IS~ある少年の過去と記憶   作:1056隊風見鶏少尉

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皆さんお待たせしました。できたてほやほやの三十一話です。

それでは、どうぞ。


三十一話 『学年別トーナメントⅢ』

 

 

――場が凍りつく、というのはこういうことを言うんだろう。

 

自分をクロエ・クロニクルと言った少女が「九割が命令で、一割が興味本意で星野凛を探しに来ました」と言ったからだろう。

 

「……それで、何で俺を探しにきたんだ?」

 

警戒は怠らずにクロエに歩み寄る俺。

 

「あなたが星野凛ですか?」

 

「あぁそうだ」

 

するとクロエはサングラスを外し、閉じていた双眸を開く。

 

「――っ」

 

その開かれた双眸がこちらを確かにとらえる。

 

派手というよりは鮮やかな金の瞳にその金色を強調するかのような黒色の眼球。その眼に気を取られる。

 

「あなたのお力、拝見させていただきます」

 

クロエがそう告げると辺りが急に暗黒に包まれる。

 

「!? 何ッ!?」

 

訳が分からない現象に動揺する凛だったが、すぐにある異変に気付く。

 

「ッ!」

 

反射的に二歩後ろに下がる。何も見えないが、鼻先に何かがかすったのを感じた。

背筋がゾワリとしてまた数歩下がり、何かが通過する感覚。

 

「(なんだってんだ、おい……)」

 

いきなり暗い空間が現れて命をねらわれとるとは思わなかったし、多分あの少女が犯人だろう。

 

しかし――

 

「うおっ!」

 

何かが首筋を駆け抜ける。当たったようで少しだけ血が流れるのを感じる。

 

「(やべぇな、このままじゃジリ貧だな)」

 

どうやら相手は見えているようで、的確にこちらの急所を突いてくる。

ならばと凛は決意を固める。

 

「(――一か八か、こっちから仕掛ける! 得物は分からんがナイフくらいならどうにかなる!)」

 

またゾワリと首筋が粟立つ。

 

真正面から、来る――。

俺はそれに被せるように左腕を出す。直後手のひらに激痛がはしる。

 

「づうっ、いってぇ!」

 

凛は左手を何かごと握りしめ、おおよそのアタリをつけて取り押さえにかかる。

押さえにかかった右腕が温かく、ほっそりとした何かを掴む。

 

「うらぁっ!」

 

そのまま力任せに体を倒す。

両手に感触がしっかりと残っているため、ちゃんと掴んでいるだろう。

 

「――見事です」

 

声が聞こえたかと思うと、暗闇が消え去り景色が戻ってきた。

 

左手にはナイフが刺さっており、その状態でクロエの手を掴むほど深々と刺さっていた。

右手はクロエの首を掴み、へし折らんばかりに握られていた。

 

「……何者だ、お前」

 

「見事です、まさか本当に破られるとは思いませんでした」

 

「ちょっ、ちょっとアンタ何やってんのよ!?」

 

「落ち着けって凛!」

 

「おちついてくださいまし星野さん!

 

慌てて三人が止めにはいる。一夏が俺を羽交い締めにしてクロエから距離を取る。

セシリアと鈴はクロエにかけよって身体に怪我がないかなどを見ていた。

 

「アンタね、一応来賓ってことになるんだから怪我させたらダメじゃない」

 

「まてこら、何で俺が怒られなきゃいけないんだ、怪我させられたのこっちだぞ。てか触るな、さっきから左手が痛いんだよ」

 

「左手? ――うわっ、どうした!?」

 

「きゃあっ、どうしたんですのその手は!?」

 

今さら気付いたのかセシリアと一夏は俺の左手を見て驚く。

 

「これは大変ですね、すぐに治療をしなくては」

 

どの口がいうのか、と思っている時、クロエは羽交い締めにされている俺に近付き、

 

「いっってぇぇぇっ!?」

 

何のためらいもなく刺さったナイフを引き抜いた。

ぶしゅっ、と血が吹き出す。

急にやられたため心の準備などまったくしてなく焼けるような痛みが襲う。一夏も鈴もセシリアもクロエの行動に面食らう。

 

「これを、こう――」

 

するとクロエは大きな絆創膏のようなものを取り出し、傷口に貼りそのうえから手馴れた動作で包帯を巻き始めた。

 

「……えらくうまいな、医療系の仕事でもやってるのか?」

 

素直に驚く俺をよそにクロエは作業を続けながら淡々と告げる。

 

「――いえ、やっていませんよ。ただ私自身生傷やら何やら怪我をよくしていましたから、その時によくやっていたのですよ」

 

「そうか……女の子なんだから気を付けろよ、怪我とか残ったら嫌だろ? ま、おてんばなのは良いことだが心配かけるなよ?」

 

よく怪我をしていた、か……昔のボーデヴィッヒやマインそっくりだ。

ごくたまに自由な時間を与えられ、二人とも張り切って遊ぶものだからよく転びもした。

そのつど怪我を作ってラウラに心配されたり、怒られたりしてたな。

 

「あなたに言われるのは意外でしたが……そうですね自重します」

 

意外だと言う風に目を丸くしていうクロエに苦笑いを浮かべて言葉を返した。

 

包帯を巻き終えたクロエは俺や三人から離れ、ポツリと呟く。

 

「では皆さん、またどこかで会いましょう」

 

この言葉が四人の耳に届いたときにはクロエはその場にいなかったかのように姿を消していた。

 

「え、ちょっ」

 

「き、消えましたわ……」

 

三人は驚いていたが、俺はある一点だけ気付いてわずかに口元を緩める。

 

常人では気づかないほどの小さなコツコツコツ、断続した音が聞こえた。

だんだんと遠のいていくため、どこに行ったかまではわからないがおそらくこの学園内にいるんだろう。

「(消そうと思えば消せたくせに)」

 

さきほどのクロエと俺の状況と一夏たちの言っていることには齟齬があった。だとすれば何かしら空間や音に影響を及ぼすことができるというわけだ。

 

恐ろしい、とは思うが別段恐怖は感じなかった。

確証はないが学園で不穏なことはしないだろうと何故か思った。

 

「……ま、一応先生に言っておくか」

 

だがあくまで(かも)なので用心に越したことはない。

 

「何だったんだ? 星野、知り合いか?」

 

「いや、初対面だ」

 

「不思議な方でしたわね」

 

 

その後しばらく俺達は呆気にとられていた。

 

 

 

「――ふふっ、別に空間や音を操っているわけではありませんよ、似ていますがちょっとした『精神干渉』です」

 

「――さて、パッチを貼ったはいいですが保持者でしたか……やっておいて良かったです。しかし、後はどうしましょうか?」

 

「――――では少し『姉さん』を見てみましょうか」

 

 

少女の声は誰にも聞こえない。

 

 

 

 

織斑先生にさっきあったことを告げてアリーナでスタンバイしていた。

先生は何か考える素振りを見せてから、分かったと言ってツカツカとどこかに歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

『さぁやってまいりました第じゅう――十何回目だ? まぁいいや、今回の対戦相手はもはや優勝間違いなしか! 注目の男性ペア『織斑一夏・星野凛ペア』! 対するは日本の代表候補生とマイペースな雰囲気と表情ながらも意外に鋭い攻撃で支援をしてきた『更識簪・布仏本音ペア』! 決勝に近付くにつれて白熱したバトルが続いております! ――――ではさっそく』

 

「なんかわたしひどいこといわれてないー?」

 

「……恥ずかしい」

 

二人とも司会に不満を漏らしながらも合図にむけて準備する。

 

「更識簪か……」

 

「一夏、どうした? 簪さんと何かあったか」

 

一夏が対峙していた簪を見て表情が曇る。

 

「いや……俺の白式って倉持技研って所で造られたんだがそこで同じく簪のISが造られてたらしいんだ。でも俺のISの製造、修理が最優先になって簪のISが造られなくなったらしくて…………」

 

「気まずいか? でも今は試合に集中しろよ?」

 

一夏も分かったようで返事をする。実際、気まずいのは俺も一緒だし半分くらい自分に言い聞かせるつもりで言ったのが効いたようだ。

 

「……星野君」

 

「ほっし~」

 

すると簪さんとのほほんさんが話しかけてきた。

 

「ん、なんだ?」

 

「この試合で勝ったら私と本音のお願いをひとつだけ、聞いてほしいんだけど……いいかな?」

 

簪が何かを決意したように告げたのはお願い事を聞いてほしいとのことだった。

 

「あぁいいぜ。ただし、俺も勝ったらひとつきいてもらうぜ?」

 

「うん」

 

「もちろん、そのつもりだよ~」

 

『――試合開始っ!!』

 

返事とともに開始の合図が出される。

 

「――本音!」

 

「いっくよ~!」

 

「一夏、俺が発破をかける。援護してくれ」

 

「おう!」

 

簪と本音は試合開始と共に動き出す。

凛と一夏は手短に作戦を告げてから同じく動き出した。

ちなみに発破というのは『突撃』の隠語である。

 

 

 

最初からリミッターを外し、20%から50%にする。 そしてある喚装装備(パッケージ)を取り出す。

 

十分な速度に乗ったまま銃撃と剣撃を行うために造られ、その状態での大口径の使用および火力調整、使用状況などをテストするために造られた銃――『銃剣付き二挺拳銃・試作型『ローマン&トルーパー』』を両手に装備する。

 

ハンドカンのような外見にアンダーバレル部分に銃剣と呼ばれるブレードが付いていた。

 

「行くぜ!」

 

 

リミッターが50%まで解除された『レイブン』は止まらない。

驚くべき速さで簪と本音との距離を縮める。

 

「「ッ!?」」

 

気付いた時には後ろにいて両手に持った銃をそれぞれ二人に向けていた。

 

「くらっとけ!」

 

『ローマン&トルーパー』の引き金を連続して引いて弾丸を二人に浴びせる。が――

 

「なに!?」

 

数十発の弾丸は的確に二人を捉えていたが、壁のような何かに当たり、かん高い音とともに明後日の方向に弾き飛ばされてしまった。

 

「張っといて良かった……」

 

簪がほっとした声を出す。

それは打鉄弐式のシールドパッケージ『不動岩山』による広範囲防壁によるものだった。

 

「うはー、あぶ~ない!」

そう言いながら手に持っていた銃でお返しとばかりに撃ってくる。

俺はかわして距離を取りながらひとつ驚きの声をあげる。

 

「おかしいな、のほほんさん射撃なんてできてたか? 前に訓練してたときは全然出来てなかったよな?」

 

「ふっふーん、わたしだってせいちょーするよほっし~」

 

「そのようだな――一夏ぁ!」

 

「おう!」

 

隙を見て一夏に奇襲させる。一夏は本音の背後をとり雪片で上段から一閃。

 

「――させない!」

 

あわやというところで簪が割って入る。手には対複合装甲用の超振動薙刀『夢現』が握られていた。

雪片と夢現がつばぜり合いを起こす。

 

「くっ!」

 

しかし力負けしたのは簪で大きく押し返されてしまう。

 

「うおおおっ!――――ぐあっ!?」

 

「させないよ~、おりむ~のあいてはわたしだからねー」

 

たたみかけようとした一夏に本音の攻撃が当たり、中断させられる。

 

 

「――はっ!」

 

背後にまわり込んでいた簪は俺めがけて『夢現』を振り下ろす。

しかし当たる前に『ローマン&トルーパー』で受け止め、さらに『カルツェ』を起動させる。

 

『――カルツェ・試作機型起動。射出開始』

 

口が開き、粒子が辺りにばらまかれるのを見て簪は一瞬驚いたが冷静に次の手を打った。

背中に搭載された2門の連射型荷電粒子砲『春雷』を凛に向ける。

二門の砲身が至近距離で凛を捉える。

 

「――っ」

 

「放てっ!」

 

こちらが行動するよりも早く簪は投影コンソールを叩き、荷電粒子砲を撃つ。

 

「ぐあっ!!」

 

至近距離で撃たれたそれは逃げようとしていた凛にぶち当たり、大きく吹っ飛ぶ。

 

『カルツェ・試作機型、射出停止。次のシークエンスに移行します』

 

「きゃあっ!」

 

ひとつふたつだが簪の付近で爆発が生まれる。

先程まいた粒子が起爆し、少なからずダメージを与えていた。

 

「うおおおっ!」

 

「うぅ~、あたらない~!」

 

一夏は自身に迫る弾丸を避け、本音に一撃必殺の雪片を当てようと機会をうかがっていた。

本音は一夏を近付けまいと逃げながら弾丸をばらまいていた、しかしそれも段々と距離を縮められつつあった。

 

 

 

「――ラァッ!」

 

「くっ、放て!」

 

春雷の直撃からすぐに立ち直った凛は自身の持つ速さで猛攻していた。

簪も数発もらいながらも春雷や夢現で応戦する。

時折、夢現の刃先が凛の機体を掠めるがそれ以上は当たらない。

だが相手の攻撃は少なからず貰っていた。このままではこちらが不利になる一方であった。

 

「(何とかしてこの状況をどうにかしないと――負けられない、負けたくない!)」

 

冷静に、しかし闘志は燃え盛っていた。

 

「(私が、私達が変われたのは星野君のおかげ――だったら絶対に負けられない! 勝って私が変わったことを知ってほしい。そして少しでも恩返ししたい!)」

実際、二人の仲は良くなっていた。

二人で話をし、笑い合う。それだけのことであるが二人はとても幸せそうであった。

灰色だった景色が急に色を帯びたようで簪は新鮮な気持ちであった。

こんなに私の世界を変えてくれた、私に幸せをくれた星野凛に恩返しがしたいと、強く更識簪は思っていた。そして――

 

「(――あった!)」

 

ある手を思いつく。半分以上賭けのようなものである手を。

 

「(顔つきが変わったな、何か仕掛けてくるか?)」

 

動きを止めず、攻撃しながらも観察していた凛は簪の表情の変化に気付いていた。

 

「――星野!」

 

「何だ一夏?」

 

その時、一夏とチャンネルが繋がり話しかけてきた。

 

「スイッチはしなくて大丈夫か? 俺もだがかなり苦戦してるように見えたから、な!」

 

向こう側で本音が「うひゃあっ!」と声をあげたのが聞こえた。

 

「問題ない、そっちも大変かもしれねぇが頑張ってくれ――あ、あと」

 

「『シメ』は任せるかもしれん。一応だが気を付けろよ」

 

「おう、分かった」

 

それだけ言って互いにチャンネルを切り、相手を倒すことに集中する。『シメ』というのは「何かする」、の隠語だが本当にわかってくれているだろうか?

 

 

さきほどまで近距離で戦闘をしていた簪が大きく距離をとる、距離を詰めて攻撃しようとした矢先、それは起こった。

 

「――――行け、山嵐!」

 

 

打鉄弐式の最大武装でもある6機×8門のミサイルポッドから最大48発の誘導ミサイルを発射するものである。本来ならマルチ・ロックオンシステムが使われているのだが完成させることができずに通常の単一ロックオン・システムが搭載されている。

それを全弾、手動で凛を標的としてロックオンし撃つ。

簪は一発だけ残して47発のミサイルは次々と射出され、凛を撃ち落とさんと迫る。

 

だが――

 

「なめんなぁぁっ!」

 

速度リミッターを50%から60%まで解除し、向かってくる弾を回避する。

 

「ぐっ…………やっぱりキツいなっ!」

 

慣れたと思っていたが、たった10%あげただけで再び襲いかかる強烈なG(ジー)に耐えながら進む。

 

「殺(と)ったァ!」

 

全てのミサイルを掻い潜り、簪の目と鼻の先まで到達する。

右手に持つ『ローマン』を撃つべく銃口を簪に向け、左手の『トルーパー』の銃剣を振り上げ、斬りつけようと迫る。

 

――到達する短い時間で簪は不意に右手をあげて何かを投げる動作をする。

だが疑問は一瞬ですぐにそれが目に移り込む。

 

「(――何だ、更識楯無のアクアクリスタルに形状が似てる?)」

 

眼前にひし形の水色をした結晶(クリスタル)が浮かんでいた。前に資料に記載してあった更識楯無のIS、にナノマシンで構成されたアクアクリスタルと呼ばれるものがあった。小さいながらもどこか似ている印象をもっていた。

不意に、ぞわりと背筋が粟たつ。もしアクアクリスタルと同じようなことをあれができるとしたら――?

 

「(まに、合わねぇ――!)」

 

今出せる最高の速度に乗り、攻撃を繰り出そうとしていた凛は実質、止まれない。

すぐに多方向推進装置(マルチスラスター)を逆向きにかけたが時すでに遅し。止まらずにナノクリスタルとの距離は縮まる。新幹線や電車が急ブレーキをかけてもすぐには止まらずにいるように凛にも同じ現象が起こっていた。

そこに前方から一発のミサイルがクリスタルに放たれ、クリスタルに到達しようとしていた。

 

「(――ただで死んでやるかよ!)」

 

凛は自分の敗けを悟り片翼の多方向推進装置(マルチスラスター)の噴射状態(ブースト)を解除し『レイブン・試作機型』の片翼から格納されていた物が飛び出す。

 

それは真っ直ぐに、丁度本音の背後に到達したのを見たのが最後だった。

 

――あとは上手くいくことを祈るだけだ。

 

「――――疾って、『流星』!」

 

簪が言葉を放つのと同時にクリスタルにミサイルがぶつかり爆ぜた。

 

試合の数日前に姉、更識楯無から簪に渡され、それを自分なりに改良した正真正銘の奥の手、ナノクリスタル『流星』。

 

「――きれい……」

 

会場の誰かが言ったその言葉はまさに今の光景を体言していた。

一発のミサイルで砕けたクリスタルはその身に内包していた気化爆弾なみの破壊力を全て撒き散らし、その破片すらも攻撃手段となっていた。普通のISならばこれだけで倒せる、それだけの威力があった。

破片がミサイルに次々と当たり爆発を生む、だがナノクリスタルはその爆発に負けず青白い光をともしながらキラキラと舞っていた。

やがて落ちていくその破片は名前の通り『流星』のようだった。

 

「――……はぁ、はぁ、はぁ……くそっ」

 

『ラファール・リヴァイブ弐式、シールドエネルギー0(エンプティー)』

 

爆発による爆発でなすすべなくエネルギーを削りきられ沈黙する凛の機体、それを見て簪はぽつりと呟く。

 

「……やった」

 

そして次々になんともいえない感情が沸き上がってきた。

 

「やった、勝った! 勝てた!」

 

さきほどまでの真剣みを帯びた顔は嬉しさで破顔していた。始めての実戦的試合でテスト操縦をしていたとはいえここまでうごかしたことはない、簪は始めての試合で勝利したことを噛みしめていた。

 

「――かんちゃん!」

 

そこに叫ぶように割り込んでくる声。

 

「――――避けて!」

 

「うおおおっ、当たれぇっ!!」

 

気付けば雪片の『零落百夜』を発動した織斑一夏がいた。

 

「(どういうこと、本音は!?)」

 

見れば本音の機体も同じく沈黙していた。

 

「(いつのまに!?)」

 

とっさにガードしようと『夢現』を前に出すが雪片はガードごと切り裂いた。

 

「(あぁ――)」

 

 

 

 

『――――勝者!』

 

『――織斑一夏・星野凛ペア!!』

 

個人的な勝利で油断を生み、タックマッチでは致命的な隙を突かれた。

勝負に勝ち、試合に負けた、簪の心境はそんな感じであった。

 

会場が興奮でざわめきたっていた。

だが簪はそれがどこか遠くで聞こえている感覚を味わっていた。

 

「負け、ちゃったなぁ……」

 

呟いた言葉は会場の喧騒に呑まれてすぐに消えた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

話は少しだけ遡る。

バックから携帯電話を取り出し『ある人物』へと電話をかける。

 

篠ノ之箒は部屋に戻ったあと、どこかへ電話をかけていた。

 

『はいは~い! おはようからおやすみまで箒ちゃんを愛してる束さんだよ~! どうしたの箒ちゃんからかけてくるなんて束さん嬉しい!!』

 

 

聞こえてきた声に思わず顔をしかめる。

 

「…………姉さん、聞きたいことがあります」

 

とりあえず、話さないことには始まらない。と割りきり話始める。

 

「――私にIS(力)をください」

 

「――――」

 

「私は一夏と一緒にいたいんです。一夏の隣に立っていたいんです。いつまでも弱いままでは嫌だ――力を、ください」

 

「――――」

 

しばらく黙っていた束だったが、ぽつりと呟くように口を開いた。

 

「その力(IS)ってなんだと思う箒ちゃん?」

 

言っていることの意味がわからず疑問符を浮かべていると答が帰ってきた

 

「――それが分かるのは本当の意味でISを使える人だけだと思うよ」

 

……意味が分からない。何を言ってるんだろうこの人は。ISは道具(IS)ではないのだろうか。

 

「……まぁ、願わくは箒ちゃんがそこまで言ってくれることを願うばかりだよ」

 

ぼそりと言った言葉を私は聞き逃していた。

 

「――――よし! 可愛い可愛い箒ちゃんのためだ、うん、いいよ――『考えとく』。ただ渡す時は色々と確認もあるから私も行くね!」

 

それだけ私に言うとあっちが勝手に切ってしまった。

 

そのことに多少顔をしかめたが次には笑みを浮かべていた。

 

「これで……やっと――」

 

閉じられた携帯電話を持つ手が歓喜に震えていた。




次回、『学年別トーナメントⅣ』




残っているペアと闘います。
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