【完結】映画 ドラえもんクロスアンジュ のび太と天使と竜の輪舞   作:牢吏川波実

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chapter45 エンブリヲの操り人形……

 間違いない。あの姿。見間違えたりするものか。

 毎日一緒に過ごしてきたのだから。

 毎日一緒に朝ごはんを食べて、毎日行ってらっしゃいって言ってもらって、でも、何度も寝坊して怒られて。

 家に帰って来たら宿題をしろって何度も何度も怒ってくれて、でも時折いっしょに、皆で楽しく彼が出してくれる“ひみつ道具”を使って遊んで、それで疲れて家に帰って、一緒に晩御飯を食べて、一緒に二階の部屋に行ってお休みって毎日言って。

 そんな彼が、今。自分たちに向けて無慈悲に銃口を向けているなんて、信じられなかった。

 

「どうしちゃったのさ! ドラえもん! ッ!」

「のび太!」

「のび太さん!」

 

 と言って、ドラえもんに近づこうとしたのび太はしかし、その手に持った“熱線銃”で撃たれてしまう。そう、先ほどクルトたちが操縦している≪パラメイル≫を撃破した熱線。その正体は、ドラえもんの持っている“ひみつ道具”の中でも危険な部類に入る道具。鉄筋ビルですら一瞬にして煙に変えてしまう“熱線銃”を彼はなんの躊躇いもなく放ってきたのだ。

 のび太は、その“ひみつ道具”を実際に使用するところは見たことがない。一度、家の中にネズミが現れた時、ドラえもんがこれを使ってネズミを殺せ、なんて言ってとり出して、それをのび太の母の玉子に渡した時に出て来ただけ。当然のび太の母はそんなもの使用することなくドラえもんの“四次元ポケット”の中にしまわれたはずのソレを、ドラえもんは使っているのである。

 

「このッ!」

 

 のび太は、その“熱線銃”による攻撃を紙一重で避けていく。しかし、ドラえもんの射撃センスの良さは自分がよく知っている。今はまだ何とか避けることができるが、いつかは当たってしまうだろうと予測できてしまう。

 なぜこんなことをドラえもんがするのか。のび太は理由がさっぱりわからず、外部スピーカーを使ってドラえもんに叫ぶだけだった。

 

「ドラえもん! どうしちゃったのさ!! 僕だよ、のび太だよ! 分からないの!?」

 

 と、必死に叫ぶのび太。しかし、そんな物にドラえもんが心動かされる事もなく、“熱線銃”を撃ってくる姿は、とても恐ろしいものに感じた。本当に、自分や静香たち、そしてメイルライダーの皆の事が分からないのか。でも、どうして。のび太が、得体のしれない恐ろしさに背筋が凍った時だった。

 

『無駄だよ、野比のび太君』

「ッ!」

 

 無線機で、男性の声が拾われた。その声、のび太には、そして多くのメイルライダーには聞き覚えがあった。特に、彼女。アレクトラにとってはその声を聞くだけで吐き気を催してしまうほどの邪悪。

 全ての諸悪の根源。

 

「エンブリヲ!」

 

 アレクトラが、憎しみを込めた叫びを放つ。だが、そんなことも無視して彼はしゃべり続ける。

 

『忘れてはいないか? 猫型ロボットは私からしてみれば過去のロボット。改造するなんてわけないのだよ』

「そ、そんな!?」

 

 確かに、エンブリヲはジョンと同じ時代の人間。正確に言えばそこまで生きた人間だ。そんな人間にとって、二十二世紀前半に作り出されたドラえもんを含めた猫型ロボットは中古品にしか見えないのだろう。

 そう、言われてしまえばそうかもしれないと思ってしまった自分に何処となく嫌気がさしたのび太は、戦闘機のハッチを開け、コックピットからその身体を見せるように大きく手を広げた。

 

「ッ! ドラえもん!! 僕だよ!! 思い出してドラえもん!!」

 

 しかし、ドラえもんはなおもまだ“熱線銃”を放ち、それどころかよく見ると、ドラえもんの“ひみつ道具”の中でもこれまた危険な物、“ジャンボ・ガン”を取り出している様子も見てとれる。

 これは、見た目はリボルバー型というどこにでもありそうな普通の拳銃のように見える物。しかし、その実態は確か戦車一台を一発で吹き飛ばす危険な物であるとあの時ドラえもんは説明していた。

 “熱線銃”のみならずそんなものを取り出すなんて、これは本当にドラえもんは自分たちを殺すつもりなのだと。そう思わせるのに十分すぎるほど、彼の殺意は高かった。まるで、ネズミにでも追いかけられているかのように、彼からは冷静さが失われて、そして正気も失われている。そう思えて仕方なかった。

 

『無駄だ。今の彼は私の操り人形。そう、アレクトラ……かつての君のように!』

「ッ!」

 

 その言葉に、再び憎々しくその唇を噛んだアレクトラ。その瞬間。彼女の脳裏によみがえったのはあのエンブリヲと過ごした忌まわしき日々。

 自分を変えられ、自分の人生観を変えられ、そして堕落していくことを良しとしてしまった自分自身への苛立ち。アレクトラは一瞬ソレで我を忘れそうになってしまった。しかし。

 

『アレクトラ! 落ち着いて!! エンブリヲに惑わされちゃダメ!!』

「ッ! サリア……」

 

 指揮官として自分たちに指示を送っているサリアの一声で目が覚めたアレクトラ。

 そう、今は私怨によって隊列を乱すわけにはいかないのだ。自分の後ろには、自分がこれまで駒としてきた、でも共に戦うと言ってくれた仲間たちがいる。

 元から自分たちは人間たちにとって駒のようなものだった。だから、そんな扱いされてもなんとも思っていない。そう言ってくれたヒルダやロザリーやエルシャ達の言葉に、どれだけ救われたことか。

 この戦いで、自分が一兵士として≪パラメイル≫に乗ろうとした時に、隊長になるように進言してくれた時、どれだけ嬉しかったことか。

 それはまるで、あの時。自分にヴィルキスを与えられたときの使命感と似た何か。自分がここにいていいと言う理由を貰った嬉しさと同じようなものがあった。

 そんな彼女たちを見捨てることなんて、もう、今の自分にはできなかった。また仲間を喪うために戦うなんてこと、今の彼女にはできなかった。

 憎しみや私怨で戦うわけにはいかない。今は、仲間たちを守らなければ。

 自分に残っていた、わずかな、仲間たちを。

 

「のび太さん! 今、援護するわ!」

 

 と言って、静香がアストロタンクをのび太の戦闘機の方に向けた。以前にも言ったかもしれないが、“スタークラッシュゲーム”の戦闘機は確かに優秀だ。だがしかし、装甲面や武器の種類からして、アストロタンクよりも劣っている。だからこそ、彼は、のび太は他の三人にアストロタンクを譲って、“スタークラッシュゲーム”の戦闘機を使うと言ったのだ。

 そして、そんなのび太が今、とても危険な“ひみつ道具”を持ったドラえもんに狙われている。そんな彼をこれ以上危ない目に遭わせるわけにはいかなかった。

 静香、スネ夫、ジャイアンの三人は彼を助けるために向おうとした。しかし。

 

「ううん! ここは僕に任せて! 皆は早く、アンジュさんやアウラさんを!」

「のび太!? でも!」

 

 その戦闘機じゃ危険すぎる。そういうスネ夫に対して、のび太は笑顔を見せて言った。

 

「大丈夫! ドラえもんは、僕が絶対に助けて見せるから!」

 

 と言って、ドラえもんの方に戦闘機の舵を取ったのび太。

 そして、その瞬間だった。彼の脳裏に、一つの考えが浮かんだ。

 

「ドラえもんッ、僕は信じてるよ……」

「ギギ、ガガ……」

 

 その時だった。ドラえもんの“熱線銃”が放たれて、のび太の戦闘機が撃墜された。

 

「のび太さ……」

「のび太!!」

「ッ!!」

 

 のび太を知る。多くの者たちからの叫び声にも似た物が響いた。

 それと同時に、降り立った幾つもの影。

 

「ガガ?」

 

 ドラえもんの目の前に、その内の一台である“カート”と、一つの丸い岩石のようなものが現れたのはすぐのこと、それが、猛スピードでドラえもんに向けて突進してくる。

 ドラえもんは、何もためらうことなくその二つを撃破した。≪カートの上にのび太がいる≫ことも承知で。

 だが、破壊され、散らばったカートと、そして岩石の中から出て来たカプセルの中にはのび太の姿は当然なかった。

 あったのは飛び散った粘土と機械。そして野菜の汁のような白い物と燃えている紙きれだけ。

 そして―――。

 

トン! トン! トン!

 

 と、“熱線銃”の銃口を塞ぐかのように放たれたカードの束と同時に、ドラえもんのすぐそばにあったビルの上から金色に輝く光が見え、声がする。

 

「……予告状」

「え」

「あれって!」

「まさか!!!」

「のび太、あれを使ったんだ!!」

 

 そこにいたのは、黒いタキシードに黒い帽子、黒マントを身に付けて、その背を高くしたのび太の姿。いや、≪怪盗DX≫の姿だった。

 そう、かつてひみつ道具博物館(ミュージアム)で暗躍し、数々の“ひみつ道具”を盗み出した怪盗が、再臨したのである。

 いや、正確に言うとその人物とは中身が違う。そう、彼は自信を持ってシルクハットのツバを指で上に挙げると言った。

 

「30分以内に、ドラえもん。君を取り戻す!!」

 

 ここに、ドラえもんとのび太による壮大な≪兄弟≫喧嘩が始まった。

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