【完結】映画 ドラえもんクロスアンジュ のび太と天使と竜の輪舞 作:牢吏川波実
アンジュは吃驚した。それもそうだろう。だって、向こうの世界に置いてきたはずの妹が、今目の前に現れたのだから。
「な、なんで、シルヴィアが、ここに!?」
「その、この人、静香が付いて来いって……それで、ずっとあの戦車の中に……」
どうやら、自分とシルヴィアが話した後、静香がこっそりとアストロタンクの中にかくまっていたそうだ。そして、その後≪アウローラ≫に帰った時にこっそりとエマに彼女の事を託していたのだとか。
という事は、自分とサラマンディーネの二人がアウラを助けるために彼女に時間稼ぎを願い出た時にもあの中にいたという事になる。
あの時の静香の動き、かなり激しい物だった。聞くに、アストロタンクを扱えるくらいの大きさになった静香とは違って、シルヴィアは小さいままであの戦車に乗せられていたという事なので、それがどれだけ怖い事なのか、想像するのは難しくないだろう。
しかし、どうして静香はそんなことをしたのか。そう、アンジュが聞くと、のび太の方を向いて言う。
「きっと、のび太さんだったら……姉妹が離れ離れになるなんて、寂しいから。そう言うと思ったの」
「静香ちゃん……」
そうだ。きっとのび太だったらそう言う。そう言ってくれる。そう信じて、彼女はシルヴィアを連れて来たのだ。例え直前まで反目していたとしても、姉妹が離れ離れとなることほど悲しいことはない。そう感じたから。
「それに、向こうの世界の事なら大丈夫! 僕の道具をいくつかおいてきたんだ!」
と、明るく話すドラえもんに対して多くの人間が愕然とした。
「ハァ!?」
「それって、大丈夫なの?」
そもそも向こうの世界はいわゆるエンブリヲが“ひみつ道具”を悪用した結果生まれた世界なわけで、そんな世界に二十二世紀の便利な“ひみつ道具”を置いて来て、大丈夫なのか。そんな心配をするのももっともだろう。しかし、ドラえもんは言う。
「ご心配なく! 道具と言っても危険じゃない物。自分で農業や建築ができるような機械をたくさん、子供たちに託してきたんだ!」
そう、ドラえもんが“ひみつ道具”例えば楽に岩や土を掘り進めることができる“らくらくシャベル”などの“らくらくシリーズ”と呼ばれる物。“花ぞのボンベ”という小さな種がガスのように飛び散ってお花畑を作ることができる道具。それに、“畑のレストラン”や“植物改造エキス”等簡単にご飯を作ることができる道具。その他もろもろを子供たちに託してきたのだ。
そう、大人ではない。ミスルギ皇国、そしてその近くにいた子供たち皆に、ドラえもんとのび太は配っていた。そう、彼らにしかできないこと。彼らだからこそできる事とは、その事だったのだ。
「向こうの世界は、これから、向こうの世界で育つ子供たちが作っていくんだ! 自分たちの、夢見た世界に!」
≪マナ≫に慣れ切った大人たちじゃない。これから未来を生きていくことになる子供たち。次の世代の人間たちが、自分たちの渡した道具で未来を切り開いていく。そう信じてやまないのび太はやっぱりお人よし、でもそんな世界も悪くないかもしれないと、アンジュは思っていた。
いつか、本当にそんな世界になった向こうの世界を見て見たいかもしれない。そう、感じるようになった。
「あぁ、それから……そのぉ……ついでに……」
「?」
と言って、ヒルダの顔を見たドラえもん。何か言いづらそうなことがあるようだがどうしたのだろう。
そう思っていた時だった。
『ねぇ、まだ出てきちゃダメ?』
と、ドラえもんの“四次元ポケット”がしゃべり出したのは。いや、違う。“四次元ポケット”の中から声がしたのだ。
「あぁ、ちょっと待って!」
「よっと! わぁ、綺麗な青空!」
そして、出てきた少女は、赤髪で、まだ幼年部の子供たちと同じくらいの幼い少女だった。そしてーーー。
「アンタ……ッ!?」
ヒルダが、反応する間もなく現れた女性。
「……」
「マ……マ……」
ヒルダの母、そして先に出てきたのはもう一人のヒルダ。自分の事も忘れて、人間として暮らしていた、二人。
「ドラえもんさんたちから聞いたわ……貴方が、何をしてきたのか。私から離れて、今までどうやって生きて来たのか……」
どうやら、ドラえもん達が子供たちに“ひみつ道具”を渡しまわっていた時、二人に出会ったらしい。そこで、ドラえもんは“ツーカー錠”という、一つの錠剤を二つに分けて飲み合うことによっていわゆるツーカーの仲という事になって情報共有が簡単にできる“ひみつ道具”を使って、ヒルダの事について説明した。
そして、あの戦いが終わったらもう二度と会う機会はないだろうという事も。それを聞いた瞬間に、彼女はドラえもんにお願いしたのだ。ヒルダに会わせてもらいたいと。そして、もう一人のヒルダと一緒に彼女たちはずっとドラえもんの“四次元ポケット”の中で待っていた。その時が来るのを。
それが別次元になるなんて、思ってもみなかったが。
「許してなんて言わないわ! でも、せめて……お詫びをさせて……ごめんなさい!」
「ママ……」
「貴方を危険な場所に送り込んで、ちゃんと産んであげられなくて……ごめんな……さい……」
ヒルダの母は、彼女の前で土下座をした。そんな事、してもらいたくて会いたかったわけじゃない。自分はただ、母が自分の事を待っているんだと、そう信じて会いにいっただけなのに、何も知らなかったのに、自分が物心つくまで育ててくれたのに、隠してくれていたのに。どうして。
「ねぇ、なんでママの事をママって呼ぶの? 私のママは私だけのママだよ!」
「……あぁ、そうだな。アタシに母親なんていない。それに、妹も……」
「……」
ヒルダは、もう一人のヒルダに対してそう呟いた。その瞬間、顔を下に向けているヒルダの母は、悲しげな顔をした。許してもらえるわけない。そう思っていたから。だって、もし、普通に彼女が会いに来ていたなら、きっと自分は彼女の事を拒絶していた。
≪マナ≫を使えるヒルダを守るために、≪ノーマ≫であるヒルダを追い出していたはずだから。だから、母親なんて呼ばれる資格はない。そう、分かっていたから。
「それに、マナの光も使えない化け物だ。それは、今のお前もな」
「えッ……ッ! 本当だ……なんで……」
もう一人のヒルダは、その言葉を聞くと、一瞬恐怖に顔を歪ませて≪マナ≫を使おうと手をかざした。当然、そんなものもう出るわけがないのだ。そう、もうヒルダの母も、もう一人のヒルダも、普通の人間となってしまったのだ。自分と変わらない。普通の人間に。
「それが、本当の人間なんだよ。アタシがみっちりノーマのやり方ってのを教えてやるよ……もう一人の、ヒルダ……私の、ノーマの妹」
「え……」
「そして、私の……ノーマのママ」
そう、もう≪マナ≫使いのヒルダの母も、ヒルダの妹もいない。いるのはただの人間のヒルダの母、そして、ヒルダ(妹)だけ。だったら、それでいいじゃないか。もしも、それで自分が母親を許せるのだったら、母親に、許してもらえるのなら、それでいい。ヒルダはそう決断したのだった。
♪どうして君が泣くの まだ僕も泣いていないのに 自分より 悲しむから つらいのがどっちか♪
「顔を上げて、ママ。私をノーマに産んでくれて……ありがとう。おかげで、こんなにたくさんの友達ができたよ」
「……ごめんなさい、ごめんなさい! ごめんなさい……!」
一度目の謝罪は、今までヒルダの事を忘れようとしていたこと。
二度目の謝罪は、≪ノーマ≫として産んでしまったこと。
そして、三度目の謝罪は、その≪ノーマ≫として産んでしまったことを不幸なことだと感じてしまったこと。
そして、その言葉が過ぎ去った後、ヒルダの体を抱きしめたヒルダの母は言う。
♪わからなくなるよ ガラクタだったはずの今日が ふたりなら 宝物になる そばにいたいよ 君のために出来ることが 僕にあるかな いつも君に ずっと君に 笑っていてほしくて♪
「ありがとう、ヒルダ……ヒルデガルト・シュリーフォークト」
「ッ! うん……」
「ま、ママ……」
「ヒルダ。あなたのお姉さんよ。まだ、受け入れることができないかもしれないけど、でも、あなたと血のつながった、本当の姉妹なのよ」
「ママ……」
「そういう事だよ。ヒルダ……私のことは、なんて言っても構わない。でも、この、元≪ノーマ≫が沢山いるこの世界で、時間はかかるかもしれないけど、少しずつ……姉妹になっていこう……」
「……ッ」
ヒルダ(妹)は、ややおそろしげに彼女の手を取った。それは、まるでアンジュが≪アルゼナル≫に初めて来た時の嫌悪感が混じったような声もまじって。でも、いつかはソレに慣れていく。アンジュがそうだったように、きっと。
こうして、ヒルダは取り戻した。取り戻すことができた。二度とその手を触れることができないと思っていた母親を、そして自分の本当の名前を。そして、妹のヒルダを持つことができた。もしかしたら、ヒルダはアンジュやエルシャの次くらいに幸せなのかもしれない。
ちょっぴりもう一人のヒルダはまだ完全に受け入れている感じはしないが、でもいつかは、きっとーーー。
ヒルダは、のび太に言った。
♪ひまわりのような まっすぐなその優しさを 温もりを♪
「ありがとう……ママと妹を助けてくれて……連れてきてくれて」
「あたりまえだよ、だって……」
のび太が答えようとした。その瞬間だった。
♪全部 これからは僕も♪
「「「「親子が離れ離れになるなんて悲しいから!」」」」
「え?」
そう、ドラえもん他数多の冒険を共にした友達に先に言われてしまったのである。
♪届けていきたい♪
「でしょ、のび太君」
「……うん!」
そう、のび太もまた、静香と同じだった。ただ、それだけだ。
♪ここにある幸せに 気づいたから♪
「……」
その姿を見て、アンジュは何を思ったのだろう。自分もまた、本当の名前を名乗るべきなのか。それとも、今は亡き母親の事を思っていたのか。それとも、後ろにいる少女の事を思っていたのか。
その、少女が言う。
♪遠くで ともる未来♪
「あ、あの、アンジュリーゼお姉さま……」
「誰、それ?」
「え……」
その言葉は、≪アルゼナル≫に初めてモモカが来た時のソレと全く同じものだった。
♪もしも 僕らが離れても♪
「私はただのアンジュよ。妹なんていない」
「……」
当たり前だ。シルヴィアはそう思っていた。なぜなら、自分は姉に、とんでもないことをしてしまったのだから。罵倒して、全ての不幸を彼女のせいにして、銃まで撃ってしまって、そんな人間をまた妹と呼んでくれるはず、なかったのだ。
そして、なによりアンジュには彼女よりも先に声をかけなければならない女性がいた。
♪それぞれ♪
「ミスティ……」
そう、ミスティである。彼女は、向こうの世界に父や母を残してこちらに来た。自分や、ヒルダと違って。だから、何か声をかけなければならないという使命感に駆られたのだろう。
しかしだ、ミスティは毅然とした態度で言う。
♪歩いていく その先で また 出会えると信じて♪
「アンジュ。私のお父様やお母様の事は、あの子達には言わないでください」
「え……」
「きっと、悲しむから……」
まだほとんど話をしていないミスティにも分かったのだろう。のび太達の優しさが、彼らがどれだけお人好しであるのか。だからこそ、もし自分の父や母がまだ向こうの世界にいた事を知れば、きっと彼らが傷つく、だから、自分のことに関しては言わないでくれ、そう願ったのだ。
そういうと、ミスティはアンジュに顔を向けて言った。
♪ちぐはぐだったはずの歩幅 ひとつのように 今 重なる♪
「アンジュ、妹を……大切にして下さいね」
「ッ……はぁ、分かってるわよ……」
そう、アンジュも分かっていた。自分が一体何を彼女に言えばいいのか、でも向こうの世界で今生の別れをした手前、少し、言いづらいことだった。ただ、それだけだ。
アンジュはシルヴィアに向かい合うと言う。
♪そばにいたいよ 君のために出来ることが僕にあるかな いつも君に ずっと君に 笑っていてほしくて ひまわりのような まっすぐなその優しさを♪
「いい? もう一度言うけどアンジュリーゼなんて人間もういないの、私はただのアンジュ、私には妹はいない」
「……」
「でも、もしアンジュの妹になりたいっていうのなら……ならせてあげてもいいわよ」
「え……」
「その代わり! 教育はスパルタでやらせてもらうから! アンタの甘っちょろい人生観変えるくらいにね! 分かった!?」
まぁ簡単に言えば、今までよりも厳しい指導をしていく。≪マナ≫を使って楽に暮らしていたその人生観を百八十度変えるような生き方を強いると言うことだ。
いや、そんな事シルヴィアにとってはどうでもよかった。姉が、自分の事を妹だと、もう一度妹であっていいと、言ってくれた。それが、彼女にとって嬉しかった。
♪温もりを全部 これからは僕も♪
「は……はい! アンジュリ、いえ……アンジュお姉様!」
こうして、一つの家族と、二人残ってしまった姉妹の絆が産まれたのだった。
♪届けていきたい 本当の幸せの意味をみつけたから♪
「ふふ、なら私もいいですか? アンジュお姉様」
「もう、ミスティ! 調子に乗らないで!! 全く、困った妹、達ね……」
そう、ふざけ合ってるかつてのライバル、そして一度は全く違う身分に落とされ、そして今もう一度同じ歩幅で歩く友とともに行く。
空は、そんな彼女たちを祝福するかのように輝きを放っていて、その心の中のように晴れ晴れとしていた。
JASRACになかったから焦ったけど、NexToneの方にあってよかったぁ……次回、ある人からリクエストのあった曲二つ目を使用します! そして終わりもまた、近づいていて……。