IS~ある少年の過去と記憶   作:1056隊風見鶏少尉

32 / 66
感想に色々とご指摘を受けて最後の方を書き換えました。


二十四話 『タッグと狂気の隣片』

 

 

 

 

 

 

簪side

 

 

パタンと扉が閉められ、星野君が私の部屋から出ていった後、しばらくほーっとしていた。

 

それから気がつくと目線はあのボストンバッグに向けられていた。

 

「…………はっ、いけないいけない」

 

無意識の誘惑に寸でのところで留まり、頭(かぶり)を振る。

 

今まで色々と気にかけたりお節介を焼いたりしている彼のことを知ることができるチャンスでもある。

自分のことはまったく人に言わず、ひたすら隠している。

 

だからといって、見ないでくれと言われたものを見るほど簪は図太くはない。

(……気になる。気になる、けど見るのも悪いし……)

 

だからこそ簪がした選択は――

 

 

「……見なかったことにしよう」

 

何も無い、あそこには何も無いんだ……。

 

 

そう現実逃避しているとガチャリ、と扉が開く音がする。

 

「ただいま~」

 

「……おかえり、本音」

 

本音が帰ってきたようだ。

彼女は部屋に入ってきてすぐにバッグの存在に気付いた。

 

「あれ~? かんちゃん、これなに~?」

 

よりにもよって本人が今一番見なかったことにしているものを何のためらいもなく聞いてくる。いや、知らないから当然と言えば当然か。

 

「(本音っ~、今考えないようにしてたのに~!)……それ星野君のだよ」

 

「え!? ほっしー来たの!?」

 

 

本音はおどろいた顔をしている。

 

「本音は何で部屋にいなかったの?」

 

「え~? 生徒会の仕事だよ~。それにたっちゃんからお呼ばれされてたんだ~」

 

たっちゃん――本音は私のお姉ちゃん、更識楯無をそう呼ぶ。

それを聞いてすこし顔をしかめる。

お姉ちゃんとはあまり仲が良くない。あのことが原因だろうがそれはまた別の話だ。

 

「それにしても……渡しそびれたじゃ~ん!」

 

うわーん! と声を上げながら、だぼだぼの裾から鍵を出す本音。

 

「……仕方がないよ、来るまで待とう」

 

「…………そ~だね、しかないや~」

 

すると本音はあろうことか置いていった星野君のボストンバッグのジッパーを掴み下ろしはじめた。

ジーッ、という特有の音がまたなんとも――――

 

 

 

「――って、ちょっと本音!? 駄目だってば!」

 

バッグの中を見ようとしていたので急いで後ろから羽交い締めでその手を止める。

 

「うあー! どうして止めるのさーかんちゃん」

 

ジタバタと暴れて振りほどこうとする本音。

 

「中身を見るなって星野君本人から言われてるのよ! だからダメ!」

 

「うぅ~……でも気になる……」

 

……それは私も気になる。だけど約束は破りたくない。

 

「……本音、我慢しなさい。私だって気になるわ、でも本人が嫌がっているのに無理に中を見ちゃったらダメでしょ?」

 

我ながらお母さんみたいだと思った。

 

「うぅ~……わかったよ~」

 

渋々、といった風に頷く本音、私は落ち着いた様子の本音をはなす。

 

「とおっ!」

 

すると素早く動き本音は再びバッグに手をかけた。そしてジッパーを下ろす。

 

「本音!――あっ」

 

本音を止めようとした時、足がもつれて本音を巻き込んで倒れこむ。

 

「ぐぇっ」

 

カエルの潰れたような音を出して下敷きになる本音。

 

「い、いたいよ~かんちゃ~ん……」

 

「……ご、ごめん本音……はっ、バッグは?」

 

本音はバッグを持っていなかった。どうやらさっきのせいで飛んでいったようだ。

 

キョロキョロと辺りを見てみると、あった。

しかし中の物は開けられた入り口からかなり出ていた。

 

「あ……中身、出ちゃってる」

 

「かんちゃ~ん……おりてー……」

 

「あ、ご、ごめんっ」

 

上に乗っていた本音に謝りつつ、すぐにバッグを元に戻すべく片付ける。もちろん本音も手伝わせて。

 

 

「……服と……何だろうこれ?

 

散乱しているのは主に服だった。

上下ワンセットの服が二着入っていた。それと簪は知らないがレッグホルスターが入っていたようでそれを手に取って不思議がる。

 

「なんだ~これ~?」

 

すると、手伝っている本音が疑問を口にする。見ると黒い色で少々小さく、ケースのような物が転がっていた。

 

「なに…………これ……?」

 

私の目に映った異質なものに思わず声を出していた。

 

それはまごうことなき、銃とよばれる物だった。

 

銃の種類は分からないが細身で女性でも握りやすそうだ、所々に大小の傷があるクロームシルバーメッキの銃本体にアイボリーのグリップがついた通常の銃とは違った色合いをしている。

武骨ながらも美しいと、簪は思った。

 

「じゅう? ――あ~これ――――」

 

同じような反応をした本音がふと何かを手にとった。見るとあの『お守り』と言っていたロケット(写真入れ)だった。

しかも蓋は開いており、中身が見える状態になっていた。

 

「……あの『お守り』って言ってたやつ、だよね?」

 

いけないことだと思っていても聞いてしまう、見てしまう。

 

そして、つられて見てしまった。

 

「――これは」

 

「――わぁお」

 

私と本音から出た言葉はそんな感じだった。

 

年端もいっていないい顔だち、顔に小さな傷が入っているのが分かるがとてもきれいな女の子だと思った。

 

「…………だれだろーね、この写真」

 

「……さぁ、分からないわ」

 

大分前の写真のようで小さくくりぬかれているこの写真には汚れや色褪せが若干だが見受けられる。

 

「でも、きれ~なおんなのこだよね~」

 

……それは確かに。

 

と、その時――

 

――コンコン。

 

――――と、扉のノック音が部屋に響いた。

 

 

 

 

 

 

簪sideout

 

 

 

 

 

 

 

 

凛side

 

 

 

――あれ? 部屋あってるよな?

――『1232号室』、うん、前に来た時確認した番号と一緒だ。

 

俺はもう一度ノックをする。

すると中でゴソゴソと音がしたかと思うと扉が開いた。

 

「……ど、どちら様ですか……?」

 

「俺だ簪さん。のほほんさんはもう帰ってる?」

 

「ほ、星野君…………」

 

部屋から出てきた簪は驚いたような安心したような声で呟く。

 

「……本音ならいるよ」

 

というので再び部屋に上がらせてもらい、バッグと鍵を返してもらう。

 

「よっ、と。のほほんさん、来るのが遅れてすまないな。一度来たんだがいなくてな」

 

「う、うん……気にしないでいーよ、ほっし~……」

 

 

ボストンバッグをを背負い、先にのほほんさんに謝ると何か言葉がつまっている。

 

「? どうしたんだのほほんさん、簪さん」

 

「な、なんでもないよ~はいこれ~」

 

二人ともなんでもないといい、ブンブンと頭を振って否定する。

そして鍵を渡してくるのほほんさん。

 

「そうか、ならいいんだ。じゃ、また明日な」

 

そう言って鍵を受け取り、部屋を出ようとドアノブに手を――

 

「……待って」

 

――かけれなかった。

呼び止めたのは簪だった。帰ろうとした俺の裾を掴んで止めていた。

 

「…………なんだ?」

 

「……大事な話があるの」

といって中に戻された。とりあえず鍵をポケットにしまい、バッグを置いて話を聞く体制を整える。二人もこそこそと何か話していた。

 

……しかし、大事な話ってなんだろうか?

 

考えていると簪ではなくのほほんさんが口を開いた。

 

「ごめんなさ~い、ほっし~……」

 

「……ごめんなさい星野君」

 

深々と頭を下げてきた。

 

「……多分謝っても許してくれないと思うけど謝らせて――」

 

「ち、ちょっと待ってくれ、なんの話だ?」

 

まったくといっていいほど、二人の謝っている内容が分からない。

俺があたふたしているとしばらくして簪が口を開いた。

 

「…………バッグの中身を見ちゃったの」

 

簪のその言葉に体を硬直させ、目を見開いて驚きを表現する凛。

 

「も、もちろん見ようとしたわけじゃなくて事故だったの!」

 

「……とりあえずおちついてくれ、話はそれからだ」

 

二人を落ち着かせ、そして落ち着いたらこちらから話を切り出した。

 

「――それで? 『なに』を見たんだ?」

 

バッグの中身を見せつけるように開いた。

 

「…………『全部』」

 

……マジかよ。

額に手を当て、ため息をつきたくなる衝動を抑え、二人に言う。

 

「これもか?」

 

そう言ってバッグから『ガンケース』を二つ取り出す。

 

「……見た、片方は」

 

 

「――はぁ」

 

ため息が出てしまった。

 

「……『お守り』が入っている方」

 

 

…………こっちか。

片方のガンケースを置き、もうひとつを開ける。そこには先程二人が見たものと同じ銃が入っていた。

 

「あと……そのそのロケット(写真入れ)も間違って見ちゃったんだ、ほっし~……」

 

「……これもか」

 

そう言って俺はロケット(写真入れ)を手に取る。

 

「……見ちゃいけないって言われてたのに見ちゃってごめんなさい」

 

二人とも土下座する勢いで頭を下げてくる。

 

「見ちゃったんだろ? ならしょうがない。 忘れろっていったって忘れられないだろ?」

 

二人は静かに頷く。

 

「だから別にいいさ。しょうがない」

 

俺は頭を掻く、それでどこかやるせない気持ちを紛らわすように。

 

 

「――……あれは」

 

「ん?」

 

すると簪が口を開き何かを聞いてきた。

 

「それは、何なの?」

 

えらく抽象的に見せている銃のことを聞く簪。

 

「詳しくは言えないが、これは……大事なものだ」

 

「その写真は~……」

 

「これも――大切な物だ、これ以上はノーコメントで」

 

 

手に持っていたロケット(写真入れ)を軽く握り、のほほんさんに言う。

 

「さて、もういいか? 今日は色々あって疲れたんだ。それに普通に接してくれ、もう気にしてないから」

 

 

「うん……ごめんなさい」

 

「ごめんね、ほっし~」

 

 

「だからいいって、謝らないでくれ」

 

本当に申し訳ないといった風に謝ってくるのでそれをやめてくれといった。

そうしたら渋々といった風に頷いていたので良かった。

 

「また、明日な」

 

そう言って簪とのほほんさんの部屋から出て、自分の部屋である1057号室の前に立ち、鍵を開ける。

そしてなかに入り、バッグをベッドに置き、『ガンケース』を机の上に置く。 それからベッドに横たわる。

ボフッ、と音をたてて倒れるようにベッドに体を預ける。

 

「……マジかー…………」

 

珍しく落ち込んだような声を発する凛。

凛はそれきり動かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

翌日、皆よりも遅れて教室に行くと何やら騒がしかった。

 

(何だ? また一夏がなんかやらかしたのか?)

 

そう思ったが我関せずを決め込み、PMC時代に培った隠密スキルを最大限に生かし、教室内に潜入する。 無事に誰にも気づかれることなく入れた先にのほほんさんがいたので挨拶しておく、昨日のこともあるし。

 

「おはよう、のほほんさん」

 

「あ、おはよーほっし~……」

 

どうやらまだ昨日のことをまだ引きずっているようで声のトーンが下がり気味である。

 

「のほほんさん、気にしないでくれ、普通に――」

 

接してくれ、そうのほほんさんに言おうとした時、どこからか俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 

「い、いや、俺はもう星野と組むことになってるから!!」

 

…………は? 何の話だ?

声がした方を向くとそれは先程の騒がしい集団から発せられていた。

そしてその集団がいっせいにこちらを見る。中心には織斑一夏が、一番近い場所にはセシリア、鈴、相川清香の数名が詰め寄っていた。そして一夏の後ろに張り付くようにいたのはシャルロット・デュノアだ。まぁ、今はまだシャルルだが。

デュノアは皆とは一拍置いて、ゆっくりとこちらに顔を向ける。その顔は能面とでもいうのだろうか、表情に変化がなく、目もどこかハイライトが消えているように見える。

 

――何あれ、怖い。

 

といってもこちらに銃口が向いていたり、M67破片手榴弾(アップル・グレネード)が転がってきた方が何倍も怖いので別にどうということでもない。

 

「ええっー、二人とも組んじゃうの? せっかく考えたのにー!」

 

「プランがーっ!」

 

「崩れたーっ!」

 

「…………(ギリッ)」

 

「ち、ちょっと一夏、どういうことよ!」

 

「織斑君と星野君がくんずほぐれつ…………アリね」

 

三人で見事に連携し息の合ったことをやっているもの、一夏に詰め寄るもの、歯ぎしりをするものと多種多様だった。

最後のだけは認めないがな。

 

「おいちょっと待て、勝手に話を進めるな。何の話だ」

 

「あれ? 星野知らないの?」

 

「何を?」

 

相川さんが聞いてくるので俺は素直に聞き返した。

「これだよ、これ――」

 

そう言って一枚の紙を取り出し、俺に渡してきた。それを受け取り見てみるとそれは分かった。

 

『来月上旬に開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、二人組での参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は――』

 

そこまで見て俺は目線を紙から外した。

 

「……マジか?」

 

「マジもマジ、大マジよ」

 

マジか、相川さんがこんな真剣な顔してるの始めてみたわ。

というか学年別トーナメントがあるのは知ってたけどこれは知らなかった。何故に誰も知らせてくれなかったんだ……

 

少々落ち込んだが、ふと一夏を見てみた。すると目で「頼む、合わせてくれ」といっているような顔をしていた。

 

「……のほほんさんは誰か組む人はいるのか?」

 

正直、一夏と組んだら他のタッグと力の差が出るだろう。専用機を持っているものとそうでないものはそれほどまで力が違うのだ。だからなるべく合わせない方がいいと思うんだがな。 まぁ、この紙を見たところ専用機同士が組んではいけませんとは書いていないから良いんだろう。

 

「えっ!? 私はかんちゃんと組むよ」

 

何か慌てた様子で言うのほほんさん。

そうか、簪さんと組むのか、ならどうしたものか。他の人と組むか?

 

……てか、のほほんさんも知ってたなら教えてくれれば良かったのに。

 

「そうか」

 

そうのほほんさんに言って、再び誰とタッグを組もうか考えているときに声をかけられる。

 

「一夏は僕と組まないの? こい……星野君と組む気なの?」

 

こいつ、と言いかけたデュノアは俺を指差して言う。

 

「おう、星野とじゃなきゃダメなんだ」

 

…………何だろう、寒気が。

 

周りにいる少数名は「キタの!? キタのコレ!?」、「フラグ回収ルートキタァァァァァッ!」、と鼻息を荒くしてそんなことをいっている。お前ら、病院に行ってこい。そんでもって薬でも処方されてこい。

 

「いや、なら前にした約束はどうなるんだ? 前に言ってたじゃねえか」

 

前の約束というのは、デュノアの件が片付いた後に「学年別トーナメントで凛に勝ったら一つ聞いてもいいか?」というやつである。

 

「あぁ、それなら勝ち残った一組で戦って優勝を一人決めるらしいからちょうど良いと思って」

 

なにそれ、ならタッグの意味なくない?

 

そう思い、紙を見てみると確かに書いてあった、最後の方に。

 

――見落とすわこれじゃ。

 

しかしそれならば一夏と組まなくちゃいけないな、約束した手前、それを裏切るのは後味が悪い。

 

「分かった一夏、学年別トーナメントはよろしくな」

 

「おう! こっちこそよろしくな!」

 

俺がそう言うと一夏はしっかりとした声でこちらに返してきた。

 

 

「…………ギリッ」

 

あからさまに不機嫌さを滲み出すデュノア、俺を睨んでも仕方がないと思うが。

 

「一夏さん! どうしてわたくしとはお組みになりませんの!」

 

「流れからいって普通はアタシでしょうよ一夏!」

 

「い、いやそんなこといわれてもな、約束してたし……」

 

セシリアと鈴が一夏に向かって言うがやんわりと断られてしまう。

次には俺に向けられたようで、こっちに言ってくる。

 

「ちょっと星野さん! 横取りはずるいのではなくって!?」

 

「ちょってアンタ! ふざけないでよ!」

 

「そんなこといわれてもな」

 

まったくの偶然だし、俺に言われても困る。

すると二人は「ぐぬぬぬぬっ……」と何か口から漏れそうになる言葉を抑え、引き下がる。

 

しばらくすると何やら話し合っていた二人は急に手を組み、互いによろしくと言っていた。どうやらタッグが決まったようだ。

 

……途中、小さく「利害の一致」やら「目的は一緒」やら「アタシが潰してやる」など物騒な言葉が聞こえた気がした。やべぇなメチャメチャ恨まれてるよ俺、ほぼ逆恨みだよおい……。

 

その後、織斑先生が来て瞬く間に解散となり、授業が始まった。

 

 

 

 

 

これはまったくの余談ではあるが大会前にちょっとした事件があった。

 

――コンコンコン。

 

凛は珍しくのほほんさんなどが部屋にいない休日をのびのびと過ごしていた。 まぁもっとも、大会が近いので特訓は行うが。

そろそろ一夏を連れてアリーナでも行こうかというときに訪問者、誰かと思いつつ、扉を開けて出てみる。

 

「はい、ってデュノアか、どうした」

 

いたのは意外にもシャルロット・デュノアだった。

 

「あ、星野君、そういえばお礼がまだだったなって思って。 ありがとう、君がいたから今の僕がいるんだと思うよ」

 

意外にも律儀、というやつなのだろうか。

 

「それでお礼にと思ってお菓子を作ったんだ、良かったら食べてよ」

 

「ん? あぁ、わざわざすまないな、ありがたくいただくよ。ありがとな」

 

デュノアは笑顔で小さめの取っ手のついたケースのような物を手渡してきた。

「ん? もう一方のほうは何なんだ?」

 

見るとデュノアは後ろに組んだ手にもう一つ同じような箱を手にしていた。

 

「これは一夏にあげるものだよ。一夏にも迷惑かけちゃったから」

 

「なるほど」

 

受け取ると他に用があるからといってデュノアは帰っていった。

 

時刻は午後6:17。小腹がいいかんじにすいていたので渡されたそれを机の上に置いてナイフを手に持つ。 そして箱の開け口――ではない場所にナイフを突き立てる。

中に仕掛け罠(トラップ)が入っている場合は大抵開けたら……である。なのでそれがない側面から開けた方が比較的には安全なのだ。ほぼ癖のようになっており、貰い物でもしてしまうのだ。

ゆっくりと斬っていき刃の感触でも中の様子を調べる。感じからして無さそうだ。ただこの時、ごくわずかだが鼻腔をくすぐる匂いが菓子類にしてはどこか不快な匂いだと思い警戒する。

 

側面を斬り終えるとゆっくりと側面の壁をとる……そして中を見て絶句した。

 

中にあったのは恐らくマカロンという色とりどりで小さめのお菓子だった物だろう。

形はキレイに整っているようだが、散りばめた様に紅い液体が所々に付着していた。

 

「…………勘弁してくれ」

 

調べるまでもない。目視ですでにこの紅い液体の正体なんてすぐに分かった。

 

過去に幾度となく見たし、流したことのある血液である。

 

 

笑えない、タチの悪すぎる行為である。

 

気味が悪いので織斑先生に言っておこう。それから一夏にも、あいつは同室だし。さすがに鳥肌がたった。

 

すぐに携帯を取り出し一夏に連絡をかける。

それは数コールほどで繋がった。

 

「どうした星野、こんな中途半端な時間に」

 

「手短に言うぞ、今その部屋にデュノアはいるか?」

 

「? いや、いないけど」

 

「なら、何かデュノアから貰ってるか?」

 

「いや……何も貰ってないと思うぞ?」

 

「なら、デュノアから何か貰っても開けるな触るな食べるな。いいな? 絶対守れよ。デュノアが食べてとかいってきても食うな。 それに俺がこの事を言ったっていうのはデュノア言うなよ」

 

「え、ど、どういうことだ?」

 

「詳しいことはあとで言うから分かったな?」

 

「あ、あぁ分かった」

 

一応、注意をしておくに越したことはない。これで体調を崩されても困る。

 

恐らく渡されるであろう物は後で一夏から回収しよう。

 

 

 

俺がデュノアに怨みを買うようなことはしていないと思うが、どうであれ俺以外にも誰か被害を受けていたら大事(おおごと)なのでこれは楯無会長にも言っておこうと思った。

 

 

 

 

 

 

――そんな風な事件があったものの、大会に向けて残り少ない日数の放課後と休日を使い、一夏との特訓を行った。

のちに織斑一夏はその時のことをこう語る。

 

「まるで千冬姉の罰を受けてるみたいだった」

 

――と。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。