閑話 『夢の中・過去篇』
――ここに連れてこられて数日がたって、分かったことがひとつ。
どうやらここは『訓練所』のようだ。
朝から番まで走り、障害物を飛び越え、置かれている銃を組み立て、射撃訓練をする。
転んだり組み立てが遅かったり、的を外しすぎると着けられた首輪から電流が流れ、『おしおき』が与えられる。
「グアァァァァァァァァァッ!!」
「キャアァァァァァァァァァァッ!!」
今、組み立てが遅かった僕ともうひとりの女の子が首輪で『おしおき』を受けている所である。
なかなかキツいのが、高電圧だというのに気絶出来ないのだ。うまく仕組まれていると思った。 気絶しなければ訓練を続けられるからである。これが連日、朝から晩までノンストップで行われている。
『次、射撃訓練。早くしろ『B-16』、『B-88』』
『B-88』――それが僕がここで呼ばれる識別名である。Bは各区画のことでA~Dまであるらしい。88は人数を表している。一区画に100人ほどいるらしい。
ここでまたモタモタしていると電流を食らうので痙攣しかけている足を精一杯動かして目的の場所に急ぐ。
「あっ――!」
並行して追いてきていた女の子の足がもつれる、そしてまえのめりに倒れかかる。
僕は女の子の右肩をつかみ、後ろ側に引っ張って転ぶのを防ぐ。
その代わり僕が倒れた。こうすれば怪しまれないだろう。
倒れる数秒前に女の子が驚いた表情で僕を見てくる。僕は口パクで「先に行って」と言う。
伝わってくれたようで、だが表情が一瞬歪むが走り出してくれた。
――良かった。
直後、首輪による電流が流れてくる。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァァァァァッ!!」
先程より強く感じるのに意識が飛びそうで飛ばない。
『『B-88』、早く動け』
上手く動かせなくなった足を無理矢理動かし、先に進む。
的にたどり着いて震える手で持っているAK-47を1マガジン(30発)撃ち、なんとか当てることが出来た。
『よし『B-88』、部屋に戻れ』
横のドアが開いてそこから出る。
ふらふらな足取りで進むとそこは刑務所の独房のようにいくつも部屋が別れていた。
いつもの通り、自分の部屋に入ろうと向かう途中、さっきの女の子がいた。
「どうしたの?」
俯いていて表情が分からないので聞いてみる。すると顔を上げて僕の方を向いた。
その子は無造作に伸びて、多少汚れてはいるがキレイな銀髪に、両目は赤色をしていて、整った顔立ちをしていると思った。
「ごめんなさい……私のせいで…………」
そう言って今にも泣きそうな顔をしていた。
ああ、僕のせいで泣かしてしまった。
僕は泣くのをさえぎるように頭に手をおいて撫でる。
身長があまり変わらないから良かった。こういうときは相手とおなじ目線にしたほうがいいってお母さんが言っていたから。
「君のせいじゃないよ。僕がかってに君を助けただけだから」
だから、気にしないで。といって頭を撫で続ける。
女の子はすこしばかり頬を染めていた。
「え、えと……名前は、ある?」
女の子は僕の名前を聞いてきた。
僕はしばらく名前をおもいだそうとしていた。『B-88』は本当の名前じゃない、僕の、お父さん、お母さんがつけてくれた名前は――――
「凛。――僕の名前は星野凛」
『星野凛』。忘れかけていた自分にその名前を刻み込む。
女の子は僕の名前を聞くと、ハニカミながら僕にお礼を言う。
「凛、助けてくれ、ありがとう」
笑顔を僕に向けてお礼を言う。
なんだか照れくさくなって僕は口を開いた。
「きみの名前はなんていうの?」
すると、さっきまでの笑顔は消え、表情が曇る。
「…………『B-16』」
小さな声で僕にいってきた。
「名前…………ないの?」
聞いちゃいけないと分かっていても聞かずにはいられなかった。
「…………………………うん」
十秒くらいして女の子は重い口をひらいて肯定する。そしてまた、うつむいてしまった。
やってしまった、と思った。またかなしませちゃったな。なんとかしないと。
「だいじょうぶだよ、僕が名前をつけてあげるから!」
励ますように女の子に告げる。
すると女の子は顔を上げる。
「……本当?」
「うん!」
力強く肯定する。
「それに僕だけじゃなく、『あの人たち』にも考えてもらおう!」
きっと僕よりもこの女の子に良い名前をつけてくれると思うから。
「うん!」
本当に嬉しそうに顔を綻ばせる。
「凛。ありがとう!」
もう一度僕にお礼を言う。そして恥ずかしくなったのか逃げるように自分の部屋に戻っていった。
なんだがこちらまで照れくさくなって、僕も部屋に戻った。