IS~ある少年の過去と記憶   作:1056隊風見鶏少尉

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閑話はこれでいったんはおしまいです。
貼り忘れていたので画像を貼りました。


閑話 『End Line』 ★

 

 

 

 

 

 

青空がどこまでもつづいているような空を眺めながら歩いていた僕たちだったが、急に前を歩いていたラウラ、イリア、マインの三人が止まり、僕たちも同じように止まった。

 

 

「――お姉ちゃん。何か、来るよ」

 

「えぇ、分かってるわ――マイン」

 

「え、何?」

 

「マドカと変わって皆と固まっていなさい」

 

「わ、分かった!」

 

ヘットギアのようなものを被り、虚空を睨み付けるように一点を見続けながらいつになく真剣な声で言うラウラにマインは慌てた様子で従う。

 

すぐにマドカとISを変わり――といってもマドカはフードを外さずにヘットギアを被ったが見にくくないのだろうか――二人と同じように虚空を睨む。

 

「イリア、マドカ、シールド展開(は)れる? 急いで」

 

「もちろーん!」

 

「シールド?……やってみよう」

 

三人で固まっている僕たちを囲み、肩部の装甲が浮きラウラ、イリア、マドカを含め全員を守るように透明の膜のようなものが張られた。

 

その直後、ヒューーーッといった独特の音がかすかに聞こえたかと思ったら目の前で耳をつんざくような轟音と爆発が起こった。

 

 

「うわあっ!」

 

「何ィっ!?」

 

「ああああっ!!」

 

それも一度や二度ではなく何回にもわたって続く爆発に耳がやられそうである。

 

爆撃が止んだ後にシールドを解いた三人は皆を落ち着かせ、ラウラは皆に聞こえるように大きな声で言う。

 

「皆聞いて! これから私たちが援護するから皆は固まって動いてちょうだい! マドカが援護するわ、マドカに従って動きなさい!!」

 

耳を押さえていた者も何とか聞こえたのか、ひとつの集団となりマドカの乗るISの近くに寄る。

 

「行くわよイリア! マドカは皆を援護しながら撤退させて!」

 

「分かった! 来いお前ら!」

 

それだけ言ってISですごい速さで空へと飛んでいくラウラとイリア。

マドカは再び肩部の装甲を使い固まった集団の周りにシールドを張りながら移動する。

 

全員が力の限り走る。といってもシールドが張られている範囲を出ないようにしながらであるが。

 

 

僕も全力で走り、戦線を撤退しようとしている。

 

後ろから断続して聞こえる戦闘音に歯がゆさを覚える。

戦えるのに出来ない。それがとても悔しい。

 

「……むっ!?」

 

突如マドカが何かに気付いたように止まる。それを見て皆はとまどい、足を止めてしまった。

 

「私に構うな! 走り続けろ!」

 

怒鳴るように言うマドカに触発されるように走り出す皆。

だけど僕はその場に留まってしまった。

 

こっちに来るものを見たからだ。

 

キュィィィィィィッ!! とここからでも分かるほどの音を出して接近する物体――ISだ、敵の乗ったISがこっちに来ていたのだ。

 

「ち、ちょっとリン、何してるの!? 速く逃げるわよ!」

 

いつの間にか僕の隣に来て服をつかんで逃がそうとするマイン。

 

 

「……む、貴様ら何をしている! さっさと行け!」

 

残っている僕らに気付いて怒声を飛ばしてくるマドカの方を向く。

 

「僕がやるよ、マドカ!」

 

僕はマドカにそう言い放つ。

マドカもマインもびっくりした表情で僕を見る。

 

「貴様とIS(アレ)とでは勝てるわけが無いだろう! 私がやる」

 

「うん、別に勝とうとも思ってないよ、でもここでマドカがいなくなったら逃げてるあの子達(家族)がさっきみたいに攻撃されたら守る術(すべ)がなくなるんだ。だからお願い、僕に任せて」

 

マドカはこちらを睨み、小さく舌打ちする。

 

「…………チッ、分かった、なら任せる」

 

そう言うと、手にブレートを出すとこちらに飛来してくる敵ISへと飛んでいき、墜とした。そしてこちらに向かってくるマドカ。

 

「後は貴様に任せた。精々死なないようにもがけ」

 

「うん、ありがとう」

 

そう言ってマドカは持っていた六つのM26手榴弾をくれたのでそれも含めてお礼を言う。

 

「ほら、とっとと行くぞ、捕まれ」

 

「え、ちょっ、リン――」

 

マドカは何かをためらっているマインを乱暴に掴むともう豆粒のように小さく見える集団へと向かって飛んでいった。

僕は早速手榴弾を一つ手にとってジャングルクリップとよばれる安全装置と安全ピンを外す。

爆破時間は四秒なので三秒数えて敵ISめがけておもいっきり投擲する。僕はその場に伏せる。

 

「くそっ、あのガキ――があぁぁぁぁっ!?」

 

こんっ、とISの装甲に当たり、軽い音を立てたかと思えば突如として爆発した。

爆弾がその身を破裂され、爆風と破片が対象者を殺傷せんと襲いかかる。

 

だがISにより多少しかダメージが入らず、装甲が少し壊れただけだった。

ISの操縦者を守る絶対防御というものが発動し守ったのだ。

 

「――くそっ……やってくれんじゃないのこのクソガキ! そんなに死にたいか!」

 

多少距離があっても聞こえるほどの大声を出す相手。どうやら怒っているようだ、それでいい。

僕は背負っていたAK-47の安全装置(セーフティー)を外しチャージングハンドルを引いて薬室(チャンバー)に弾を込められたのを確認する。

そして敵から奪ったホルスターに入れているCz75を取り出してこっちも薬室に弾を込めてから再びホルスターに戻す。

 

そしてISと対峙する。

 

「そんなに死にたいなら死ね!」

 

こっちを殺す気でかかってくる。

あっちもその気のようだ。

 

僕はさっき貰った手榴弾の安全装置を外してからAK-47で射撃する、が当然のごとく避けられる。

 

相手のブレードが届く範囲まできた丁度の時、手榴弾を手から宙に浮かせ、僕は横に滑り込むように回避する。

 

ギリギリ、ブレードが掠めたかと思った後に爆発が背中を襲う。

 

「うあっ!」

 

「がはっ!?」

 

ゴロゴロと転がり、やっと止まる。

背中が痛いが相手も食らったようなので良かった。だがまだ生きているから油断は出来ない。

 

「クソが、なめやがってクソガキがぁ! 私をコケにしたこと後悔させてやるよ!」

 

えらく口の悪い女の人だな、と僕は思った。

 

「『オータム』、『スコール』! アレ使わせろ!」

 

誰かに話しかけてる相手は何かの許可を求めているようだ。

 

 

「あぁ!? 知らないわよそんなこと!」

 

「B-2! B-2スプリット! 聞こえてんのか! ――あぁ構わねぇ、やれ。対象は『無様に逃げてるガキ共』だ!」

 

 

B-2スプリット。それが何なのかは僕には分からないが、いままで培ってきた経験と勘が警鐘を鳴らしていた。それにあの単語を聞いて全身から脂汗が吹き出す。

 

こいつは今、『無様に逃げてるガキ共』と、いったのだ。

僕ではなく、逃げている『家族』を、マドカを、マインを――狙っている。

 

 

「……止めろっ!!」

 

次の瞬間には目の前の敵に飛びかかっていた。

今さら後ろに走り出しても到底間に合わないことを体は、脳は分かっていたようだった。

 

「ハハハハハハッ! そうだ、その表情が見たかったのよ! 生意気な面が絶望に染まる顔を、さァッ!」

 

こちらに飛びかかってくると分かっていたのか、なんなくかわして握った拳を振り、的確に顔面を捉えた。

 

「ぶぼっ……!」

 

石みたいに硬い機械が顔面に当たったことで大きく僕の体は吹っ飛んだ。

それと同時に鼻と口から温かいものが流れていくのを感じる。

鼻が折れたかもしれない、歯が何本か折れたかもしれない。

そんなの別にどうでもいい。

 

飛ばされ、地面に一度叩きつけられた衝撃で意識が持っていかれそうになったが耐えた。

そして素早く立ち上がり、すでに目の前まで迫ってきていたヤツに手榴弾を投げる。

 

しかし――

 

「効くかよ!」

 

放った手榴弾は難なくISの手で弾かれて飛んでいってしまった。そして爆発――。

 

「オラァ!」

 

「ぐふぅっ!」

 

手榴弾に完全に目がいってしまっていた僕は先ほどと同じように殴られた。ブレードを使わないのは僕をいたぶるためだろうか。

 

腹部にめり込むようにして受けた拳は完全に振りきられ、きりもみしながら宙を舞う。

 

 

ドサッ、と落ちた僕はえずきながら吐いた。

 

足がガクガクと震える。力が入らない。

 

別に死ぬのが怖い訳じゃない。

 

僕以外の他人が、それも僕のせいで死んでしまうのだ。それも『家族』を。

今度はたくさん。

 

僕の家族(お父さんとお母さん)のように死んじゃうのだ。

 

イヤだイヤだイヤだイヤだ! それだけは嫌だ!

 

僕はうつ伏せの状態から這うようにして移動する。

 

「や……め……ろっ!」

 

掠れた声だが、その声には様々な感情が詰まっていた。

 

 

「ハハハッ、さっきまでの威勢はどうしたよ? ほらほら、私はここにいますよ~」

 

 

後ろからヤツの声がする。

そんなことはどうでもいい。

止めろ、止めろ、止めろ!

 

「や、め……ろっ!!」

 

 

僕は這いながら前に右手を伸ばした。そのはるか前方には確かにいるんだ。

あそこに僕の『家族』がいるんだ。

 

動けよ、頼むから。 このさき動けなくなってもいいから、立てよ!

 

走らせろよ! 行かせろよ!

 

「――う゛う゛う゛う゛っ!」

 

踏ん張る、力む。これほど辛いことはない。

今、一瞬でも力を緩めれば腰から崩れ落ちてしまいそうだった。

 

生まれたての小鹿のよう――まさにそう表現するのがピッタリだろう。

 

つたない足取りで歩いていく。

ISには背を向け、逃げていった『家族』の方へ歩いていく。

 

「――ほうほう、すごいねぇ! その根性! 私感動しちゃったよ! でも――」

 

だいぶ離れたのか大声でこちらに聞かせるような言う。

 

「――もう終わりだ」

 

その声だけ、脳に直接語りかけたかのようにとてもクリアに聞こえた。

 

 

 

瞬間――――――

 

 

 

――――前方に広がる風景が爆ぜた。

 

 

 

そうとしか表現出来なかった。

 

 

目に映るは前方を焼く海。連続して続く爆撃、爆発音に襲い来る熱風と衝撃波。 雲ひとつない真っ青な空に次々と浮かぶ爆発の胞子と灰色の雲。

 

 

 

 

僕は目の前光景が信じれなかった。

 

気づけば僕は座っていた。

 

 

死んだのか。いやマドカがいる、マドカの乗ってるISなら大丈夫だ。間に合ってる。間に合ってるさ――

 

 

「ヒュー、いつみてもB-2 スピリットの500lb爆弾の爆撃はこっちもヒヤヒヤするな」

 

 

いつの間にかすぐそばまで来ていた。

 

大丈夫だ、死んでない。生きてる、生きてる、生きて――

 

 

「あーっと、瓦礫が多いな、地面もぼこぼこだしよ……だが『生体反応なし』っと。まぁ、当たり前か」

 

 

「――――――――」

 

 

彼女の言葉を聞いた凛は目の前が真っ白になった。

 

「さて、残るはお前だけだな。あっちはスコールとオータムがやってくれるだろうね――――おっと様を付けなきゃいけなかったわね」

 

「………………」

 

「ちっ、だんまりか。つまらないわね」

 

ま、しょうがないわね。と告げる。

 

「………………」

 

凛は何も言葉を発さない。そしてその目は何も写していないように見えた。

 

「じゃあ、勇敢な少年――」

 

ISに乗った女性は手にしたブレードを振り上げそれを凛の頭上で一旦止めた。

「――あばよっ!」

 

そして凛に振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

時間は少々戻り、凛と対峙した女性が連絡をとるところから始まる。

 

 

「――まったく、末恐ろしいわね、彼女、化け物かしら? ねぇ、オータム」

 

「彼女『達』だぜスコール――おっとォッ!」

 

オータムと呼ばれた、少し口調の荒々しい女性は振るわれたブレードを紙一重で避ける。

しかしエネルギーは削れる。

 

ISにはたとえ第一世代だろうともシールドエネルギーなどの動力は存在する。 だから削れれば削られるほど不利になるのだ。

 

 

スコールやオータムは最初は、目の前にいる二人を舐めていた。

だがしかし、それはある行動で打ち砕かせた。

 

たった二機での輸送機、戦闘機の破壊。

輸送機ならばまだしもアクロバットな回避行動のとれるはずの戦闘機を簡単に捉え、撃墜したのだ。

 

 

お陰で第三機と一個隊はほぼ壊滅、主力爆撃機ははるか上空で待機中だがはたして使えるかどうか。

 

彼女達――実験体の上位成績者である『B-4』、ラウラ・ユリウス。『B-12』、イリア・ユリウス。

 

この二人のISの技量は並ではない。

さらに素晴らしいほどのコンビネーション。

 

 

オータムとスコールは一発ずつ攻撃をくらい、そこで初めて本気を出した。

 

出さねばこちらが負けると、死ぬと直感で分かったのだった。

 

 

「はぁっ!」

 

「お姉ちゃん!」

 

オータムがイリアと、ラウラがスコールと斬り結ぶ。

元々、第一世代のISには実装されている武器など数種類しかない。

実験用に置かれているISならば言うまでもない。

ラウラとイリアはブレードを使い、しかしそれとAK-47など旧世代の兵器を使い手数を増やして戦っていた。

スコールとオータムは実装されているブレードと同じく実装されているマシンガンを使っていた。

 

実力は互いに同じくらい。ならば拮抗するかと思っていたが、それは違った。

「……スコール、今エネルギーはいくつだ?」

 

相手にこちらのことを悟られないようにプライベート・チャンネルを繋いで会話をするオータムとスコール。

 

「四割ってところよ。オータムは?」

 

「あァ、アタシも似たようなもんだ」

 

こちらのエネルギーは着実に減っていっている。こちらは動きを最小限にして無駄なエネルギーの消費を避けているが、相手の方はそんな様子はない。

一体どういうことかとスコールはわずかに眉を潜める。

 

するとそこで誰かがオープン・チャンネルを使って話しかけてきた。

 

「『オータム』、『スコール』! アレ使わせろ!」

 

出たのはオータムの部下のK(ケー)。

 

「何に使うか、分からないけど破壊させたら意味無いわよ」

 

「あぁ!? 知らないわよそんなこと!」

 

どうやらこっちの話を聞く気は無いらしい。

はぁ、と短くため息を吐くスコール。

 

「B-2! B-2スプリット! 聞こえてんのか! ――あぁ構わねぇ、やれ。対象は『無様に逃げてるガキ共』だ!」

 

そこでチャンネルは切られた。

 

「……すまねぇスコール。帰ったら締めとくわ」

 

「別に気にしてないわ――ッ!」

 

そこで殺気を感じて身構える。

放たれる殺気の中心にいる二人の人物、ラウラとイリア。

 

「――ねぇ」

 

同じくオープン・チャンネルを使って話しかけてくるイリアの声に抑揚はなく、一切の感情が籠っていないように聞こえる。

 

「無様に逃げるガキ共って、誰のこと?」

 

イリアが告げる。横にいるラウラもまた、表情に一切の感情が現れていなかった。

 

ラウラはISで迅速にB-2スピリットという単語を検索し、閲覧した。そして驚いた。

 

B-2は、アメリカ空軍のステルス戦略爆撃機である。水平尾翼および垂直尾翼がない全翼機と言う特徴的な形をしており、愛称はスピリット(Spirit、魂、精神の意)。

 

この機は同重量の金と同価値といわれるほど非常に高価で、少数しか生産されていない。

武装は2,000lb爆弾またはJDAM×16発。500lb爆弾×80発。AGM-154 JSOW空対地ミサイル、B61核爆弾またはB83核爆弾×16発、などから最大18tまで選択可能と記載されてあった。

 

どれも高威力、ISの防御力でも防ぐことも難しいだろう、ただの人では濁流を紙で止めようとするようなものだ。

 

 

ラウラはそれを見て何かが切れた。

 

「「それって私たちの家族? だったら――」」

 

重なった言葉と共にラウラとイリアがブレードの刃先を二人に向ける。

 

「「――殺すよ」わよ」

 

いつの間にか後数センチというところまでブレードが首筋に迫っていたことに気付いたスコールとオータムは間一髪で避ける。

 

「「ッ!?」」

 

避けた際にスラスターを吹かせ大きく距離をとる。

 

二人は動揺していた。

 

いつの間にか首筋にブレードが迫ってきていたことではなくその後のこと――ISの物理シールドが展開せず、絶対防御が発動しなかったことだ。

二人とも完全には避けられずに浅く切った首からは何故か血が出ていた。

 

「スコール……」

 

オータムも同じことを考えているようだ。

 

「えぇ、分かっているわ」

 

とりあえず今そのことを考えるのはよそう。

今考えるべきは目の前の実験体、ラウラとイリアを確実に殺すこと。

 

生かしておくのは危険すぎる、亡国機業にどんな影響を与えるか。

 

「――止めさせなさい、今すぐに。でないとここで命を散らすことになるわよ。あなたもそっちの人も」

 

「――断るわ。なら止めてみなさい」

 

「――そう、残念よ」

 

ラウラはスコールに向かって剣を振るった。

 

「えぇ、残念だわ、もっとお話ししたかったのに」

 

スコールは笑って自分に向かって振るわれたブレードを迎撃した。

 

 

「っ! いた!」

 

イリアは凄まじい速さで飛んでいる飛行物体を確認し、はるか前方にいる『家族』のもとに行こうとした。

 

「行かせるかよォ! お前の相手はこのアタシだァ!」

 

「! どけぇぇぇぇっ!!」

 

目の前を遮るようにしている敵に激昂して殺しにかかるイリア。

 

目の前の敵をただ殺さんとブレードを振るい、銃を撃つラウラ。相手を肉薄にせんと迫るがスコールも手練れである。避けきれずに受けてしまう攻撃があるものの十分相手にできるとスコールは余裕を取り戻していた。

 

「――シィッ!」

 

「っ!?」

 

振るわれた一閃、それはスコールではなくオータムへと向かい放たれたものだった。

しかしその延長線上にはイリアがいた。

 

「ん? ――どわァ!」

 

ラウラの攻撃を見ずにかわし、イリアは隙ありとばかりに飛翔して向かおうとするがまたしても邪魔される。

 

 

「くっそ、邪魔!!」

 

「どきなさい!」

 

「はっはー! 断るぜェ! なら力ずくでどかしてみな!」

 

「どかしてみなさいな!」

 

どちらも一進一退の攻防を繰り広げる。

だが戦局はラウラとイリアには不利な状況であった。

仲間全員の命をかけた時間制限ありの一方的な死闘(デス・マッチ)、それもISの手練れとである。

ラウラとイリアは焦りや焦燥感に苛まれ、致命的なミスをした。

 

「はあっ!」

 

「――ッ!? ッくうっ!」

 

ラウラはスコールの剣劇を避けている最中に横からオータムが迫ってきていたことに気付かずに食らってしまう。

 

「お姉ちゃん!」

 

「戦いでよそ見は厳禁よ?」

 

姉であるラウラが攻撃を食らったことで落下していくのを見て叫ぶイリア。その隙を逃すわけがなく今度はスコールがイリアに攻撃を繰り出す。

 

「ぐあっ!」

 

イリアも不意を突かれ、思った以上に重たい攻撃を食らい、墜落する。

 

二つの大きな砂柱が上がるが、ダメージはさほどはいっていないことはスコールもオータムも分かっていた。

 

「残念、あなたたちの負けよ――」

 

すでに体勢を立て直し、こちらを睨み上げるように見ている二人にオータム・チャンネルで告げる。

 

――突如、凄まじい爆発がラウラとイリアの向かおうとしていた方向から起こった。

 

「――――――」

 

「………………」

 

二人は何も言わない。ただじっと今も爆発が続いている方向を見ていた。

しばらく続いた爆撃が止んだ後、イリアだけが目線を上げて二人を見る。

 

「……殺す、殺してやる」

 

まったく表情を変えずに、しかし声のトーンは今まで以上に低く、こちらを早く殺したいと言わんばかりに殺気が溢れている。

 

「はっ、やっちゃったなこれ。ああなったヤツを殺すのは骨が折れるぜスコール」

 

捕まえるのはもっと骨だがな、と呟くオータム。

だがオータム自身もイリアに獰猛な笑顔を向けていた。彼女もまたスイッチが入ったようである。

 

「問題ないわオータム。多少計画(プラン)が変わっただけよ。さっき伝えた通りにやりなさいよ」

 

「あぁ、問題ねぇぜ」

 

そういうオータムは視線をイリアに向けたままである。イリアもまた視線を二人に向けたままである。

 

そんな中でラウラは不意に口を開いた。

 

「――――凛……?」

 

ぽつりと、言った。

 

独り言のように呟いた声をイリアは聞いてラウラに視線を移す。

 

スコール達も彼女の唇の動きを読み、何を言ったか分かった。

 

三人の視線を受けるなか、ただ一人ラウラだけは視線を動かさずに一点だけを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

「――あばよ!」

 

オータムの部下であるK(ケー)はブレードを凛めがけて振り下ろした。

殺った、そう思った。

 

「ッ! 何!?」

 

凛は来るのが分かっていたかのように紙一重に避けて攻撃を行った。

いつの間にか腰から抜いたサバイバルナイフでK(ケー)を殺さんと迫る。

だがそれはISの物理シールドによってさえぎられる。

 

「はっ、さっきまでの動きとは大違いね!」

 

ナイフがシールドに防がれたことによってできた少しの隙をK(ケー)は逃さなかった。

何も持っていない左手で凛を掴みにかかる。素手でも人など潰せるほどの力があるのだ。

 

凛を殺そうと手が頭へとのび、寸での所で凛は動いた。

 

引くわけでもなくただ一歩前へと進んだ。

それだけだが、K(ケー)は再び凛の殺傷圏内(キルレンジ)に入ったのだ。

 

「何――」

 

そのことに少なからずKは動揺する。

 

「――――」

 

何も喋らない凛の左手に握られているサバイバルナイフ、そして右手に握られているCz75を見て僅かに顔をしかめる。

 

「――っ」

 

そして、Kは自分の失策に気付いた。

 

右手に持っているブレードの刃先はまだ地に付いている、左手は凛の頭を捕らえるのに失敗し、伸びた状態にある。

 

動いたのは右手に持っていた銃、Cz75の照準がKの頭部へと向けられる。

 

「くっ!」

 

パン!、と軽い音を立てて放たれた弾丸は、やはり物理シールドによって防がれる。

Kはその隙に距離をとる。

「ちっ、だんまりは変わらないのに急に動きが良くなりやがった、気持ち悪いわね……」

 

悪態をつきながらKはガキを観察する。

ふらふらとした足取りだがこちらへと向かってくる。

 

「……はっ、いいぜガキ、ひとおもいに殺してやるよ」

 

ブレードを構え、スラスターを吹かし距離を詰めて一撃のもとに首を刈り取る。 しかしそれは出来なかった。

首を刈る直前に上体を逸らしブレードを避けた。

 

「ん?――ぐあっ!?」

 

突如KのIS装甲付近が爆ぜた。

突っ込んできた際に手榴弾を投げたのが爆破したのだ。

 

 

「ぐっ、このおっ!」

 

少しのけぞったがすぐに反撃に出るK。しかし頭に血が上っているのかでたらめにブレードを振り回して攻撃していた。

 

凛も上手く避けられず、刃先がかすったり、抉られるような一撃を食らったりしている。

 

「…………」

 

それでも凛は何も喋らなかった。ただKに近づこうとして銃やナイフを使い反撃していた。

 

弾が切れればナイフと体、残った手榴弾を使い、Kに攻撃をする。

微量な攻撃――だがそれは功をそうした。

 

「――――! 何だと!?」

 

ナイフが物理シールドに防がれた時、急にISが機能しなくなった。

見るとISのシールドエネルギーの残量が0%になっていた。

 

「――っ」

 

ISは世代を問わず、主に操縦者の身の安全に重きを置いている。

なので、シールドエネルギーが無くなってもしばらくは他のエネルギーが緊急時に回される。

もちろん、その場合も多少の制限がかかるが移動出来る。

 

「くそ、やりやがったな」

 

ISによるパワーアシストが大幅にカットされた状態だがKは目の前まで来た少年を切り殺さんと振るう。 だが大振りで先程より速度の遅いそれを凛はたやすく避ける。

 

コツン――。

 

何かの当たる音がKのISから聞こえた。

目線だけを音がした場所に向けると、そこには手榴弾が存在していた。

 

「(なっ――!? こいつ自爆するつもりか!?)」

 

手榴弾はKの方が近いが凛も十分に爆発圏内に入っていた。凛は両腕で頭部を守るように顔の前に出していた。

 

 

「ぐああっ!」

 

「……っ」

 

爆発の衝撃がISを通して体を駆け抜ける。

それは凛も同じで爆発した破片が突き刺さり、抉り、余波で宙を舞う。

 

Kは体勢を崩し、仰向けに倒れる。

凛はドサッと音を立てて砂の地面に落ちる。

 

「うっ……」

 

意識が朦朧とし視界が霞む。先程の手榴弾のせいでほとんどのエネルギーを消費したISは起き上がるには手間だった。

 

仰向けに倒れているKに近付く影、首だけを動かしてその方向を見ると身体中から血を流し、服も真っ赤に染まっていた凛が倒れているKの元に向かっている所だった。

手にしている銃の弾倉を変え、弾を装填してから胸部装甲に馬乗りになる。

 

「…………」

 

「は、良い顔してるじゃん」

 

Kは見上げる形で凛の表情を見た。

目には憤怒の念が籠っており、涙を流していたがまったくの無表情だった。

 

凛は銃口をKの額へと向ける。

 

「いいぜ、殺れよ。あたしに勝ったんだ、お前にはあたしを殺る権利がある、お前の死んだ仲間のためとかな」

 

僅かに銃を握る腕が震え、向けられていた銃からミシッ、と音が聞こえた。

 

引き金に指がかけられたのを見てKはタイミングを伺い、残っていたエネルギー全てを両腕に集中させる。

 

「――――――凛――」

 

自分の名前を呼んだ声がして引ききろうとした指が止まる。

 

「…………?」

 

疑惑、そのせいで銃口が額から逸れる。

 

「(――今!)」

 

Kはこの一瞬の隙に両腕に力を込める。

ブレードを握り直し、馬乗りになっている凛めがけて力任せに横なぎにする。

「――――凛ッ!!」

 

不意を付かれブレードが自身に迫るなかで先程よりもクリアに声が聞こえた。

次の瞬間、黒い影が目の前を通過する。あまりの速さにおもわず目をつぶってしまった。

しかし、自分を殺さんとブレードが突き立てられることはなく、かわりに叫び声が響いた。

 

「があああああっ! な、んで、腕が! 斬られてんだよぉぉぉっ!」

 

見ると二の腕から先が無くなっており、血が止めどなく溢れ出ていた。

 

「くそがぁぁぁぁっ、死ねぇぇぇぇ!」

 

今度は左手が凛に迫る。手を突き刺そうと凛に突きを放つ。

 

「――――やらせないよ!」

 

今度も同じように黒い影が目の前を通過する。しかし、さっき聞こえた声とはまた別のものだった。

 

「うあ、ああああああぁああっ! 腕が、腕がああああああっ!!」

 

左腕が切りとられ、遅れて絶叫するK。

凛はトドメをさそうと銃口を向ける。

 

「「凛!」」

 

制止をかけるように横から二人の声がかかる。

横を見ると見慣れた二人の姿があった。

 

砂や土埃にまみれているがきれいな銀髪をした少女と同じくきれいな金髪に黒が所々混じったような髪をしている少女――ラウラ・ユリウスとイリア・ユリウス。

 

「……ラウラ……イリア……」

 

二人の姿を見てさらに涙が溢れ出してきた。

僕は立ち上がり、ふらふらな足取りで二人のそばに行く。

二人はそっと抱きしめるように頭と体に手をそえる。

 

「良かった、あなただけでも生きてて……」

 

「凛だけでも……生きてて良かったよ……」

 

「…………ごめんなさい、みんなを、守れなかった。ごめんなざい゛……」

 

涙声で二人に言う凛。そんな凛をラウラとイリアは優しくささやく。

 

「凛のせいじゃないわ、私の責任よ、ごめんなさいね」

 

「私たちがもっと早くあいつらを倒してればよかったんだもん、凛は悪くないよ」

 

 

そうイリアが言い、視線を前に写すと誰かの声がした。

 

「――あらあら、ずいぶんと酷くやられたわねK」

 

「おいおい、ボロボロじゃねぇか、ガキだからって舐めてかかるからそんなんだよバカが」

 

仲間の惨状に驚いた様子も見せない者と仲間な罵倒を浴びせる者が静かに下り立つ。

 

「ううぅぅ……オータム、様……」

 

「ったく、てめぇの処遇は後だ、おら」

 

オータムらしい人物はISから二本の注射器のようなものを取り出しKに投与する。

 

「運が良いぜぇK(ケー)。これで取りあえずは死なねェんだからよ」

 

ケラケラと笑った後、こちらを見る。

 

「さて、いい加減鬼ごっこも飽きたわ」

 

そう言ってブレードとマシンガンを装備して臨戦態勢をとるオータム。とそこに待ったをかけたもう一人の人物。

 

「まあ待ちなさいオータム、この子達には少し話があるのよ」

 

「スコール……ちっ、分かったよ」

 

スコールと呼ばれた女性に止められたオータムは素直に引き下がる。 「――さて、まずはそこの男の子、名前を教えてちょうだいな。ここまで生き残っているんですもの、興味がわいたわ」

 

そう言って僕を指すスコール。

 

「……何故教えなきゃいけない?」

 

敵意の籠った視線で睨むがスコールはそれをなんでもないとばかりにさらに口を開く。

 

「あら、一応敬意を払っているのよ? 私たち仲間を倒したあなたを。なら私から名乗った方が良かったかしら? なら私はスコール、彼女はオータム。それであなたが倒したのはK(ケー)」

 

「……そっちが名乗っても、教える気はない」

 

僕の回答を聞いてわざとらしく肩をすくめるスコール。

 

「あら、残念。せっかくこっちも名乗ったのに」

 

まあいいわ、と言って次の言葉を紡ぐ。

 

「単刀直入に言うわ、あなたたち、私の仲間になりなさい。正直殺そうかと思ったけど、その戦力には利用価値があるわ」

 

スコールが僕やラウラ、イリアに言う。

 

「そうすれば殺さないであげるし、なんだったらあなたたちの望むものをあげるわ、どう――」

 

「ふざけんな!!!!!!」

 

僕は力の限り叫んでいた。

 

「なら、僕の、僕たちの仲間を! 家族を! 返せよ!! お前が!お前たちが! そこの女が奪っていったんじゃないか!! 」

 

一息に言い、肩で息をする凛。

 

「――そういうことよ、あなたたちは私たちの大事なものを奪った」

 

「ま、たとえ、皆がいても、甦ったとしても仲間になる気はないけどねー」

 

「……残念、交渉決裂ね」

 

スコールとオータムが武器を構え、同じようにラウラとイリアも構える。

 

「――イリア、頼めるかしら?」

 

「まっかせてよお姉ちゃん!」

 

プライベート・チャンネルで一言二言話し合うとすぐに行動に移った。

 

ラウラが凛の体を掴み、ブーストで加速し、飛び立つ。それを援護するようにイリアはブレードを構え、前にいた二人に斬りかかる。

 

「逃がすかよ!」

 

「逃がさないわよ」

 

イリアの攻撃を避け、逃げた二人を追うべく加速するスコールとオータム。

 

「! 逃がすか!」

 

負けじとスラスターを吹かせて跡を追う。

 

 

「ぐっ……!」

 

凛は全身を襲う強烈な風とGに耐えていた。気のせいかもしれないが骨がミシミシと悲鳴をあげている気がする。

 

「ごめんね、もう少ししたら緩めるから」

 

ラウラが何か言っているが風のせいで何も聞こえない。

 

しばらくすると風とGが弱まり、ラウラから話しかけられた。

 

「――来たわね、凛! 気休めくらいにしかならないかもしれないけどこれを使いなさい!」

 

そう言って、ブレード一度しまい、ISの拡張領域(バススロット)から取り出した銃を渡してきた。

 

それはドラグノフ狙撃銃だった。

ロシアが製造したセミオートマチックの狙撃銃で7.62x54mmR(ロシアン)弾を使用する。

SVDとよく称されるがそれはラテン文字表記で、Snajperskaja Vintovka Dragunova(スナイパースカヤ・ヴィントブカ・ドラグノヴァ)の頭文字をとったものである。

 

手にとった次の瞬間には横に大きく回避行動を取ったため思わず銃を落としそうになる。

 

「行くわよ、しっかりね!」

 

ラウラが僕にそう言葉を投げかけてから急激なGが襲う。

必死に食いしばりながら耐えるとまた急に緩まってからラウラから声がかかる。

 

「撃って!」

 

そういわれた僕は反射的に構え、スコープをのぞきこむ、そしてこちらに向かってきている一人の姿を捕らえる。

 

ダンッ! ダンッ! ダンッ! と三発撃つが当たった手応えが感じられない。

「はははははっ! どうしたどうしたァ、アタシたちはここだぜェ!」

 

チャンネルを繋いでこちらに話しかけてくるオータム。

 

「――イリア!」

 

「ごめんお姉ちゃん! 今別のやつと戦ってる!」

 

ラウラはイリアとチャンネルを繋いで状況を一度聞いてから再び加速する。

 

後ろに付かれ、マシンガンを乱射してくるのを避けながら進むラウラ。

 

「もう少しでそっちに行くよ! それまで頑張って! くっ、このぉっ!!」

 

イリアも苦戦しているようだ。

 

「凛、行くわよ」

 

ドラグノフ狙撃銃を撃っていた僕にそう言って加速する、だがだんだんと距離を詰められつつある。

 

「――スコール! めんどくせェかけっこも終わりにすんぞ、エネルギーがそろそろヤバイんでな!」

 

「それもそうね、分かったわ」

 

プライベート・チャンネルで何かを狙っている二人。

 

「(――今だ!)」

 

イリアはスコールの動きが緩んだ隙をついて貯めていたエネルギーを使い、一気にラウラの元へと加速する。

 

「あらあら、逃げられたわ」

 

「あぁ? 別に構わねぇさ、一度に殺る相手が一人増えただけさ」

 

チャンネルを繋いでいる二人はニヤリと気味の悪い笑顔を浮かべていた。

 

「――お姉ちゃん!」

 

「来たわねイリア、このまま行くわよ!」

 

合流した三人はそのままスコールとオータムから逃げようとしていた。

 

「っ、来てるよ二人とも!」

 

スコール達が速度を上げて追って来ていることを確認、報告してからドラグノフ狙撃銃を撃つ――がやはり当たらない。

 

 

「――終わりだァ、ガキ共」

 

オータムのそんな声が聞こえた気がした。

 

するとスコープで捉えていた姿が消える。

直感的にスコープから顔を上げる。

 

「っ!?」

 

「っ!? こいつ――」

 

「――っ!? 何!?」

 

百メートルはあったであろう距離をわずか数瞬の間に詰め、その凶刃を振り上げているスコールとオータム。

それに始めに反応したのはイリアだった。

すぐにブーストを構え、防御の姿勢をとる。

ラウラは凛を守るようにブレードを構える。

 

「オラァッ!!」

 

「ぐうっ――――」

 

ブレードでガードしたイリアだったが加速を利用した重い斬撃に体勢が崩れ、力業で吹っ飛ばされ地面に激突した。

 

「はあっ!」

 

「ぐっ――あっ――!」

 

同じように力業できたスコールの一撃を何とか受け止めたラウラだったがスコールは返す刃でもう一度攻撃した。

ガードしていた場所とは別の所にきた一撃になすすべなく食らってしまう。

 

その衝撃でラウラの手が放れ、空中を飛ぶ凛、しかし長くは続かず落下を始める。

ラウラは近くにあった廃墟の様な建物に激突し、廃墟が崩れ去る。

 

凛は落ちる少しの間に体を回転させて足から落ちた。ただそれだけでは衝撃は殺せずに何度かバウンドしてからゴロゴロと転がり、そして止まった。

 

「…………いってぇ……」

 

砂にまみれた顔をしかめ、声を殺して呟く。

見ると左足と左腕があらぬ方向に曲がっていた。

凛はそれを無理矢理骨をもとの位置へと戻す。

すさまじい激痛が襲うが今はそんなことかまっている暇はない。

 

折れていない右足で何とか立ち上がり、ナイフを噛み、銃を握りしめる。

 

二人はいない、だが視線の先にはスコールとオータムがいる。

 

こいつらは皆の仇だ、だから――たとえ刺し違えてでも殺す。

決意を胸に相手を睨み付ける。

 

 

 

 

一方、イリアは地面に激突した後、多少の衝撃でふらつきながらもすぐに起き上がった。

 

「うっ……お姉ちゃん、凛……」

 

立ち上がり、そこでイリアはラウラが建物に激突した所を、凛は砂地ではあるが地面に落下していくさまを見た。

 

「りん……っ!」

 

すぐにスラスターを吹かして飛ぼうとしたときにラウラからチャンネルが繋げられる。

 

「イリア! 急いでこっちに来てっ」

 

「で、でも凛がっ……!」

「分かっているわ、でも早く!」

 

ラウラも焦っているような声色でイリアに言う。

イリアは一瞬凛の方向を見たがラウラのいるであろう瓦礫に全力で加速した。

 

「――お姉ちゃん!!」

 

瓦礫のなかにラウラの姿を確認し、掘り出すように瓦礫を退ける。

するとヘットギアが壊れ、そこから顔をのぞかせているラウラが出てきた。といってもIS自体は崩れた瓦礫の下敷きとなり、身動きがとれないでいた。

 

「けほっ、けほっ。助かったわ、ちょっとお願いがあるの、聞いてちょうだい」

 

「分かった、今瓦礫を退かすから!」

 

そう言ってラウラに覆い被さるように乗っている瓦礫を退かし始める。

 

「違うわ、よく聞いてね、今から私がISから降機(おり)るから私を凛の場所めがけて飛ばしてちょうだい」

 

「な、なにいってるのさお姉ちゃん」

 

「時間がないのよこのままじゃ。私のISを引きずり出してたんじゃ凛が死んじゃうわ――それだけは駄目よ、せめてあの子だけでも守らないと、生かさないと」

 

 

壊れたヘットギアからのぞく目には決意が灯っていた。

 

「――私たちがあの子の『導(しるべ)』になりましょう。私たちがどうなろうとも道を踏み外さないように」

 

「本気、なんだね……?」

 

「えぇ」

 

ラウラはよどみなく返事をする。

 

「分かった。もちろん私も着いていくよ? 私も見守ってやらないとさ、なにやるか不安でしょうがないよ凛も、お姉ちゃんも」

 

「どういう意味よ、それ」

 

ISから降機(おり)たラウラの手をとり体をISで掴み、少し会話する。

 

「あははっ、言葉通りだよ――行くよ」

 

「えぇ」

 

イリアはラウラを抱き抱えスラスターを吹かして加速し、そして凛の元へ投げた。

それなりに速い速度でしかし身動きが出来ないほどでもない速さで飛んでいく。

そして、ラウラはスコール、オータム、凛の戦闘に割って入る。

 

 

 

 

「ぐっ!」

 

割って入る少し前から三人による戦闘が繰り広げられていた。

ただ状況は悪く、不利になる一方だった。

腕や足ははまだ治るまでにはもうすこしかかるがそんなことを言っている場合ではない。そしてこちらの攻撃は当たらず、相手の斬撃は着々とこちらにダメージを蓄積していった。

避けることのできない攻撃やかわすことのできなかった攻撃で斬られ、血液が飛ぶと同時に痛みがやってくる。

だが痛がる暇も傷が治る時間もなく次の攻撃が襲ってくるので凛は徐々に攻撃を食らってしまう。それに相手は手加減をしているのか知らないが先ほどから致命傷になるような攻撃をしてこない。

 

「ぐあっ!?」

 

突如背中から感じた痛みに身を硬直させてしまう。

「うぐっ!」

 

そこに今度は前方から斬りつけられる。

どちらともかなり深く斬られたようで血がだくだくと出ていっているのを感じる。

 

「ぐ、ぐぞっ……」

 

口からも血が漏れだし、くわえていたナイフを落としてしまう。

 

銃の効果がないので銃を捨て、落としたナイフを拾い、せまりくるブレードを逸らそうとするが威力が半減するだけであまり意味が無いように思った。

全身に切り傷を負い、服も肌も赤に染まっている。

体を動かし、手を動かし、治りかけの足を動かし、反撃する。たとえ当たらなくても手を振るい足を動かす。

 

「ッ――! ごぼっ、――ッ! ――!」

 

血が喉を上り、息が出来なくなる。それを吐き出して斬られ、斬り返す。

その目に諦めの色は浮かんでいない。

 

――しかし。

 

「…………」

 

ぴたり、と凛の動きが止まる。

右手に持ったナイフを高々に振り上げた状態で動きを止めていた。

 

「…………」

 

凛は気絶していた。血を流し過ぎたための貧血のようなものである。

ここにきての意識の消失、だが凛にはどうすることも出来なかった。

 

「(なんだァ、誘ってんのか? まぁいい、どっちにしろ殺すだけだしなァ!)」

 

一瞬の躊躇いの後、オータムは地面を蹴るのと同時に二割を切ったエネルギーを使い、スラスターを吹かせて加速しブレードを前に出し凛を突き殺さんとする。

 

凛はそれでも意識が戻らず、ただそこにたたずんでいた。

 

 

――ブレードが凛に突き刺さらんとした直後、凛は横から殴られたような衝撃を受けて吹っ飛ぶ。それのおかげで意識がだんだんと戻ってくる。

 

「……ぅ…………あ……れ? ぼくは――」

 

「やっと起きたかしら? まったく危なっかしいんだから」

 

まどろんだ思考がラウラの声を聞いて冴えてくる。 それにぼやけていた視界も鮮明になる。

 

そこで――

 

「ら、うら?」

 

僕は――

 

「何かしら――ごほっ」

 

腹部にオータムのブレードが突き刺さっているのを見た。

 

「ちっ、邪魔しやがってテメェはなるべく傷つけんなってスコールに言われてんだよ!

 

「させないわよ――イリアぁっ!!」

 

悪態をついて刺さったブレードを抜こうとするがラウラは抜かせまいと押さえつけ大声でイリアの名を呼ぶ。

 

――キュイン。

 

そんな小さい音が聞こえたかと思うとオータムのブレードが根元から切断されており、ゆっくりと離れていく。

 

「な――」

 

ラウラはブレードを腹部から生やしながらも数回たたらを踏んだだけで留まる。

 

「残念、あなたの負けよ、オータム」

 

ラウラはオータムに笑顔を向けて言った。

 

「――に――――!?」

 

ラウラの言葉を聞いた直後、まるで待っていたかのように二の腕から腕が斬られておりゆっくり落ちてゆく。

すぐに距離をとろうとしても上手く体が動か無いことに驚愕する。

だがそれもすぐに分かった。

両足が斬られていたのだ、しかもISの装甲ごと。

 

左腕で反撃しようとして失敗する。

左腕もすでに無かった。

 

「――あり……え、ねェ…………」

 

何故、絶対防御が発動しなかったのか、一体あの一瞬で何があったのか、それを考える間もなくオータムの意識は塗り潰された。

 

「あ、ああああ、ラウラ、ラウラ!」

 

「大丈夫よ、これくらい、それより……イリアは?」

 

凛はラウラに駆け寄る。腹部から血を流しているラウラだが何でもないとばかりに凛に言い、イリアを探す。

 

「お姉ちゃん!!」

 

するとイリアの声が反対方向から聞こえた。

イリアがスゴい速さでこちらに向かってきていた。

「無茶しすぎだよお姉ちゃん!」

 

「しょうがないわ、でも今は早くここから移動しましょう。イリア、頼めるかしら?」

 

「それよりもまずはこれ使ってお姉ちゃん! 死んじゃうよ! あの時から使ってないじゃんお姉ちゃん!」

 

いそいで右腕のISを外し注射器を取り出すイリア。

その容器には『Nano・Rejuuenate(ナノ・リジュバネイト)』とかかれていた。

 

「使って、ない、ってどういう、こと」

 

「後で話すわ、イリア、ありがとう」

 

僕の問いにそう答え、注射器に左手を伸ばす。

 

「――隙だらけよ、あなたたち」

 

突如、そんな声が三人の耳に響いた。

 

「うあっ!」

 

まず注射器を持っていたイリアの右手が飛んだ。

 

「ぐっ――!」

 

次にそれを取ろうとしたラウラの左手が切断された。

 

「ぐあっ!?」

 

最後に凛が胴を斬られた。

 

「イ、リアァァァァッッ!!」

 

ラウラは叫びイリアの名前を呼ぶ。イリアはラウラに目線を向けた。それだけでイリアは伝わったようで、ラウラと凛を抱える。

 

「――逃がすと思うかしら?」

 

背中を向けているイリアにスコールの持っているブレードが襲いかかる――しかし。

 

――――キュイン。

 

そんな音と共に二人を抱えたイリアは消えていた。

「――……逃げられちゃったわね」

 

消えた方向を見てスコールは呟く。

 

「――まあ」

 

そして手に奪った『Nano・Rejuvenate(ナノ・リジュバネイト)』を持ち、それをオータムに刺して注入する。

 

十秒ほど経ち、効果があったようでオータムは大きくむせる。

 

「げほっごほっごほっ……あ、アタシはどうなったんだ……?」

 

「四肢が斬られてるわ、動きたくても動けないでしょう」

 

「ちっ……あの、ガキ、どもは……どうした?」

 

「逃げられたわ、でも片方は長くは持たないでしょうね」

 

帰りましょう、とスコールは四肢のないオータムを抱き抱えようとしてオータムに指摘される。

 

「腕……折れてるぜ、スコール」

 

え? と間抜けな声を出し腕を見る、すると左腕が捻られていた。

 

「ぐうっ!?」

 

脳が理解し、痛覚が働き痛みを訴える。

スコールは顔をしかめて、痛みに耐える。

 

「やって、くれたわね――あのガキ」

 

脂汗を流しながら消えた方向を睨む。一体あの一瞬でどうやって腕を折ったというのか。

 

「まぁ、いいわ。K(ケー)『も』回収して行きましょう。目的は達したようなものよ」

 

痛みに耐えながらもニヤリと不気味に嗤うスコールだった。

 

 

 

 

 

 

 

キュインと音が聞こえたかと思ったら飛んでいた。 音も無く飛んでいた。

 

しかしそれは長くは続かなかった。

急にバランスを崩したイリアは地面に僕らを庇うようにして落下した。

 

「うっ、だ、大丈夫、イリア? ラウラ?」

 

ラウラは出血が止まらずにいた。いくら僕が腕を圧迫して抑えているといっても腹部の傷はどうしようもない。

どうしよう、とイリアの方を向いて心臓が止まるかと思った。

 

仰向けに横たわっているイリアは顔色を真っ青を通り越して白くなっていた。 それに玉のように汗をうかべ、呼吸音も獣のように荒くなっており、ヒュー、ヒューと掠れた音が聞こえる。

 

「イリアっ!!」

 

僕はイリアに向かって叫んでいた。

何で!? 斬られた腕の血は止まってるのに!? なんでなんでなんで!?

凛は訳が分からなかった。

 

「イリア……あなたまさか…………」

 

ラウラは分かったようで驚愕の表情を浮かべていた。

そのときイリアの視線がラウラと合い、呼吸音が少し緩まり言葉を発する。

 

「まぁ、ね。ほかに……これしか……な、かった、から……ね。ごめん、おねえ、ちゃん……」

 

「――だいじょうぶよ、私たちは一緒、だから――凛、ちょっと手を離して」

 

 

ラウラの提案に躊躇うが、何故か離してしまった。

溢れ出す血液に目もくれず、イリアの手を握る。

 

「――……そっかぁ、おねえちゃんも、なんだ」

 

「げほっ……そうよ」

 

しばらく手を握っていた二人はやがてこっちを向く。

 

「――凛、こっちに」

 

ラウラに言われて僕は近くに行く。

 

「皆のところ(爆弾の落ちた所)に行きたい?」

 

そういわれた僕は、あの光景を思いだし、拳を握りしめる。

 

「うん」

 

「そう、ならお願いがるのよ」

 

頷いた僕の目を見てラウラは告げる。

 

「私たちの変わりに皆を探してくれないかしら――?私たちは近くまでしか行けそうにないの」

 

お願いするように僕に言う。

 

「――たとえどうなっていても皆を見つけてくれる?」

 

その問いに僕はこくりと頷いた。

 

「――ありがとう」

 

そう笑顔を向けて言ってきた。

 

「行きましょう。さぁ」

 

イリアがゆっくりと立ち上がり、ラウラと僕を抱き抱える。

 

「――いいのおねえちゃん、ほんとうに」

 

「覚悟は出来てるわ、イリアと一緒よ? それに私ももうそろそろだったしね」

 

「……そう」

 

ポツリと呟いたイリアはどこか悲しそうで悔しそうだった。

 

――キュイン。

 

また音が消える。その一瞬に。

 

「「ちょっと心残り、だよね……」だわ……」

 

と二人が呟いたのが聞こえた気がした。

直後、浮遊感が襲い、地面に転げ落ちる。

 

「ぐっ……!」

 

衝撃で二人と離れ、投げ出される。

ふらふらと立ち上がり二人のそばに行くと二人は体を大の字にして地面に体を倒していた。ISからは投げ出されるように降機(で)ていた。

 

「二人とも?」

 

「凛――」

 

二人は僕が来たのに気付くと緩慢な動作であるものを取り出す。

 

「これ、あなたに返すわ――いや、あなたに、凛に持っていて欲しいの」

 

「私も、お願いね。これは凛が持つべき物だよ、私たちはそれでいい」

 

二人が取り出したのは僕が二人に使ってと言った銃だった。

 

「どういうこと……」

 

意味が分からないといった風に交互に二人を見るがそれが分かる答えを二人はくれなかった。

 

「それと……これ――」

 

ラウラは銃を置き、胸ポケットから写真を取り出した。

それは僕が二人に持っていて欲しいと上げたものだった。

 

 

「な、んで? なんでだよ! なんでぼくが、二人が持っていてよ!」

 

「私たちは、もう一緒に行けないの。でもあなたは違うわ」

 

「凛は大丈夫。凛なら大丈夫だよ」

 

諭すように言う二人に凛は叫ぶ。

 

「やめてよ! 聞きたくない! なんでそんな、死ぬみたいな――」

 

僕の手をラウラとイリアが優しく掴む。

 

「――忘れないでね、私のことを。イリアのことを。皆のことを。私たちの思い出を」

 

「だいじょーぶ、凛が喜んだら一緒に笑いあうし、落ち込んだら励ましてあげるし、泣いたら慰めてあげるし、道を踏み外しそうになったら正してあげるから。だから――生きて、凛」

 

「らうらぁ……いりあぁ……イヤだよ…………」

 

ぼろぼろと涙を流す凛、ラウラとイリアも涙を流していた。

 

「これからたとえどんなことがあっても、私たちは見守っているから、皆も」

 

「爆発の落ちた場所はこのまま真っ直ぐいけば着くよ――」

 

「らうら……イヤだよ、いりあ……お別れなんていやだよぉ……」

 

涙でぐしゃぐしゃの顔にイリアとラウラは手を伸ばし頬に添えて言う。

 

「「――しっかりしなさい、私たちはいつまでも一緒よ」だから」

 

「ううぅ……らうら、いりあ……」

 

凛は頬に添えられた手に自分の手をあてる。

 

カサリ、と紙の感触とともに二人の冷たい手の感触を感じた。

その手を凛はギュッと握りしめる。

 

二人はどこか満足したような顔を凛に向けていた。

 

「さぁて、ちょっとねむくなってきちゃった。おねえちゃん、りん、ひとあしさきにおやすみ」

 

「えぇ、お休みなさい」

 

「…………」

 

そういって目を閉じたイリア。

 

「凛――」

 

「…………」

 

「――ありがとう。私も眠くなってきちゃったの、だから先に眠るわね」

 

そういって目を閉じたラウラ。

 

「……ラウラ……イリア」

 

凛は口を開いて二人に告げる。

 

「――ありがとう。僕はラウラとイリアのおかげでまた歩むことができました。お父さんとお母さんが死んであそこに連れていかれて二人に会うことがなかったら僕はこうして生きていません。だから――」

 

「――ありがとう、ございました」

 

しずかな場所に確かな声が聞こえた。

 

「「――そう言ってくれて、ありがとう、凛」」

 

ラウラとイリアは最期に口だけを動かし、凛に言った。二人の表情はとても満足したように、晴れやかに、笑顔だった。

 

少年しかいなくなった場所で、少年は静かに写真を取り、二挺の銃を握りしめ、抱き寄せる。

 

やがて堪えきれなくなったように天を仰ぎ咆哮する。

 

「うあああああぁああああああああぁぁぁっっっっ!!!!!!!!」

 

その咆哮はしばらくのあいだ虚空に響いていた。

 

 

 

 

 

――The story got off once curtain here.

(物語はここでいったん幕が降りました。

 

 

――Is whether the boy began to walk again, I do not know anyone.

(少年が再び歩き出したのかは、誰にも分かりません)

 

 

 

――――――Hopefully so girls will let him me. (――――――願わくは彼女達が僕を許してくれますように)

 





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『託されたもの』


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