【完結】映画 ドラえもんクロスアンジュ のび太と天使と竜の輪舞 作:牢吏川波実
例えそれが、残酷な事実だと分かっていても。
彼女たちには、悔いがあった。この、破滅していく時の中でも、それでも気になってしまう物。
自分たちのやり残し。それを解決しなければ、前に進むことができない。そう彼女たちは感じていた。
「……」
ドラえもんが作ってくれた、と言っても過言ではないライダースーツ。それは、自分たちが本来使うライダースーツのそれよりももっと着やすい物であり、なおかつ通気性バツグンの物だった。故に、エンブリヲが渡してきた最低なセンスのソレをすぐに脱ぎ、着替えるのはとても簡単な事。
そして、再び戦場に戻ろうとしたアンジュは、ヴィルキスを一度上昇させた。が、しかしすぐにまた皇宮の方へとその向きを変える。
「アンジュ!」
「サリア、ゴメン! 少し野暮用を済ませてくる!」
「待ってください! 一人じゃ危険です! 私も着いて行きます」
といって、一人皇宮の方、正確に言えば先ほどまでいた庭とは反対側の方に向かって行ったアンジュ。しかし、ここはもう彼女が住んでいた頃の屋敷ではない。エンブリヲの要塞と言っても過言ではない場所に生まれ変わってしまってる。一体どんな罠が仕掛けられているか、内部構造がどうなっているのか分からない。
そのため、静香もまた、ドラえもんから手渡された“ひみつ道具”を片手にアンジュと共に向かったのだ。
「はぁぁぁぁぁ!!」
そのころ、ヒルダはジルと共に≪ピレスロイド≫の群れとの戦いを続けていた。確かに一体一体はかなり弱いが、それが集まるとかなり厄介になる。つまり、≪ピレスロイド≫の群れを拡散させてしまえば、それほど脅威ではなくなると言うこと。
それが分かっていたメイルライダー達は、それぞれに個々で撃破を狙うのではなく、その攻撃が分散するようにと二人一組、あるいは三人一組で戦闘を継続していた。
そのおかげで、今のところ死傷者は零。少しばかりの機体の損傷はあったものの、それ以外の被害はないに等しいものがあった。
しかし、ドラゴンの方は何体かが犠牲になってしまったようだ。あの巨体で、生身で、無数に集まる≪ピレスロイド≫全てを避け切ることができなかったドラゴン達。だが、彼等は死を覚悟して来ていた。だから後悔なんてないはずだ。そうサラマンディーネは語る。
そして今、ヒルダとジルが戦っているのは、何の因果か、ヒルダの生まれ故郷であったエンデラント連合とミスルギ皇国の真ん中付近。どうやら戦っている間にそこまで来てしまったようだ。
ヒルダには小さな野望と言う物があった。母に会いたいと言う、どんな人間でももつことができる小さな野望が。
彼女は以前にも説明した通り、アンジュ、それからジルのようにある程度大きくなってから親元から引き離されて≪アルゼナル≫へと来た女の子。であるが故に覚えている。母との記憶。母が作ってくれたアップルパイの味。母の優しさを。
そんな母にもう一度会いたい。もう一度話をしたい。もう一度、自分の事を娘だと言ってもらいたい。そんな願いがあった。だから、≪アルゼナル≫での厳しい戦い、死と隣り合わせの戦いの日々でも臆することなくドラゴンを殺すことができた。生き延びることができた。目標が、あったから。
しかし多分、もう自分は母には会えないだろうなと言う、どこか諦めのようなものがここでできていた。こんな、時空融合なんていう訳の分からない現象を阻止するために戦っているのだから無理もないだろう。
それに、もし時空融合を阻止できたとしても、母が生きている保証も、自分が生きている保証も、そして、この世界が無事である保証もない。
だから、彼女はあきらめていた、母との再会を。
しかし。運命と言うのは極めて極間近に、そして残酷にある物である。
「ッ! あれは!」
ヒルダは見た。地上に、赤い髪を持ち、その手にはリンゴを入れたカゴを持った一人の女性。忘れるはずがない。見間違えるはずがない。あれは、あの女性は。
「マ……マ……」
「ヒルダ!」
ヒルダは、ソレを見ると一直線にその女性の下に向かった。ジルはそんな彼女を大声で呼び止める。しかし、遅かった。彼女は一人その戦場を離れると、女性の下に向かう。
≪アルゼナル≫であったのならば懲罰物の行為だが、しかしジルはその先にいた女性の姿を見て、納得してしまった自分がいることと、そしてこの後に待っている彼女にとっての辛い事実を考えて、一人その場で闘い続ける。
せめて、彼女が現実を理解する、その時まで。
「ハァァァァァ!!!」
ヒルダは、母親である女性を守るためにその剣を≪ピレスロイド≫に振るった。間一髪だ。もう少し遅かったら女性はミンチ以上にひどいことになっていただろう。
その後≪フライトモード≫に移行させて、迫りくる≪ピレスロイド≫を一体、また一体と狙撃する。そんなことしなくても、人型の≪アサルトモード≫でもよかったはずなのに、その身を外にさらすことがどれだけ危険な事なのか知っていたはずなのに、それでも彼女はその姿を見せた。それはきっと、彼女に、女性に、知ってもらいたかったのかもしれない。自分の事。自分が成長した姿と言う物を。
そして、ヒルダに迫る。というよりヒルダの母親に迫っていた≪ピレスロイド≫を全て撃墜した直後だった。安心したヒルダは、母親の方を向いた。
「マ……え……」
「ヒルダ、大丈夫!?」
「うん、大丈夫だよ。ママ!」
母親は、ヒルダとは真逆の方向を向いて≪ヒルダ≫と名前を呼んだのである。そこにいたのは、一人の女の子。自分の幼いころによく似た、赤毛の女の子。その女の子が、自分のママの事を、ママと呼ぶ。その姿に一瞬だけ混乱を覚えたヒルダは、棒立ちとなってしまった。
「ヒルダ……ママ……ッ!」
混乱? 違う。必然な事だったじゃないか。ヒルダは、その事実に気が付くと唇を噛みしめて涙を堪える。
そう、母は新しい≪ヒルダ≫を産んだのだ。自分のような、≪マナ≫を使えない失敗作ではない、ちゃんと≪マナ≫を使える人間の≪ヒルダ≫を作ったのだ。ちゃんとした人間のヒルダ。そして、失敗作として廃棄された自分の代わりのヒルダを。作ってしまったのだ。
その瞬間彼女の中で支えにしていた物が全て、崩れ去っていくような気がした。
ママは自分の事なんて待っていなかったのだ。ママは自分の事なんて忘れてしまいたかったのだ。だからこそ、ちゃんと人間として生まれた娘に自分の過去に産まれてしまった≪ノーマ≫の名前を付けた。元から、そんな人間いなかったかのように。
「ありがとうございます!」
「ありがとう! お姉さん!」
と、二人から礼を言われたヒルダ。お姉さん、か。ある意味ではそうかもしれないな。そう心の中で呟くと、ヒルダは呟いた。
「……別に、ただの化け物の戯れだから……さようなら……ママ」
「え……」
ただ、それだけ言うと、ヒルダは≪パラメイル≫を浮かして再びジルの下に戻っていった。
もう、会う事もない母親だった人間に背を向けて。空っぽの心のままで、戦場へと戻っていったのだ。
「ママ、今最後にママって……あの人」
「今の人……? 嘘、だって……だって……」
あの子はもう、連れていかれたはず。そして、≪ノーマ≫として処分されたはずじゃないのか。
処分、そう処分された。はず。それなのに、どうしてここにいるの。どうしてそんな機械に乗って、戦っているの。どうしてこんな嵐の中で、雷鳴がとどろく中で、ミスルギ皇国の無人兵器と戦っているの、どうしてどうして。どうして、自分の事を助けてくれたの。
「ッ!」
『さようなら……ママ』
彼女が残した最後の言葉を思い出した女性は、膝をつき、泣き崩れた。
覚えていたのだ。自分の事を。自分が、ちゃんと産んであげれなかったあの子は、自分の事をそれでも、母親として見ていてくれたのだ。こんな、あの子の事を忘れたいと、すぐに子供を産んで、同じ名前を付けて、育てていた自分の事を、母親として見ていてくれた。
あんな、とても危険な、人殺しもできるような武器を持った兵器に乗り込んで戦っている≪元・娘≫。知らなかった。そんなことになっているなんて。でも、そんな事言い訳にならない。
言えることは、ただ、一つだけ。
「あ、アァァァァァ!!!」
自分は、彼女の事を自分の娘だと気が付いてあげられなかった。ただ、拭いきれない過ち一つが残ってしまっていたのだ。
「あった、あの部屋よ!」
「あそこに、シルヴィアさんがいるんですね!」
「えぇ!」
アンジュは自信を持ってそう答えた。間違いない。前に自分が、まだ≪マナ≫を使えると信じていた時代と同じだったら。その部屋にシルヴィアが、自分の妹がいるはずだ。
エンブリヲは言っていた。兄はあの艦隊にいて自分が殺し、父は処刑された。だから、ミスルギ皇国に残っている王族は、シルヴィア唯一人なのだと。
せめて、彼女の事だけは助けたかった。自分に唯一残された肉親を、いや、自分が守ってあげなければならない女の子を、守らなければ、そう思ったのだ。
「ハァッ!」
アンジュは、その部屋の窓付近にシルヴィアがいないこと、そして中には誰かがいるという事を確認した後、一度ヴィルキスから降りてガラスを割って室内に入る。
静香もまた、アストロタンクから出ると“スモールライト”を使いながらその窓があるベランダの上に立った。
「ヒッ……」
そして、室内には、一人の女の子の姿。そのすぐ近くには恐らく≪マナ≫で動かしてたであろう車椅子らしき物や、豪華絢爛な装飾品の数々が見える。
「シルヴィア、良かった……」
「貴方が、アンジュさんの……」
アンジュがシルヴィアと呼んだ女性は、アンジュのような金色の髪を両方でくくっている女の子。よほどこの状況が怖かったのだろう。少女はその手に猟銃を握りしめて、その場に座り込んだままだった。
そう言えば、アンジュから聞いたことがある。シルヴィアは足が不自由で一歩も動くことができないのだと。だから、そんな彼女の事が心配なのだと。
「シルヴィア、貴方だけでも」
そう、アンジュが彼女に対して手を伸ばした瞬間だった。
「ッ!」
一発の銃弾が、彼女の顔を掠めて行った。