。
ドラえもん。少し前に≪アルゼナル≫に来た、未来の猫型ロボット。そう先ほどのび太たちから聞いた。ほんの少しの間だけでも、自分の下について一緒に戦いに出てくれていたロボット。
そして、アウラ。自分たちが戦ってきたことの意味。この世界を、≪マナ≫のある世界にするためにだけに呼ばれた、自分たちの戦いの元凶。
自分にとって、どれもこれも根っこの部分で関係のある人物ばかり。だから、彼らもまたその三人を助けに行きたいという気持ちが分かる。だって、もし自分がジルをエンブリヲに取られてしまっていたら、きっと―――。
「サリアさん!」
「サリア司令。貴方にも思う事があるかも知れません。ですが、時間がありません」
「え?」
時間がない、とはどういうことなのだろうか。
「ミスルギに潜入していた我々の間者が、命がけで送ってきた最後の通信によれば……あと数時間で、時空融合が起こるとの事です」
「時空融合?」
「アウラの体内に宿るエネルギーと、そして制御装置たる≪ラグナメイル≫。その二つを使うことによって、私たちの住む本当の地球と、この偽りの地球を次元ごと融合させ、新たな地球を生み出そうとしているのです。そうなれば、そこに住むすべての人類は、エンブリヲと、エンブリヲに選ばれた人間以外が、滅ぶ」
「ッ!?」
「そんな!?」
この言葉に、サリアは驚愕の顔を隠すことができなかった。まさか、そんな大それたことがあと数時間以内に起こるなんて。
もしそうなってしまえば、自分たちがどこにいようと関係ない。時空融合が起こる瞬間に、自分も、のび太たちも、この世界の人間も向こうの世界の人間も全員、死に絶えてしまう。
そして残るのは、再びエンブリヲによってつくられる新しい理想郷と、ソレに選ばれた人間。つまり、アンジュ。
「≪マナ≫を元から使えた人間たちももう、≪マナ≫が使えなくなっている。それってまさか……」
「そうです。タスク殿。エンブリヲが時空融合のためにエネルギーの供給を止めたことによる必然……そして、それこそが時空融合を開始したことを告げるプレリュードだったのです」
なるほど、だからか。
先ほど自分たちは輸送船の救助をしていた、と言っていたが。それは、年に一度の≪フェスタ≫、という≪アルゼナル≫に所属する≪ノーマ≫に一日だけ与えられる完全な休暇を視察するために≪アルゼナル≫に来ようとしていたさる高貴な身分を持った人間たちの集団だったのだ。
しかし、途中でいきなり≪マナ≫が使えなくなって、海面に落下。もし彼女たちが救助しなかったらそのまま沈んでいたであろう輸送船。
どうして≪マナ≫が使えなくなったのかハッキリと分からなかった。けど、それが今、白日の下に明かされることとなった。
サラマンディーネは、きりっとした表情で言う。
「決断してください、サリア司令。このまま他の人間たちと一緒に滅ぶか。それとも、エンブリヲに忠誠を誓い、飼い慣らされる道を選ぶか、それとも……私たちドラゴンと共に戦うか……」
「……」
この言葉からして、サラマンディーネたちドラゴンは、自分がどうこう言おうともアウラ奪還のために動くのだろう。と言っても、ドラゴンはこの世界に呼ぶことができないと先ほど彼女から聞いた。
彼女たちドラゴンがこの世界に今までこれたのは、≪暁ノ御柱≫の力、つまりこの世界の≪アウラの塔≫のシステムを使うことによって開いた特異点を、時にはエンブリヲが指示することによって開かせたり、時にはその間者であるドラゴンが極秘に動いて開いたりしていたことによるもの。
その間者も既にエンブリヲに捕らえられているであろうと、その人物が最後に送って来たメッセージから読み取ることができた。
つまり、彼女たちドラゴンは、向こうの世界の人間たちは数少ない戦力でも、例え自分達が死ぬことになろうとも、ミスルギ皇国に行くつもりなのだ。
彼女は、決断したのだ。たとえどれだけ薄い戦力であったとしても、アウラという自分たちにとって大切なものを、守るために。
だったら、自分はどうする。
決まっている。
「……ジョン船長に、通信を入れさせて」
「え?」
と言うと、サリアは通信回線を開き、宝島の船長であるジョンに連絡を入れた。そして―――。
♪満たされた世界=虚構の世界 嘆きのパドル♪
『なるほど分かった。非戦闘員の事は任せてくれ』
「ありがとうございます……それと、そちらにいるエルシャ達にも聞こえるように、通信を開いてもらえますでしょうか?」
『分かった』
あの、演説が始まったのである。
♪漕ぎ出す勇気を 夢も愛も捨て 立ち向かう姿 気高き炎♪
『こちら、アウローラの全指揮系統を任されたサリア』
「サリアさん?」
『これから私が語るのは、全て事実。それを述べた後、私はある質問を貴方達にする。それにどう答えるのかは……皆に任せるわ』
♪闇を照らすまで たとえ どんなに どんなに どんなに どんなに 遠くても♪
そして、彼女はすべてを話した。エンブリヲの事、≪リベルタス≫の事。ジルがあの部屋でぶちまけたすべてをもう一度。
それだけじゃない。向こうの世界の過去も、ドラゴンの正体も、自分たちが戦ってきた意味も、そのためにどれだけの犠牲が出たのかも。
己らがなぜ≪ノーマ≫と呼ばれる事になったのか、何故≪マナ≫を使える人間と使えない人間が生まれたのか、≪マナ≫が何故、今は使用できないのか。
そして、この世界が時空融合によってもう一つの地球ごと消滅しようとしていることまでも全部、包み隠さず、全てを話した。
自分が知っている、知り得た情報の全てを、嘘偽りなく話したのである。
それによる反応は、困惑する者、恐怖する者、怒りに震える者。それぞれだった。それは、実際に見ていないサリアにも分かる事。
そして、浮上した≪アウローラ≫と宝島、双方がもう一度橋で接続されたタイミングで言った。
♪もう泣かない 負けない 逃げない そう決めたから あらゆる感情の波に 飲まれて♪
「と言うわけで、私たちはこのまま死ぬか、服従か、それとも戦うか。この三つのどれかを選ばなければならない。でも……」
その、最後の言葉を言った後、サリアは一瞬だけ目を閉じて、間を開けてから言った。
♪しまいそうだけど 信じて 信じて 信じて 信じて この想い 『偶然』なんかじゃない『必然』だったと言える日まで♪
「私は……戦う」
「!」
「サリアさん……」
「アレクトラのために、私は、アレクトラの騎士だから!」
覚悟したのだ。自分は他の誰かのためでもない。ただ一人ジルを、敬愛しているアレクトラを守るのだと。そのために反旗を翻すのだと。
それが自分の≪リベルタス≫。まったくもって一個人の感情に任せた言葉。組織のトップに立った人間が言ってはならないような言葉だ。でも、その言葉にどこか嬉しさを覚えた人間がいた。
「……フッ、馬鹿め」
個室にこもったジルである。彼女は、マギーによってつけられた新しい義手を使ってタバコを持つと、一服して呟いた。
彼女にどんな姿になっても生きていて欲しかった。そう願ったのは確か。でも、まさか全ての真実を知って、全てを話してもなお、自分に尽くしてくれようとするなんて。
全く、お人よしが過ぎる。昔の、自分のように。
♪奮い立たせる鼓動 他の誰でもないよ この手で 切り開こう♪
「私の意思に賛同できない者、エンブリヲの所に行く人間を咎めたりしないし、戦闘に関わりたくない人間はジョン船長の船に乗ることを許可する。けど、私は、一人でも……いえ」
「「「……」」」
サリアはその場にいたのび太、タスク、そしてサラマンディーネの三人を見渡してからもう一度、念を押すように、そして覚悟を決めた目をして通信機に向け言葉を発した。
♪未来♪
「四人でもミスルギ皇国に行く。そして、この手で掴み取る。私達の未来を!」
そして、自由を、愛も。そう、決めたから。
果たして、サリア達の決意に、彼、彼女達の判断は?
あと、クロスアンジュ見てる人には、今回ついでのようにキャラ救済が行われてるのが分かるかもしれません。
救える人間は救う。それが私のモットーなので。