【完結】映画 ドラえもんクロスアンジュ のび太と天使と竜の輪舞 作:牢吏川波実
ミスルギ皇国。≪暁ノ御柱≫内部。そこでは、一組の男女が、言い争いを繰り広げていた。
「今、何と言った? アンジュ」
エンブリヲの言葉に、アンジュは一切動じることなく言い放つ。
「聞こえなかったのならもう一度言ってやるわ! 私は私、私は人間よ。人間には自由な選択肢があるの。それをあんたみたいな外道に決められるなんて、反吐が出るわ!!」
そう。人間は本来自由な生き物なのだ。例え、それが誰かによってツクラレタ存在であったとしても、例えそれが誰かによって裏で操られていたとしても、人間には選択権がある。人間には生きる目的がある。生きたいと言う未来がある。
それを、目の前のたった一人の神様気取りの男に決められるなんて、アンジュは望んでいないのだ。それに、だ。
「大ボカをやらかした物ね、エンブリヲ。私にあんな映像を見せるなんて」
「なに?」
「タスクが生きてた。のび太も……ね」
そう、それはドラえもんが目を覚ましたときに見た映像の中に見た。確かに、≪アウローラ≫と宝島を繋いだ橋の上に、タスクとのび太の姿があったのだ。それだけじゃなく、多くの自分の知っているメイルライダーの姿も確認出来て、アンジュにとってはそれがどれだけ嬉しい事だったかこの男には想像もできまい。
あの攻撃の中どうやって生き延びたのかは分からない。しかし、生きていた。ただ、それだけでも彼女には十分に心の支えになった。
「絶望していたら、私がどうなっていたのかは分からない。でも、私にはまだ……希望が残っている!」
そして、アンジュは手にある指輪の跡。そう、ヴィルキスの指輪を、母からもらった指輪を付けていた場所をさする。そこにはもう何もない。でも、自分には関係ない。なぜなら自分にとって大切な物の、命が奪われていなかった。ただそれだけ心の支えになったのだから。
「アンタにはない、絶対的な希望がね!」
それは、彼と、そして自分のことを助けてくれたもう一人の男と一緒にいたことによって結ばれた絆。
彼に教えてもらった自分の優しさ。
そして、絶対に生きることを諦めるなと教えてくれた母の思い。
それだけあれば、神に逆らう事なんて怖くなかった。
「ならば、その希望とやら……滅ぼしてやろう」
と言うと、一瞬で自分とエンブリヲは≪暁ノ御柱≫の外に出る。ここは、まさかミスルギ皇国の皇居。
つまり、元自分の家。その庭にあった白いテーブルとイスはよく覚えている。そこに座らされたアンジュに対して、エンブリヲは言う。
「どうやら、向こうからわざわざ来たようだ。特等席で見てやろうじゃないか」
というエンブリヲの目線の先。そこには、先ほどモニターにも映っていた潜水艦が≪空中≫に浮かんでいた。船、ではなかったのかあれは。あんな巨大な質量を持ち上げるなんて、一体どういうエンジンを積んでいるのかよく分からないが。ともかく、あの船の中には自分の仲間たちが、いるはず。
少なくとも、ドラえもんを救うためにのび太たちが、そしてアウラを救うためにサラマンディーネたちが乗っているはずだ。自分の仲間が何人参加しているのかは分からないがしかし、エンブリヲはその姿を見下ろしながら言う。
「彼らが絶望に染まる姿を……そして……優しい彼がどんな選択をするのかをね」
「……」
恐らく、それは≪アレ≫の事だろう。そう、優しいのび太が、果たして彼を前にしてどういう選択を取るのか。
戦うのかそれとも逃げるのか、それとも説得するのか。何にしても、彼にとっては辛い選択を強いられることになる。
アンジュは、ただぎゅっとその手を握りしめて待つしかなかった。その時、その瞬間を。
そして、≪パラメイル≫隊は次々と≪アウローラ≫から出てくると、ある女性を先頭にして隊列を組み、ミスルギ皇国へと近づいていた。その中にはアストロタンクに乗るジャイアン、スネ夫、静香。そして、“スタークラッシュゲーム”の戦闘機に乗るのび太の姿もある。
更に横には、誰も乗っていない二十もの桃色のパラメイル。タスクやナオミが乗っているものと同じで、フロックとクルトが≪アウローラ≫から操作している≪パラメイル≫の部隊。そして、最後に≪アウローラ≫を囲むかのようにドラゴンたちが配置されていた。
全ては、自分達が取り戻すべきものを、取り戻すために。世界を、自分たちの手に奪い返すために。
緊張の色が走る中で、ミスルギ皇国から出て来たソレにいち早く気が付いたのはヴィヴィアンであった。
「あれって!?」
「アルゼナルを襲った無人兵器か!?」
そう、≪ピレスロイド≫だ。もはや数を数えるのもあきらめるほどに大量の無人兵器の集合体が、ミスルギ皇国≪暁ノ御柱≫より飛び出してくる。十中八九、自分たちを殺すためであろう。いや、それだけではないよく見ると五機の黒い、ヴィルキスに似た≪パラメイル≫の姿も見える。あれは。
「エンブリヲの≪ラグナメイル≫ですか……」
「フッ、まさに総力戦だな……」
とサラマンディーネに返したのは、青い≪パラメイル≫。本来だったらサリアが乗っていたはずの≪パラメイル≫に乗っているジルであった。
指揮権をはく奪され、一兵卒となった彼女。そんな彼女自身から言われたのだ。自分もまた、戦闘に関わらせてもらいたいと。
確かに彼女は、右手が義手になってからと言う物、≪パラメイル≫に乗る機会なんてほとんどなかった。しかし、それでもこの戦いが自分たちの戦いの集大成であるのなら、自分の復讐の目的地であるのならばと、無理を押し通して、サリアから≪パラメイル≫を譲ってもらった。
そして、そのサリアはと言うと。
「……」
≪アウローラ≫の操舵室にてその姿を見るだけだった。本当は自分だって出撃したいのだ。でも、できない。なぜなら、今の自分は指揮官なのだから。指揮官が出撃して、もし撃墜でもされたら、その瞬間に部隊の士気が低くなる。そう、ジャスミンたちに言われたから。だから彼女は、ほとんど嫌々ながらもここにいた。
「サリア、指揮官は座して待つことさ。それが仲間達の信頼につながる」
「分かってる……」
と、操舵のための舵を握っているジャスミンに言われたサリアは、心の中で、ずっと同じ役回りをしてくれていたジルに感謝をしながら全員に指令を出す。
「総員! 直ちに戦闘を開始! 終わらせるわよ、全ての戦いを! 作戦名! 『ラスト・リベルタス』!!」
『イェスマム!』
その言葉と同時に、ついに最後の戦いの火ぶたが切って落とされた。
「フッ! ハァァァ!!」
最初に飛び出したのはサラマンディーネたちドラゴンである。やはり、長年アウラを奪還することだけを目的にしていたこともあって、集団としての士気は一番高いのだろう。集まってくる≪ピレスロイド≫をその手に持つビームライフルで次々と落としていく姿は、機械の中に入っているとはいえやはりドラゴンのそれに近い何かを感じ取った。
「ッ! ハァァァァ!!」
「そこ! 飛んでけぇ!!」
それに続いて第一、第三中隊の面々による攻撃である。第三中隊はともかくとして、第一中隊はヴィヴィアンを除けば無人兵器との戦闘経験はなかった。故に、まずは切り込み隊長のヒルダとヴィヴィアン、そしてジルもまた危険を承知で前に出て行き、クリス、ロザリーの二人がソレにまとわりつく≪ピレスロイド≫を撃破していくことになった。
「十時の方向! 敵多数!」
「落としてやんな! 弾薬はサービスだ!! どんどん撃ちな!!」
「はい!!」
と、≪アウローラ≫の方にも≪ピレスロイド≫は来るのだが、しかしかの船にも武装はついている。機関銃による弾幕を張ることによって≪ピレスロイド≫の群れを撃破していったのだ。途中で切り抜けた何体かの≪ピレスロイド≫がアウローラに最接近してくることはあったが、シールドが上手く作動することによって、今のところ直撃は免れている。
「ひぇぇ、ママァァァ!!!」
「スネ夫! 男が一度決めたことだ! 腹くくれ!!」
「うぅ!!」
「これでぇぇ!!」
「はぁぁぁぁぁ!!」
一方で、のび太たち≪パラメイル≫に乗っていない面々もまた、次々とまとわりついてくる≪ピレスロイド≫を相手にして奮闘していた。泣き言をいうスネ夫を怒鳴りつけ、砲撃を行うジャイアン。地上に降り立ちミサイルを上空に連発する静香。
そして、唯一人戦闘機で敵を撃ち落としていくのび太。その勇姿は、もはや圧巻。これまで数多くの冒険で培ってきた全ての能力を開花させて彼、彼女たちは戦場を駆け抜けていくのである。
そして―――。
「アンジュ……俺は……ヴィルキスの騎士だ。けど……勝手なことかもしれないけれど……俺は……」
タスクは、懐から一つのリングを取り出していた。ソレを握りしめ、呟く。自分勝手なことなのかもしれない。エンブリヲのように、彼女の意思を全く尊重していない独りよがりな事なのかもしれない。
でも、それでも自分はヴィルキスの騎士としてじゃない。
「アンジュの騎士だ。そう決めたんだ!! ハァァァァァァァ!!!」
タスクは、ナオミと共に飛ぶ。誰もが初めて飛ぶことになる、ミスルギの空を、彼女一人のための騎士として戦い抜く。彼女を救い出す。そう決めたのだから。
「ドラえもん……」
そして、それはのび太もまた同じだった。彼は、懐にある物を忍ばせていた。
それは、出撃前の事。
『のび太、これ……お守りに持って行ってよ』
『これって、ありがとうクルト!』
クルトから受け取ったある物だった。お守り代わりに持っていってほしいと、自分に託してくれた、彼にとっても大切なソレを戦闘服の上から握りしめると、のび太は叫ぶ。
「絶対に助けるから!」
と、まるで決意表明のように。
「よし、次々に敵の無人メカを落としてる!」
「けど、流石にロボットまでは無理か、のび太! 気を付けろ!」
というフロックとクルト。二人は連携で多くの無人兵器を落としてはいるもののしかし、やはり能力には限界と言う物がある。≪パラメイル≫を操作できるとはいえ、その操作方法の理由から≪フライトモード≫のみでの戦闘を余儀なくされていた。もっと時間をかければ≪アサルトモード≫での使用もできたかもしれないが、しかしそんなことをしている時間がなかった。
結果、無人兵器ならともかく、自らの意思で動き回る≪ラグナメイル≫を倒す事は困難だった。故に、≪ラグナメイル≫の処理をのび太たちに頼む。
「分かった! え……」
その時だ。のび太は見た。ミスルギ皇国の道路上。≪マナ≫が使えなくなってしまって事故を起こして止まっている車が多数見える。その中に、ある、一体のロボットがいるのを。
「どうした! のび太!!」
「嘘……あれって……」
まさか、でもどうしてこんなところに、彼がいるのか。だって、彼は確か。
と、その時だった。のび太はそのロボットが手にある物を持っていることに気が付いたのだ。
その瞬間、彼の行動は早かった。
「皆! 避けて!!」
「ッ!」
その言葉を受けて多くの機体がその場から立ち去る。が、逃げ切れない機体もいた。結果、十機以上の≪パラメイル≫がそのロボットからの攻撃を受けて撃沈、ミスルギ皇国に火の塊となって落ちて行く。
「ッ! 誰の機体がやられたの!」
「大丈夫です! 落とされたのはどうやらクルト君たちが操作している無人のパラメイルのようです!」
と確認したサリアはオペレーターの一人であるオリビエの声にそう、と安心した様子で座り込んだ。
この戦い、勿論最後まで犠牲者無しと言うわけにはいかないことは覚悟していた。しかし、まだ作戦も序盤も序盤で撃ち落とされたら、それこそ撃墜された人間が浮かばれない。
なので落とされたのが無人機であればそれだけでよかったと言える。けど、問題は一体、誰からの攻撃なのかだ。
あの攻撃、一度に十機もの≪パラメイル≫を、そしてそれに加えて射線上にいた≪ピレスロイド≫をほぼ一撃で撃破できる攻撃力。となれば、エンブリヲの最終兵器である≪ラグナメイル≫か。確かアレクトラからは≪ラグナメイル≫はヴィルキスも含めれば七機あると聞いた。その内の五機が出てきているので、残り一機を潜ませていた。そう考えればいいのだろう。
しかし、ことはそう単純な事ではなかった。
「そんな、あれは……」
「どうしたの、のび太!」
と無線機から流れて来るつぶやきに、サリアが反応した瞬間だった。
そのロボットの姿を見たのび太が叫ぶ。
「ど、ドラえもん!?」
それは、まるで死を前にした鳥の最後の鳴き声のようにか細く、そして悲痛な声と言っても過言ではなかった。