これからこのペースになりそうです。すいません。
もう一話だします。
それでは、どうぞ。
決戦当日の朝、一夏は早くに目が覚めた。
別段、緊張しているわけではない。がもう一人の住人より遅く起きるというだけだ。
「……珍しいな、星野のやつ」
星野凛はまだ寝ていた。
いつもは一夏より遅く寝て、一夏より早く起きている、そんな彼がまだ寝ているなんて。
「まぁ、いいか」
こういう時もあるだろうと一夏は自信のベッドから立ち上がり、時刻を確認する。
午前6時32分。
いつもより少し速い時間に起きたようだ。
大きく伸びをし身支度をしに洗面所へ向かった。
――支度を終え、ISの制服に着替え時刻を見ると6時47分。
ここで朝食を作るのもいいが今日は食堂に行こう、と思い、書き置きをしておくことにした。
「――これでよしっと」
それを見やすい場所に置き、さあ行くぞというところで異変に気付く。
「星野?」
見れば星野がうなされていた。汗を流し、顔をしかめていた。
「ぅ、うぅぅぅ…………………」
「星野? 大丈夫か?」
一夏は星野にかけ寄り、安否を確認する。
だが、次の瞬間
「うわぁぁぁぁぁぁぁあぁっ!!」
「っ!?」
カッと目を開き、どこからか取り出したナイフを一夏の首筋にあてていた。
一夏は冷や汗を流す。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
息はまだ荒く、目は焦点が合っていない。
「ほ、星野、落ち着け。俺だ、一夏だ」
今も首筋に刃が当たっている状態な一夏は、この刃が動かないことを祈り、凛に話しかける。
「はぁ……はぁ……はぁ…………」
凛は息を整えるようにゆっくりとした呼吸になっていくが、一夏はまだおっかなびっくりだった。
「…………一夏?」
どれくらいの時間が経っただろうか。やがて凛の目は焦点が合い、一夏の姿を確認した。そしてこの状況も理解した。
「……すまん」
すぐにナイフを離す。
「大丈夫か?」
一夏が心配そうに聞いてくる。
「あぁ、ちょっと悪夢を見ただけだ、悪いな、心配させて」
一夏は「あぁ、そうか」といい、安心したようだ。
「あー、じゃあ俺は先に食堂に行ってるぞ」
どこか気まずげに一夏が俺にいってくる。
「あぁ、すぐ行く」
部屋のドアが閉まりきるまえに一夏はこちらに視線を送ってきた。がすぐにドアは閉められたので分からなくなった。
しばらくして誰もいなくなった部屋で凛は手で顔を覆う。
「…………くそったれ」
呻くように絞り出した声は今にも泣きそうな声に聞こえた。
「あ~、ほっし~こっちこっち~!」
あの後、すぐさま身支度をすまして食堂に向かう。ちなみに俺は朝は食べる気がしないのでコーヒーを頼んだ。
そしてコーヒーを持って一夏を捜していると声をかけられた。
俺のことを『ほっし~』なんて呼ぶのはこの学園でも一人しかいないだろう。
「のほほんさんに一夏か」
のほほんさん――布仏本音というが、彼女の性格、見た目、行動から愛称を込めてのほほんさんと皆は呼んでいる。
「おはよ~ほっし~」
「あぁ、おはよう、のほほんさん」
「よっ、もう大丈夫みたいだな」
「ああ」
「?何があったのほっし~」
「気にするな、些細なことだ」
その後、いつの間にか来ていた箒、セシリア、鈴に言いよられていた。
俺? 優雅(笑) にコーヒーを飲んでるよ。
「あ、そうだ~ほっし~、今度機体見せてくれないかな~よく見てみたいんだ~」
のほほんさんが俺に話しかけ来た。どうやら『弐式』を見たいらしい。
「別に良いが、今日はちょっと無理かもしれん。だから『手足』は見ていいぞ」
整備室に置いてあるからな、と付け加える。
「ありがとねほっし~、これで『かんちゃん』の役に立てそうだよ~」
おっとりとしながら、花が咲いたような笑顔で感謝を述べてくる。
……世界中がのほほんさんみたいな人柄だったら戦争な起きないのにな。
「そりゃ、役に立てればいい――まて、かんちゃんって誰だ?」
結局、聞き出そうとしても「かんちゃんはかんちゃんだよ~」としか返ってこなかった。
第二アリーナで一夏と鈴がアリーナ内に出撃、待機し今まさに始まろうとしていた。
俺はどこにいるかといえば、アリーナ内の観客席に混じっている。座っているのはあれなのでアリーナの後ろの方にいた。
しばらくすると試合が始まり、観客が湧いた。
「いやぁ、凄いな」
二人の試合を見て、俺は感想を漏らす。
「流石は中国代表候補生と世界最強(ブリュンヒルデ)の弟、だな」
手には先日届いた、依頼していた内容の書かれた数枚のA4紙が握られていた。
紙にはこう書いてあった。
『搭乗者:鳳・ 鈴音
使用機:第三世代型IS〔甲龍〕
特筆する兵器:第三世代兵器、衝撃砲〔龍砲〕搭載
衝撃砲は、空間自体に圧力をかけて砲身を生成し、衝撃自体を砲弾として打ち出す為に、砲身及び砲弾が不可視の兵器。また砲身の死角は実質ゼロという、使い方次第ではかなり厄介な兵器』
『搭乗者: 織斑一夏
使用機: 第四世代型『白式』
特筆する兵器: 雪片弐型。 物理シールド、ならびにエネルギーシールド、絶対防御にすら干渉しうる兵器。
ただ、自らのエネルギーを媒介として常に刀の形状保つため、かなり燃費が悪い。』
「なるほど、流石だな、『あの時助けて』よかったよ」
凛は『あの時とは違い』柔和な笑みを浮かべる。
ま、当の本人は気が付いていないみたいだが。
そして再び紙に視線を落とす。
また違う紙に目を通す。すると凛の顔はだんだんと険しくなってくる。
「こいつは……」
ふと呟いた声は再び湧き上がった歓声に掻き消された。
はっとして顔を上げると一夏が吹っ飛ばされていた。
「これが衝撃砲『龍砲』か」
資料にも書いてあったが、見えない攻撃と表現したらいいだろう。いつの間にか発射されているのだ。これは恐ろしい。
みるみるうちに一夏が龍砲を食らい、追い詰められていく。
これは一夏は負けたかなと思ったが、何か狙っているようだ。
「さて、何を見せてくれるかな」
凛はニヤリ、と楽しげに笑う。
鈴に一直線に迫ったその時、アリーナのシールドを破り、何かが墜ちてきた。
「何!?」
爆発地点にいる『何か』、
それを確認する前に隔壁が降りる。どうやら電子ロックが作動したようだ。非常口は外に出れずに人で溢れかえっていた。
凛は舌打ちをする。 まさかの侵入者(イレギュラー)である。
どうする? 敵の正体、目的も不明。助けにいこうにも手足は整備室にある、それでは遅すぎる。
「仕方ないか……」
助けにいくことを決め、制服の懐に手を忍ばせる。
懐から取り出したのは黒い機械のついた手袋と、同じく機械がついたテープのようなものを手にする――本来の手足が使えない時のための予備である手袋(カットアーム)タイプとレッグテープである。
上着を脱ぐ。下には既にISスーツを着てある。
黒い手袋を嵌め、テープのようなものを制服のズボンの上から左右対称に巻いていく。
そして手袋とテープに付いている機械を起動させる。
赤く光り、機械音とともにミリミリと肌に食い込む感触。音がしなくなってから自分の手足に異常がないか確認する。
「よし――来い『弐式』」
そして自機を二秒とかからずに呼ぶ。
「一夏、応答しろ」
一夏にプライベートチャンネルを繋ぐ。
「星野!? そっちは大丈夫か!」
「あぁ、そっちはどうだ?何が堕ちてきた?」
俺の問いに一夏は少し言い淀み、答える。
「ISだ。しかも国籍不明の――うわっ!」
「一夏!」
鈴の声が近く聞こえる。どうやら狙われているらしい。
「一夏、鈴に伝えろ。時間を稼いでくれ。今そっちに行く」
「おい――」
チャンネルを切り、すぐに行動を開始する。
換装装備(パッケージ)を出し壁にぶち当てる、が
「堅ぇ!」
弾丸程度ではびくともしないようだ。
「やるしかねぇな……」
新たな武器を取り出す。
パイルバンカー『グレー・スケール』を取り出し、全弾当てる。
―一発
零距離で放たれた杭は壁に小さな爪痕をつける。
――二発
先程より大きくへこむ。
―――三発
小さなヒビが入る。
――――四発
ヒビがさらにはいり、へこみも大きくなる。
―――――五発
ビシィッ、と音をたてて壁から破片が飛び散る。
――――――六発
ドガァッ、という音とともに壁が砕け散る。
「……何とか入れたな」
ガレキをくぐり、アリーナに足を踏み入れる。
そこには巨大な全身装甲(フル・スキン)のISと逃げる一夏達がいた。
「あれか……」
俺が来たことが気づいたようでこちらに向かってくる。
「星野!」
「あんた!どうやって入ってきたの、隔壁は全部降りてるはずじゃ」
「壊した」
短く告げて持っている『グレー・スケール』を捨て、換装領域(バススロット)から取り出した『カニバリア』に持ち替える。
「よし、視界良好。一夏、鈴、下がってろ。あとは俺がやる」
「はぁ!?あんたなにいってんのよ!一人じゃ勝てるわけないじゃない!」
「いや、ひとりでいい。むしろ邪魔だ」
「なん――」
「分かった」
鈴が異義を唱えようとするが一夏が言葉を被せる。
「一夏!なんでよ!」
「星野の戦いを見たからだ、正直、『これ』を使うのなら俺たちは下がった方がいい」
これ――一夏は『カニバリア』に目を向ける。
「すまんな。それとカバー頼む」
何が必要なのか、と一夏は曖昧に返事をする。
確かにこれなら目の前のISを破壊できるだろう。だがこちらもただではすまない。
『カニバリア』は通常の手足が揃ってやっと撃てるもので、予備装備であるこの手袋は筋力を上げるだけで衝撃には対処できないのだ。
「……最悪、腕が飛ぶかもな」
聞こえないように呟く。だがこんなところで弱音を吐く俺ではない。
「星野くん!何しているんですか!?」
急にチャンネルが繋がったと思えば山田先生からだった。
「加勢」
短く告げる。
「馬鹿者が! お前は何をしている!」
今度は織斑先生が怒鳴ってくる。
「加勢」
もう一度、短く告げる。
「貴様の今の状態では万が一の場合、危険すぎるだろうが!そんなことも分からずに出たのか!」
俺は、あぁそんなことかと内心で思う。
「問題ない。こんな『遊びみたいたもの』やこれ以上のことなんて、腐るほどやってきた」
淡々と告げる。顔が変わっていないか心配だ。
「なっ――」
何かを言おうとしたが回線を切る。
「なぁ、星野」
「なんだ?」
これから仕掛けようとした時に一夏に声をかけられる。
なんだよ、つくづく邪魔が入るな。
「あのIS、何で攻撃してこないんだ?しようと思えばいくらでも出来たのに」
「確かにそうね、まるで私たちの会話を聞いているみたい」
「それかこちらの出方をうかがっているか、だな」
「……もしかして、人が乗っていない?」
一夏は意外なことを言う。
「意外だな、お前もあんがい頭がキレるんだな」
「仮にそうだとして、どうだっていうのよ」
鈴のと問いに一夏は俺に視線を向ける。
「星野、俺にやらせてく――」
「駄目だ」
俺は即答する。
「何でだよ」
食い下がる一夏、しょうがないのでハッキリ言うことにした。
「お前は甘いからだよ。仮に無人機だから俺に任せろ?それで有人だったらどうするんだ?」
「そ、それは――」
「お前には明確な覚悟がない。有人だから手加減するのか?試合でもお前はそう思ってやっているんならそれは相手にとって侮辱だぞ」
「…………」
一夏は俯いて表情を隠す。 鈴は一夏を擁護したらいいのかどうなのかなんともいえない顔で見ていた。
「一夏ぁっ!」
その時、キーン……と響くくらいの大声がアリーナに響いた。
俺も含め、三人は声のした方に顔を向ける。
「何してんだよ、お前……」
一夏が呟く。
あそこは中継室だろうか、そこには箒がいた。
「男なら……男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」
またも響く大声。
ハッ、と気が付く一夏。敵ISは箒の方を向き、手をゆっくりと上げていた。
「箒、逃げ――」
「何してんだテメェはっ!!」
凛が怒り、一直線に敵ISに向かっていく。
この速度では間に合わない。あのあげかけている掌で何をするか分からないが、あげてしまえば箒が攻撃されるのだろう。
迷っている暇などなかった。
「あぁあああぁぁっ!」
――『瞬時加速』(イグニッション・ブースト)
爆発的に加速し、自分の腕に、脚に、強烈なGがかかる。
ミシミシと悲鳴をあげる手足。それを耐え、ISの懐まで潜り込む。
そしてISの丁度、人が搭乗している部分に『カニバリア』の砲身を突き付ける。
「――あばよ」
聞こえているかどうかも分からないISに向けて言葉とともに『カニバリア』の引き金をひき、発射する。
――ボキリ。
と凛は自分の両腕に起きた現象に苦悶の表情を浮かべる。やはり加速装置(スラスター)を使っても威力は充分に殺せず、腕に反動がきてしまった。
『カニバリア』に装填された戦車砲弾頭『APFSDS弾(離脱装弾筒付翼安定式徹甲弾)』は、発射とともに筒を弾き飛ばし、核である矢がISに逃れようのない大穴を空ける。
瞬間、爆発が二機を包み込んだ。
「星野っ!!」
一夏は鈴の制止も聞かず爆心地に向かう。
火柱とたちあがる煙のなかに二機はいた。
一機はボロボロになり辛うじて機体の形を保っている敵IS。
もう一機は機体が多少壊れ、両腕があらぬ方向に曲がり、手、足、顔に火傷を負って倒れている星野だった。
――――だめだよ凛。まだこっちに来ちゃあ。
さあ、行った行った。
「――――」
ひどく懐かしい声を聴いた気がする。
ここはどこだ? 少なくともアリーナではない。
疑問に思っているとシャッ、とカーテンが開かれる。いたのは織斑先生と山田先生だった。
――ドゴッ!
「ぐっ!?」
織斑先生に殴られた。めちゃくちゃ痛い。
「馬鹿者が、貴様は自殺願望でもあるのか、処置が遅れていれば深刻な状態になっていたんだぞ」
そして説教された。言い訳を、言い訳をさせてください。
あそこでポニテが来なければ普通にやれてたんだよ。文句ならポニテに言ってくれよ。
「星野くんっ!いいですね、あんなことはもうしないでくださいよ!」
山田先生が若干泣きながら俺をしかりつける。
なんかこっちの方が申し訳なくなったので謝る。
「すいません……山田先生、織斑先生」
「ぐすっ……本当にですよ」
約束を無理やり結ばされ、山田先生は保健室を出ていった。
しばらく両方とも無言が続くが最初に切り出したのは織斑先生だった。
「両腕の骨折、両手足火傷、そして顔面の一部が火傷だそうだ。しばらくは苦痛だぞ、覚悟しておけ」
俺の腕には、ギブスがつけられ、脚には包帯が巻かれていた。顔をさわってみるとガーゼのようなものが貼られていた。
「……そうみたいですね」
「しばらくは授業は休んでも構わんぞ。そんな格好で来たとしても心配をかけるだけだからな。その判断はお前に任せる」
「あとの対処は我々がやっておく。今は休んでおけ」
普段とは違い、どこか優しさがこもった声で言う織斑先生。そして踵を返し部屋を出ようとする。
「……ありがとうございます」
俺は素直に礼を言う。
「気にするな、生徒が死ぬのは寝覚めが悪いというだけだ。お前はもう少し人を頼った方が良いぞ」
そう告げて部屋を出ていった。
しばらくして凛はベッドから出る。
「いてて……」
痛む身体をかばいながら鏡の前までいく。
「人を頼った方が良い、か……」
うまく動かせない腕でなんとか頬のガーゼに手をかけて剥がす。
そこには確かに火傷がまだあった。しかし、元の肌に戻ろうと、傷を癒そうと、微々たる速度でだが火傷が治っていく。
「――こんな化物みたいなやつって知ったら、どうなるんだろうな」
しばらくの間、凛は鏡を見ていた。
ここから物語が大きく動き出す……かもしれません。