【完結】映画 ドラえもんクロスアンジュ のび太と天使と竜の輪舞   作:牢吏川波実

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chapter53 対消滅

 死んでしまう。≪暁ノ御柱≫前に集まっていたミスルギの国民は誰もがそう思っていたという。

 突如として使えなくなった≪マナ≫。国内はソレに起因した様々な事故が発生した。交通事故、火災、さらにライフラインが断たれたことによる弊害も。

 それに呼応するかのように現れた軍艦と、そこから出てくるロボットたち。ソレに対して自分たちの国は無人兵器を投入したようだが、それもまた無駄だと言わんばかりに落とされていく始末。一体何が起こっているのか。

 自分たちは、この説明を求めるために皇宮へと向かった。けど、そこにはもう、誰もいなかった。自分たちは仕方なく次にこの国のシンボルとなっており、さらには臨時のシェルターのような役割になっている≪暁ノ御柱≫へと向かった。

 ≪暁ノ御柱≫の前にはすでに多くの国民がわらわらと集まっており、その誰もが大声で中にいるはずの人間を呼ぶ。でも、誰も出てこない。

 この時の彼らは何も分かっていなかった。分かろうとしていなかった。それが事実。今まで当たり前のように存在していた≪マナ≫が使えなくなったこと、それがどれだけ人間の心理状態を乱したのか、想像するのも苦しいほど。そんな人間たちに向って、放たれた光線。

 それが、≪アウローラ≫の最終兵器。ソレによって凍り付き、崩れ落ちる≪暁ノ御柱≫を前にして、彼らはすぐさま逃げ出した。もう、何が何だか分からないままに、ただただ必死で生きようと逃げ出したのだ。

 だが、≪暁ノ御柱≫の大きさから分かる通り彼らが今更逃げ出したとしても既に手遅れであることは明白だった。もしも≪マナ≫が使えたら、身近にありすぎて、考えることもなかった。≪マナ≫が使えなくなると言う現象を前にして、現実逃避に似た逃げを行っていた国民たち。このまま、ゾウに踏みつぶされるアリのように死んでしまう。そんな人間たちを―――。

 

「フッ!」

「ハァァァ!!」

 

 救ったのもまた、人間だった。

 

「な……」

「早く逃げて!」

「僕たちが支えているうちに!!」

 

 一人は、間違いなく少年だった。丸渕眼鏡で、手袋をはめたどこにでもいる少年。もう一人、いや一体と言った方がいいのだろうか。ソレは、青を主体にした上から下まで寸胴のような体型をしたナニカが、少年と同じように手袋をはめて叫んでいた。

 

「早く!!」

「あ、あぁ……」

 

 早く、逃げろと。自分たちはその言葉に従って、いや違う。従わざるを得なかった。自分が、生きるために。これから待っている苦難なんて知らず、この場所で死んでいた方がまだマシだったかもしれない。そう思ってしまうかもしれないのに、彼らは逃げ出したのだ。

 未来に、向かって。

 

「これで、みんな逃げた。ゆっくりこの柱を下ろそう」

「うん!」

 

 そして、その場にいた全員が逃げたことを確認したドラえもんとのび太。持った物を軽々と、簡単に持ち上げることができる“かるがる手袋”で持ち上げていた≪暁ノ御柱≫の残骸を地面におろすと空を見上げた。

 さっきよりも確実に嵐が強くなり始めている。雷鳴が耳をつんざき、風は自分たちの事を押し返そうとしている。強風の中でもものともしない“台風のお目々”を使ってるため無事に飛ぶことができるのだけが、不幸中の幸いだった。

 

「ドラえもん! どうなってるのこの嵐!?」

「多分、のび太くんの話からすると、時空融合って奴が進んでいるんだ!! それで、時空の間で歪みが発生して、こんな嵐みたいになってるんだよ!」

 

 と、ドラえもんは仮説を論じるしかなかった。ここから先、もはや自分たちの理論も通じないような未知の領域になっている。ましてや、ドラえもんが持っている情報はのび太が与えてくれた少ない情報だけ。その中で組み立てたにしてはまだいい論証であると言っていい。

 そう、時空融合は着々と進んでいたのだ。そして、彼らは知らないことであるが、向こうの世界でも同じように時空融合は進み始め、嵐が、ハリケーンがドラゴンたちを飲み込んでいた。すべてを、塵に帰すために。

 

「そんな、それじゃこの世界と向こうの世界が!」

「その前にアウラを救出して、エネルギー源を完全に断たなくちゃならないけど、それはアンジュさんたちに任せて、僕たちはやるべきことをやろう!」

「やるべきこと?」

 

 先ほど、アンジュやサラマンディーネ、そして静香の三人がアウラを救出するために大穴の底に向かって行ったのを見た。静香に関しては少し心配にはなるが、だがアンジュとサラマンディーネの二人だったら必ず何とかしてくれるはずだ。

 ならば、自分たちはどうすればいい。

 決まっている自分たちができる事をすればいいのだ。

 

「そう! 僕たちにしかできないこと。僕たちだからこそ、できる事だ!」

 

 ドラえもんはそう言うと、“四次元ポケット”の中からある物を取り出した。ソレは―――。

 

「フッ! ハァッ!」

「えぇい!!」

 

 一方、アウラへと続く大穴の中に突入したアンジュとサラマンディーネ、そして静香は次々と現れる無人兵器、≪ピレスロイド≫を駆逐しながらその最下層へと向かっていた。

 もう、この無人兵器のパターンは読めた。これだけ戦っているのだから、当たり前の事だろう。静香もまた、パターンを読めたと言うわけではないが出現場所が完全に自分たちの目の前に固定されているために、ただ主砲を撃つだけで≪ピレスロイド≫は撃破されて行く。

 この世界。向こうの世界。そして、向こうの過去の世界の女性たちによる輪舞は、ついに佳境を迎えた。

 

「見つけた! アウラ……!」

 

 そう。ついにたどり着いたのだ。アウラのもとに。彼女たちの始祖アウラ。その姿はアンジュが向こうの世界でサラマンディーネに見せてもらったソレと全く同一の物。しかし、実際にその姿を見て見ると、はるかに気高く、そしてはるかに弱っている姿が見て取れる。

 

「……」

 

 よく見ると、アウラの身体には赤い液体の入った注射器が刺さっている。アレが、きっと浄化されたドラグニウムなのだろう。彼女の同胞たちを殺して抽出されたエネルギー。そんなものをずっと注入されているのだ。心身ともに弱っても不思議じゃない。

 よく、ここまで、この瞬間まで壊れなかったものだ。アンジュは、その精神力に敬意を払うしかなかった。

 

「いま、助けます!」

 

 と、サラマンディーネは実体剣を持ち出してアウラを拘束している器具を破壊しようとした。

 だが。

 

「!?」

 

 弾かれた。まさか。不安を覚えた彼女はさらにビームライフルの一種である≪晴嵐≫を用いて再びアウラを拘束している器具を攻撃した。だが、無意味だった。ビームは弾かれてしまい、まるで何事もなかったかのようにそのフィールドは展開し続けるのである。

 そう、フィールドだ。

 

「このバリア……まさか、これも」

「えぇ、ドラグニウムを使用しているのでしょう」

 

 サラマンディーネが苦々しく言葉を発した。まったくエンブリヲはどこまで自分たちのことを、そしてアウラの事を侮辱すれば気が済むのだろう。こんな、始祖アウラにとって屈辱的な行いで周りを囲んでしまうなんて。

 

「どうするんです!?」

 

 と、静香が聞いた。そう、どうすればいい。ドラグニウムを用いたエネルギーであることから、そのエネルギーは無限ではないのは確か。しかし、そのエネルギーが枯渇するということはアウラが死ぬ、と言うことと同意義になる。

 だが、考えてる時間はない。ならば―――。

 

「こうなれば、アレを……貴方のお兄様を殺してしまった、あの兵器を使うしかありません……」

 

 収斂時空砲。あの力をもってすれば、例えドラグニウムによってつくられたエネルギーであったとしても破ることはできるだろう。しかし。

 

「ッ……いいの? あの威力じゃ、アウラまで」

 

 アンジュの言葉に、頭の片隅に置いていた、しかし考えられる事実を思い浮かべる。

 そう、確かにあの威力であればあのバリアを破ることなんてたやすい事。でも、その力はあまりにも絶大すぎる物だった。それは、先の戦闘で戦艦をすべて滅ぼし、海を割り、海底まで裂いたソレからも分かる事。

 もしバリアを破壊できたとしても、その先にあるアウラまで殺してしまう事は、考えらえる。けど。

 

「ですが……それしか、方法はありません……暴力には破壊で対抗しなければ……」

「サラマンディーネさん……」

 

 それでしか、アウラを救うことができないのであれば。ソレでしか自分たちの世界を救うことができないのであれば。この苦しみからアウラを救う方法が、それしかないのならば。

 サラマンディーネは苦渋の決断をした直後、自分の腰に下げてあった刀を取り、握りしめる。

 もし、この攻撃でアウラを殺してしまった時、その時には自らの命で―――。そんな、覚悟だったのだろう。しかし、アンジュは言う。

 

「……いえ、破壊には、優しさをぶつければいいのよ」

「え?」

 

 そう、あの子が教えてくれた方法。同じ力を与えることによって、相手の攻撃を和らげることができる。アレと同じ方法を使えれば、きっと。

 アンジュはサラマンディーネから少し離れてから叫ぶ。

 

「私の機体にも同じ武器が積まれてる! 静香!? エネルギーは!?」

「まだ十分残ってます!」

「二人で一緒にあの兵器を撃つ! いや、サラ子が撃った場所に私が同じ武器を撃ち込む!」

 

 同じ武器で、同じ武器が当たった場所を撃つ。まさか、サラマンディーネはアンジュのとんでもない発言に声が裏返りながら言う。

 

「まさか、対消滅を起こすと!?」

「静香は、私たちがアウラを救出するまでの時間稼ぎをお願い!」

「イェスマム!」

 

 アンジュは、そんなサラマンディーネの叫びを無視するかのように静香に指示を与える。自分たちが、あの最終兵器を準備している間に≪ピレスロイド≫が現れないとも限らない。だから、それまでの殿を、彼女に頼んだのだ。

 対消滅。それは似た存在同士をぶつけ合うことによってその反応、損害を消し去ってしまう現象の事。確かにアンジュの機体にも自分の機体にも同じ収斂時空砲が積まれている。つまり、ソレを使えば、自分の収斂時空砲の威力をアンジュのそれで抑える事も可能なのかもしれない。

 だが、できるのだろうか。

 

「アンジュ! 無茶を承知で言ってるのですか!? この武器自体使うのは二回目、何が起こるか、下手をすれば上にいるモノもろとも消し飛ぶかも」

「やらなきゃアウラも、この国の人間も皆死ぬでしょ!?」

「え?」

 

 この国の、人間。サラマンディーネはその言葉に不思議な感じがした。この国は、彼女を、アンジュを、いや≪ノーマ≫を差別し、罵倒し、そして彼女を≪アルゼナル≫に送った仇の一つだと言うのに、なのにどうして。

 

「そう、この国は残らないといけない。人間が、人間として、エンブリヲの支配を離れて暮らすために……シルヴィアが歩く道を、作る。それがあの子の……あの子にできる私の姉としての最後の仕事だから」

「アンジュ……」

「アンジュさん……」

「……」

 

 そう、それがあの子の姉として生まれた自分の最期の役目。あの子がこれからどんな人生を歩んでいくのかは分からない。でも、少しでもいい。あの子がこれから歩くことになるはずの未来を、残してあげたい。それが、父と、母が隠し続けて来てくれたお礼と、そして自分が彼女からすべてを奪った償いとなるのなら。

 

「いくわよ……サラマンディーネ!!」

「貴方の覚悟、しかと受け取りました。彼岸まで共に参りましょう!」

「死ぬ気はないからね! 言っとくけど!!」

 

 と、笑顔で言うと、ヴィルキス。そして焔龍號は同時に≪アサルトモード≫へと変形した。そして―――。

 

♪風に飛ばんEL Ragna 運命と契り交わして 風に往かんEl Eagna 轟きし翼♪

 

「あんたも、静香も、それにシルヴィアも、絶対に殺させない!」

 

 歌が、始まった。

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