【完結】映画 ドラえもんクロスアンジュ のび太と天使と竜の輪舞   作:牢吏川波実

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chapter49 ≪三人目の≫ライダー

 全く想定していない事態に、男はただただその顔を歪ませるしかなかった。例のチップを取り除けるのは“ミニドラ”だけ、ソレは分かっていた。だからこそ、ソレを最優先で探したのに、彼の“四次元ポケット”の中にはいなかった。

 まさか、他に人間二人を“四次元ポケット”の中に入れていて、四次元空間の奥の方のガラクタの山の中に入って逃げていたなんて、予想もしていなかった事態だ。

 

「ば、馬鹿な……」

「フフ、アハハハハハハハ!!!」

 

 そんなエンブリヲに対して、アンジュはただただ大きく口を開けて笑うしかなかった。ソレを見たエンブリヲは、怒りを隠すことができずに叫ぶ。

 

「何がおかしい、何がおかしいアンジュ!」

「だってこんなの、おかしくてたまらないわ! アンタが悪意を持ってドラえもんに付けたチップを、アンタが馬鹿にしたドラえもんやのび太の優しさで助けられた子たちに外されたのよ?」

 

 そう、イルマやターニャは、本当だったらあの場面で≪ピレスロイド≫によって連れていかれ、下手をすればこの男の手駒にされていたかもしれない。この男だったらやりかねなかった。そうじゃなくても、死んでいたかもしれない子達だった。けど、ドラえもんとのび太の勇気ある行動、優しさによって助けられた。

 結果的にその二人が、エンブリヲの目的を阻止したのだ。そう、彼が嘲笑った優しさが、ドラえもんという最高の友達を助けたのだ。ソレを笑わずにはいられなかった。

 そうだ。アンジュは気が付いた。

 

「そう、この世界に必要なのは優しさだったのよ! 暴力があっても、貧困にあえいでも、差別されようとも、誰かが優しさをもっていてさえくれれば、絶対に誰かが答えてくれる!」

 

 優しさがあれば、暴力なんてものを起こさない。

 優しさがあれば、貧困に嘆く人たちを助ける。

 優しさがあれば、差別何て絶対にしない。むしろ、差別されている人たちを助けてくれる。

 理想論。すべてが理想論だ。でも、その理想論を実際に形にした人間が、のび太なのである。アンジュは続ける。

 

「アンタが壊そうとした世界は! アンタが優しくしようとしなかった世界なのよ!! 壊れて当然だわ!」

「黙れ、黙れ黙れ!」

 

 と言って、エンブリヲはその懐から小さな拳銃を取り出した。だが、その口径でも撃たれた場所が悪ければ一人の人間を簡単に殺すことができる代物。

 事ここに置いてまだ、暴力ですべてを解決しようとするのか。この男の底が知れる。アンジュは、そんなことに一切ひるまずに言った。

 

「撃ちたいのなら撃てばいいわ! でもね、あんたは負けるのよ! あの子たちの、優しさに!!」

 

 そうだ。自分がいなくなってものび太たちならきっとこの世界を救ってくれる。自分なんていなくても世界は回り続ける。

 自分はこの世界に決して必要な人間ではない。先ほど言ったように、自分もまた、差別された≪ノーマ≫に優しく出来なかった人間の一人だから、でも、この世界にいてもいい人間。すこし自意識過剰なのかもしれないが、彼女はそう考えていた。

 だから、きっと彼が、彼女たちが来てくれることを信じていた。

 そう―――。

 

「!?」

 

 白い自分の乗機を携えて。

 エンブリヲが見た物、それは空を飛び交う≪ピレスロイド≫を相手にして何の苦も無しに剣を振るい、銃を撃ち、輪舞を踊るように戦うヴィルキスの姿だった。

 

「馬鹿な、ヴィルキス! だと!?」

 

 エンブリヲは困惑しているようだ。当然だろう。なぜならヴィルキスに乗れるはずの人間、アンジュは今目の前にいる。前にヴィルキスに乗れた人間であるアレクトラは自分が懐柔し、その右手と指輪を奪ったことによってヴィルキスを操縦することは不可能なはず。では、一体だれが。

 そう、困惑している時だった。

 

「アンジュ! 迎えに来たよ!」

「タスク!」

 

 といって、タスクが乗る≪パラメイル≫とジルが乗るサリアの機体。そして、ヴィルキスが目の前に降りて来たのだ。

 そして、その中から現れたタスクとアンジュは抱き合った。まるで、自分たちがここにいるという事を喜ぶかのように。

 

「でも、ヴィルキスは一体だれが乗ってるの? 私以外じゃ、ヴィルキスは乗りこなせないんじゃ……」

「あたしよ」

 

 というアンジュの疑問とともに、ヴィルキスがそのハッチを開け、ある人物が現れた。意外な人物と言っても過言ではない人間。

 そう、髪を青色に染め上げ、いつも自分に対してチームワークについて熱弁して、時にぶつかりあい、時には助け合った戦友。

 

「サリア!?」

 

 ≪アウローラ≫の全指揮系統を任されたはずの女性、サリアであった。サリアは、ドラえもんが≪きせかえカメラ≫で作ったアンジュ専用のライダースーツを右手に持ち、左手には操縦桿のようなものを持って地面に降り立った。

 

「“なんでも操縦機”か……いい乗り心地だったわ。最後の最後にヴィルキスに乗せてもらって、ホントいい思い出ができた」

「ッ!」

 

 “なんでも操縦機”。ドラえもんから聞いた。それを取り付けることによってなんでも簡単に操縦できるようになるという“ひみつ道具”。そうか、ソレを使ってサリアはヴィルキスを動かせたのだ。これまで、彼女がずっと、望んでも望んでもできなかった、ヴィルキスを自由に動かせるという奇跡を。

 サリアは、手に持ったアンジュのスーツ、そしてアンジュの母の形見でもある指輪を押し付けるように手渡すとついでのように言った。

 

「アンジュ、指揮権は貴方に譲るわ。ソレにヴィルキスも。私にはアレクトラがいれば十分。ヴィルキスは、アンタの物よ」

「サリア……」

 

 なんだかとんでもない物もついでに渡されたような気がするが、しかしサリアの目からは憑き物が落ちたような、そんな印象を受ける。そう、もうヴィルキスに固執していた彼女はいないのだ。

 いたのはただ一人、アレクトラを守る騎士としての責務を全うするためにいる、唯一人の少女だった。

 アンジュは、その言葉を受けると、ゆっくりと頷いた。貴方も、ようやく本当に守りたいものが見つかったんだと、安心するように。

 

「アレクトラ!?」

「久しぶりだな、エンブリヲ。流石の貴様でも、こんな展開は想像もしていなかったか?」

 

 と言いながら、ジルはサリアの≪パラメイル≫から降りると言った。ジルとエンブリヲ。因縁の相手同士が顔を合わせた瞬間である。

 

「フッ、一度は私の女になった売女が、再び尻尾を振りに来たか!?」

 

 と、挑発するように言ったエンブリヲに対して、彼女は一度自嘲してから言った。

 

「前までの私なら、何も観ず、何も思わず、ただただお前を殺すために無茶をしていたかもしれない……だが、今の私は違う。今の私には……お前にはない、大切なものがあるからな」

「私にはない、大切なものだと!?」

「そう、お前には決して分かるはずがないものさ!」

 

 と言いながら、彼女はケジメとなる弾丸を一発、上空に放った。それは、まるでそれまでの自分の私怨から離れるための、そして決別のための一発のように、アンジュたちには思えた。

 

『タスク! しばらく時間を稼いでくれ! 俺たちに考えがあるんだ!』

 

 と、その時だ。通信機を通してフロックが言う。タスクは、その考えが一体どういう物なのか分からないまま、しかし彼らの事を信用して一言。

 

「分かった!」

 

 と、その言葉と同時にアンジュの前に立ったタスクは、得物であるナイフを持ち言う。

 

「アンジュ、俺はこの男と決着をつける……」

「タスク……」

「その代わり……帰れたら」

 

 相手はあのエンブリヲ。無事に帰れる保証はない。いや、無事に帰れるわけがない。でも、それでも、もしもう一度アンジュの元に戻ることができたのなら。タスクは少しだけ顔を赤らめながら言った。

 

「その、今まで君にしてきたこと、なかったことにしてもらえないか?」

 

 と、何とも間の抜けた願い事だ。でも、ある意味ではタスクらしいのかもしれない。アンジュはその言葉に、クスリと、まるで普通の女の子のように笑ってから言った。

 

「分かったわタスク。死なないで」

「あぁ……俺は、アンジュの騎士! 絶対に死なない!」

 

 と、タスクは決意を新たにしてエンブリヲにその身体を向けるのであった。

 

「タスク、この機体借りる! いいな!」

「もちろんだアレクトラ! 母さんの機体……母さんの思いを、頼む!」

「分かっている!」

 

 サリアは、ジルが先ほどまで操っていた自身の本来の≪パラメイル≫に、ジルはタスクが乗っていた≪パラメイル≫に乗ることになった。

 そう、彼の母親が、そしてジルの戦友だったバネッサが、自分なんかを助けるためにその命を散らしたバネッサが、最後の最後まで乗っていた≪パラメイル≫を操ることとなった。その時、彼女は思ったと言う。≪絶対に、この機体を落としてはならない≫と。それはつまりーーー。

 

「行くよ……バネッサ!」

「さぁ、来い! エンブリヲ!!」

「ヴィルキス、飛べぇ!!」

 

 こうして、戦いは二つの目標の救出を達成し、残るはただ一つ。アウラ奪還を残すのみとなった。

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