【完結】映画 ドラえもんクロスアンジュ のび太と天使と竜の輪舞   作:牢吏川波実

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 途中で流れるオルゴールの曲は、クロスアンジュサントラに入っている『交響曲第9番「新世界より」第2楽章~家路~Orgel arrange ver.』を聞きながら、見送ってあげてください。
 子供達のために人生を捧げた、一人の女性のためのレクイエムを……。


chapter59 最後の≪ノーマ≫の死

「アンジュリーゼ様ぁ!!」

「モモカ……きゃぁ!」

 

 彼女があることに気がついた瞬間。宝島にいた面々もまた、次々と真の≪アルゼナル≫へと乗り込んできた。その中でも一番乗りだったのはアンジュの筆頭侍女であるモモカ・荻野目だった。その次に来たのはローゼンブルム家の責務として全てを見守っていたミスティ、そして―――。

 

「うわぁ!」

「アルゼナルより広~い!!!」

 

 彼女が、この世界を見せたいと強く願っていた、幼年部の子供たちだった。

 子供たちは、≪アルゼナル≫よりも広く、そして自然豊かにあふれている島を見ると元気に駆け出して行った。その姿は、まるっきり子供そのもの。いや、子供なのだからこの言葉もおかしいかもしれないが、とにかく捨て駒として戦場に出るはずだった子供たちもまた、解放された瞬間。

 アンジュは、それをとても尊い目で見守る。彼女が、見られなかった分までと。

 

「よかったわね、エルシャさん。エルシャ、さん?」

 

 その姿を見て、静香は木を背にして座るエルシャに声をかけた。

 だが、彼女から返事はなかった。いや、それどころか、もしかして。

 

「……」

 

 アンジュは、何も言えなかった。彼女たちに、残酷な事実を伝えるのが、嫌だった。

 確かめたくなかった。確証を得たくなかった。でも、次々と現れる仲間たちの前に、その行動も無意味なものになってしまう。

 

「え、エルシャさん!」

「……」

 

 マギーは、ゆっくりと彼女の手を持つとその脈を測った。そして、ゆっくりと首を横に振った。

 それが意味する事、メイルライダー達も、のび太たちもすぐに分かってしまった。

 

「そ、そんな……」

「嘘だろ!」

「エルシャ殿!」

「エルシャ!!」

 

 今回の戦闘。ドラゴンが何体も犠牲となった。しかし、彼らは犠牲になることを承知で来てくれていた。メイルライダーもしかり、だがかなりの人数が負傷する中でも、それでも、偽りの地球側の人間の死人が出ることはこの時までなかった。

 そう、たった一人だけ。静かに息を引き取っていた、エルシャを除いて。

 齢18。メイルライダーとしては長生きな、しかし、≪人間≫としてはあまりにも短い生涯を終えたのだった。

 

「エルシャお姉様! あれ? 眠ってるの?」

 

 と、幼年部の子供の一人がエルシャに近づいて声をかけた。しかし当然ながら彼女は返事を返せない。もう、子供たちも、エルシャと一緒に遊ぶことができないのだ。だって彼女は既に、ここにはいないのだから。

 ナオミは、その子供を背後から抱きしめると言う。

 

「……ううん、長い夢から覚めたんだよ、ようやく。だから、休ませてあげましょう」

「うん! おやすみ! エルシャお姉様!」

 

 と言って、少女はその場から離れて行く。

 そうだ。彼女はようやく覚めたのだ。悪夢から。子供たちを喪うと言う恐怖から。子供たちを殺してしまうと言う恐怖から。ようやく解放されたのだ。だからきっと、彼女は安心してしまった。

 いや、安心して逝くことができたのだ。

 ふと、ナオミはエルシャのそばにオルゴールが置いてあるのに気がついた。もう、ゼンマイが切れているようで、それを鳴らしてみると。とても心地のいい音色が聞こえる。

 彼女のことだ、きっと子供達のために買ったプレゼントなのだろう。皮肉にも、それが彼女にとっての葬送曲になるなんて。

 

「エルシャ……」

「エルシャさん……」

「全く、幸せ者だね。笑って逝けるなんて……ね」

 

 マギーがタバコに火をつけてからそう言った。そうだ笑っているのだ。エルシャは、その顔に死んでいるなんて信じられないような笑顔を浮かべて亡くなっていた。

 

「本当幸せ者だ。五体満足な上、こんなにたくさんの仲間に……人間に看取ってもらえるんだから。ここまで頑張った褒美だ。墓石はタダにさせてもらうよ……名前も、あげなきゃならないね……」

「あぁ、そうだな……元≪ノーマ≫として最後の、そして、人間としての初めての名誉ある死だ」

 

 と、ジャスミン。そして合流したジルがそう言った。そう、彼女の死は名誉ある戦死なのだ。自分のやりたいようにやって、自分の救いたい者を救って、そしてたくさんのドラゴンを殺してきた元≪ノーマ≫として、この世界にやって来た≪人間≫として初めてとなる安らかな死。

 まるで、偽りの地球から来た者達の罪を、自分一人が全部背負って逝ったかのような、安らかな笑み。

 でも。

 

「馬鹿……」

「アンジュ……」

 

 アンジュは、涙を止めることができなかった。知っていたから。彼女の願い。彼女の想い。彼女の信念。そして、彼女の夢を。

 

「せっかく子供達が幸せになったのに……アンタが死んで、どうすんのよ……アンタが、子供たち悲しませて、どうすんのよッ……」

「アンジュ……」

「夢が叶ったのよ……目を、覚しなさいよ。せめて、元気に遊んでる子供達を見てからッ……」

「……」

 

 きっと、ごまかしていてもいつかは子供たちも知ることになる。ナオミの時はまだ、任務に出ていると、ごまかすことができた。

 でも、今は違う。皮肉な事に、彼女達が戦うことがなくなったが故に、エルシャの死をいつかは知る。それを伝えられたとき、子供たちがどれほど悲しむことになるか。アンジュには容易に想像することができた。

 だからこそ、辛い。彼女の願いがかなったと同時に、彼女が悲しむことになるなんて。タスクは、そんなアンジュの事を後ろから抱きしめてあげることしかできなかった。そんなことしても、無駄だと、分かっているのに。それでも、何かせずにはいられなかった。

 そして、彼女は徐にエルシャに向けて敬礼をする。それは、死者に対しての敬意を払った、一番の贈り物。

 ソレを合図としてか、メイルライダーどころか、サラマンディーネたちこちらの世界の人間、そしてドラえもん達もまた、その目に涙を浮かべながら敬礼をする。彼女と一緒に過ごしてきた日々をその頭に浮かべながら。

 天使なような微笑みを浮かべるエルシャに向け、アンジュは涙ながらに、言った。

 

「おやすみなさい。いい夢を……エルシャ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぅ」

「え?」

 

 今、何かが聞こえた。エルシャの亡骸から声が聞こえて来た。幻聴、いや違う。本当に聞こえて来たのだ。間違いない。それは他の皆もそうだったから。

 

「っ、あッ!」

「エルシャ!?」

 

 瞬間、エルシャは苦しむような、しかしどこか喜悦を込めた声色を上げた。そして―――。

 

「あ、あれ? 私……」

「エルシャが、生き返った……」

 

 目を開け、立ち上がったエルシャ。そう、生き返ったのだ。マギーがその死を確認したにもかかわらず。彼女はその目をしっかりと開け、大地に足を踏しめていた。

 刹那、彼女のライダースーツの一部が破けちった。正確に言えば、背中と、臀部の方の布地が破れたのである。

 確かに、彼女は目が覚めた瞬間に背中とお尻の部分に違和感を感じ取っていた。痛みともいえるかもしれない。なにかが身体の中を侵食する感じがして、その感覚で目が覚めたのだ。

 でも、一体何が起こったのか。背中を見たその瞬間。エルシャは言葉を失った。

 

「その背中と臀部から生えてるのは……」

 

 サラマンディーネが、そう指摘するまで。誰もが固まったままだった。そう、エルシャについていたのは羽と尻尾、つまりこっちの世界の人間のようなドラゴンの証がそこにはついていたのだ。

 当然、エルシャはドラゴンではない。それは分かりきっていること、ではその二つは一体なんだと言うのか。その疑問に答えたのは、少しだけ遅れて現れたこちらの世界の医師であるドクターゲッコーだった。

 

♪生まれかわっても 何度でも私になりたい♪

「なるほど、あの薬を向こうの人間に使うとそうなるのですか……これはいいデータが取れました」

「あの薬って、もしかしてさっき注射された鎮痛剤の事?」

 

 あの、マギーに注射された鎮痛剤。確かにどんな副作用が出るかは分からないと言われた。でも、まさかこんなものが生えてくるなんて想像もしていなかった。いや、こんなものと言ってしまうとこちらの世界の人間に失礼になってしまうのだが、しかし今までなかったものがその場に現れると言うのはどこか不思議なところがある。

 そんなエルシャに対してこちらも興味深そうなマギーが言う。

 

♪そうすればきっと あなた...また愛せるから♪

「こっちの世界の人間にとっては普通の鎮痛剤だけど、エンブリヲによって遺伝子操作された肉体じゃそうもいかない……というより、遺伝子の中の欠けた部分に入り込んで、そうなったんだろうね」

「そ、ソレじゃ私……本当に!?」

 

 つまり、先ほどまで死んだと思っていたエルシャは、その遺伝子構造を書き替えるために仮死状態になっていただけで、それが終わったから目覚めた、ということになるらしい。

 傷の方は確かに深かったが、ドラゴンはその遺伝子操作の結果による治癒能力が著しく上昇している。故に、しばらく休んでいればその傷も癒えるだろう。きっと、戦闘によって失われた臓器も、時間が経てば完全に治癒する。そう、マギーが二度と子供を産めなくなると断言した臓器の傷も、きっと癒えるだろうとドクターゲッコーは話す。

 まぁ、要するにだ。

 

♪傷つくたび 信じること 今まで遠ざけた♪

「やったー! それじゃエルシャも私の仲間だぁ!! そうだよね! お母さんさん、じゃなくて、お母さん!」

 

 と、無邪気にはしゃぐヴィヴィアン。そう、エルシャもまたこちらの世界の人間たち、ドラゴンと同類となったのだ。とはいっても、そう簡単に心が受け入れられないので。

 

♪すべて隠さずに♪

「え? そうなるの、かしら?」

 

 と、疑問符を出してしまったエルシャ。すると、ヴィヴィアンの母であるラミア、そしてドクターゲッコーが微笑んで言う。

 

♪分かちあいたい 振り向かずに生きるため…♪

「そうなるんじゃないかしら、ね?」

「そうなるんでしょう。他にもこの薬、試したい方はいますか?」

 

 なんて言って、彼女に至っては他にも鎮痛剤を試したい人間、まぁ要するにドラゴンになりたい人間はいるかなんて聞いてくる始末だし、先ほどまでの悲壮感がまるで嘘のようだ。

 

「い、いやぁそれは……」

♪“Love you close” 貴方のその腕 ずっと青い空が見える♪

「遠慮しておくわ。だってもう、ドラゴンだとか人間だとか、関係ない。私達は皆、この世界で生きる仲間……でしょ?」

 

 と、涙を拭いたアンジュがサラマンディーネに聞いた。

 

「えぇ、そうですね」

 

 そして、サラマンディーネはゆっくりとエルシャに近づくと、その手を差し出し、掴むと言った。

 

♪明日へ続くよ 日差し抱きしめよう♪

「エルシャ。私たち……あなた方がドラゴンと呼んだ存在は、貴方のことを同胞として迎え入れます」

「同胞……」

 

 自分が、たくさんのドラゴンを、こっちの世界の人間を殺した自分なんかが、仲間になって本当に良いのか。そんな疑問が産まれると同時に、サラマンディーネは周囲にいる≪人間≫たちに向けて言った。

 

♪守りたいのはあなただけ…♪

「そして……近衛中将サラマンディーネの権限において、貴方達、偽りの世界から来た者たちを、この世界は受け入れます!!」

 

 そして、今度はアンジュに手を出して言った。アンジュが、その手を取ると同時にサラマンディーネが言う。

 

♪今は小さな光だけど やがて大きな勇気に変えてゆくから♪

「ようこそ、私達の地球へ」

「えぇ、これからよろしくね、サラマンディーネ。それに、ドラゴンに生まれ変わったエルシャもね!」

「……えぇ、えぇ!」

 

 そうか、生まれ変わった、のか。自分は本当の意味で。今までの≪ノーマ≫としての自分を捨てて、ドラゴンに生まれ変わった。それが嬉しい事なのかどうかは、よくまだ分かっていない。でも、分かることと言えば。

 

♪かがやく季節のなか 私達は歩み出そう… Love…♪

「あ、エルシャお姉様目が覚めた!」

「あれ? お姉様羽根と尻尾がある」

「お姉様、まるで天使みたい!!」

 

 子供たちとまた、遊ぶことができるという事、か。

 エルシャはその言葉で気がついた。確かに自分の羽は他のドラゴンの人間とは違い、鳥の翼のように純白で、羽毛のようなものがある、天使の羽のよう。これもまた、遺伝子操作によって現れた症状なのだろうか。

 なるほど、天使、か。

 エルシャはその言葉に微笑んでから子供たちの方に向かって行った。

 

♪貴方のその腕 ずっと青い空が見える 明日へ続くよ 日差し抱きしめよう♪

「えぇ、説明してあげるわ。私の姿のことも、この世界のドラゴン、人間たちの事も。この世界、この、自然豊かで、自由で、もう誰も殺さなくていい、素敵な世界のことも!」

 

 こうして、一人の、子供たちのためにその人生をささげて来た女性は救われることになったのだった。

 子供達を守り続ける≪天使≫に、生まれ変わった事によって。

 その姿を見ていたアンジュはひっそりと呟いた。

 

♪守りたいのはあなただけ…♪

「おめでとう、エルシャ……」

 

 因みにその後ろでこっそりとマギーに対して自分の尻尾と羽はどうなったのかと聞いたヴィヴィアンに対して、ばれるから切ったよと言われて『ひでぇ!』なんて言っているヴィヴィアンとソレを見て微笑んでいるラミアの姿があったりする。

 

「そう言うことさ、すまないね。ヴィヴィアンのお母さん」

「いえいいんです、そうしなければ、きっとミィは向こうで生きることができなかった。だから……ここまでまで育ててくれて、ありがとうございます」

 

 ラミアの言う通りだ。たとえどのような思惑があったにせよ、彼女がここまで生きてこられたのは彼女達のおかげ。それをまず感謝しない母親なんていないだろう。

 マギーは笑みを浮かべながら言った。

 

「感謝されるほど、いい事をやったつもりなはいよ」

「それでも、です」

 

 例え羽も尻尾も失われても、娘を返してくれた。それだけで、彼女は満足だ。

 一方で。

 

「アンジュリーゼ様……向こうの世界、シルヴィア様たちは、どうなるんでしょうか……」

 

 モモカが聞いた。向こうの世界の事。シルヴィアの事。もう、戻ることができない偽りの世界の事。

 

「……さぁ」

 

 アンジュはそっけなく言った。でも信じていた。きっと、自分の妹ならば逞しくやっていけるかもしれないと。たとえ、文明が崩壊して、猿のような生活を送ることになったとしても、頑張って、やり直すことができる。それが、人間の本当の力だと信じていた。

 大丈夫。だって彼女は自分の妹なのだから。自分で立って歩く事を学んだ、幼いヒヨコだけど、きっと絶望の中から自分のように頼もしい仲間と出会えるはずだ。だから。

 

「あっ、その事なんだけど……」

 

 と言って、静香が苦笑いをしながらある人物に手招きをした。すると、エマに連れられて一人の女の子が現れる。

 

「え? ……え?」

「……」

 

 そこにいたのは、向こうの世界に置いてきたはずの≪シルヴィア≫だったのだ。




 まずは『Love you close』。読者の方からクロスアンジュに合うと選曲してもらった(?)曲一つ目です。
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