【完結】映画 ドラえもんクロスアンジュ のび太と天使と竜の輪舞 作:牢吏川波実
さぁ、ショーの始まりだ!
時空の狭間の中。そこに浮かぶ島の、庭と呼んでもいい場所にて、一人の寂しい男が地面に八つ当たりするかの純白の食器をつかみ投げ割、恨み言を叫んでいた。
「何故だ何故だ何故だ!!」
エンブリヲ、である。彼は完全に混乱状態にあった。自分が支配してきた人間たちに、利用してきた人間たちに、そして自分が愛した女性に反乱を起こされ、今自分を殺しに来ているという事実に。
彼は、理解することができなかった。
「何故私の愛が分からないのだ! アンジュ! 私は、本気でお前を妻と認めたというのに! なのに何故!!」
分かるはずがない。この男に。すべてが自分の物であると信じて疑わない。誰も信じない男に、分かるわけなんてないのだ。
『教えてあげる……』
「ッ!?」
その時だ。宇宙空間のように広がり、地球のような惑星が点在するその世界に、大きなひびが入った。
次の瞬間、現れたのは巨大な宝島。ジョン船長が舵を取る、船であった。そこから二十二機の≪パラメイル≫が次々と飛び出して、列をなした。
いや、もはや規則性なんて何もない。編隊を組んでいるわけじゃない。彼女たちは自らの意思で、自らの感じるままに飛んでいた。そう、人間は自由なのだ。
自由であるからこそ、人間は自分のやりたいようにできる。道を選択することができる。ソレを狭められたとしても、必ずどこかに突破口があるはず。
見えなくても、見えなくされても、耳をふさがれても感じる、己の目指す道。
それがあるからこその人生。人の生きる世界。
今、その≪人の運命≫を取り戻すための最終決戦のために、彼女たちは飛び出した。果てのない、世界の狭間。数多くの道があるはずの人生と言う世界を壊し続け、そこで永遠にも似た時間を過ごし続けて来たわびしい男の下に。
♪この儚くも美しい絶望の世界で高らかに捧げよう永遠への歌を♪
「それは、あんたの愛は愛じゃないからよ!!」
「なに!?」
「アンタの言っている愛は、たくさんいるペットの中から選んだ自己中心的な物。そんなもの、愛なんかじゃない! 私が本当に受け取った愛は、そんなものよりももっと大きくて、もっと重い物だった!!」
そう言ったアンジュは、自分のはめている指輪に、母から譲り受けた指輪に手を添える。今ならわかる。何故、≪ノーマ≫というイレギュラーが発生したのか。
それは人間の本当の意思。エンブリヲという存在によって遺伝子操作されてもなおその支配から逃れ、否定するため。だから母は、あの歌と指輪を自分に託してくれた。
きっと、母は知っていたのだ。愛の重さを。愛の強さを。そして愛の優しさを。だからこそ、このエンブリヲによって支配されたこの腐りきった世界を壊すために自分に託したのだ。
全て、この時のために。
「アンジュぅ!!」
「受けて見なさい。私がこの絶望の世界で受け取った愛……私が受け取った、優しさ!」
一度最底辺にまで落とされても、それでも絶望の中で見つけた、タスクとの愛。
戦いを続ける中で育んできた仲間たちとのキズナ。
そしてその先にいた、異世界から優しさを届けてくれた少年少女たち。
その皆とともにいれば、何も怖くない。
「各機! 目標はただ一つ……エンブリヲを殺す事! 報酬は、好きなものをあげるわ!」
そう、全員に伝えた後、アンジュは一度深く息を吸うと叫んだ。
「全機! 我に続けぇぇぇ!!」
『イェスマム!!』
その言葉に、二十一人の≪メイルライダー≫が、そして宝島にいる全員が吠えた。
≪ラスト・リベルタス≫。その開始を告げる。本当の最後の言葉だ。
「クッ!」
エンブリヲはその姿を見ると、さっそくミスルギ皇国の時と同じように六機の≪ラグナメイル≫を出現させた。
♪始まりは理不尽なほど♪
「うわぁ! また出た!」
ヴィヴィアンは、まるでゴキブリでも見つけたかのような反応をする。実際、何度倒しても蘇るそのしぶとさはゴキブリ以上とも言えるかもしれないが。とにかくアンジュはそんなもの気にせずに言った。
♪愛おしく♪
「片っ端からやっつけるわよ!!」
と。その時、アンジュの後ろに乗っているタスクも言う。
♪終わりへと抗う姿試してる…?♪
「アンジュ! 俺を、あの島におろしてくれ!」
「分かったわ!」
この言葉に、タスクが一体何をしようとしているのかが分かったアンジュは、浮かぶ島の緑の大地スレスレに近づく。そして。
「フッ!」
タスクは、その大地に降り立ったのである。この世界において、エンブリヲ以外で初めて大地に立った人間となったタスクに、エンブリヲは殺気を隠せないでいた。
♪何のために産まれ 生きていくのか もがくだけじゃ何も手にできない
「貴様ぁ……」
「決着を付けよう、今度こそ!!」
「タスク殿! これを!」
「ありがとう! サラマンディーネさん!! はぁぁぁぁぁ!!!」
タスクは、サラマンディーネが投げ渡した日本刀を手に取ると、その鞘から抜き、構え、突撃する。エンブリヲもまたその手に剣を出現させて迎え撃つ。一対一の決闘だ。
♪運命の♪
「フロック!」
その間にのび太はフロックに通信を入れた。あり得ないと思うが、敵の≪ラグナメイル≫に人が乗っていないかどうかを確認するためだ。
そして、フロックとクルトはデータを解析した結果導き出された答えをのび太に伝える。
♪logicに 踊らされた虚無の楽園♪
「今調べてみた! やっぱり全部無人だ!」
「そう、あの一機以外は!」
「あの一機!?」
と、クルトが指し示した機体。それは、たった一機だけ他のヴィルキスも含めた六機と違う外見を持った機体。カラーリングも他がほとんど黒で染め上げられている中、様々な色が混ざり合ったかのような色をしていて、更には頭のツインアイが露出しているという違いがある機体だった。
その機体を見たジョンが叫ぶ。
♪そこに、意味はあるのか? この儚くも美しい 絶望の世界で 砕け散った希望は 行き場を求めて 紅に染まる記憶に♪
「あれは、エンブリヲがかつて実験の際に使っていた機体、そしてこの島自体も! 我々がかつて研究施設として使っていた島の一つ。その名も……≪アルゼナル≫!」
「≪アルゼナル≫って……」
「ハッ! なんてことはない……島の名前から全部最初からエンブリヲの物だったってことさ!」
と、アレクトラが吐き捨てるように言った。そう、自分たちがいたあの≪アルゼナル≫もまた、偽物。こここそが、この場所こそが本当の≪アルゼナル≫だったのだ。ジョンは、その機体から生体反応が出た理由について考察する。
♪涙など忘れて 高らかに捧げよう 永遠への歌を I wanna fly!(hight!) Fly! (Hight) 生温い 時間なんて 切り捨て You feel the beat! (down!) Beat! (Down!) 響かせ♪
「恐らく、時限跳躍の際にエンブリヲの精神と融合した、もう一つの肉体なのだろう。つまり、あの機体と、肉体を同時に倒さぬ限り、エンブリヲを消すことはできない!」
「なら、話は早いわね!! タスク!!」
「あぁ! 分かってる!! ハァァァ!!!」
その言葉を聞いたアンジュそしてタスクの行動は早かった。要は、エンブリヲとその≪ラグナメイル≫を同時に落とせば、もうエンブリヲが復活することはない。自分たちの前に姿を現すことがない。その不死性を無効化することができる。そう言う事ならば。
各機は散開、アンジュとナオミの二人が例の≪ラグナメイル≫へと向かうことになり、それ以外が他の五機を相手にすることとなった。
♪饒舌に空を舞うのも 悪くない♪
「このやろぉ! ぎったんぎったんにしてやるぜ!!」
「ここまで来たんだ! どうにでもなれッ!!」
と、ジャイアンとスネ夫の二人が同時に≪パラメイル≫に搭載されているアサルトライフルを発射した。しかし、≪パラメイル≫に乗って銃器を撃つという事自体が初めてだった彼らの攻撃が≪ラグナメイル≫に当たることはない。
そう、二人きりだったら。
「ハァァァ!!」
そこに吶喊してきたのはヒルダだった。今度は、自暴自棄の突撃じゃない。仲間とともに戦うための突撃だ。
ヒルダの剣による攻撃を、≪ラグナメイル≫もまたその剣で受け止める。しかし、その瞬間に動きが止まり、ジャイアンとスネ夫による攻撃が≪ラグナメイル≫の背部に直撃した。
それと同時に離れたヒルダに変わって、砲撃が≪ラグナメイル≫を襲う。これはロザリーの攻撃だ。
「クリス! やれぇ!!」
「うん!! ハァァァァァ!」
その攻撃を受けて煙の中止まった≪ラグナメイル≫に対し、クリスが突撃し、そしてその手に持った剣で、≪ラグナメイル≫の身体を突き刺した。≪ラグナメイル≫、≪テオドーラ≫を。
♪果てしなく深く広がる海のように♪
「必殺ぅ! ヴィヴィアンブゥゥメラン!!」
一方こちらは別の≪ラグナメイル≫と戦っているヴィヴィアン。彼女は素早く動く≪ラグナメイル≫≪ビクトリア≫に向けてブーメラン型の武器通称≪ブンブン丸≫を投げた。しかし。
♪壊れても輝き放つ♪
「うわぁ避けられた!!」
その攻撃は簡単に避けられたどころか、その隙を狙って≪ビクトリア≫が向かってくる。避けるか、それともアサルトライフルで迎え撃つか、そう考えていた時だった。
♪星のように♪
「え?」
上方から、光弾による援護が来たのである。その光弾は、今まで自分が何度も見たことがある。そして感じたことのある光。そう、ドラゴンによる、自分の同胞による攻撃だった。
♪絶え間なく押し寄せる 孤独の闇も 悠然と抱きしめ続けたい♪
「ギュルルルルルル!!!」
空高くにはたくさんのドラゴンの姿があった。時空融合の結果偽りの地球と真実の地球の間にある時空間が破けて、向こうの世界とこの時空の狭間がつながり、新たにドラゴンの救援が到着したのだ。
そして、その中の一体のドラゴンがヴィヴィアンの横に来る。その上には、見覚えのある女性が乗っていた。
「ミィ!」
「お母さんさん! え、もしかしてそのドラゴンって」
ヴィヴィアンは直感的に感じ取った。そのドラゴン。母が乗っているドラゴンが一体だれなのかを。ラミアは、ソレを補足するように言った。
「えぇ、貴方のお父さん……さんよ」
「すごーい! 私のお父さんさん!」
と、天然なヴィヴィアンは、戦場での再会と言うある意味一番最悪な展開にもかかわらず何のこともないように嬉しそうに言った。ラミアもまた、そんなヴィヴィアンの姿を見て嬉しそうに、涙を流すのだった。そして―――。
♪瞳に映ってる その幸せは 誰のモノなの…? いま、真実を超えて…♪
「ヴィヴィアンさん! これを!!」
と言って、静香が操る≪パラメイル≫が投げ渡してきたのは、≪アウローラ≫の中で眠っていた武器。≪アルゼナル≫の≪ジャスミン・モール≫で売られていたもので、ヴィヴィアンが欲しがっていたが、しかしあまりにもキャッシュが必要であるために諦めていた剣であった。
「おぉ静香! サンキュー!!」
剣を掴んだヴィヴィアンは、ソレを天高く掲げ上げる。すると、ソレに向って光弾が集まっていくように吸収され、剣先が光はじめた。
本来そんな力がないはずの剣。しかし、ヴィヴィアンというドラゴンとその同胞たちが力を合わせることによって生まれたこれもまた一つの奇跡。その事に気が付いているのかいないのか、ヴィヴィアンは楽しそうに言う。
「一度、使ってみたかったんだ! 名付けて!! ≪天空剣≫*1!!」
ヴィヴィアンは、その光る剣を手に、≪ビクトリア≫に向かった。
♪朽ち果てた未来見つめ 戦き叫んで 消せない過去嘆いて 立ち止まるよりも♪
「ハァァァァ!!」
また別の所ではそのドラゴンたちを率いる人間であるサラマンディーネが、焔龍號の武器、≪天雷≫を用いて≪ラグナメイル≫、≪エイレーネ≫と対峙していた。流石、ヴィルキスと同じ≪ラグナメイル≫。その力は圧倒的に自分の機体よりも高性能であろう。
でも、不思議と彼女は負ける気がしなかった。それはきっと、彼女にはいたからだ。エンブリヲとは違って、共に戦う同志が、側近としていつも近くで見守ってくれる大切な人間が。
「ナーガ! カナメ!」
「「はい! サラマンディーネ様!!」」
と言って、二人はビームライフルである≪瑞雲≫を使い≪エイレーネ≫が逃げる道を塞いでいく。そして―――。
「はぁぁぁぁ!!」
サラマンディーネはその機体を一刀両断に仕留めてみせた。
たった一人で闘い続けて来た人間には決して分からない絆。それが、この戦いの勝敗を決めたのだ。
♪呆れるほど信じ抜いて 無様に笑いたい 潔く飛び立とう 明日が待ってる♪
「フッ! ハァァ」
そして、サリアはたった一人で≪ラグナメイル≫≪クレオパトラ≫とアサルトブレードで戦闘していた。いや、彼女もまた一人じゃない。
「アレクトラ!」
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
サリアが、下方に下がった瞬間。≪クレオパトラ≫もまたそれにつられて下に剣を下ろしてしまい、隙が生まれた。その瞬間に、後方にいたジルが、凍結バレットを射出しその動きを一瞬緩ませる。
その間にアサルトブレードをその機体に突き刺して、アサルトライフルを接射したのである。
どれだけ性能が高くとも、たとえどれだけ敵が強かろうとも、この超近距離射撃は避けることも、退けることもできないジルは残った弾薬すべてをその機体に注ぎ込んだ。これまでの屈辱とともに、仲間達の分まで。
そうだ。自分は今一人で闘っているんじゃない。サリアと、そしてこの機体本来の持ち主であるバネッサと、自分の≪リベルタス≫のために死んでいったたくさんの仲間たちの思いを乗せているのだ。負けない。負けるはずがない。この、戦いだけは。
そして、最後の銃弾が≪クレオパトラ≫に吸い込まれた瞬間。機体は爆散。数秒遅れて、ジルの≪パラメイル≫もまたその爆風の中から現れた。
「さすが……」
「当然だ。妹の前で、恥をかくわけにはいかないからな」
「アレクトラ……」
そこにいたのは、まるで本当の姉妹のように仲睦まじく、そしてチームワークばっちりの二人であった。
「きゃぁぁぁ!!」
「クッ!」
「子供たちに手出しはさせないよ!!」
一方で、宝島の方は危機に陥っていた。この場所に来るまでに多くの障害物が時空間の中にあったことは論述したと思うが、ソレを防ぐためにバリアを継続して使っていたために、バリアを貼る機能が完全に停止故障してしまったのだ。
マリアやビビ、セーラ、ミスティらはエルシャから託された子供たちを背にして、宝島に配備されていた警備ロボットによる光線を行うが効き目がない様子。やはりサイズ差と言うものがあったか。≪ラグナメイル≫、≪レイジア≫の銃口が、彼女たちに向こうとした。その時だった。
「ハァァァァ!!」
エルシャが、剣を持って吶喊してきたのである。しかし、その機体は彼女が使っていた≪ハウザー≫でも、はたまた“フエルミラー”によってコピーされた機体でもなんでもない。新兵に最初に支給される量産機である、≪グレイブ≫。それもほとんど武装していないモノだった。
そんなもので≪ラグナメイル≫と戦えるとは彼女も思っていない。でも、それでも彼女は。
「やらせない、やらせはしない!! 私の……命に代えても!」
死を覚悟して戦場に来ていたのだ。そんな人間の自殺行為を止められる人間なんて、いない。
メイが、≪アウローラ≫の片隅に置いてあったソレを彼女の乗機としたのは、死に行くモノを止められるとは思わなかったから。
「エルシャ!」
否、違う。メイは整備していたのだ。ちゃんと、彼女の乗機も、更に言えば、彼女ともに戦う者達の機体も。
アサルトライフルを乱射しながら、五機の≪パラメイル≫がその場に現れたのだ。当然、子供たちに害がない様な位置で、そのおかげで≪レイジア≫は下がり、エルシャの周りには彼女を助けた五機の≪パラメイル≫が並んだ。
「大丈夫ですか、エルシャお姉さま!」
エルシャは、その声に、そしてその姿を見せたメイルライダー各員の顔に見覚えがあった。
「マリカ! メアリー! ノンナ! ターニャにイルマも!」
後者二人は、前回の戦闘において途中で≪アウローラ≫に回収されたため負傷がなく、≪アルゼナル第一中隊≫を除いて参戦できた貴重な人員二名。
そして、前者三人は、元々初陣を近くに控えていた新兵である。当然。幼年部にいたことからエルシャと親交のあった、大切な、子供たち。
その五人が、エルシャを助けに来たのだ。
「エルシャお姉さまを殺させたりしません!」
♪琥珀に揺れる♪
「私たちも、お姉さまを守ります!」
自分達に、とても良くしてくれたお姉様を助けるために、そしてターニャとイルマは、ドラえもん達によって助けられたという大きな借りを返すために。
♪夜の帳に惑う♪
「だって、どうするの? エルシャおねえさま」
と、最後にいたずらっぽく付け加えたイルマの言葉。エルシャは涙を流しながら言った。
♪徒に心乱されそうで♪
「えぇ、えぇ! ありがとう、私、やりきってみせる!!」
例え、この後どうなるか分からない。この痛みが、自分をどう襲うのか分からない。それでも、彼女は舞う。この非確定領域の世界を。たとえ、それが、最後の飛行になったとしても。彼女は飛ぶのである。
♪繰り返される無情の波に飲まれ 矛盾した安らぎを求めていた♪
「フッ! ハァァ!!」
「やぁぁ!」
一方こちらはアンジュとナオミのコンビである。元々≪ラグナメイル≫だったアンジュの≪ヴィルキス≫と、エンブリヲの精神と同化していると言われている≪ラグナメイル≫≪ヒステリカ≫の力は拮抗していた。しかし、そこにナオミが操る≪パラメイル≫が加われば、拮抗していた戦力も上回ることができる。
ナオミにとってこの戦いは、テスト飛行の時の初陣、先ほどまでのミスルギ皇国に続いての三つ目の戦場。しかし、彼女はそんなこともものともせずに≪ヒステリカ≫と互角に戦えていた。
仲間が、頼りになるアンジュが、自分の仲間達のことを助けてくれていた人がいるから。
♪息もできないほど攻め立てる現実に♪
『ふははは! その程度の攻撃など』
「クッ!」
しかし、次第に≪ヒステリカ≫は二人の動きに順応していき、ついには攻撃を受けるようになってしまっていた。
♪真実はいつも凍り付いたまま♪
「やっぱり、精神と同期しているから動きが素早いんだ!」
ドラえもんは、その動きを見てそう推測していた。この≪ヒステリカ≫のみがエンブリヲと精神が直結している。だからこそ、他の五機の≪ラグナメイル≫と違って戦闘への順応力が高くなっているのだと。
♪夢の霹靂 燃ゆる恋のように この身を焦がし 天(そら)を轟かせて♪
『この調律者たる私に行った無礼の数々、その身体で思い知るがいい!!』
「何が無礼の数々よ! この変態親父!!」
と叫びながら、ヴィルキスが≪ヒステリカ≫の剣を防いだ。
♪誰も知らない闇の向こう 始まりを探して 叫び続けてる 明日へと届くまで♪
「ジルから聞いたわよ、あんたの悪行の数々……アンタが多くの人間から奪った物!」
「全部帰ってくることはない! でも、貴方がしたことは、絶対に許しちゃいけないことだから!!」
『ハッ、だからどうした!!』
≪ヒステリカ≫は、二人の言葉を無視するがごとくに攻撃を退けると再び高速移動を開始した。のび太とドラえもんはそんな≪ヒステリカ≫をエンブリヲを止めなければ、そう思っていた。
しかし、そんな素早い≪ラグナメイル≫を相手に今まで≪パラメイル≫での戦いをほとんど経験していない自分たちがどうすればいいのか。と、考えていた時だった。
「動きが素早い……あっ!」
のび太は閃いた。
「ドラえもん! “瞬間接着銃”だよ!」
「ハッそうか! えっとあった! “瞬間接着銃”!!!」
『フッ馬鹿め! その程度の銃で!』
先ほど、のび太がドラえもんと戦っていた時に使用していた銃、“瞬間接着銃”をドラえもんは取り出した。
だが、その大きさはあまりにも小さくて、ロボットを相手にしたら力不足感は否めなかった。
否、そんなことはない。そう示すように、彼らが現れた。
♪少しだけ不思議な 普段のお話♪
「“ビックリライト”!!」
『なに!?』
「おっとと」
「フロック! クルト!」
フロックが操縦するトビウオ型のマシンとその後ろにいるクルトだ。彼らはこの危険な戦場の中、武器も何も持たずにのび太たちのすぐそばまで来たのである。自分達にもまだ何かできる事があるはずだと、そう信じて。
信じた結果は、嘘じゃなかった。クルトは、自身の発明品である“ビックリライト”を取り出すとドラえもんがのび太に投げ渡す途中だった“瞬間接着銃”に光を当てる。すると、その銃口だけが十倍を超えるほどの大きさになる。当然そんな銃を普通の人間が持つことなんてできない。
故に、ドラえもんが銃身を≪パラメイル≫で持ち上げることによってそのバランスを取ったのである。
♪指先と机の間 二次元♪
「やれ! のび太!」
「ありがとう! ハァッ!」
フロック、そしてクルトに礼をしたのび太は、≪ヒステリカ≫めがけて接着銃の接着剤を放った。すると、その攻撃は。
♪落ちこぼれた君も♪
『な、馬鹿な! ヒステリカの関節を!?』
≪ヒステリカ≫の右腕を動かしている関節部に当たる。それに、≪ヒステリカ≫の中に存在するエンブリヲの精神が驚きを隠せない中でも、のび太は続ける。
♪出木すぎあの子も 同じ雲の下で♪
「ドラえもん! 右!」
「よし! 撃てのび太くん!」
『ッ! なに!?』
ドラえもんに指示を与えると、彼はのび太の言う通りの方向にその銃身を向けた。そして、そこにはのび太からの攻撃を避けるために動いていた≪ヒステリカ≫の姿があった。のび太は、まるでその動きを予知していたかのように攻撃のタイミングを見極めていたのである。
♪暮らした次元 そこに四次元 機械だって♪
「今度は左!」
「了解!!」
『ば、ばかな!?』
そして今度は左に避けようとしていた≪ヒステリカ≫のエンジン部分を狙い撃ちにしたのび太。もうそれ以上動けまいと次々と残りの関節部を狙い、ついに≪ヒステリカ≫は身動きが取れなくなってしまった。
まるでこれから先の未来。クルト達新世代の“ひみつ道具”職人が作っていくであろう真っ白に彩られた景色のようになった≪ヒステリカ≫の姿を見たアンジュは、一笑してから言う。
♪涙を流して 震えながら 勇気を叫ぶだろう♪
「さすが、銃のスペシャリストね!」
「ありがとう!」
と、のび太に向けてサムズアップしたアンジュ。のび太とドラえもんもすかさずそれに同じように返した。
『な、何故だ! 何故、あそこまで息が……』
エンブリヲは困惑する。命中精度もそうだが、しかし、一番驚愕するべき場所は、その銃身を支えていたドラえもんである。のび太がどこに撃ちたいのか、どこを狙いたいのか、それを全て理解していなければできない連係プレー。
一体、どうすればそんな神業とも言えることができるのかと、かつては神を自称していたエンブリヲが驚いていたその時だった。
♪だから ここにおいでよ 一緒に冒険しよう♪
「なめんじゃねぇぞ! ドラえもんとのび太、そして俺たちの友情を!!」
と、ジャイアンが。
♪何者でもなくても世界を救おう♪
「のび太とドラえもんや僕たちは、ずっと一緒に冒険してきたんだ!」
スネ夫が。
♪いつか 時が流れて 必ず辿り着くから♪
「貴方のように、たった一人ボッチでこの世界で暮らしていたヒトには、分かりっこないわ!!」
そして、静香が叫んだ。ドラえもんとのび太と、そして自分たちの友情の力を。
ソレさえあれば、こんな神業も造作のない事であるのだと。
♪君に会えるよ どどどどどどどどど ドラえもん♪
『お、おのれ!』
狼狽するエンブリヲ。しかし、その思考は止まらなかった。考えろ。この状況を一転させる方法を。アウラの力が途切れるまで、時間を稼ぐ方法。
その時、ふと、エンブリヲは思い出した。そうだ、確か野比のび太はその時、エンブリヲはクク、と笑った。
『ま、まてアンジュ! 考え直せ!!』
と、≪ヒステリカ≫の中にいるエンブリヲの精神が叫んだ。
「なに!? 今更命乞いでもするの!?」
『そうじゃ無い。考えてもみたまえ! 君は、『野比のび太』くんが放った銃によって拘束された私を討つことになるのだぞ!』
「!?」
数瞬、エンブリヲが何を言ってるのか意味がわからなかった。しかし、その裏にある意味を理解した瞬間、アンジュの顔が引き攣った。
『そうだ。君が私を殺せばのび太君もまたその死に加担した事になる』
「僕が?」
『そうだ。君は直接手を下してないとはいえ、人の死に関わるのだ! 優しい君には耐え難い屈辱じゃないのか!?』
「そ、それは……」
考えてみれば、のび太が今まで倒して来た敵は全てが怪物か、化け物か、あるいはロボットだった。それも、話し合う余地もないほどの悪党ばかり。しかし、人間は違う。
今までの冒険、恐竜ハンターや星を破壊しようとしたガルタイト鉱業の人間達等、自分達は人間を相手にする時にはいつもソレなりの機関、組織に身柄を引き渡して来た。
そう、自分たちは人殺しに関わったことは、≪殆ど無い≫。小学生なのだから、ソレが当たり前なのだが。
『君が本当に優しいのなら、私の事を許し、見逃すのがベストなはずだ! そうだろ! 野比のび太君!』
「アンタが……」
♪祈りたまえ 闇を…♪
「貴方が、優しさを語らないで!!」
『ッ!?』
アンジュが叫ぼうとした瞬間だった。その後ろからアサルトライフルを放ちながら一機の≪パラメイル≫。ナオミの乗機が現れた。
その攻撃は、ものの見事に≪ヒステリカ≫の肩部に直撃、接着剤の塊から抜け出そうとしていたソレを破壊してナオミが言った。
「優しさっていうのは、自分の保身のために使う言葉じゃない!」
「ッ!?」
♪この世界が 幻だと 知っていても 未来を輝かせて♪
「身体を張って、身を削って、心も壊しかけて、涙を流せて、そんな人が使える言葉なの!!」
「ナオミさん……」
「ナオミ……ッ!」
そう、のび太のように命懸けの中でドラゴンを説得し、ドラえもんを説得したように。
エルシャが、本当の地球で子供のドラゴンを殺していた可能性に涙を流し、アンジュが自分がして来た行いに絶望したように。
かくいうナオミだってそうだ。自分の身体をはって、≪アルゼナル≫でのび太やタスクを救った。彼女だって、十分そのカテゴリーにはいる。
だが、エンブリヲはどうだ。そう考えた時、アンジュは一つの答えを得た。
♪残像から 解き放てる 力と勇気を あなたにあげたい 戦うこと 恨まないで 運命 超え♪
「アンタが今まで悪事を働けた理由がよく分かったわ。アンタはそうやって、いろんな人の優しさに漬け込んで、甘い言葉で誘惑して来たのね。ジョン船長やフィオナさんって人、アウラ、ドラえもん、そしてジル……アレクトラ! 全員その優しさを捻じ曲げられた! アンタの野望のために!」
みんな、本当は優しい心を持っていた。でも、あの男に関わったことによってその人生を捻じ曲げられ、中には絶望し星を捨てようとし、あるいは復讐鬼となった人間もいた。
全ては、人の心を利用した男一人の、ちっぽけな欲望の為に。
♪立ち上がって 絶望こそ 追い風にして… 目覚めよ 傷ついたまま♪
「アンタに、優しさなんて言葉を使う権利ないわ! 本当に優しい人間は悲しみや憎しみを、歯を食いしばって断ち切れる人間! なんでのび太が“瞬間接着銃”を使ったのかまだ分からないの!?」
『な、に?』
「アンジュさん……」
分かるはずもない。のび太はドラえもんとの対決で、いくつかの敵を攻撃できる武器とも言える“ひみつ道具”を手に入れていた。ソレを使えば、彼の腕前だ。エンブリヲの≪ヒステリカ≫を文字通り塵に変えることもできたはず。なのに、何故そのようなことをしなかったか。
♪真実の 黙示録 始まり 終わり永遠の 神話よりも 美しく…♪
「それはね、本当は貴方に死んでもらいたくないから、心のどこかで、貴方が更生する道を望んでたから! 悲しみや憎しみを歯を食いしばって断ち切ろうとした! 相手を許すことだけが優しさじゃない。許されるチャンスを与えることが本当の優しさなのよ! それなのに、貴方は、貴方って人はそれを自分の保身のために使って!!」
『ま、待て! ならば尚更!!』
「優しさだけが人を成長させるんじゃない! 時に厳しく、ときに優しく、それが人間を成長させるの! ≪アルゼナル≫の生活は、ドラえもん達との出会いが私に教えてくれた! その厳しさ、思いやりを、アンタにぶつけてやるわ!!」
『ま、待てアンジュ!! ぐはぁ!』
その瞬間だった。どこからか、二機の≪ラグナメイル≫、≪ビクトリア≫と≪レイジア≫を貫いた剣が、≪ヒステリカ≫にぶつかったのである。“瞬間接着銃”によって囲まれていた≪ヒステリカ≫はその攻撃を避けることはおろか、さらに他の二機が突き刺さったことによって完全にその動きを封じられた。
そして、それをなしたのは。
「グゥレイト! 三枚抜き!!」
ヴィヴィアンであった。いや、彼女だけじゃない。他の≪パラメイル≫もまた、≪ヒステリカ≫の前に集まってきた。そう、他の≪ラグナメイル≫は全て破壊した。残るはもう、そこにいるエンブリヲの精神が入った≪ヒステリカ≫を含めた三機のみだ。
「あの坊やの甘さ……それが強さ。私たちには分からなかったことだがな! エンブリヲ!!」
と、ジルは自嘲するように言った。そうだ。自分は知らなかった。彼の優しさ、それがどれほど大きく、そして気高く、なおかつ、暖かいのか。きっとソレが強さだと知っていれば、自分もまたサリアに、そして他の仲間たちにももっと早く優しくできたのかもしれない。そう、感じながら叫んだのだ。
「仲間がいるから皆強くなれる! アンジュが、皆の絆を後ろで繋ぎ止めてくれてた! だから!!」
「お前みたいな神様なんて、皆がいれば怖くないぞ!!」
『ッ!?』
ナオミが、ドラえもんが総代するように叫んだ。
例え相手が神でも亡霊でも、仲間達がここにいれば、怖いものなんて何もない。
エンブリヲはとんでもない≪人間≫達を敵に回したのだ。その愚かしさに、彼が気がつくことは、永久にないだろう。
「ば、馬鹿な。こんなことが……」
「ハァァァ!!」
「グアァァァ!!」
そして、アルゼナルの上でタスクと一騎打ちをしていたエンブリヲもまた、致命傷とも言える一撃を受けていた。もう、立っているのもようようの身体で、あと一撃、その身体を切り裂いたらすべてが終わる。
「父と母と仲間の無念! 今こそ受けろぉ!」
「何故、私の愛が……」
分からぬのだアンジュ。そう、恨み言を呟いたエンブリヲ。分かるはずもない。愛と言う物を何も理解していない人間が、愛と言う偉大な物を、理解できるはずもない。
♪同じ朝は二度と訪れない♪
「なにが愛よ!」
「そんなの愛じゃない!」
「なに!?」
叫んだのは、アンジュ、そしてのび太だった。
♪不揃いの想いが起こす奇跡 譲れない願いがあるなら♪
「愛は優しさから生まれるんだ! ソレを喪うから! 人は暴力的になるんだ! だから優しさを喪っちゃダメなんだ!」
泣き叫ぶかのような声で言ったのび太に対して、エンブリヲは嘲笑うかのように言った。
「野比のび太! 貴様のようなダメ人間などに……」
貴様のような、何をしてもダメで、ドジで、まぬけで、学校の成績も悪いような人間に説教される筋合いなどない。とでも言おうとしていたのだろうか。
しかし、その言葉を封じるようにアンジュが叫ぶ。いや、叫ばざるを得なかった。彼女は知っていたから。のび太の本当の強さを。
♪すべてさらけ出して どこまでも行こうよ そして…儚くも美しい 絶望の世界で♪
「例え他がどれだけ劣っていても、それを補って余るほどの優しさを、強さをのび太は持ってるの! アンタには理解できないでしょうけどね! 比べるのも失礼だわ!」
『ば、馬鹿な!? この私が、のび太より劣っているだと!?』
ある意味、この言葉は天才と評されてきたエンブリヲにとっては屈辱以上の何物でもないだろう。しかし、事実なのだ。
♪砕け散った希望は 新たな決意へ♪
「はぁぁぁぁ!!」
『ぐあぁぁぁ!!』
瞬間、収斂時空砲を放ったサラマンディーネ。そこにはこれまでエンブリヲの身勝手によって汚され、傷つけられた仲間達。そして、アンジュ達の恨みも乗せた大きな武器として≪ヒステリカ≫を含めた三機の≪ラグナメイル≫を無慈悲にも巻き込み、それが止む頃には≪ヒステリカ≫の上半身を残すのみとなった。
♪紅に染まる記憶に 涙など忘れて 高らかに捧げよう 永遠への歌を I wanna fly!(high!) Fly!(HIGH!) 生温い時間なんて切り捨て♪
「のび太は赦してくれた。思い出を傷つけた僕たちの事を! “ひみつ道具”を悪用するお前には、絶対に分かりっこない!」
「のび太の優しさがあったから! 俺たちは父さんと分かり合えたんだ!」
「エンブリヲ! 貴様は世界から切り離された亡霊のような存在だ! もう、お前が干渉する世界など、どこにも存在しない!!」
クルトが、フロックが、そしてかつては共同研究者としてドラグニウムを研究していたジョンが、叫んだ。
のび太によって救われた者たちの叫び。そして、彼のおかげで変わることができた、一番新しい人間が、とどめの言葉を刺す。
♪You feel the beat!(down!) Beat!(Down!)響かせ 饒舌に空を舞うのも悪くない♪
「消えなさい、未来のある子供たちの前から! この全身コンプライアンス違反閲覧禁止男!!!」
「アンジュ! トドメはあなたに!! 全ての人間の思いを託します!!」
「えぇ!」
そして、彼女は肩部の、兄を消し去ったあの最終殲滅兵器≪ディスコード・フェイザー≫を解放した。これが最後。この一撃で、全てを消し去るために。もう二度と、悲劇を起こさせないために。
サラマンディーネの言葉を受け取ったアンジュは、これまでに殺してきたドラゴン。自分のせいで死んだ父や母、兄。そしてココ、ミランダ、ゾーラたちの顔を、そしてここで共に戦った仲間達の顔を思い浮かべながら、腹の底からの声で叫んだ。
「塵に還れぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「ハァァァァァァ!!!」
それと同時にタスクもまた走り出す。目の前のエンブリヲを一刀両断に付すために。
「アンジュさん! タスクさん!」
その二人に声をかけたドラえもんが、そしてのび太が、静香が、ジャイアンが、スネ夫が、クルトが、フロックが、セーラが、ジョンが、マリアが、ビビが、サリアが、ヒルダが、ヴィヴィアンが、エルシャが、ロザリーが、クリスが、ジルが、ナオミが、ターニャが、イルマが、メアリーが、マリカが、ノンナが、サラマンディーネが、ナーガが、カナメが、リィザーディアが、ラミアが、ドクターゲッコーが、モモカが、ミスティが、ジャスミンが、マギーが、メイが、エマが、そして、一人の女の子が叫んだ。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
『「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」』