【完結】映画 ドラえもんクロスアンジュ のび太と天使と竜の輪舞 作:牢吏川波実
≪アルゼナル≫の司令官専用の部屋。今、そこには三人の、あの≪パラメイル≫を操っていた女性たちよりも大人の雰囲気を醸し出す女性が集まっていた。
そのうちの一人は、もはや老齢に差し掛かっているのではないかと思うほどにしわがある女性である。その女性が、司令官である女性に言った。
「あの機体、ありゃ≪バネッサ≫の≪パラメイル≫じゃないか?」
と。そう、その機体には見覚えがあったのだ。三人共に。
今まさに発着デッキに降りようとしている機体は、彼女たちの古い知り合いが乗り回していた≪パラメイル≫、それにそっくりなのだ。よく見れば、左右反対という違いはある物の、元々の外見がシンメトリーに近いものがあったためそれに気が付くことはできない。
「あぁ、だが五機もある。それに、ライダーの一人は青狸か……フン」
と、司令である女性は吸っていたタバコを灰皿に押し付けながら言った。そう、先ほども老齢の女性が言った通り、その所有者の目星はついているし、その形の≪パラメイル≫がこの世に一機しかないのも知っている。
実のところ、≪パラメイル≫と言うのは簡単にカスタマイズが可能な兵器であるため、似た姿の機体を作ることは、お金をかければ簡単なこと。とはいえ、そのためのお金は膨大になるわけだがしかし、たまたま同じカスタマイズをした機体が、それも五機も同時に出て来たという事、それに彼女は違和感と同時に興味を覚えていた。
さらに、その搭乗者の一人が人間とも似ても似つかない青狸と言うのもおかしなものがある。これは、何か使えるかもしれない。そうニヤケ顔をした彼女に対して赤髪の女性が聞く。
「で、どうするんだい? アレクトラ」
「あの五人をここに呼ぶ……場合によっちゃ、≪リベルタス≫のいい戦力になるかもしれないな……」
≪リベルタス≫。その言葉を聞いた他の二人の表情筋が、少しだけ動いた。どうやら彼女たちにとってこの言葉はとても重要な意味を持ち合わせているようだ。
「本気かい?」
「あぁ、私たちの≪リベルタス≫を成功させるためなら、どんなものでも使ってやるさ……例えそれが」
そう言いながら女性は、たばこケースの中から一本を取り出し、口にくわえると、その先端に火をつけた。そして、一服してから一言。
「珍妙な青狸でもね」
等と、タヌキタヌキと当の本人が聞いたら何度も何度も失礼なと憤慨しそうなセリフと共に、たばこの煙は天井へと昇り、散っていった。まるで、それまでに彼女たちに与えられた試練と、その犠牲を映し出すように、煙は天井へと当たり、消えていったのであった。
「≪パラメイル≫の整理急いで! ほら、そこ開けて! 新しい≪パラメイル≫が降りる場所作って!」
と、この≪アルゼナル≫と呼ばれた場所の整備班の責任者であるメイが周囲の同じ整備班の≪ノーマ≫達に対して指示を大急ぎで送っていた。当然だろう。出撃前には存在すらしなかった、それも自分の頭の片隅に記憶されていた物と同じ機体が、五機も現れたのだから。発着デッキにある他の≪パラメイル≫を整理して、その五機の≪パラメイル≫を引き受ける措置を取らなければならなかったのだ。
「ど、ドラえもん……ここ、どこなの?」
「さっき≪アルゼナル≫って言ってたけど」
と、その間に≪パラメイル≫と呼称された機体から降りていた五人は、周囲の物々しい様子を見ながら困惑していた。当たり前だ。なぜなら彼彼女たちは本来なら無人島にキャンプをしに来ただけのただの観光客。それなのに、気が付いたら竜のような怪物に襲われて、銃で脅され、こんな場所まで連れて来られたのだから。
というより、そもそも無人島にあったその機体を勝手に乗り回したこと自体が悪いような気がするのだが、それはソレこれはコレである。なんて済まされるわけじゃない。そう、彼らのこの状況は、そもそもあの機体をコピーしたことが原因であるのだから。
ふと、のび太が歩き出そうとした。その時だった。
「止まれ」
と言って、確か、サリアと言っただろうか。彼女と他何名かの明らかに銃であろう武器を持った者たちがのび太たちの事を囲んだのである。彼女たちは、このアルゼナルの警備班に所属する≪ノーマ≫であり、不審者、不法侵入者への対処は彼女たちの仕事なのだ。
「きゃあ!」
「ま、ママぁ!」
と、そんな状況に恐れを抱く静香とスネ夫。その様子を見たサリアが、ふと手を挙げると、警備班の人間たちは一様に銃を下ろして去っていった。それまでの自分達の反応からして銃なんて必要ないと感じたのだろう。
「ジル司令が貴方達に会いたいそうよ。ついてきて」
「ジル司令?」
司令、という事はこの≪アルゼナル≫と言う施設のトップ、つまり一番偉い人の事なのだろうか。とにかく、今自分たちが置かれている状況がよくわかっていない以上は、この場所に一番詳しい人間の話を聞くことが一番。五人は、サリアの促しによって≪アルゼナル≫内にある通路へと向かった。
「……」
「どうしました? アンジュリーゼ様?」
「別に」
その時、のび太たちの事を最初に助けた女性。アンジュが、ふとのび太たちの事を見た。何故なのだろうか。やはり、あの無人島の近くにいたからなのか、それともあの一番目立つ青いタヌキの事が気になるからなのだろうか。否、そもそも彼の事を不思議がらない人間なんてこの世にはいないだろう。
そう、人間なんて、いないのだ。この場所には、≪二人≫しか。
「変ねぇ」
「え、何が変なの? 静香ちゃん?」
と、静香がこぼした言葉に反応したのび太。一体何がどう変なのかと聞くと、静香はすれ違う人たちを目線で追いながら言う。
「だって、さっきから見ていると、会う人はみんな女の人ばかりよ」
「そう言えば……」
確かにそうだ。ここに来てからと言う物、男性と言う男性を見たことはない。いるのは、自分たちの事を奇異の目で見ている女性ばかりだ。一体どういうことなのだろうか。
「当たり前でしょ、≪ノーマ≫は、女でしかあり得ない存在なんだから」
と、当たり前の様に言い放ったサリア。また、≪ノーマ≫だ。一体さっきから何なのだろう。≪ノーマ≫とは。
「あの、その≪ノーマ≫って何? それに、さっきの竜は?」
というのび太の言葉に驚いた表情を見せたサリアは言う。
「≪ノーマ≫を知らないの? そんな事……」
と。この呟きに、ドラえもんは違和感を感じ取った。どうして、竜を知らないことには不思議がらないで、≪ノーマを知らない≫という事だけを不思議がったのか。
そもそも論として、自分たちはこの世界にあんな形の竜がいたことを知らなかった。なぜならいないのだから。もちろん、リヴァイアサンのような、人工的に作られた生物としての竜のような形の生物が存在しているという事は知っている。だが、竜と簡単に呼称できるような生命体に出会ったことなんてただの一度も―――なかっただろうか。
一度だけ、恐竜が進化を続けた結果生まれた恐竜人なる一族に接したことはあったが、しかしそれもまた太古の昔に滅んだとされる恐竜を祖とした一族であって、外見は竜とは思えないようなイメージだった。
分からないことだらけで頭のコンピュータがおかしくなりそうだ。そうドラえもんが考えていた時だった。
「着いたわ」
サリアは、ある部屋の前で止まった。そして、コンコンコンと耳障りの良いノックを三回して言う。
「なんだ」
「サリアです。例の五人を連れてきました」
「……そうか、入れ」
その言葉と同時に開かれた自動ドア。両方向に同時に開いた扉の中は、先ほど目の前にいる人物と、他二名がしゃべっていた部屋と同一の物だった。
女性は、手に持ったたばこを灰皿の中にクシャクシャに潰すと立ち上がり言う。
「ようこそ、≪マナ≫を使えないバケモノの住処に」
因みに私の小説ではよくあることですが、アンジュのーというか全員ですがー性格ですけど、自分がアニメを見て個人的に感じた彼女達の性格を再現しているつもりですが、もしかしたら違和感も出るかもしれません。
書いた後に思ったのですが≪アルゼナル≫の中、ヤツが確実にいるはず。でも、ヤツを出したらドラえもんが発狂して“熱戦銃”やら“地球破壊爆弾”やら“銀河破壊爆弾”やら使って収拾つかなくなる可能性があるので、ヤツ=ネズミが彼の前に出てこないようにお祈り下さいませ。