【完結】映画 ドラえもんクロスアンジュ のび太と天使と竜の輪舞   作:牢吏川波実

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chapter47 ねぇ……

 瞬間だった。

 銃声が聞こえて来た。それは、ドラえもんが持っていた“ウルトラクラッシャー”を弾き飛ばすと、すぐに“瞬間接着銃”によって道路に固定して、使用不可能とする。

 

「“フワフワ銃”……これも、思い出の道具だよね、ドラえもん……」

 

 そう言って、手に持った銃を“四次元くずかご”の中にしまい込んだのび太。

 

「のび太!? それじゃさっきのは……」

 

 確かに、のび太は撃たれたはずだ。実際に撃たれたはずののび太はまだドラえもんの前にいる。しかし、その動きは全くない。それに、のび太の足元に見えるねじのようなもの。あれは―――。

 

「“立体コピー機”よ! ソレで偽物を作り出したんだわ!」

「うん……“生命のねじ”を使う事も考えたけど、そんな身勝手な理由で命は、吹き込みたくなかったから」

 

 のび太の下にあったのは“立体コピー機”と“生命のねじ”。そのねじを無生物に対して巻くと、生命を与えられるという“ひみつ道具”。のび太はそれを“立体コピー機”によって生み出した自分の偽物に巻いて、突撃させる事を考えた。

 しかしいくら偽物とはいえ、生命を持った存在にそんなことはさせられない。のび太は、彼は言うのだ。

 

「ねぇ、もう……やめようよ。こんなことしても、何の意味もないよ……」

 

 その場に、持っていた“瞬間接着銃”と“フワフワ銃”、そして腰に下げていた“四次元くずかご”を置くと地面に突き刺しておいた白銀の剣を抜き、ゆっくりとドラえもんに近づく。

 ドラえもんもまた、“名刀「電光丸」”を持ち、のび太を迎え撃つつもりだ。そんな彼に対して言う。

 

「ねぇ、ドラえもん。さっきまで僕が使ってた道具。“イメージベレーぼう”はともかく、全部……今までいろんな冒険をしてきたときに使った道具だよね。“名刀「電光丸」”だってそうだ。ソレのおかげで、僕たちがどれだけ助かってきたことか……」

「ギギ?」

「ペコを拾って、一緒に遊んで。冒険して、みんなでペコの国を助けたの、覚えてるでしょ? その時にも、助けられたねその道具に。ソフィアさん。ハリ坊……人魚族の皆んなと出会った時にもブイキンからソフィアさんを助けたのも“名刀「電光丸」”だった! 過去の世界に犬と猫の王国をつくって、一緒に行った時に、イチと一緒にネコジャラを倒したのも覚えているんでしょ! ドラえもん!!」

 

 やっぱり、静香は思っていた。のび太がドラえもんとの戦いで使っていた道具。それらは全部今までたくさんの冒険を共にしてきた“ひみつ道具”だった。たくさんの冒険の中で、自分たちの命を時に守り、他人の命を時に守ってきた大切な思い出が詰まった“ひみつ道具”。

 

「ドラえもん、ねぇ、覚えてる。ドラえもんが僕の家に初めて来た時の事を」

「ガッ!」

「ッ! あの時、ドラえもんは僕が不幸な目に遭うっていって、お餅を食べただけで一度帰っちゃったよね!」

 

 と、のび太はドラえもんの攻撃を受け流しながら言う。本来ののび太の力なら、いや、誰の力でも“名刀「電光丸」”を受け流すことすらも困難な事。今までだってソレと互角に戦えたのはサベールという剣の名手である犬人間と、それから過去の世界に行った時に出会った宮本武蔵くらい。それ以外には全くもって無双していたソレ、例え少しばかり能力が落ちていたとはいえそんな相手に、何の力もない剣で立ち向かうのび太の強い気持ちは、機械の力をもってしても推し量れない物だった。

 

「鈴を無くしちゃって、一緒に探したこともあったよね……一緒に泥の中を探して、僕のクツの中にあって一緒に笑いあって、友達になった事……覚えていない?」

「ガガ」

 

 それは、二人にとって大事な思い出。まだ、ドラえもんが家に来て間もなかったころ、キャッチボールをして、でも運動音痴な自分は途中で嫌になって逃げ帰ろうとして、それで喧嘩になってドラえもんの鈴を落としてしまった。

 それを一緒に下水の泥の中から探そうとして、でも結局見つからなくて、そしたら実は泥をかき出したときに靴の中に入っていたってことを知って一緒に笑いあった。

 覚えてる。全部全部、覚えてる。忘れるはずがない大切な、大事な、かけがえのない思い出。

 

「全部、忘れたの!」

 

 叫んだのび太は、一転攻勢に出る。

 

「一緒に、恐竜を育てて、白亜紀の時代に行ったよね!! ピー助の事、覚えてるでしょ!」

 

♪いつもいつもここじゃない気がして♪

 

「ギギ!?」

 

 この時使ったのは“立体コピー紙”と“ラジコンねん土”。これで、敵だった恐竜ハンターの目をくらまそうとした。覚えてる。

 のび太は、剣を振いドラえもんに立ち向かう。その度に出る火花は、まるで彼の涙、いや、彼らの涙のように弾ける。

 

♪遠い空に憧れた まっすぐな君を見て♪

 

「ロップル君やチャミーやクレム、モリーナさんの星でスーパーヒーローをしたこともあった!」

「ギッ!」

 

 そのときに使ったのは“ジャイロカプセル”。ソレで、捕まったロップルやモリーナを助けに行ったじゃないか。

 そうだ、そうだ。全部、覚えてるのだ。のび太は。ソレなのに、ドラえもんは覚えてないのか。違う、彼だってきっとーーー。

 

♪小さな僕を知った♪

 

「それだけじゃない……僕は、全部覚えてる!」

 

 一撃、一撃に思いの丈を乗せた攻撃。思い出を、これまでのたくさんの冒険が、その先で出会った人々の顔が、景色が、頭に浮かぶ中、彼はその剣の閃きを止めることはなかった。

 

♪誰といても僕じゃない気がして 誰かの後ろを見てた♪

 

「エルや、バギーと一緒にポセイドンを倒したことも!」

「バギーちゃん……」

 

 “カメレオンぼうし”。

 

♪隠れても隠れても 君だけは僕を見つけてくれた♪

 

「パラレルワールドを作って美夜子さんや満月牧師と一緒に魔界を冒険したことも!」

「そんな事、やってたのかよ……」

 

 “モーテン星”。

 

♪傷つく一緒と♪

 

「パピやロコロコやリーダーさんたちと一緒にPCIAと戦ったことも!」

 

 アストロタンク。ドラえもんの“ひみつ道具”で作られた戦車。

 もう、銀の剣は刃こぼれを起こし始めていた。でも、ソレでも彼は剣を振るう事をやめない。

 

♪傷つかないひとり 君となら♪

 

「リルルやピッポと一緒に、命がけで鉄人兵団と戦ったことも……」

「リルル……」

 

 “瞬間接着銃”。

 

♪傷ついてもいいかな♪

 

「スネ夫を助けるために地下にいってバンホーさんや妹のローさんと出会ったことも!」

「のび太……」

 

 “こけおどし手投げ弾”。

 

♪ねぇ 君のずるさを晒してよ ねぇ 僕のダメさを叱ってよ これからも♪

 

「妖怪に侵略された世界を元に戻すために三蔵法師さんやリンレイと会った! ククルにペガにグリにドラコ!」

「ググ」

 

 “如意棒”。それに“ショックスティック”と“どんぶら粉”。

 

♪この先も 僕の心をつくってよ ねぇ 君が笑うと弾むんだ ねぇ 君が泣いたら痛いんだ 君だけが 君だけが 僕の心をつくるんだ♪

 

「アニマル惑星(プラネット)でチッポやロミちゃんと出会った! 大昔のバグダッドでシンドバッドさんと出会った! 雲の王国をつくって、パルパルに出会えたこと! ドンジャラ村のホイ君と再会した事!! チャモチャ星から来たサピオ君に出会えたこと! ジャイトス! スネミス! シズカールと一緒に夢の国を救うために戦ったこと!!」

「のび太さん……ノビタニヤン!」

 

 “ノビールハンド”。“ネットロケット”。先ほどの戦闘の途中で出した“びっくり人形”は、ドラえもんが今のように壊れたときに“四次元ポケット”から出したものだった。

 “荷物運び用お荷物”。“白銀の剣”。静香はそののび太の後ろ姿を見て思わず叫んでいた。彼の、もう一つの世界での名前を。

 

「創世セットで作った世界で僕たちによく似た人たちや、ビタノ君やエモドランにあった事!」

 

♪たとえ君がここじゃない気がして 他の空を選んでも ポケットに忍び込み 同じ青をずっと見上げていたい♪

 

「車掌さんやボームさんと一緒に、寄生生物から銀河を守った! パカポコやピーブ、生命のねじで巻いたみんなと一緒に、凶悪犯からねじ巻き都市(シティー)を守った! そう、その時に僕たちは本当の神様に出会ったじゃないか! 種まく者っていう、本物の神に、後を託されたじゃないか!!!」

 

 “木材磁石”。“フワフワ銃”。そして今回は使わなかった、出しただけだった“生命のねじ”。そう、あの時の冒険で確かにのび太は出会った。地球に、種を蒔いた神様、自分たちを作った、エンブリヲのような偽物じゃない本物の神様。

 託されたのだ、自分たちはあの、植物で溢れた星の未来を。この星の未来も。そして、これから先、神様もみることのできない途方もない未来を、可能性を、託された。

 

♪壊れた気持ち 壊れそうな夢 つないだら 柔らかくなるね♪

 

「ジャックやキッド船長、ルフィン達と一緒に戦った! リアン、ログ、ゴロゴロ、フレイヤと一緒に銀河漂流戦団を守った! マヤナ国でティオやポポルと出会った! バードピアでグースケやイカロスに出会った! ポコやジャンヌさんたちに出会った! 風の村のテムジン達や……フー子ッ! 絶対に、忘れない!!」

「ギギ、ガガガ!」

 

 “夢たしかめ機”。“スタークラッシュ”ゲーム。“とりかえっこふろしき”。“新型のバードキャップ”。“本物コピー機”。“上昇気流マット”。

 

♪ねぇ 君の弱さを晒してよ ねぇ 僕の強さを信じてよ♪

 

「キー坊や、リーレ……。コロン、ケリー博士……小さいころのパパ……カブ太」

 

 この時に使ったのは、確か、確か、“やくしゃダイコン”。“即席落とし穴”に“ワスレンボー”、だった。朧げな意識の中、のび太はソレでも声を出し続ける。

 限界だ。誰の目から見てもボロボロになった剣と、のび太自身の姿を見て、全ての人間がしかし、諦めることなく説得を続けるのび太のことを見守り続けていた。

 立ち上がるのも精一杯で、何度も何度も転んでも、まるでだるまさんのように起き上がる彼の姿に誰もが釘付けになった。

 

♪これからも この先も 僕の心をつくってよ♪

 

「く、クルトが来てるんだよ……今でも、“ひみつ道具”職人になるために頑張ってるんだ。未来のために!」

「のび太……」

 

 “怪盗DX”。まだ、“ひみつ道具”職人とは認められてない、でも彼の作った最高のひみつ道具。悪い事に使われた、でも今では自分が友を説得するために使った道具。

 

♪ねぇ 君が笑うと弾むんだ ねぇ 君が泣いたら痛いんだ 君だけが 君だけが♪

 

「ポックル星に行ってアロンと一緒に星を……みんなで救った。遠い昔の南極で、カーラやヒャッコイ博士やモフスケに出会えた……」

「ググ、ギガガ」

 

 “グレードアップライト”で強化したスーツ。“急速冷灯”や“ふかふかスプレー”。

 

♪僕の心をつくるんだ♪

 

「フロック、セーラ、クイズ……ジョンさんもこの世界に来てるんだ! エンブリヲを倒すために!!」

「「のび太……」」

「……」

 

 “重力ペンキ”。ソレを使って、自分は地球のエネルギー、ドラグニウムを全身に浴びていたドラえもんを助けに行った。いや、自分だけじゃない。静香もそう。危険を承知で、痛みを、共に分かち合った。

 そして、助け出す事ができた。今回も、きっと、きっと、助けられるはずだ。だから、のび太は立ち上がる。

 

「ルカやモゾや、ルナさん。エスパルの皆やムービットの皆……。キューと……ミューの事も……僕は……覚えて……」

 

♪ねぇ 君の♪

 

「のび太……」

 

 数々の冒険で自分たちの危機を救ってくれた“空気砲”、ソレが一番活躍したのはあのときだった。それに、“空間移動クレヨン”のおかげで、たくさんの恐竜の命を守ることができた。全部、全部、大切な、かけがえのない、思い出。

 スラスラと、かつての冒険で出会った友達。仲間たち。ともに冒険をして、時にぶつかり合って、未来を、地球を、銀河を守った友人たちの名前を叫んでいくのび太の姿に、アンジュはあの言葉を思い出した。

 

♪ずるさを晒してよ ねぇ 僕のダメさを叱ってよ これからも この先も♪

 

『アンジュさんって……優しいんですね』

『名前を覚えているんだもの、本当に無関心な人は死んだ人の名前も……』

「やっぱり、アンタの優しさにはかなわないわ……」

 

 自分は、確かに覚えていた。死んでしまった人間の名前を。でも、これまで出会って来た他の人間たちの名前を憶えているだろうか。もう二度と会えない。そんな人間たちの名前を、思い出せるだろうか。

 もう、同じ人間として扱ってくれない。もう二度とその前に立つことはない。そんな人間たちの事。自分を畏怖の対象とし、それまで慕っていたのも嘘のように拒絶した学友たち。

 捨てたはずの自分の仲間たち。覚えている。全部。全部その名前が出てきてしまう。でも、彼は自分以上に多くの人間に出会い、交流して、そして友情をはぐくんできた。それを全部、全部覚えているのだ。

 数多くの冒険。自分と、ドラえもんの二人だけで経験した冒険もあった。でも、ジャイアンやスネ夫、静香と一緒に危険な冒険をして、それを乗り越えて来た。乗り越えて来れた。どうして。

 

♪僕の心をつくってよ ねぇ 君の弱さを晒してよ ねぇ♪

 

「一緒にたくさんの冒険をして、危ない目に何度も遭ってきたけど、そのたびに乗り越えて来た! ドラえもんが、いてくれたから!」

 

 疲れ果てたのび太はしかし、ボロボロの白銀の剣をその場に置くと、叫ぶ。

 

♪僕の強さを信じてよ これからも この先も 僕の心をつくってよ ねぇ 君が笑うと弾むんだ♪

 

「僕は、ドラえもんがいてくれないと何もできないんだ。でも、ドラえもんがいてくれるから何でもできるんだ! ドラえもんが、僕にたくさんの道具を貸してくれて、ドラえもんがその道具の説明をしてくれて、危ないところとか、やっちゃいけないところとか、全部教えてくれたのはドラえもんじゃないか!」

 

 いつもそうだ。自分に“ひみつ道具”を貸してくれた時、彼はいつもこんなことに使ったら痛い目を見る。しっぺ返しが来る。そう教えてくれた。結果、自分がつい魔が差して“ひみつ道具”を悪用してしまったら、最後にはドラえもんからの制裁のような物や、それから自分自身がしっぺ返しを食らう事が山ほどあった。

 それは全部、“ひみつ道具”を悪用しない人間になってほしいと言う彼からの願い。

 

♪ねぇ 君が泣いたら痛いんだ 君だけが 君だけが 僕の心をつくるんだ ねぇ♪

 

「道を間違えそうになった時いつもドラえもんは止めてくれた! だから、僕は“ひみつ道具”を兵器なんてものにせずに済んだんだ!!」

「ギ……」

「そうだよ、ドラえもんも“ひみつ道具”も兵器なんかじゃない! ドラえもんは、ドラえもんは……」

 

 ドラえもんが迫る。その手に刀をもって、振りかぶって、のび太の方に迫っていく。もうのび太に逃げる体力は残っていなかった。もう、立ち上がる気力もなかった。でも、それでも彼は勇気と共に立ち上がると、その手を広げて待っていた。彼が、抱き着いて来てくれるのを、信じて。

 そう、信じていた。なぜなら、彼は―――。

 

♪僕の心を♪

 

「ドラえもんはッ!!!」

 

 彼は―――。

 

♪つくってよ♪

 

「僕の、友達だぁぁぁぁ!!!」

「ぎぎぃぃ!!」

 

 その時、一つの剣が振り下ろされようとしていた。

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