※少し書き直しました
――――人気のないとある廃墟。
「……う、ん?」
少年――織斑一夏は目覚めた。同時に、自分の今の状況を飲み込むのに時間がかかった。
縛られた手足、隠された目、どこだか分からない場所。
だがそれもすぐに分かった。
乱暴にはがされた目隠し。 薄暗い部屋には数人の男たちとテレビが置いてあった。
「よぉボウズ、よく寝れたか?」
そう聞いてくる男、一夏は疑問に思ったことを聞いた。
「あんた、誰だ。それにここはどこだ」
「俺か?俺はただの雇われた男だよ。お前を拐ってこいってな。おっと助けを期待してもムダたぜ、ここには誰も来やしねぇからな」
――拐われた。それを聞いて、何故だか想像がついた。
「――千冬姉か」
「ボウズ、意外とキレるじゃねぇか。そうだ、お前はただの道具だよ。織斑千冬をモンド・グロッソで優勝させないためのな」
「なっ!?」
ふたたびお前は笑う。
「おい、あんまり情報を漏らすんじゃねぇよ。依頼者から消されんぞ」
もう一人の男が注意する。
「あぁ、分かってるさ。バレるようなことは何もいってねぇさ」
男たちが話しているなか、一夏は考えていた。自分でも驚くほど冷静に。きっと千冬姉は助けに来てくれる――そう思っているからこそなのだろう。
『おい、そろそろ始まるぜ』
男が言った言葉に、一夏も別の男たちもその場にあるテレビに視線を向けた。
「――つづいて、織斑選手の入場です!」
歓声が割れんばかりに響き千冬姉は決勝戦に出場していた。
「ちっ、弟を誘拐すれば出ねぇんじゃなかったのかよ!」
「家族よりも名誉を選んだんだろ」
そういって男は一夏に近付き、殴った。
「ぐっ!」
「ボウズ、俺らはな、お前を捨てた奴らにこんなことも言ってるんだぜ、『もし大会出た場合は弟は殺す』ってな」
笑い声をあげて今度は蹴られる。
「だが、ただ殺すだけじゃつまんねぇからな。俺らの憂さ晴らしをしてから殺してやるよ」
ニヤニヤと下品に顔を歪ませて男たちは一夏を自分の気がすむまで暴行を繰り返した。
―――――――――――
「おい、急げ、早くしないと手遅れになるぞ」
「今やってる……ここか、こいつはひでぇ、私刑(リンチ)みてぇだ」
「突入準備完了。いつでも」
数人の武装した男たちが一夏たちのいる廃墟にいた。男たちの手にはISが主流になる前の武器――銃が握られていた。
「よし、スタンバイ――」
隊長であろう男が指示を出す。
「――俺一人で行く。もしもの時のカバーを頼む」
通信に割り込んできたのはまだ幼さの残る少年の声だった。
「っ、おい、なに勝っていって――」
「時間がない」
そう言って強引に通信を切られた。
「くっ、隊長、どうします?」
すこしの間の後、隊長は告げた。
「あいつの言った通りだ。俺らはあいつのカバーだ」
「……了解」
渋々、といった様子で通信は切れた。
全員が配置に着き、再び通信が繋がった。
「――突入する」
それとほぼ同時に爆破音が響いた。
―――――――――――
一夏は暴行を受けるなか、一つのことを考えていた。
――何故千冬姉は自分を見捨てたのか。
ただそれだけを考えていた。
一方的な暴力が止み、男が口を開ける。
「さて、お前にもう用はねぇ、死にな」
どこかスッキリとした声色で一夏にそう告げて、懐から取り出した銃を一夏の頭部に照準を合わせた。
「………………」
それでも一夏は何もしない。
「あばよ」
男が銃の引き金を引ききる寸前にそれは起こった。
男たちのいた方の壁が爆発し、狼狽える男たちだが、それは次々と言葉にならない単語を口にし数人の男たちが地に伏せていた――死んだのだ。
壊れた壁の方から、まだ煙が辺りに漂っているなかで一夏に向かって来たのは、一夏と変わらない年頃であろう少年だった。
「だいじょうぶか、少年」 少年は一夏に話しかけた。
「あ、あ…………ぅ」
なにかを言おうとしてそこで一夏の意識は暗闇の中に落ちた。
一夏は最後、意識がなくなる前に見た光景は、自分を見て、ただただ無表情で感情が欠如したかのような少年の顔だった。
意外と表現って難しい。