それとある生徒の処罰等に関しては作者にはこれくらいしか思い付きませんでした。
「――テクニカル!」
「ッ! はあっ!」
俺が言った言葉に反応して一夏は横にスライドするように加速する。そうして横から俺に向かって斬りつけてくる。
「ふっ!」
俺はそれをショートブレード『アヴェンジャー』で受け止める。
「――よし、今日はもう終わるか」
「や、やっとか……」
俺がそう言うと一夏は雪片をおろし、ISを待機状態にしてへたり込む。
「最初よりは反応速度も上がったな、それに操作技術も」
「それでも、軽く受け止められてるとちょっとへこむぞ……」
一夏が力なく言うと俺は少し笑って答える。
「そりゃ、指示を出してるのは俺だしな」
ちなみにこのかけ声には訳がある。
複数種類があるが、これはトリッキーな動きで攻撃しろ、支援するという意味で一夏にやらせている。
学年別トーナメントがタッグマッチトーナメントになってしまったため、一夏と連携を図るべく思い付いたのがこれだった。
試合ではタッグなので二対二ということになるが、自ずと一対一の形式に仲間との連係が肝になってくるだろう。
だがそれでも仲間の支援が出来ない訳ではないので覚えておいて損はないのだ。
それに俺の新しく届いた換装装備(パッケージ)に下手をすれば仲間まで巻き込む物があったのでこの単語だけでも絶対に忘れるなというのは言っておいた。
俺もISを解除して手足を外し、いつも通りでかいケースにしまい、休憩する。
「ホラよ」
「お、すまんな」
休憩していると、一夏がスポーツ飲料水をくれた。これはありがたいのでいただくことにした。
パキュッ、と 独特のキャップが外れる音、飲み口を口につけ、ゴクゴクと音がなってしまうくらいに飲む。どうやらそうとう喉が渇いていたようだ。
「ふぅ~……生き返る、サンキューな一夏」
「気にすんなって」
一夏とたわいもないやり取りをしていた。
先週の一件を織斑先生と楯無会長に報告したところ、織斑先生は『目は光らせておく。それに警戒はさせるから安心しろ。その様子だと部屋割りで織斑を離してデュノアを隔離したところで状況が悪化するだけか、周りに被害がでるだろう。織斑には悪いがもう少しこのままでいてもらうことになるだろうな――――だがデュノアとは私が直々に話し合いをした方が良さそうだ』といっていた……完全に目が据わっていたのでそうとう怒っているなというのが肌で感じられた。
楯無会長からは『ヤバい、ヤンデレってヤバい。 お姉さん、ヤンデレ属性は初めて見るけどこんなに恐怖を抱くものなのね。 ギャルゲーとかで迫られてる主人公の気持ちが分かったわ……』とデュノアに対して戦々恐々といった様子で話していた。それと気付かれないようにデュノアの監視や他の生徒に被害が及ばないようにするために教員も手伝ってくれるそうだ。 それとこのことに関してはデュノアは二週間の自室待機と(本人には秘密で)無期限の監視対象者という処罰を下された。一夏には本来のことを伝えるとデュノアのことを心配するだろうという織斑先生のお言葉をもらい、本来のことは言わずに別の理由を言っておいた。
理由は公(おおやけ)には『デュノア社の事件による精神的ショックからくる傷を癒やすため』という名目の元である。
ちなみに、あの後、一夏から回収した物は俺と同じマカロンだったが見た目は問題なかった。『見た目は』であるが。
調べたところ一夏のはマカロンの中にデュノアの髪の毛が入っていたものがあった。
それにマカロンが所々赤くなっていた部分を調べたところ、血液だということが分かった。
俺の渡されたマカロンの箱の中に付着していたのもやはりデュノアの血液だった。一夏のを見るにいやがらせの類いではないかと思う。
マカロン本体も調べてもらったところクマリンという物質が多量に検出されたらしい。
まぁ一般的に言えば香辛料のシナモンだが、これを過剰に摂取すると人体に影響を及ぼすらしい。
匂いはそれほどでもなかったが完全に食い物でなくなっている。
一緒に見た楯無会長と織斑先生が両方のマカロンを見て言葉を失ってから早急に事に取りかかるといっていたので良かった。
「にしても、食べ物を粗末にしやがって……」
「ん? 何か言ったか?」
「いや、何でもない」
一夏はそうか、といって再び飲料水を口にする。
「そういえば、あの後持ってったマカロンはどうしたんだ? すごく旨そうだったんだが」
「ん、あぁ、あれか? 悪いな今度普通のを返してやるよ」
どっかでマカロンでも買って渡すか。
「あ、もしデュノアに味の感想とか聞かれたら食ってないって答えるか人にあげたとか、とにかく表現を濁せよ? これからの保険のために」
「? なんの保険だよ」
「これからのだ。それにデュノアが一夏に菓子を作ったなんてことが学園内知られてみろ? 色々と起こるぞ。 それにデュノアが作ってばっかなのはなんとなくわるい気がするだろ? だからだよ、それとアイツのことで『そういった』面倒事を起こしてほしくないからな」
うまくごまかせたかどうかは分からないが、一夏は少し考えてからはっと何かを思い付いたような顔をして口を開いた。
「じゃあ俺がお返しに何かを作ってあげればいいのか!」
……予想の斜め上をいくきりかえしに呆然とする俺。
「………違うわ! そんなことしたら余計に悪化するっての! ただ次からはデュノアが作ろうとしたり、作ったりしたら断れってことだ。分かったか?」
一夏は分かったような分からないような、何とも言えないような顔で分かったよ、と頷いた。
「――よし!」
しばらくしておもむろに一夏は立ち上がりこちらを向く。
「――汗流しに行こうぜ!」
「断る」
「なんでだよ!?」
むしろ何故いけると思ったのか。
「自分の部屋で汗くらい流せるだろ」
「……でもすぐ流さないと気持ち悪くないか?」
「――普通はな、けど慣れてる」
あっちでは汗なんか流せなかったのはザラだし、汗なんか拭いても拭いても、流しても流しても出てくる。それにこのISスーツはそういった管理も完ぺきなようで思った以上に不快感が無いというのが大きい――というのは建前で本当は体の傷を見せたくないというのが大きい。
「いいじゃないか、たまには数少ない男同士、裸のつき合いってことで」
…………最近、一夏があっちなんじゃないかと思ってきた。何だこいつ、男が好きなのか? やめろよ俺を巻き込むなよ、俺にそっちの気はねぇんだから。
「普通に嫌だっつうの、百歩譲ってそれだったらJapanese Hot spring(温泉)だろ? 何で汗流すだけで裸のつき合いなんかしなきゃならんのか」
「ホットスプ……あぁ、温泉か、まぁそれならな」
何かに納得したような様子で一夏は頷いて着替えに行った。
……何故だろう、激しく誤解されたような気がする。おい、なに納得してんだ、別に一緒に温泉にはいるとはいってねぇぞ
おい。
それから自室に戻り、軽く汗を流してから携帯に着信が入っていることに気付いた。
着信は二件。
一件目は社長からで『IS輸送護衛の仕事でイギリスに飛ぶ。あれのデータ採集、頼んだぞ』だそうだ。
あれとは俺がISに搭載してる武装のことだろう。
二件目も社長のようで『最近、色々な国でISが盗まれる事件が発生しているらしい。アメリカでも輸送中の『アラクネ』とよばれるIS一機が何者かに盗まれた、お前も気を付けろよ、なにせ試験段階とはいえ、高性能な換装装備(パッケージ)を持ってるんだからな』と、警告をもらった。
しかし妙だな。ISの、しかも輸送中となれば同じくISや軍など強組織が護衛を勤めたりするはずだがそれからISを盗むとは並外れたちからを持っているとしか考えられない。
こんな仕事が舞い込んだのも会社の規模が大きくなったからなのか、はたまた誰もやりたがらなかったからなのか、なんとも言えないな。
色々と思考を巡らせながら俺はある準備をしていた。ん? なんの準備かって? ちょっとした荷造りだよ。
「えぇと、これは……一応持っていくか、社長に言われた件もあるし」
荷造りが終わり、机の上に置いていた携帯用のISの手足を制服の内ポケットにしまう。
そして今まで隠し持っていたナイフを置き、代わりに動物の骨を削って作ったボーンナイフとでも言おうか、そのナイフを懐にしまう。
「さて、行くか」
そう呟いて部屋を出る。別に明日か明後日には帰ってくるから部屋の鍵はかけ…………とくか、うん。一応。デュノアのことを思い出して鍵をかけた。入られて何かされたら困る、何もないけど。
「……お?」
「ん? どうしたんだ、そんな荷物持って?」
廊下で一夏と出くわした。
これから行こうと思っていたので丁度いい。渡すものもあったしな。
「あぁ、俺、ちょっと外せない大事な用事があるんだよ。それでアメリカに行くから。4日、5日、遅くて一週間後には帰ってくるから」
「ちょっ!? いいのか!? タッグマッチトーナメントまであと数週間しかないんだぞ! それに勝手に行って大丈夫なのか!?」
「何、織斑先生には許可を貰ったから大丈夫だ。トーナメントは……練習、サボるなよ?」
織斑先生は拝み倒して何とか許可を貰った。まぁ貰えなかったとしても無理矢理行くが。
俺は一夏に二枚の紙を渡す。
「……これは?」
「試合で使おうかなと思った『単語』数種類と練習メニュー」
「……多くないか? 練習メニュー」
「頑張れ、別に無理に一人でやろうとしなくていいんだぞ?操作技術が上手い代表候補生や教員がたくさんいるんだ、二人一組(マンツーマン)でやってもよしだし用は何でもありだ。一夏なら大抵のやつは教えてくれるさ、そのあとが大変だろうが」
えぇ、ISを装着した状態で素振り500回とか授業でやった10センチ停止80回とか回数がちょっとバカみたいなことになっているから一夏の顔が少しひきっている。学園でやったことのあるものや基礎的なものを多くやらせようと思った。基礎は大事だ。
「じゃあな、俺もう行くわ。代表候補生の対策とかは帰ってきてからな」
そう一夏に言って横を通りすぎる。
「おう! これ、ちゃんとやるからな――ってどうした?」
後ろから声をかけられたので振り返って返事をするとそんなことを言われた。
「どうしたって……何がだ?」
「何がってお前――」
「何か悲しそうな顔してるぞ?」
そう言われて自分の顔に手をつける俺。
「……マジか? 俺今そんな顔してたのか」
いかんいかん、普段自分の顔なんて見ないからな、どんな表情してるかなんてたまにしか分からん。
「あぁ、いや、何でもないさ、気にすんな」
そうして俺はあらためて一夏と別れた。
「――アンタ、そんな荷物持ってどこ行く気なの?」
一夏と別れてから俺が玄関に差し掛かろうというところで凰・鈴音(ファン・リンイン)と出くわした。
「ちょっと大事な用事があるから帰るんだよ鈴々(リンリン)」
ちょっとからかってやると鈴々は激怒した。
「アンタ! 次それ言ったら只じゃおかないわよ!」
噴火する一歩手前の活火山のようだ。おお怖い怖い。
「はいはい、分かってるよ凰・鈴音」
「フルネームで呼ぶのは何か気味悪いから止めなさい」
「分かった、鈴」
「……何してんだ、凛」
男の声が聞こえたので振り向く。そこにはセーターにジーンズを着て、金髪を後ろで軽くまとめあげて流している女性、サラとTシャツとジーンズを着て短髪の髪が特徴的な男性、トムがいた。
「――っておい!何でここにいんだよ、仕事に行ったんじゃなかったのか!?」
「バカね、行けるわけないじゃない。私もトム(コイツ)も」
見ればサラは頬にガーゼを当てていて、トムは右肩と腕をギブスで止めていた。どちらも見えていないが服の内側には包帯が巻いているだろう。
恐らく前の突入の時のC4が原因だなと凛は思った。
「まぁ理由は分かったが何でここに?」
「ちょっと待ちなさいよ、誰よコイツら」
二人が何故いるのかを聞こうとしたら鈴が聞いていた。
「えーっと、俺の所属してる会社の社員で仕事仲間、だな」
「え、アンタ会社なんて入ってたの?」
「あぁ」
鈴の質問に答えてやると俺の隣に来ていたを物珍しそうに見るサラとトム。
「あら? 凛、その子は?」
「何だ凛、これか?」
トムがニヤニヤと小指を立てて言うので多少イラついたがそれに答える。
「違げえよ。あの、あれだ、友達みたいなもんだ」
うん。正直友達かどうかも怪しいと思うんだ俺。
……おい鈴、小さい声で「コイツと恋人とかないわー。 友達? うーん、まぁ微妙だけどいいか」とか言ってんじゃねぇよ、全部聞こえてんぞパンダが。
「……アンタ今また何か失礼なこと考えてたでしょ?」
何故分かるのか、恐るべき女子の勘。
「何も」
「おっ! 何も言ってなくても分かるってことはやっぱりこれか? これなのか?」
「うっっせぇぞトム!」
あまりにニヤニヤと嬉しそうに言っていたので思わずキレてしまった。
「――まぁ、何で俺らが来たかってのは社長に言われたんだ」
やっと話を戻してくれたトムとサラ。
「何をだ?」
「日時からして今日でしょ? いつもこの日辺りにどこかにフラッと行くじゃない?」
「…………よく分かったな」
「仕事を早く終わらそうと突っ走ったり、一人だけキャンセルしたり抜けたりしてたら誰だって気付くだろうよ」
「……確かにな」
「そんなわけで私達が送ってあげるってわけ、分かった?」
まぁ社長が行ってこいって言ったんだけどね、とサラが俺に言ってくる隣にいるトムも頷く。
「あぁ、分かった。なら早くしてくれ、ここで無駄話して余計な時間を食ったから」
「まあ慌てんなって。車ならあっちにあるから先に乗って待ってろって。俺とサラはちょっと一服してからいくからよ」
「……サラって吸えたのか、煙草?」
吸っている所を見たことがなかったので意外だった。
「えぇ、ごくたまにしか吸わないけどね」
「ふーん。ま、なら早くしてくれよ」
そう二人に言ってから俺は車を探して乗り込む。
「……さてと、嬢ちゃんちょっといいかい?」
凛がいなくなった後、鈴も帰ろうとした時にトムに声をかけられた。
「え、あ、はい、何ですか?」
一応初対面なので鈴は敬語で話す。
「そう堅くならなくて良いぞ? ちょっとした話をするだけなんだから」
「は、はぁ……」
あいまいな返事を返す鈴を見て「まぁ、初対面だし難しいか」といいながら煙草を取り出すのを見てギョッとする。まさかここで吸うつもりか?
「ちょっと、ここで吸うつもり? 周りのことも考えなさいよ」
隣にいたサラがトムに注意をする。
「吸わねぇよ、ブラフ(嘘)だ、お前だって吸わねぇじゃねぇか」
トムはサラに言う。どうやらくわえ煙草のようだ。
「えぇ、おかげで余計な誤解を生んだ気がするわ」
「そりゃあ悪かったな――あ、そうだった。嬢ちゃん、名前は何て言うんだ?」
「え? あ、凰・鈴音といいます」
「じゃあ凰(ファン)ちゃん、凛とは本当に友達かい?」
名前を聞かれたから答えた鈴は呼ばれた「凰ちゃん」という単語に内心で顔をしかめるが質問された内容にもまた、内心で疑問符を浮かべる。
「えぇ、まぁ。そうだと思います」
星野のやつもそう言ってたし、と鈴は内心で付け加える。
「そうか、なら最近変わったことは無かったかい? 凛の周りで」
些細なことでもいいんだ、とトムはいう。
鈴はここ最近あったデュノアの事件のことを言った。
「――報告ありがとう。それと凰ちゃんの他に友達はいるかい?」
「いると思いますけど……」
一夏とも仲が良いようだし友好関係もそこそこあるんじゃないかと鈴は思う。
「そうか、なら良かった」
鈴の答えに軽く微笑むトム。
正直、何故こんな質問をされるのか鈴にはわからなかった。
「あの……何でそんなこと、聞くんですか?」
なので聞いてみることにした。
「凛はね、変わってるのよ、全部が。私達が出会った場所から何まで」
するとサラが口を開く。
「どこで出会ったと思う? ヒントは仕事中で、暑い場所よ」
「えぇっと…………南国?」
いきなりそんなことを言われても困る。
仕事中とか言われても分かんないし。なので変な回答になってしまった。
「遠からずとも近からずってところね。正解は中東よ」
正解に驚いた。なんでそんなところにいたのか。
「しかも、少年兵みたいに銃を持ってたし、すごい強かったのよ? 社長以外皆昏倒させられたから何があったかはよくわからないけどね」
え? 銃!? 鈴はまさかの単語が出てきたことに目を丸くする。
「ま、何でこんなことを凰ちゃんに言うんだって話だが、簡単にいうと凛の力になってやって欲しいんだ」
「もちろん、嫌にとは言わないわ。無理強いさせるつもりは無いもの、気に止めとくだけでも良いわ」
「――っと、そろそろ行かねぇと凛の奴が怒りそうだな。またな凰の嬢ちゃん、話せて楽しかったぜ」
「あら、じゃあね凰さん、話せて楽しかったわ。またね」
二人とも鈴にニッコリとした笑顔を向けて歩いていった。
「あ、はい、また……」
凰・鈴音は先ほどのサラとトムが言ったことを考えていた。
しかし、いくら考えても良い結論は出ず、やがて自分で考えるのを放棄した。
「あ~~~っもう、一夏に言ってみよ」
頭をガシガシと掻きむしりながらそう呟く。
一夏ならあいつと仲良いだろうしタッグマッチだってアイツと組むし……
「うがーっ!! 一夏の奴、何でアタシと組まなかったのよ!」
それも含めて一夏に言ってやると決意を固めて校内に戻っていく鈴。
サラとトムが凛が待っている車に乗り込む。
運転はトムが行う。
「意外と長かったな――っておいトム、車内で煙草は吸うなよ?」
「何だよ、別に良いじゃねぇか」
「思う存分吸ってきたんだろうが」
「知ってるか?俺って意外とヘビースモーカーだったんだぜ?」
「どうでも良い情報ありがとよ、それよりさっさと行ってくれるともっとありがたいんだがな」
「つれねぇな、分かったよ」
煙草を消して車を走らせるトム。
その後、三人は航路で数時間後アメリカに着いた。 そして凛は二人と別れた。
――アメリカのどこか。
もう夕暮れ時にその場に訪れた凛。
かかっている鍵を外し、キィーと音を鳴らす門をくぐり、目的の場所へと向かう。
その場所は木々が点在してはいるが邪魔というほどでもなくむしろ丁度良いといった感じであろうか。そしてこの場所の特徴を挙げるどしたらそれは景色が良い所、であろうか。
やがて凛は目的の『それ』の一歩手前で足を止める。
「久しぶり――」
――風が吹き、木々がざわめき、夕暮れ特有の沈みかけた日の光が凛をそして辺りを暗く照らし出す。
「――皆」
逆光に照らされ、影を伸ばしながらそこに広がるのは無数の墓石――お墓だった。
凛は墓石一つ一つに祈りを込めて回っていった。それはこの中で異彩を放っている二つの空白の墓石にももちろん行っている。
ここの共同墓地にあるすべてが凛の『家族』だった。
そして最後に他の墓石の先頭に立っている二基のお墓の前にしゃがむ。
「久しぶり、『ラウラ』、『イリア』」
凛は他の墓石にもやったように名前を読んで話しかける。
そしてすべてに挨拶を終えると先頭に出ている『ラウラ』と『イリア』と呼んだ墓石の間にある写真が一枚入っている水晶体のような物の前にいき手をそっと置く。
その写真は集合写真のようだった。
「皆、俺、最近ラウラと会えたんだ。『ラウラ・ボーデヴィッヒ』。逞しく、綺麗に成長していたよ――」
凛は出会えたことが嬉しかったような声色で、しかしその写真やお墓を前にしているその表情は今にも泣きそうに顔を歪ませていた。
「――それとごめん。また見つからなかったよ、マインとマドカのこと」
ここにある全ての墓石に書いていない名前を呟き、凛は頭を下げて謝った。
その顔を見るものは誰も居なかった。
楯無side
あ、ありのまま聞いたことを話すわ……。
『私は星野凛からシャルル・デュノアのやった行いを聞いて最終的にヤンデレという意見(脳内で)が出たわ』
な……なにを言ってるのかわからないと思うけど、私もどうしてこうなったのかわからなかった……
頭がどうにかなりそうだわ……清楚系とか一途な乙女とかそんなチャチなものなんかじゃ断じてない。
もっと恐ろしいものの片鱗を垣間見た気がする……。
「どーしたのたっちゃん? そんな怪しげなポーズなんかとって~」
「い、いや、何でもないわ。それより本音ちゃん例の任せたことは何か分かった?」
やっておかなくちゃいけないと思ったポーズを解いて本音ちゃんに聞く。
彼女の他にも生徒会役員の面子で頼んでいる子がいるのだが、彼女の方がクラスも一緒で色々と都合が良いだろうと思い、お願いしたのだ。
星野凛のことについて――
正体がわからない存在をそのまま学園においておくのは危険だ。正直、私が直々に行ってもよかったのだが過去に行った際にどうも私が『裏』の人間だって気付いてるっぽくて警戒してるのよね……。
「うん……調べてきたよー……」
そう言う本音の声のトーンは落ち気味で表情は暗かった。
話を聞くとケースの中に銃が入っていたらしい。
そして同じようなケースがもうひとつあり、ホルスターなどがあったとか。
銃の特徴を聞く限り、私が前に見た物とは違うものというのが分かった。
ただ銃似たようなものらしい。
――もしかして同じ銃を二挺携帯している? なんのために?
「ふむ……それで他には?」
とりあえず銃のことは後で言っておくことにして報告を再び聞く。
「それと……そのケースの中にロケット(写真いれ)が入ってた」
「ロケット(写真いれ)? その中身は見たの?」
「…………うん」
返事をした途端、先程よりも表情に陰りが出る。
「どうしたの? 元気ないわよ本音ちゃん」
いつものぽわぽわな雰囲気はどこにいったのかという感じに私は心配になる。
「うぇぇぇん……ほっしーに嫌われたかもー……」
「ちょっ、本音ちゃん!?」
突然ポロポロと泣き出しこちらに抱きついてくる本音に楯無は動揺する。
「まぁ、ちょっと落ち着きなさいな。この楯無お姉さんにどーんと話してみなさい」
泣いている本音をなだめる。しばらくするとつらつらと話始めた。
「あのね、たっちゃんに頼まれた通りほっしーのこと調べようとしたんだ」
「うんうん」
「そこで自分のお部屋に行ったらかんちゃんがいてほっしーの荷物があったんだ」
「うんうん」
本音ちゃんは簪ちゃんと相部屋である。
「それでたっちゃんに頼まれたこともあるししょうじきほっしーに悪い気がしたから見る気はなかったんだけどかんちゃんにとめられた拍子にバッグが落ちて中身が出てきちゃって……」
本音ちゃんはまたポロポロと涙を流す。
「あれ、絶対に見られたくなかったんだと思う……謝ったけどすごく悲しそうな顔、してたから……」
うわぁぁぁぁん! と泣く本音ちゃんを泣き止むまで抱き止める。
「……ごめんなさいね、本音ちゃん。私の責任だわ」
本音ちゃんに命令したのは私である。その責任は私にもある。
「私も謝りにいくわ。でも本音ちゃんや簪ちゃんだけは許してもらえるようにするから」
本音ちゃんや簪ちゃんは悪くないわ。悪いのは私ね……まったく、目先のことだけ考えていた自分が恥ずかしいわね。
そこで私はあることを思い出した。
「――タッグマッチトーナメントで」
「え?」
「タッグマッチトーナメントで優勝した組は織斑君か星野に何でもお願いが出来るらしいわよ? ま、流れてる噂だけどね」
元のことからかなり歪曲した情報になっていることを二人はしらない。
「……そっか」
「そこで頑張って優勝、もしくは本人に勝って何か一つ聞いてくれる、とかね。もちろんお姉さんも手を貸すわよ!
意気揚々と言う楯無に本音はじょじょに表情を変えていく。
「――うん、私がんばるよ~! 優勝は無理でもがんばってみせるー!」
やっともとの元気に戻った本音を見て安心する楯無。
「そうと決まればさっそくれんしゅーだー! おーっ!」
揚々と生徒会室を飛び出して行った本音を見てクスリと笑う楯無。
「あんなにやる気に満ち満ちた本音ちゃんは始めてみるわね」
これはお姉さんも頑張らないとな。
内心でそう意気込む楯無であった。
「そういえば」
「(――ロケット(写真いれ)の中身のこと聞いてなかったわね)」
でもあとで聞けばいいか、と思考を切り替える。
さてと、本音ちゃんと愛しの簪ちゃんのためにもやることやりますか。
恋は盲目ならぬ、妹に盲目――こちらも珍しくやる気に満ちている表情をしていた。
楯無sideout
シャルルside
「――僕とタッグを組まない?」
目の前に立っている人物意外誰もいない場所でシャルロット、シャルル・デュノアはそう呟く。
たたずむのはラウラ・ボーデヴィッヒ。
冷えきった目で僕を見てくる。
「何故だ、正直貴様と組む理由が私にはないが」
ニヤリと僕は笑みを浮かべる。
理由? あるじゃないか。
「理由? あるじゃないか、これ以上ないくらいの理由が」
「………言ってみろ」
何か癪にさわったのか目を細め纏う雰囲気も冷たくなる。
「キミの目的は一夏を倒すこと、僕の目的は星野凛を潰すこと。どうだい? これでもまだ理由がないとでも?」
ラウラ・ボーデヴィッヒが一夏を敵視しているというのは今までを思い返せば分かる。
一夏を傷つけられるのは腹立たしいがそうしないとアイツを潰せない。我慢だ、僕が速くアイツを潰して僕がやさしく一夏の相手をすればいいんだから。
「……いいだろう。少々不本意だが貴様のその案に乗ってやる」
「どうもありがとう」
「ただし――」
ニッコリと笑ってお礼を言う僕にラウラ・ボーデヴィッヒは口を開く。
「私の邪魔をしたりした場合は貴様も敵同様に屠(ほふ)ってやるから肝に命じておけ」
「分かった、覚えておくよ」
――それはキミも一緒だけどね。あいつを排除してから君を狙うよ。
シャルルは内心で言葉をつけ足した。
シャルルsideout