それからタイトルからでもわかる通り、姉妹回です。ちょっと強引だったかもしれない……。
いい加減タッグマッチトーナメントやれよっていう人はあと一話だけ待っていてください……
それでは、どうぞ。
「見つけた」
凛は学園中を探しまわり、そして見つけた。
屋上――そこに彼女はいた。
簪は屋上に取り付いているフェンスに体をあずけるようにしてこちらに背を向けている。
「簪さん」
一声かけると若干涙声で鬱陶しそうに答えた。
「…………なに?」
「いや、簪さんが心配になってね、見に来たんだよ」
「……そう、でも今は帰って。私は一人になりたいの」
「今の状態で一人にしておくわけにはいかないな。そういう状態が一番危ないんだよ」
この場所なら飛び降りとかな、と凛はつけ足す。
「……悪いけど、あなたには関係のない話、だから帰って。一人にさせて」
体をこちらに向けて願うように言う簪。表情はうつむいているため伺うことができない。
「……姉妹そろって同じようなこと、言うんだな。だがもう俺も関係のある人なんだよ」
やっぱり、姉妹ってすげぇなー、と凛は呟いた。簪は凛を睨むように顔を上げて口を開く。
「…………どういうことよ」
「ん? そのままの意味だぜ、もうのほほんさんと楯無会長から話は聞いたんだ」
その言葉を聞いてわずかに簪の眼が見開かれる
「…………そう、本音もあなたも『あの人』の味方なのね」
姉でも楯無でもなく固有名称で言う簪、その顔には諦めたといっているように影が落ちていた。
「いや、俺は会長の味方じゃないぞ」
「……え?」
突然の物言いに目を丸くする簪。
「――だが簪さんの味方でもない」
簪は今度は困惑といった表情を浮かべる。
表情が微妙ながらにコロコロと変わるのは面白いな、と凛は心の中で思った。
「……じゃあ何、なんで私のところに来たの?」
「――簪さん、姉のこと、楯無会長のこと、どう思ってる?」
簪の問いに問いを重ねてきた凛。
簪は自分の問いの回答が得られなかったことと心情的に苛々していた。
「……どういう意味よ、私の質問に答えて」
「恨んでるか、憎んでるか、心の底からいなければって思うか?」
「それがなんなの! えぇ、憎んでるわよ、いなければ良かったって思ったわよ! そうだったら私は……私はこんなに苦しまずにすんだもの!!」
簪の心の内を吐露するように叫ぶ。
普段の彼女からは考えられない声量が響く。
「そうか……」
困ったように凛はいったん言葉を切る、それから言葉を紡ぐ。
「楯無会長は簪さんのこと、どう思ってると思う?」
「決まっているじゃない、私なんて更識の出来損ない、いらない子だとでも、思って……るんでしょう……」
楯無にいわれた言葉でも思い出したのか、だんだんと涙声で告げる簪。
「それは楯無会長から聞いたのか?」
「……そんなの聞かなくても分かるわ」
「…………」
「……もういい? なら帰って」
聞きたいことは話したでしょ、と言うかのように背を向ける簪。
凛はしばらくしてからもう一度口を開いた。
「さっき、憎んでるしいなかったら良かったっていったよな? なら――」
「…………」
「もし、姉――楯無会長が本当に死んだらどうする?」
ごくわずかに簪の肩がピクリと動いた。
「俺が所属(はいっ)てる会社で仲の悪い姉弟がいたんだ」
俺はたんたんと話始める。
「いっつも口喧嘩してるような仲だったんだよ二人は。ある日俺と弟が一緒になったチームが派遣先に言ったんだ」
これは俺が大分馴染んだ矢先に起きたことなので忘れるわけもなく覚えている。
「そしたら派遣先で事故にあって弟が死んだんだ」
ビクリと肩を震わせる簪。
「そして息も絶え絶えですぐに救急車を呼んだけど最期になるかもしれないってある言葉を伝えてくれ、って。姉に」
「――『今までごめん。俺が悪かったね、姉ちゃん、ごめんさい。喧嘩しても俺が口聞かなかったときもなんだかんだいっても俺のこと気にかけてくれてありがとう。姉ちゃんの弟でよかった。楽しかった。ごめんなさい』って言って死んじゃったんだよ」
今も現役として働いているサラがお姉ちゃんである。
「それを知った姉は泣き叫んだよ、それも声が枯れるくらいに。一時期精神的に不安定になったときもあった」
「………………」
「簪さん、本当に憎んでいてもいいから一度だけでもいい、姉と話くらいしてみてくれ。もしかしたら謝りたいかもしれない、感謝したいかもしれない、もしいなくなったら本当に何も伝えることができないんだ。もう会えないんだ」
俺のように。サラのように。
身近で苦しむのをもう見たくはない。
「お願いします、一度でもいいから」
俺は深く頭を下げてお願いをする。
しばらく沈黙が続いたが簪の歩く音でうち破られた。
「……顔を上げてよ星野君。ちょっと、こっちが恥ずかしくなる」
靴の音か目の前で止まり、声を発する。
「…………分かった。星野君がそこまでいうんだもん、話さないとあなたに申し訳なくなる。だから――」
「――お姉ちゃんと話すわ、一度だけ、だけど」
俺は下げていた頭を上げて簪の顔を見て言う。
「――ありがとう」
と俺が言ったところでバンッ、と屋上の扉が強く開かれる音が聞こえた。
視線を向けるとそこには息をきらせた一人の女性が立っていた。
「……お姉ちゃん……」
更識簪の姉、更識楯無がそこにいた。
――――――――――――
楯無side
星野凛が部屋から出ていった後、私は悩んでいた。
「私は……間違っていたの?」
二回目の誰も答えない問い。
簪ちゃんの負担を減らそうと。
『更識』としての業をかぶらせないように。
なのに私は、ダメだったというの?
「――たっちゃん」
不意に本音ちゃんから声をかけられて私はバッと顔を上げる。
「たっちゃんかいちょうはまず悩むよりもかんちゃんを探しにいったらいいとわたしはおもうよ~」
「たっちゃんもたぶんかんちゃんのこと避けてたでしょう~?」
本音ちゃんの言葉が胸に刺さる。
確かに仲が悪くなってからこれ以上避けられたくない、嫌われたくないと思っている。
「じゃあさがしにいかなきゃ~、これはたっちゃんの問題なんでしょ~」
「……訓練の時はめいいっぱいしごいてあげるわ」
「うへーいやだな~――いってらっしゃーい」
私はすぐに部屋を出た。本音ちゃんはだぼだぼの袖を振りながら応援してくれた。
「――はぁ。こういうときこそお姉ちゃんが頑張らなきゃね」
気合いをいれるために一度両手で頬をはさむように叩く。
後から来るじんじんとした痛みを受け、自らに発破をかける。
「――よし!」
目指すは簪ちゃんのいる場所。
手当たり次第に聞いて回り、手当たり次第に探し回った。
我ながららしくないことをしていると思う。
「――ごめんなさい! 簪ちゃんを見なかった!?」
「い、いえ、見てないです……」
「――ここもいない!!」
だが、私にはそれだけ大事なのだ。
学校で冷静を取り繕うことよりも、更識としていることよりも妹が――更識簪が何よりも大切なのだ。
「……はぁ、はぁ、はぁ…………」
学園中を走り回って息があがっているけど関係ない、走るだけ。
「あとは……おく、じょう……だけっ!」
屋上に続く階段をかけあがり、扉をあけるそこには――
――星野凛と更識簪がいた。
――――やっと見つけた。
息をきらしながら楯無は心の中で安堵した。
とりあえず、話しかけよう。そしてごめんなさいと言おう。
姉として更識楯無の心は決まっていた。
楯無sideout
簪side
私は激しく動揺していた。
あらためて姉であるこの人を見るとすくんでしまう。
「…………」
星野君はお姉ちゃんが来ると何も喋らなくなり、いつの間にか屋上の端によってこちらを見ていた。
両者とも気まずい沈黙のなか、息を整えたお姉ちゃんは一息ついてから私に一歩分だけ近付く。
「ッ」
無意識で一歩下がってしまう。それを見たお姉ちゃんは苦笑いを浮かべてこっちを見てくる。
「……簪ちゃん」
お姉ちゃんは一歩目で足を止め、話しかけてきた。声は少し震えているように聞こえた。
「………………何?」
喉が、声帯がうまく言葉を紡ぎ、発音するまでに時間がかかった。
でも発せられたのはそんなそっけない単語一つだった。
「話が、あるの」
そう言ったお姉ちゃんの行動と言葉を理解するのに時間がかかった。
「――本当に、ごめんなさい」
体を折って頭を下げ、私に謝ってくる姉さん。私の言葉を待たずに続ける。
「私は、あなたが少しでも『更識』の重荷から外れてほしくて――ってこれじゃ言い訳ね……えっと」
四苦八苦というのが伝わってくるかのようだ、こんな姉さんは見たことがない。
「私はあなたに苦しんでほしくなかったのに私のせいで苦しんでいたのよね……私の言葉で」
そうだ。私はあの言葉で全てを真っ黒く塗りつぶされたようなものなんだから。
ふざけるなと――。
あなたのせいだと――。
姉さんに告げようとしたが何故か声が出てこなかった。
「――だから、ごめんなさい。私は、私は姉として言ってはいけないことを言ってしまったわ」
「ごめんなさい。許してほしいなんて厚かましいことは言わないわ、ただ謝りたかったの」
「…………」
私の喉は何も発そうとしない。
ただ頭を下げて謝る姉さんを見て何かの感情が生まれたが、それが出てくることはなかった。
「………………」
「………………」
「――……じゃあ、私はもう行くわね。簪ちゃん、ごめんなさい」
しばらく下げていた頭を上げて私を見てから言う。その両目にはうっすらとだけど涙が浮かんでいた。
そして姉さんは踵(きびす)を返して屋上を後にしようと歩いていく。
一歩、また一歩と私と離れていく。私の前からいなくなっていく。
――あぁ、まだ何も言ってないのに。
――私も姉さんに言いたいこと、たくさんあるのに。
――待ってよ、いかないで。おいていかないでよ、また一人にしないでよ。
「――――待って」
不意に自分の口から喉を震わせてそんな言葉が出てきた。
姉さんは驚いたような表情でふりかえって私を見ている。
「――私はまだ、何もいってない」
勝手に私の口からそんな言葉が出てくる。
「――姉さん」
「………………なに、かしら……」
弱々しく訊ねてくる姉さん。
私の言葉は私の意思とは関係なく続けられる。
「なんでいつも私をひとりにするの?」
私の言葉に姉さんはびっくりしている。私だってびっくりしている、違う。私の言いたいことはこれじゃない。
「――いつもひとりはいやだよ……」
何で? 何で私は、違う。私の言いたいことはこんな言葉じゃない。
「簪、ちゃん…………?」
「何で、わたしをおいていくの?」
口を伝って出ていく感情(ことば)。私の考えていたこととは真逆の答え。
熱い液体が頬を伝っていく感覚があった。
「……もっと、はやく言ってよ…………」
――……あぁ、何となく、自分の心が分かった気がする。
多分私は姉さんを恨んでいたんじゃなく、姉さんと一緒にいたかったんだ。姉さんが一人で完成させたIS、私も一人で完成させようとしていたのは多分、同じところに立ちたかったから。
姉さんに近づきたいとは似て非なるもの、一緒にいたい――昔のように共にいたいということなんだろう。
「――お姉ちゃん、私、またお姉ちゃんと一緒にいていいの……?」
甘いのかもしれない、でもそれでいい。
「それを私に聞いてどうするのよ……」
うつ向いて、声を震わせながら呟くように言う姉さん。キラキラと地面との間をはしり、濡らしていく光の粒。
「私を、こんなどうしようもない姉を、許してくれるの……?」
か細い声で呟かれた言葉、私はそれに一拍の間を置いて答える。
「――許さないよ」
「――――ッ!?」
「でも」
今までで一番体を震わせて反応したが私は姉さんが次の行動をする前に言葉を発する。
「『お姉ちゃん』も許さなくていい」
私を。そして楯無(自分)を許さなくていい。
罪を消すことは出来ない。黒に塗り潰された色を元に戻すことは難しい。でも――
「……また、『二人で』やろうよ。色んなこと」
私とお姉ちゃんで罪は背負えばいい。
黒く塗り潰された色は白で上書きできる。
だから、そこから始めればいい。やがて白に塗り潰される、いろんな色で描くことができるようになる。
お姉ちゃんはバッと顔をあげる。
そして涙を目尻から溢れ出させている。
「……簪ちゃん」
「何? お姉ちゃ――」
不意にお姉ちゃんに抱きしめられた。
温かかった。私も涙が出た。
「――えぇ、えぇそうね!また色んなことをやりましょうね!」
それから私とお姉ちゃんはひとしきり泣いた。
泣いて、泣いて、落ち着いたら私は憑き物がとれたみたいにスッと胸が軽くなるのを感じた。
それと同時に感謝したい。
あの人がいなかったら私はずっと変われなかっただろうし、お姉ちゃんとも不仲のままだっただろう。
だから、ありがとうと言いたい。星野凛君に。
「星野く――」
私は星野が視界からはけた場所に目を向けたけどそこに星野君はいなかった。 まるで最初からいなかったかのように。
「…………星野君には本当に感謝してもしきれないわね」
お姉ちゃんも私と同じように星野君がいたはずの場所を見ていた。
「……だね」
私もいたはずの場所をしばらく見つめていた。
「――お姉ちゃん、お願いがあるの」
私はお姉ちゃんにあることを頼む。
頼み事なんていつ以来だろう、少し緊張する。
「――私の部屋で話したこと、私も受けていい?」
お姉ちゃんが私と本音に稽古をつけてくれるといったこと。
「姉(私が)妹(簪ちゃん)の頼みを断ったこと、あったかしら?」
もちろんよ、とお姉ちゃんは微笑みながら言う。
「でもISは――」
とお姉ちゃんは私に言うが、私は遮るように答える。
「……ISは私自身で何とかしてみたいの」
未完成だったISを今まで、ほぼ私一人で形にしてきたといってもまだ完成には程遠い。
でも私はやりたい、私の力で、私のISを造り上げたい。
「そう……でも困ったことがあったらどーんと聞いても構わないのよ」
「うん……ありがと、お姉ちゃん」
私は笑い、お姉ちゃんも同じで笑った。笑いあった。
夜の屋上にいる私たちを月明かりが照らし出していた。
お姉ちゃんと一緒に見た夜空はとっても綺麗に輝いていた。
簪sideout
余談ではあるが屋上からこっそりと姿を消した凛はそのまま自室に向かったが途中、布仏本音と遭遇し、さらに一緒に帰ってきた更識姉妹に言い寄られたのはいうまでもない。